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1998年生まれ。東京大学卒業後、文化服装学院で服づくりを学び、東大大学院では資源環境学の研究を並行。「右脳で惹かれ、左脳で納得のいく服」をコンセプトに、2023年SSに「BLAYMORE(ブレイモア)」を始動。2024年よりアダストリアが次世代クリエイターを支援する「LEAD PROJECT」に参画。
東大大学院での「研究」と文化服装学院での「制作」
——東京大学大学院で学びながら、文化服装学院でファッションの制作を行おうと思われたきっかけは何だったのでしょうか?
松井勇樹(以下、松井):もともと東京大学の学部に在籍していた頃から、「自分の強みをもっと活かしていきたい」「おじいちゃんになっても、ものづくりを続けていたい」という気持ちがありました。そこで、クリエイティブな側面を本格的に伸ばすために、文化服装学院にダブルスクールすることに決めたんです。
——もともとファッションには強い関心があったのでしょうか?
松井:ファッションそのものというより、どちらかというと「デザイン」や「創発」といった領域に興味がありました。建築やプロダクトデザインにも惹かれていたのですが、その中で一番自分に合っていて、現実的に再現できそうだと感じたのが洋服でした。
ちょうどその頃、A.T.カーニーの福田稔さんの著書「2030年アパレルの未来」を読んで、アパレルは今後さらにデジタル化が進み、消費者行動や構造に変化が生まれるという話を読みました。その流れを見て、「独自性で参入できる余地があるかもしれない」と感じたんです。アパレルなら工夫次第で挑戦できるかもしれない——そう思えたことも、大きな後押しになりました。
——大学院ではサステナブルファッションの研究をされていたそうですね。
松井:はい。文化服装学院で実際に服づくりを始めたことで、「サステナブルファッションをちゃんと研究したい」と思うようになりました。パターンの取り方ひとつで想像以上の生地ロスが出てしまったことや、図書館で読んだ「VOGUE」に掲載されていた環境問題の特集などをきっかけに、資源環境領域とファッションをアカデミックに結びつけて考えられないかと感じたんです。
そう考えて、大学院では最終的にサステナブルファッションについての修士論文を執筆しました。具体的には、ファッション産業における企業特性と温室効果ガス排出量の関係を、計量経済学のモデルを用いて分析した研究です。実地インタビューも行って分析結果と現場の実情を比較しながら、その背後にある要因や応用可能性についても考察しています。
「右脳で惹かれ、左脳で納得のいく服」BLAYMOREのものづくり

——こうした経験を踏まえて、BLAYMOREというブランドを立ち上げられた背景を教えてください
松井:文化服装学院で服作りを学ぶにつれて「こういう服があればいいのにな」と感じる場面が少しずつ増えてきました。いま本当に着たい服たちを、鮮度のあるうちに形にしていきたいと思っていたんです。そんななかで、繊維商社の方から出資のお話をいただく機会があり、それをきっかけにBLAYMOREをスタートすることになりました。
学生時代にはドメスティックブランドの販売員や、コレクションブランドのプレスルームでインターンも経験していました。そこで感じたのは、衣服そのものだけでなく、ブランドの考え方や世界観まで含めて丁寧に設計されていて、それに共感したお客さんが集まっている、というビジネスモデルの強さです。
自分がブランドを始めるなら、売りたい服を並べるのではなく、黎明期から理念や哲学がきちんと内在した状態で立ち上げたい。そう考えて、最初の設計段階から繊維商社や生地屋の方とも密にコミュニケーションを取りながら進めていきました。

——「右脳で惹かれ、左脳で納得のいく服」というコンセプトは、どのように生まれたのですか?
松井:やっぱりファッションとして考えたときに、まずはパッと見た瞬間に直感的に惹かれる服であることが大事だと考えています。それが、いわば「右脳」に訴えかける部分です。一方で、実際にその服を着て日々を過ごしていくなかで、「これっていいな」「ちゃんと考えられているな」と、理屈でも納得できるものであってほしい。そういう意味で、「左脳」でも理解できる服をつくりたいと考えました。
それが、ブランドの核となっている「Comfortable and Mind-blowing Clothes」——心地よさと、心を惹きつける力を併せ持った服、というコンセプトにつながっています。BLAYMOREのデザインを象徴するキーワードは、「clean / genderless / contemporary」。ゆとりのある仕立てと、都会的でジェンダーレスな仕様をベースに、性別や年齢を問わず、着る人それぞれの生活に自然と馴染む服づくりを目指しています。
かっこいい服をつくることは大前提。そのうえで、実際に袖を通したときに「思った以上に日々着ているな」「生活にすっと馴染むな」と感じてもらえることも大切にしています。見た目だけで終わらせず、着用体験まで含めて価値を感じてもらえる服をつくること。それが、BLAYMOREのものづくりのアティチュードです。
現場で気づいた、サステナビリティの全体性
——研究と制作を並行されている中で、ご自身の価値観に変化を感じた瞬間はありましたか?
松井:「理屈だけでは足りないな」と強く感じた瞬間はありました。大きな転機になったのは、実際に現場を訪れたことです。特に印象に残っているのが、児島のデニム工場や縫製現場を訪れ、BLAYMOREのデニムがつくられる工程を目の当たりにしたときでした。

