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ファッション|2026.03.02

「衣類廃棄禁止」でフランスのファッションはどう変わったのか? パリ視察から見えた循環型の現在地【後編】

「衣類廃棄禁止法」が施行され、国をあげてファッションロスの削減が進むフランス。町中に設置された回収ボックスとその運用の仕組みをリポートした前半に続き、後半ではブランド、研究機関、教育機関などさまざまなプレーヤーが垣根を越えて循環のエコシステムを作る「ハブ」について紹介する。

原稿:勝又淳司

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循環型経済を推進するFashion Green Hubとは

パリリポートの前半では、フランスの衣類回収の仕組みと私が実際に訪れたセカンドハンドショップを紹介し、人々が「衣類の循環」にどのように参加しているかをお伝えしました。後半では、この仕組みを支えるFashion Green Hubを紹介したいと思います。
衣類廃棄禁止法令と関連して、パリ市内にあるFashion Green Hub(Plateau Fertile Paris)を訪問しました。Fashion Green Hubは、フランスにおける循環型ファッションを推進する中心的な組織の一つであり、行政、企業、NGO、教育機関などをつなぐ「業界のハブ」として機能しています。当日はディレクターのルカ氏および広報担当者の対応を受け、拠点の見学とともに、同組織の役割について説明を受けました。

Fashion Green Hubのオフィス
出所:Fashion Green Hub webサイトより

同組織が入居する「Plateau Fertile」は、再開発エリアに位置する比較的新しい建物群の中にあり、建物自体もアップサイクル素材を活用して建設されています。「循環型ファッションを社会に実装する」という理念が、拠点の空間そのものに表れていました。オフィスにある机や椅子もリサイクルで集めてきたもので、グレーのパーテーションは回収した繊維をボードとして生まれ変わらせたものとのこと。かなり頑丈でした。

こうした点も含め、フランスではファッション産業を単なる民間のビジネスとしてではなく、国家として重要な産業・文化資産と捉え、社会に根付き、積極的に関与していることが感じられました。少し「うらやましい」と感じてしまったのが正直な感想でした..。

研究や教育、そして実践へ。あらゆるステークホルダーが循環のエコシステムに参加

Fashion Green Hubは、設立から約3年と比較的新しい組織ですが、現在は約250の企業・団体が参画しています。前身の組織は2015年スタートとのこと。ファッション企業に加え、教育・研究機関も含まれており、日本企業も複数関わっている点が特徴です。特定の分野に偏らず、大企業から小規模事業者、学校、一般消費者まで、循環型ファッションに関わるすべてのステークホルダーを対象として、繊維産業に関わる「エコシステム」が形成されています。


パネル(写真下)には、Fashion Green Hubを構成する行政、企業、教育機関などの一部が紹介されています。パネル内の右中間あたりにはPROのRe_fashionのロゴもあります。EPSONの文字も見える。日本企業の技術は高く評価されており、たとえばEPSONのインクジェットプリント技術は、資源効率や環境負荷の低減という点で高く評価されており、Fashion Green HubのスタッフからはEPSONのインクジェットプリントについて「発色も綺麗で日本の技術は素晴らしいよ!」と絶賛されていました。

Fashion Green Hubを構成する組織の一部
出所: 筆者撮影

また、フランスでは1960〜70年代から、化学繊維や工業的製法をめぐる規制の経験が積み重ねられており、それが現在の循環型経済や法制度の整備につながっているとのことです。Fashion Green Hubは、「廃棄禁止及びサーキュラーエコノミーに関する法律(AGEC法)」および衣類廃棄禁止法令で定められた枠組みを、実際の行動やビジネスへと落とし込むための接続点:ハブとして機能しています。消費者の購買行動と社会の仕組みの双方に働きかけることを目的としている点が特徴です。

