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ファッション|2025.10.22

服を選ぶことは、人生を描くこと。西側さんが実践する、人生とともに歩むカプセルワードローブ

「服はたくさんあるのに、着たい服が見つからない」——そんな悩みを解決するヒントとして、今改めて注目されているのが「カプセルワードローブ」。必要最小限の服で着回しを楽しみ、日々のスタイリングを軽やかに整えるという考え方だ。

今回話を伺ったのは、NPO法人「DEAR ME」や循環型ファッションブランド「coxco(ココ)」の代表を務める西側愛弓さん。20回近く修理を重ねて履き続けるマルジェラのパンツ、祖母から受け継いだIWCの時計など、西側さんのワードローブには、ひとつひとつの服に深いストーリーが宿っている。長く受け継ぐことを軸に選ぶ彼女の服との向き合い方を聞いた。

原稿:藤井由香里

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西側 愛弓 / Ayumi Nishigawa

1995年生まれ、兵庫県出身。神戸女学院大学在学中の2015年に、フィリピンの子どもたちと「夢を描く」ファッションショーを行うNPO法人「DEAR ME」を設立。卒業後、株式会社サイバーエージェントを経て、2019年に独立。2020年、再生素材や残布を用いた循環型ブランド「coxco(ココ)」を立ち上げ、代表を務める。現在はフィリピンにて、貧困層の人々が無償で通えるファッションスクール兼縫製工房「coxco Lab」を運営し、ファッションを通じて社会課題の解決に取り組む。

カプセルワードローブとは?ミニマルに暮らすための服の選び方

カプセルワードローブとは、厳選された少ないアイテムで最大限の着回しを楽しむ、シンプルで効率的なワードローブのこと。流行に左右されないベーシックな服を中心に、自分に必要なものだけを厳選することで、毎日のコーディネートがスムーズになる。それによって忙しい朝の支度が楽になり、無駄な買い物も減るなど、暮らし全体が整っていく。

近年では、環境への配慮やミニマリズムへの関心の高まりとともに、改めてその価値が見直されている。お気に入りだけに囲まれる心地よさ、選択のストレスから解放される自由——カプセルワードローブは、そんな現代のライフスタイルに寄り添う、新しいファッションのかたちだ。

受け継ぐように選び、生きるようにまとう。西側さんが大切にする服との向き合い方

「自分の孫に受け継ぎ続けたいと思うかどうか」を基準に服を選び、「服を選ぶことは、人生を描くこと」と語る西側さん。流行に左右されることなく、作り手の顔が見えるものを丁寧に選びとる。そんな彼女のワードローブには、時間をかけて育まれた“想い”が息づいている。

—— 学生時代から着続けているアイテムも多く、ものを長く大事にされている印象があります。そうした価値観は、どのように形成されたのでしょうか?

祖父の影響がとても大きいと思います。とてもおしゃれな人で、いつもスーツ姿だったんです。Tシャツにデニムという姿を一度も見たことがないほどでした。靴下や下着まで赤で統一していて、カラースーツを着こなす姿も印象的でした。

そんな祖父は、身につけている服にまつわるストーリーをいつも話してくれたんです。「これは20年前に〇〇で買ったものやねん」と、まるで思い出を語るように。一着を何十年も大切に着続けるその姿に、幼心ながらファッションを愛するということの本質を感じました。祖父から教わったのは、服を通して時間や想いを受け継ぐということ。その記憶が、今の私の価値観のベースになっているのだと思います。

“孫に受け継げるか”を基準に、夢に出てくるまで待つ

——新しいアイテムを迎え入れるとき、大切にしている価値観を教えてください。

「自分の孫に受け継いでいきたいと思えるかどうか」を基準にしています。自分だけが一時的に楽しむためのものなら、なるべく買わないようにしていますね。心が動く瞬間はたくさんありますが、そんなときこそ一度立ち止まって考えるようにしています。
それでも頭から離れず、夢にまで出てくるようなものがあったら、それは本当に欲しいものかもしれません。でもそんなときも、「これは将来、自分の家族や友人、後輩に譲りたいと思えるか?」をもう一度考える。そうして衝動買いをしない分、選ぶときには品質や背景にも自然と目を向けるようになりました。

長く大切にできて、世代を超えて受け継いでいけるもの。そんな服を迎えることが、自分にとっても豊かさなんだと思います。

—— 現在はフィリピンでファッションスクールや縫製工房を運営されていますが、そうした活動を通じて、服選びに変化はありましたか?

