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ベイカー恵利沙
1989年生まれ、オレゴン州と千葉県育ち。モデルとしてキャリアをはじめ、ファッションスタイリスト、ライターなど活動の幅を広げ、2017年ニューヨークに拠点を移す。ファッションブランドとのコラボレーションを多数手掛けながら、ライターとして現地の情報を発信。気候変動を中心とした社会課題への関心が高まり、2023年には気候変動報道を中心にメディアの連携をサポートする団体”Media is Hope”に海外コミュニケーション担当として参加。日本と海外メディアとの橋渡しを務める。
はじまりは天然素材にこだわった、旅するためのコレクション
着心地が良く、つくられた背景も心地よく、自分らしくファッションを楽しむことが出来る洋服を考えたとき、真っ先に思い付くブランドの一つが、NY生まれのMerlette(マーレット)。2月のファッションウィーク中にショールームを訪れたとき、そのストーリーをもっと知りたくなり、インタビューをお願いしました。ファウンダーのマリーナさんのお話を通して、その哲学とブランドの信念に、ますますファンに!
ファッションを楽しみながら、その背景も大事にしたい読者の皆さま、こんなブランドがあって心強いですよね。

ベイカー恵利沙(以下、恵利沙) マリーナさん、早速ですが経歴も含めて自己紹介をしていただけますか?
マリーナ・コートバゥイ(以下、マリーナ) もちろんです。私の名前はマリーナ、マーレットの創設者です。ブランドは2016年、ニューヨークのブルックリンで始まりました。今年で10周年を迎えます。当初は旅行用カプセルコレクションとして、天然素材と手作業にこだわった、コットン100%のごく小さなラインナップからはじまりました。それまではラグジュアリーファッション業界で働いていて、年の半分くらい旅をしていたため、当時の私のように頻繁に旅する女性のために、デザインしました。パッキングしやすく、着やすく、洗濯も簡単で、重ね着もできるアイテムが欲しかったのです。
そして今でも、それはブランドの柱の価値観となっています。一つは「自由」であること。つまりゆったりとしたシルエットや、着心地が良く動きを妨げないフィット感。そして「クラフトマンシップ」を大事にすること。最後に「長持ち」すること。これは良い素材で長く持つというだけでなく、トレンドに流されず、長く着続けられるデザインであることを意味します。
マーレットにはフェミニンな優雅さがあります。ロマンチックな感覚を持ち、創造的で、アートや映画を心から愛する女性たちに向けたものです。

ロマンチックな精神を持って、好奇心と冒険心で人生を歩む女性たちの服
恵利沙 ありがとうございます。ブランドのコンセプトと、ブランドが想定する女性像についてお聞かせいただけますでしょうか?
マリーナ そうですね、コンセプトはまさに天然素材とクラフトマンシップ、そして細部へのこだわりです。生地作りから全工程まで、非常に思慮深く考え抜かれています。時代を超越した普遍性を追求していて、10年前のソリマンドレスを着ているお客様もいらっしゃいます。実際に私たちのドレスは50回洗濯しても美しい状態を保てる設計にこだわっています。つまり、生地の耐久性への配慮が肝心なのです。「旅にも連れて行ける洗練されたコットン」ということがブランドの軸だといえます。
そして先ほど申し上げたように、私たちのお客様は細部に美を見出す女性たちなのです。マーレットを着る人は、ロマンチックな精神があって、好奇心と軽やかさで人生を歩む。その人は自由で冒険心にあふれ、あらゆるフォームのアートを愛し、独立した思考の持ち主です。流行に流されず、自身のワードローブに自分らしい自由を求めている人なのです。
インスピレーションはあらゆるフォームのアート、そしてヴィンテージの映画や雑誌たち
恵利沙 ショールームでPre-Springのコレクションを見させて頂きました。実は私も今日Pre-Springのドレスを着ています。色鮮やかで、まさに自由なスピリットを感じる本当に素敵なコレクションでした。インスピレーションの源を教えてください。