館内のアトリエで起こるオープンイノベーション

Fashion Green Hubが描く循環型ファッションでは、長く使えるものを提案し、消費者がそれを選び、企業も利益を得る関係をつくることが重視されています。環境配慮とビジネスの両立を前提としている点が現実的です。

広報担当者の方は「Fashion Green Hubでは教育を重要な要素と位置づけています。アップサイクルの手法やデザインに限らず、参加する教育・研究機関としてファッション系の学校以外に、ビジネススクールを対象としており、市場としていかに循環型ファッションを広げるかを重視している。このように、さまざまなステークホルダーを巻き込むことが重要」と述べています。

アップサイクルのサンプル製作風景。ミシンはJUKI製。

拠点内のアトリエでは複数の企業が同じ空間で制作を行い、日常的な意見交換を通じて新しい発想が生まれていました。4畳程度のスペースに、有名なメゾンのパタンナーがトルソーを並べ、ディスカッションしながら衣服の形だしを行う、これはまさに循環型社会におけるオープンイノベーションの現場といえるのではないでしょうか。また、試作品づくりの過程では障害のある方々の雇用も行われ、社会的包摂にも配慮した取り組みが見られました。これらの方も含め、技術を持ったスタッフが工業用ミシンを踏み、様々なアップサイクルに関するサンプルを作成していました(写真上)。工業用ミシンはもちろんJUKI製。

また、回収したテキスタイルや資源循環により生まれ変わったテキスタイルが展示されていました(写真下)。アップサイクルの研究開発を行うスタッフからは「アップサイクルは現在、グリーンウォッシュとして誇張されたものも多かったり、アップサイクルしているけどデザインが良くないものも多い。今後はデザイン・パターンが卓越していることが重要になる。私の中では、お母さんが家の冷蔵庫にあるものだけで美味しい料理を作るようなもの。美味しくなくちゃダメでしょ?」と分かりやすく説明していただいた。

Fashion Green Hubは、法律・企業・学校や市民を横断的につなぎ、循環型社会を実際に動かすための実践の場です。衣類廃棄禁止法令やEPR制度といった政策が、社会の中でどのように機能していくのかを考える上で、その存在意義を実感する訪問となりました。日本でもすぐに取り入れられる要素もあるだろうし、日本が持つ技術が世界で貢献している点も光明となりました。

回収したテキスタイルや資源循環により生まれ変わったテキスタイル
出所: Fashion Green Hub webサイトより

サステナブルブランド「LOOM」に聞く、フランスの衣類廃棄禁止法令の今

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衣類廃棄禁止法令についての理解をより立体的にするために、フランスにおいて環境・社会に配慮したブランド・LOOM(Shift C評価:良い)を運営するCEOのジュリア・フォール氏へ、ヒアリングを行いました。その内容についても報告します。

―「EPRの政策は実装されたが、廃棄量は減っていない」―

ファッション産業における最大の課題は、過剰生産です。アップサイクルやリサイクルを進めたとしても、生産量そのものが多すぎる限り、問題の根本的な解決にはならないです。どう循環させるかも重要だが、どれだけ作るのかを問い直すことが必要です。

LOOMとしては質を重視した服づくり、計画的陳腐化を前提としない設計、そして不要な消費を促さない販売姿勢を取っています。スタイルは大きく変えずシーズンを超えてもコーディネートを提案する、修復しやすさも考慮しています。また、セールなどの安売りや過度な宣伝を行わず、必要以上に買わせないことも意識されています。ただし、こうした企業努力だけでは社会全体は変わりません。

そのため、政策への働きかけが重要です。ロビー活動を通じて、アンチ・ファストファッション法案の議論が進められています。EU域内ブランドに対しては一定の支持があります。一方で、中国製品については人権問題、とりわけ新疆ウイグル自治区をめぐる懸念が強く意識されています(注:これは産業保護の側面も持つと考えられる)。ただし、フランス国内においてもファストファッションは依然として高い人気を持ち、市場の約6割を占めており今後も支持は続くだろうと考えられます。