活動を続ける中で、「誰がどこで作ったのか」をより強く意識するようになりました。以前は素材に目を向けることが多かったんですが、今では作り手を軸に選ぶことが増えています。

エシカルという言葉は、どうしても「オーガニックコットンか」「再生素材か」といった素材の話が中心になりがちですよね。でも、その裏で「誰が縫っているのか」が見えないものも多い。実際に自分たちのブランドの運営を通しても、その背景をたどることの難しさを痛感しています。

だからこそ、最近は素材よりも「どこで、誰が作ったか」が分かるものに惹かれます。背景にストーリーを感じられる服を選ぶようになりましたね。私たちのブランドでも、バッグに「制作日」と「作り手の名前」を入れているんです。たとえば、一期生のジャナちゃんが作ってくれたこのバッグは、今でも特別な思い出が詰まった大切なアイテムです。

——西側さんにとって、服を選ぶことはどんな意味を持っていますか?

私にとって服を選ぶことは、「人生を描くこと」です。

「今日はどんな一日を過ごすのか」「誰と会って、どんな場所に行くのか」。そんなことを思い浮かべながら、その日の服を決めています。毎日の小さな選択の積み重ねが新しい価値観をつくり、自分の人生を形づくっていく。だからこそ、ファッションは生き方そのものに近い気がします。

持っているものすべてがエシカルとは限りませんが、「長く大切に着たい」と思える服を選ぶことで、人生に少しずつ彩りが増えていく。服を通じて、そんな豊かさを育てていけたらと思っています。

西側さんの日々の選択を軽やかにする、10のアイテム

「品とエッジの掛け合わせ」を軸に、心が躍るものだけを選ぶ。
西側さんのワードローブには、一着一着に物語が息づいている。

7年間履き続けたマルジェラのパンツ。大学時代にニューヨークで出会ったレザージャケット。フィリピンの子どもたちの夢を刺繍したスウェット——。
ここでは、西側さんが日々愛用する10のアイテムを紹介。
一つひとつに宿るストーリーと選ぶ視点に、これからのワードローブづくりのヒントが隠れている。

パンツ / Maison Margiela(メゾンマルジェラ)

以前よりメゾンマルジェラに憧れを抱いていたという西側さん。「いつか自分のワードローブに迎えたい」と思っていたところ、偶然の出会いから手にしたという。

「マイファースト・マルジェラです。当時の自分にとっては大きなお買い物でしたが、もう7年ほど愛用しています。履きすぎて、7年間で20回ほどお直しに出しました。よく見ると当て布の歴史が刻まれています(笑)」(西側さん)

バッグ / coxco(ココ)

2015年から続けてきたフィリピンでのファッションショーをきっかけに、「夢を持つだけでなく、叶えられる環境を作りたい」と2023年に設立したファッションスクール兼縫製工房。このバッグは、そこで学んだ一期生たちが初めて作り上げた特別な一品。

「卒業した子たちが初めて縫った作品なんです。制作日と作り手の名前が刻まれていて、これは2024年8月12日にジャナちゃんが作ってくれました。日本研修にも参加してくれて、伊勢丹のポップアップにも来店してくれたんですよ。全部手縫いなんです」(西側さん)

夢の形をみんなで紡いだ、思い出が詰まったバッグ。持つたびに、ものづくりの原点を思い出させてくれる。

ブラウス / Reformation(リフォメーション)

ニューヨーク出張の際に購入した「Reformation」(Shift C評価:良い)のブラウス。SNSで以前から注目していたブランドで、店舗での特別な試着体験が印象に残っているという。