マリーナ インスピレーションの源の多くはアートや映画です。アーティストやエキシビション、時には特定の時代からインスピレーションを得ています。1940年代のアール・デコ調のコレクションを作ったこともありますし、西部劇をモチーフにしたことも。映画を基にしたコレクションをいくつか作りましたが、どれも本当に素敵です。映画を観て、そのムードや質感、感覚をすべて感じ取り、それを基にデザインをするのが大好きなんです。
今回のPre-Springコレクションは原色を基調とし、とても鮮やかです。これはロバート・ラウシェンバーグというアーティストにインスパイアされたもの。彼は幾何学模様と原色を多く使用する、非常に都市的なアーティストです。もう一つのインスピレーションは、フランス映画『ワン・デッドリー・サマー』。私の生まれた年、1983年の作品なんです。休暇中の少女が数々のトラブルを引き起こす物語で、彼女はなかなか反抗的。若く自由奔放な精神の持ち主で、何にも縛られていません。映画の色彩パレットが非常に美しく、黄色と赤がたくさん使われていて、その雰囲気が本当に素敵だったんです。
このように二つのインスピレーションを融合させることもあります。


他にもヴィンテージ雑誌からもインスピレーションを受けますね。70年代のフランス版『エル』の古いエディトリアルを参考にしたり。ニューヨークのFIT図書館にアーカイブを探しに行ったり。それが私たちのリサーチプロセスです。インスピレーションは、過去のアートや映画の中にあります。
ヘルシーで着心地の良い服、がサステナビリティの原点
恵利沙 とっても素敵です。それではブランドのサステナビリティに関する取り組みついて教えてください。
マリーナ マーレットを始めた時は、「サステナブルなブランドを立ち上げるぞ」と思っていたわけではなくて、ただ天然素材を使ったブランドを始めたかったんです。天然素材が好きなのは、肌触りが良くてヘルシーだから。私はオーストラリア人なので、そういう環境で育ったんです。暑い時期に合成繊維をたくさん着るなんて出来ませんよね。汗をかいて、着心地が良くないし、ヘルシーじゃない。マーレットを始めたのは、コットン、リネン、シルク、ウールが好きだからなんです。プリーツプリーズみたいに、特定のデザイナーや、技術が素晴らしいものは例外で、そうでない限り合成繊維は好きじゃないんです。私は自然を大切にしています。母にもそういう風に育ててもらいました。
マーレットはまずピマコットンから始めました。ピマコットンは、私たちが扱う基本の綿で、アメリカで栽培されています。世界的なファッションブランドを扱う、非常に倫理的な企業で、農家の方たちはとても良い待遇を受けています。実に高品質な綿で、私たちはそれをインドに輸出し、世界クラスの工場でブランド独自の生地を紡いでいます。その工場を訪問し、オリジナルの生地を開発しました。私たちは生地の産地と製造方法を正確に把握しています。ベター・コットン・イニシアティブ(BCI)の認証を受けた綿を使用することもあります。
私が知る限り、日本の生地の多くはエコテックス認証を取得しています。つまり、厳しい基準をクリアした安全な染料を使用しているということです。日本と仕事を始めた当初、こうしたニーズを認識していませんでした。そのことが、逆にブランドの構築に役立ってくれたんです。マーレットは創設時から日本で非常に人気があったため、日本での販売ができるよう、生地の安全性にこだわりました。日本国内ではアゾ染料などの使用が禁止されています(*1)。そのため厳格な試験を経る必要があり、品質を保証し認証を取得できる工場と提携しています。
もう一点、私たちは同じ生地を10年間使い続けています。生地を事前にまとめて購入し、注文に応じて裁断するため、廃棄を最小限に抑えています。様々な生地を使ったり、余り生地が出たりすることはありません。万が一余った生地があっても、サンプル作りに活用したり、購入特典のギフトを作ったり、全てを活用しています。ハンドバッグでさえ、余った生地で作られているのです。
可能な限り無駄なく無駄をなくすようにしています。これが主なサステナビリティの側面です。
*1:厚生労働省「化学物質の安全対策サイト」参照

女性の職人を雇用し、その素晴らしい技術と生活を守る哲学