生産面では、フランスおよびポルトガルをはじめとするEU圏内での製造が行われているが、産地の喪失は現在進行形の課題です。特に繊維製造分野は厳しく、ラグジュアリーブランド以外にとって持続可能性が確保されていません。

衣類廃棄禁止法や拡大生産者責任によって回収制度は整備されてきたものの、生産量が減らない限り、廃棄量や回収量も大きくは変わりません。エコデザイン規制の導入は前進ですが、流通量が過剰なままでは環境負荷低減には限界があります。そのため今後は、流通量そのものを減らす政策が不可欠であり、人権や品質面で問題のある製品を国内に入れないために水際で止めるといった対応も、一つの選択肢として考える必要があります」(ジュリア・フォール氏)

以上のようなヒアリング結果となりました。仕組みは整ったものの、全体としての流通量は減っていないという点が非常に印象的でした。日本で同法令をもし導入し、拠出金を払ったとしても、恐らく価格上昇は軽微であることは筆者の過去の研究から予想できます。しかし、エコデザイン規制の導入をガイドライン化するなど、取り入れられることはあるのではないでしょうか。

まとめ

2回にわたり、筆者が2025年12月に現地視察を行った衣類廃棄に関する法制度の現状について報告しました。国内では「制度が十分に整っていないのではないか」といった報道もみられるが、実際には制度は粛々と構築され、日々衣類の回収が行われている現状を確認することができました。

もっとも、この法制度をそのまま日本に導入するとなれば、回収インフラの整備や、回収後の出口戦略など、依然として検討すべき課題は多いと考えられます。また、回収等に伴う拠出金によるコスト増についても、企業が直ちに受け入れられるものではないでしょうか。

一方で、今回紹介したFashion Green Hubが実践するオープンイノベーションの取組や、エコデザイン規制の考え方など、日本でも今すぐ参考にできる点は少なくありません。企業へのヒアリングからは、制度を導入しても流通・廃棄される衣類の物量自体は減っていないという指摘もあり、この点は重要な示唆を含んでいます。

帰国後、街を歩きながらアパレル販売店舗を見て回ると、環境や社会に配慮した魅力的な商品がある一方で、私見ではあるが「この商品は誰を想定しているのだろうか」「本当に必要なのだろうか」「素材がチープすぎて2-3回着たらもう廃棄になりそうだ」と感じる衣服が大量に存在していることにも改めて気づかされます。今、私たちに求められているのは、各国の先進的な取組を知りつつ、自身にとって必要のない衣服や、環境・社会への配慮が感じられない衣服を選ばないという、日々の消費行動なのではないでしょうか。

パリとミラノでの市場調査

パリでの調査を中心に、その後ミラノに渡航し市場調査を行いました。アパレルの店舗でドアなどにB Corp認証を取得した証を掲げている店舗がいくつか確認されました(写真下)。このような店舗・企業が日本でも増え、それを見て消費者が購買決定をする時代が来ると良いと感じました。また、パリの街中には市民向けに、自身でリペア出来るようミシンの使い方をレクチャーするリペアカフェ(同じく写真下、セカンドハンドショップ併設)が多かったのも印象的でした。このような施設も普及すると良いと感じました。

ミラノの街中・ニットブランドの店舗 Rifo(Shift C評価:素晴らしい)
ミラノの街中・ニットブランドの店舗 Artknit-studio(Shift C評価:良い)
パリの街中にある市民向けリペア講座の施設

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日本女子大学 専任講師
勝又 淳司
日本女子大学・家政学部被服学科専任講師。修士(政策学)。国内スポーツメーカーでの企画や営業、文化服装学院の教員を経て現職。繊維産業のサステナビリティについて、消費者や環境政策の観点から研究しています。研究を通してファッション業界がより良い業界になればと考えています。社会人大学院生として博士論文執筆中。

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