「試着したい服を伝えると、広い部屋いっぱいにアイテムが並べられていて、自分のクローゼットみたいな空間で試すことができました。久しぶりのニューヨークだったこともあって、その体験が忘れられず、記念に迎えました」(西側さん)

レースやボタンの繊細なディテールが魅力の一着。休日の外出時など、プライベートで愛用しているそう。

スウェット / coxco

coxcoのスウェットは、西側さんが2年前にニューヨークのADCショーで広告賞を受賞した、思い入れの深いアイテム。2015年から続くフィリピンの子どもたちとのプロジェクトをきっかけに、「夢を持つだけでなく、叶えられる環境をつくりたい」という想いから生まれた一着だ。

「子どもたちに“夢”を描いてもらい、それを刺繍で表現しています。一つの刺繍ごとにデッサンセットをギフトして、また新しい夢を描けるようにという願いを込めました。アートはたくさんある中から自分でカスタムできるんです。私のスウェットには、4人の夢が刺繍されています」(西側さん)

生地にはBRINGの再生糸を使用。現在はこの活動を世界各国へと広げ、12カ国の子どもたちの夢が集まるグローバルプロジェクトに向け準備中。日本でも児童養護施設やNPOと連携し、刺繍を通じて“夢をまとう”体験を届ける企画を考案している。

祖母から受け継いだIWCの時計

西側さんが毎日、お守りのように身につけている「IWC(インターナショナル・ウォッチ・カンパニー)」の時計。91歳の、今も現役で専務として働く祖母から受け継いだものだ。

「祖父が営んでいた会社で祖母も長年働いていて、今も現役なんです。女性が働くことが珍しかった時代に、ずっと自分の道を貫いてきた姿に影響を受けています。祖母が仕事で使っていたこの時計を譲り受けてからは、私にとっても大切なお守りになりました」(西側さん)

ベルトを含め、当時のままの状態で受け継がれた時計は、時間を超えて意志をつなぐ存在に。

レザージャケット / Vintage(NY)

大学4年生のとき、ニューヨークのヴィンテージショップで出会ったレザージャケット。10年以上経った今も、当時の挑戦と成長の記憶が詰まった一着だ。

「高校時代までは、将来やりたいことが見つからず悩んでいたんです。でも大学に進んで、アルバイトで貯めたお金でニューヨークへ行って。スナップを撮って雑誌をつくって販売するという活動を続ける中で、ファッションを通じて世界が広がりました」(西側さん)

そんな原点の街で見つけたこのジャケットは、夢を追いかける勇気をくれた証。
友人と会う日や気持ちを上げたい日に袖を通す特別な存在だそう。

ハンドバッグ / Coachtopia(コーチトピア)

「Coachtopia(コーチトピア)」は、2〜3年前にベイカー恵利沙さんの紹介で出会ったブランド。アップサイクル素材を用いながらも、モードさと上品さを併せ持つデザインに惹かれ、以来愛用し続けているそう。

「環境配慮とデザイン性を両立するブランドの姿勢にも共感して迎え入れました。アップサイクルされた素材なのに、まったくそれを感じさせない洗練さがあるんです。このサイズ感も絶妙で、小ぶりながら存在感がある。持つだけでコーディネートが締まります。」(西側さん)

ミュール / PELLICO(ペリーコ)

「PELLICO(ペリーコ)」のミュールは、仕事もプライベートも支える“走れるヒール”。前部分のメッシュがしっかり足をホールドし、ヒールでありながら驚くほど快適だという。

「普段から移動が多いんですが、ヒールが好きで。このミュールは本当に歩きやすくて、毎年春から秋まで長いシーズン活躍しています。シンプルだけど品があって、どんな服にも合うんです」(西側さん)

リング / coxco & ARTIDA OUD

毎日欠かさず身につけているのが、「coxco(ココ)」のリングと、「ARTIDA OUD(アルティーダ ウード)」のリング。

「coxcoのリングは、真ん丸ではない、変形して流通から弾かれてしまったバロックパールを買い取らせていただき、山梨の職人さんに仕立ててもらったものです。ARTIDA OUDのリングは展示会でお迎えしたものです。寄付の仕組みなど背景も本当に素敵ですし、デザインも可愛くて大好きなんです」(西側さん)