マリーナ もう一つの大きな要素は、手刺繍をする女性職人を雇用することです。これは失われつつある技術なんです。15年もの経験が必要な手刺繍もあります。彼女たちは受注分のみを制作し、注文がない時には仕事がありません。インドの女性職人たちの生計とキャリアが、この仕事にかかっています。彼女たちと仕事をすることで、非常に古い手仕事の技法が守られているのです。
これらは非常にコストのかかる工程です。そのため多くのブランドはそれを実施していません。マーレットにとって、こうした国々で職人の技を継承し、女性のキャリアを支えることは非常に重要であり、それは人々の知識と理解を守ることにもつながっています。私たちのサステナビリティにおける大きな柱は、クラフトマンシップと職人の手仕事です。ペルーの工場は家族経営が基本で、綿やアルパカを使用しています。これらは羊毛よりも私たちの哲学に合う素材です。私たちはこうした手法を積極的に取り入れ、サステナビリティの哲学として「考え抜かれた衣服」を追求しています。
そしてもちろん、大量生産しないブランドであることも大きな要素です。何年も着続けられる、長く愛用できる、捨てずに済むものを作る。持続可能なブランドであることの本質は、まさに「より少なく、より良質を」という哲学にあると思います。
最後に、当社の全工場には常駐スタッフがおり、現地で全てを監査しています。全従業員の労働環境が守られていることを確認するためです。これまで全ての工場を訪問していますし、インドではほぼ毎日誰かが現地にいます。ですから、従業員の働く環境を把握しています。働く人たちへの倫理観を維持することも、非常に重要だと考えています。
環境負荷の少ないものづくりを行う責任
恵利沙 私自身、ファッションを楽しみながらサステナビリティとエシカルであることにも気をかけたい者として、聞いていてとても心強いです。マリーナさんにとってサステナビリティが大事な理由はなんですか?
マリーナ そうですね、地球を守らなければいけないことは明らかなことだと思っています。気候変動はとても深刻な問題です。気候変動によってサプライチェーンの問題が生じることも理解しています。私たちは責任を持って現状を認識すべきです。ファッションやファストファッション業界には、より安価な衣服を生産するプレッシャーがあり、そのことが人々の命を犠牲にしている。それは私の哲学では到底受け入れることができないんです。私たちは工場を支援できる立場にいます。私たちが唯一の取引先である、夫婦で営む工房を支援したり、伝統と生活を守れるように女性の職人たちに依頼したり、誠実さの観点から見ても、そういったことは私たちにとって重要なことだと考えています。
しかし、私たちも気候変動の一因となっている責任は大きいと思っています。ファッションブランドで完全に無害なものは存在しないでしょう。製品を作るたびに、特にファッション業界では、どうしても環境に影響を与えてしまうのです。
そのため、その影響をなるべく小さくするように最大の努力をしています。例えば、当社のデニムはトルコで製造されています。オゾン洗浄を採用しており、これは水の使用量を大幅に削減します。私たちにとって非常に重要な点です。デニムは本来、水使用量が最も多く、水質汚染を引き起こす染色用化学薬品が最も多く排出され、ファッションアイテムの中でも特に環境への影響が大きいことを認識しているからです。
ですから、特別な洗浄機と工程に投資している工場と協力しました。新たなカテゴリーを追加するなら、責任を持って取り組まねばならないと考えたからです。同じ理由で、オーガニックコットンジャージーの使用を開始し、同時にTシャツとジーンズの製造も始めました。そしてリネンです。リネンは本質的に非常に持続可能な繊維です。綿のように大量の水を必要としません。春のコレクションでは綿の使用を減らすため、リネンを取り入れ始めました。できることを徹底的に行うことが大切だと思っています。一番環境に良いことは、何も買わないこと、もしくはヴィンテージを買うことですよね。ですから当店でお買い物いただくお客様に、環境への影響を最小限に抑えていると感じていただけるよう、最大の取り組みをしています。
ソリマンドレスにみる、日本とアメリカのスタイリングの違い
恵利沙 マーレットは、日本でもとても人気がありますよね!私自身、日本からニューヨークに引っ越して、国によってスタイリングの違いがあることを感じています。マーレットのスタイリングも、日本とアメリカで違いを感じますか?