現場は秒単位で動いていて、そこで発揮される技術は本当に圧倒的でした。純粋にものづくりとして感動しましたし、同時に、そこは理想論ではなく、ビジネスとして日々回り続けている場所なんだと実感しました。
その経験を通して、「サステナブルという考え方は、作り手だけの責任ではない」と感じるようになりました。企画をする側、販売する側、そして最終的に服を手に取るユーザーまで、川上から川下まで、全員が関わる持続可能なビジネスモデルとして捉えるべきものなんだと思ったんです。
それまでは制作過程のサステナブルにばかり目が向いていましたが、それだけではなく、より細かく全体を見渡した創造的なプロセスが必要なんだと考えるようになりました。
感情とクラフトマンシップを手がかりに、いまの服を考える
——現在のコレクションづくりにおいて、インスピレーションや起点になっているものを教えてください。
松井:僕はもともと本を読むのが好きで、ファッション以外のところから着想を得ることが多いです。たとえば3月に立ち上がる新作コレクションは、小説家の森鴎外の作品群からもインスピレーションを得ています。森鴎外はドイツのロマン主義から強い影響を受けた人物ですが、この思想は合理性の中で置き去りにされがちな、人の感情や内面の揺らぎに光を当てています。
デジタルやロジックだけでは語れないストーリー性や、目に見えない心そのものを聴く考え方が、今自分がやっていることと強く重なっていると感じました。多くの作品を読み込みながら、そこから着想を得た洋服やアクセサリーを展開しています。
たとえば、19世紀末の正装・礼装文化に残る形式性や内的衝動をレースとして表現したり、当時のユーティリティポーチ(小型携行具)を現代的に翻訳したり、あるいはコンセプトの核となるドイツ語を刻印として忍ばせたりしています。
そうした要素を重ねることで、現在のトレンドを踏まえながらも、どこか違う佇まいが生まれる。これから少しずつアイテムを発表していきますが、かなり意識したポイントですね。
長く着るための工夫を、仕様に忍ばせる
——サステナビリティという観点で、具体的にどのような工夫をされていますか?
松井:素材や仕組みに加えて、サステナビリティは「仕様」にも落とし込めると感じています。たとえば、BLAYMOREのフレアデニムパンツには後ろ側にウエストアジャスターを付けていて、体型の変化に合わせて片側3センチずつ調整できるようにしています。

少しサイズが変わっても着続けられることで、結果的に服の寿命が延びる。日常の中で「自然と長く使える」と感じてもらえる工夫を、さりげなく盛り込むことを意識しています。
研究を通して見えてきた、サステナブルファッションの難しさ
——研究を通して、サステナブルファッションの課題や難しさをどのように感じていますか?
松井:研究を通して強く感じたのは、やはりビジネスとの両立です。ファッション業界は競争が非常に激しく、ブランドが次々に生まれては消えていく中で、理想を掲げることと実際にビジネスとして成立させることの難易度は大きく違うと実感しました。
また、日本ではサステナブルに関する情報がまだ少なく、大学院で研究していた頃も、ドイツやイギリスを中心としたヨーロッパの先行研究や海外文献を参照することが多かったですね。だからこそBLAYMOREでは、サステナブルであることを前面に押し出すよりも、まずはブランドとしてきちんと成立させ、その中で無理のない形で実装していくことを大切にしています。

——2024年より「LEAD PROJECT」に参画されましたが、参画してみてどのような変化がありましたか?
松井:やはり大きな転換点になったのは、アダストリアさんと関わるようになったことですね。生産体制が変わっただけでなく、ZOZOTOWNでの本格展開が始まり、ブランドとしての窓口が一気に広がりました。バッグが全国ランキングで1位を頂いたりと、体感としてもスケールが大きくなった感覚があります。
また、企業プログラムに参加する立場になったことで、ファッションビジネスの視点も新たに加わりました。学ぶことは本当に多いですが、その分、日々確かに成長している実感があります。一方で、数字が伸びたこと以上に印象的なのは、デザインや理念に共感してくださるお客様が、集まってきていることです。ブランドとしてすごく理想的なつながり方だと感じていますね。

——松井さん個人、そしてBLAYMOREのファンがこれほどまでに増えていった転換点は、どこにあったと感じていますか?
松井:やっぱり大きかったのは、ZOZOでの展開ですね。販売チャネルが一気に広がって、これまで接点のなかった方にもBLAYMOREを知ってもらえるようになりました。そしてその中でもデザインやナラティブな設計を妥協せずに作り続けたことが、評価につながったのかなと感じています。
あとは、街でBLAYMOREのダウンを着ている人を見かけたり、成人式でテーラードジャケットを着てもらったり、誰かの人生の一部になっていると実感できた時は本当に嬉しかったです。最近ブランドの調子も良く、この流れのまま頑張り続けたいです。
一着一着に責任を持つことから始まる、これからのサステナブルファッション

——最後に、今後の展望について教えてください。
一着一着の服に、きちんと意味を持たせることを何より大切にしたいと考えています。そのためには、背景や文脈を丁寧に固めたうえで服をつくり、つくった在庫を適正な価格で、責任を持ってすべて売り切るところまで含めて仕事だと思っています。
そうした姿勢を伝えていくためには、広告やビジュアルのディレクションも含めて、ブランドとしてどう発信していくかが重要になってくる。発信やSNSのアルゴリズムにもしっかりと向き合い続けます。
難易度は高いですが、テキスタイル開発や他ブランドとのコラボレーションにも強く関心があります。機会があればぜひ挑戦したいですし、創作の幅を少しずつ広げていきたいです。
そのためにも、今はまずデザイナーとして一つ一つの仕事と丁寧に向き合うこと。焦らず、着実に進化しながら、ブランドをアップデートしていきたいと考えています。
