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世界中から約4万人が毎年NYに集結する、世界最大級の小売業界のためのイベント「NRF RETAIL’S BIG SHOW」が、1月11日から13日まで開催された。このBIG SHOWに関しては、もっぱらAI関連の話が8割を占めるほどであったが、今年初めて同時期に開催された「NRF REV」では、サステナビリティや、循環型モデルを支える静脈物流(リバースロジスティックス)のトピックに光が当てられる事になった。
NRFの分科会として、「REV」に込められた意味とは「“RE”VERSE(逆)」はもちろんのこと、「“RE”VOLUTIONARY (革命的)」や、「“RE”VENUE (収益)」が含まれており、「NRF REV」ではサステナビリティ(持続性)という要素だけではなく、革新的なリバースロジスティックスにより、循環型モデルが実現し、企業の利益や価値創出に繋がるという点が強調された。
循環は利益を生む:データが示す新しい常識
修理や返品、回収商品の再販などに取り組んでも、「利益率が下がる」「ブランド価値が落ちる」「新商品とのカニバリゼーション(奪い合い)」が起こる、などという企業はまだ多い。

NRF Revにて登壇したArchive社のヴァイス・プレジテント・パートナーシップのマイク氏は、カニバリゼーションの心配について、真実は真逆だと語った。Archive社について一言で説明すると、lululemonやThe North Faceなどのブランド公式リセールを構築、運営できるようにするリセール特化の技術プラットフォームだ。そのため、多様なデータへのアクセス、分析が可能である。マイク氏がその分析結果から共有した事実は、「平均的にリセール購入者の約3分の2が、ブランド新規顧客にあたり、そのうち5割が6カ月以内に新品も購入する」という驚くべきデータである。つまり、リセールは新商品の売上を奪うどころか、今までブランドを購入していなかった消費者の入り口を提供し、新商品も購入するLTV(生涯価値)を高める循環を作る事が出来る。
また、米国大手のリセールプラットフォーム兼ブランドのリセール機能をサポートするThreadUpのチーフ・ストラテジー・オフィサーのアロン氏も、同様に過去15年間で3億点の中古商品を処理してデータから同様に裏付けた。

「消費者は、ブランドが再販市場に参入してもしなくても、勝手に中古品を求め購入している。流れは止まらない。むしろ、再販することで、製品価値の高さや、耐久性、デザイン性の良さを証明する事になる。つまり、ブランド価値を高める事に繋がるのだ。」と、語った。
ThreadUpでは、再販が成功しているかどうかの重要な指標のひとつとして注目しているのが、B2B向けの「クリーンアウト・キット」の利用回数だ。「クリーンアウト・キット」について補足をすると、消費者が不要になった服をThreadUpへ送ると、その査定額が提携しているブランドのギフトカードとなり、新品購入などに利用できる仕組みである。ブランドの顧客が「クリーンアウト・キット」を2~3回送り返すようになると、その人の生活習慣そのものが変わり「新品と中古を循環させる生活」が定着したと判断している。

さらに、ギフトカード利用時の「アップスペンド(上乗せ購入金額)」を最重要指標としてとらえており、この金額にも変化が起きているという。以前は、送付した不要な服が50ドルで査定され、50ドル分のギフトカードを受け取ったら、60ドル分の新品を購入する位で成功とみなされていた。だが、現在はブランドによってはギフトカード金額の6倍の購入額に達している企業もある、と共有した。
これらは、循環型ビジネスが企業に収益をもたらしている証拠となるデータである。

循環を避けることこそ最大のリスク
次に取り上げたいのは、循環型モデルに取り組まない事による、本当のコストについて語られたことだ。
米国ではオンラインショッピングと返品文化の浸透により、2025年の平均返品率が16%、金額にすると約8,500億ドル(131兆円)に上ると言われている。国によって異なり、日本は経済産業省「電子商取引に関する市場調査」によると平均4~7%程度とされており、約6,000億〜1.07兆円の返品市場規模である。
ここでお伝えしたいのは、この返品市場金額が利益に繋がる可能性があるという事のみではない。企業が返品、回収、再販、廃棄など正しくリバースロジスティックスによって戻ってきた商品を取り扱わない事による、本当のコストである。
NRF のレポートでは、小売企業やブランドの約 4 割が、返品処理よりも出荷業務(アウトバウンド)を優先していると回答している。結果として、店舗への戻しや再販チャネルへの投入が後回しになっている。
この状況について、ベビー用品を中心としたリセール・マーケットプレイス REBEL 社の創業者兼 CEO、クレッグ氏は次のように説明する。

返品処理には出荷作業の 2〜3 倍のコストがかかり、商品の状態を検品して「再販・廃棄・修理」を判断したり、販売チャネルごとに振り分けたりする複雑な作業が必要となる。また、処理のためには大量の商品を一時的に保管する広いスペースも求められる。そのため、多くの企業は簡単に「廃棄」や「リクイデーター(返品品や余剰在庫を買い取って再販する業者)への横流し」を選んでしまう。
さらにクレッグ氏は、こうした選択が企業に与える影響にも言及した。
廃棄を選んだ場合、再販による利益機会を失うだけでなく、環境負荷が増大し、米国でも導入が進む EPR(拡大生産者責任)制度により、廃棄量に応じたフィーを支払う必要が生じるため、企業のコストはさらに増加する。一方で リクイデーターへ渡した場合 は、商品が無許可の転売業者や海外市場に流れる可能性があり、結果としてブランド価値を大きく毀損するリスク がある。
このように、企業やブランドが回収・返品・再販の仕組みを適切に整備しなければ、最終的には顧客からの「信頼」を失い、「ブランド価値の棄損」に直結してしまうのである。
まとめ:循環型モデルは「未来の小売の競争力」そのもの
今年初めて開催されたNRF Revでは、いくつかのセッションでも取り上げられた循環型モデルに対する“誤解”が依然として根強い一方で、データが示す現実は明らかに異なることが浮き彫りになった。Archive や ThreadUp の示した事例は、リセールが新規顧客の獲得や LTV の向上に寄与し、ブランド価値をむしろ高めることを示している。また、REBEL のクレッグ氏が指摘したように、返品・回収・再販の仕組みを整備しないことこそが、廃棄コストやEPR負担、転売流出によるブランド毀損といった“本当の損失”を生み出している。
循環型モデルはもはや「サステナビリティ文脈の理想論」ではなく、収益性・価値創造・顧客との関係強化・事業継続性を左右する“経営戦略そのもの”となっている。これらのデータと実践から学ぶべきは、循環の仕組みを整えることこそが、未来のリテールの競争力を決定づけるという点である。