マリーナ はい、それはとても感じますね。例えばソリマンドレスは、短いサマードレスなのですが、日本では90%くらいの方がそうしているのでは、と感じるほどドレスをパンツの上に重ね着しているのを見ます。
編注:それぞれのインスタアカウントは以下の通り
Instagram(US):https://www.instagram.com/merlettenyc/
Instagram(日本):https://www.instagram.com/merlettenyc_jp/

恵利沙 私もそれをきっかけにマーレットを知りました。「みんながジーンズに合わせて着ている、あのふわふわのドレスはどこの?」って思ったんですよね!
マリーナ そう、そのワンピース、もしくはチュニックと呼んでいるそれは、東京の都会生活、特に忙しい方にぴったりのアイテムです。仕事に行ったり買い物に行ったり、さまざまシーンで着られる、そして洗えるワンピース。生地がたっぷりで、エモーショナルな印象もある、ブランド一番人気のワンピースです。薄手の長袖なので、冬にはコートやジャケットの中に着ることもできます。
日本の女性がマーレットを着るときは、上にベストを羽織ったり、ジュエリーを重ねたり、パンツを合わせたりとレイヤードを楽しんでいる印象です。旅行中や、私たちのインスタグラムでタグ付けしてくれた時に、日本の女性たちのクールなスタイリングをたくさん見てきました。
アメリカでは、ソリマンドレスはチュニックというよりは、シンプルなドレスとして着られていますね。もちろん、クールなレイヤーをする方もいます。でも、ほとんどの人は1枚でさらっとドレスとして着ています。最大の違いは、日本人はレイヤードを楽しみ、機能的でありながらもスタイリッシュな点だと思います。アメリカ人女性はもう少しシンプルな解決策を求めていて、セットアップだったり、一枚で着られるドレスだったり、あまり考えなくてもキマるスタイルを好むのです。
恵利沙 日本とアメリカのファンに、近しいところや違いは感じますか?
マリーナ 共通点は、みな忙しいライフスタイルという点だと思います。特に東京の女性は、電車に飛び乗って仕事に行き、オフィスから夕食に出かけたり、着替える暇もなく長い一日を過ごしますよね。一日中外出していて夜遅くまで家に帰らないような場合には特に、私たちはみんな昼夜を問わず着られる服を求めていると思います。もちろん旅行先でも同じです。
唯一の違いはスタイリングで、ボリュームのあるスタイルが日本ではとても人気があります。アメリカでは、よりフィットした服が好まれます。これは新しいトレンドで、恵利沙がいま着ているドレスのように、ウエストを絞った服を着る人が増えています。これは日本とアメリカで異なる点だと感じますね。
恵利沙 ありがとうございます。最後に日本の読者にメッセージをいただけますか?
マリーナ マーレットは言うまでもなく日本が大好きです。日本はブランド設立当初から私たちにとってとても大事な存在であり、デザインをするときには必ず日本の女性とそのライフスタイルを思い浮かべています。創業当初からのマーレットへのサポートには本当に感謝しています。そして、私にとって日本は最も好きな場所の一つで、毎年訪れることができてとても幸運です。今年はチームと共に10周年記念イベントを開催するため、5月に日本に行く予定です。皆さんのサポートに、心から感謝しています。
今年10周年を迎えるマーレットが、日本の京藍染アーティストとコラボレーション

ブランド創設10周年を迎えるにあたり、京都・洛西で日本古来の植物で藍染をしているアーティストの松﨑陸氏とコラボレーション。マーレットのホワイトコットンアイテムに京藍染めを施したドレスやブラウスが、数量限定で発売予定。
4月22日~28日、伊勢丹本店3Fでポップアップストアがオープン。
5月9日13〜17時、マリーナがロンハーマン六本木店の店頭に立ちスタイリングアドバイスイベントを実施する予定。
詳細はwebで確認を。
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