カプセルワードローブでつくる、ストーリーと共に纏うスタイル

「どのアイテムを選んでも、そこに物語がある」
そんな安心感があれば、毎日の装いは、もっと自分らしく、意味のあるものになる。
「孫に受け継ぎたい」と思えるものを選び、作り手の顔が見えるものを大切にする西側さん。
ここでは、そんな彼女がカプセルワードローブでつくる2つのコーディネートをご紹介。

ほっこりアイテムを、モードに着地させる

フィリピンの子どもたちの夢が刺繍されたスウェットに、sacai(サカイ)のスコートとBottega Veneta(ボッテガ・ヴェネタ)のロングブーツを合わせたスタイル。温かみのあるスウェットを、モードなアイテムで引き締めるという、まさに西側さんらしい、品とエッジのバランスが光る。

「フードの下からパンツが少し見える感じが可愛いなと思って。短めのパンツにはロングブーツを合わせてバランスをとりました。スニーカーだとカジュアルになりすぎるので、あえてブーツで全体を引き締めています。

フードやバッグは“ほっこり見えるアイテム”ですが、私は少しきれいめでモードな雰囲気が好きなので、パンツとブーツでスタイルをまとめました」(西側さん)

オールブラックに、抜け感で軽やかさを

リフォメーションのブラウスに、マルジェラのパンツとレザージャケットを合わせたオールブラックのコーディネート。デコルテとお腹の程よい抜け感が、重くなりがちな黒の装いに軽やかさを添える。

「全部黒でまとめたコーディネートがすごく好きなんです。でも重くなりすぎないよう、デコルテやお腹の抜け感でバランスをとりました。黒って一番深くて、ドラマチックで、物語がある色。そういう奥行きを感じながら着るのが楽しいと感じます」(西側さん)

実は一番大好きな色。西側さんを輝かせる“青みピンク”の3アイテム

普段は黒を選ぶことが多いという西側さんが、特別な日に惹かれるのは青みがかったピンク。「気分を上げたい」「前向きなエネルギーをもらいたい」——そんな時に自然と手に取る色だという。

新卒の頃に迎えた「LE CIEL BLEU(ルシェルブルー)」のコート、就職の記念に家族から贈られた「GUCCI(グッチ)」のバッグ、そして旅先のニューヨークで出会ったAje(アジェ)のドレス。どれも人生の節目や大切な瞬間に寄り添ってきたアイテムだ。

「黒は自分の軸を整えてくれる色。ピンクはそこに彩りをくれる存在。自分の好きを信じて選んだものには、必ずストーリーが宿ると思っています」(西側さん)

“心が躍るか”を軸に選べば、ワードローブはもっと自分らしくなる

カプセルワードローブは、ただ服を減らすための手段ではない。「自分の孫に受け継ぎたいと思えるか」「夢に出てくるほど欲しいか」——そんな問いを通して、自分にとって本当に価値あるものを見つめ直すきっかけにもなる。

「選んでいるうちに、自分が惹かれるのは“品を感じるもの”と“少しエッジのあるもの”の掛け合わせだと気づきました。どこかにロックさを感じる服が好きなんです。でも、何より大切なのは『自分が楽しめるか』『心が躍るか』。その気持ちを軸に、これからも服を選んでいきたいと思っています」(西側さん)

作り手の顔が見えるもの、背景に共感できるものを選ぶ。祖父から受け継いだ「一着を長く愛する」という美学を大切にする。そんなふうに服と丁寧に向き合うことは、自分の価値観や、これからの人生の描き方を見つめ直すことにもつながっていく。
心から愛せる服に囲まれた暮らしは、驚くほど軽やかで、自分らしい。
まずは“心が躍る一着”を基準に、あなたのワードローブを見直してみてはいかがだろうか?

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ライター/エディター
藤井由香里
ファッションメディアのライター/エディター、アパレル業界での経験を経て、2022年に独立。現在は、ファッション、美容、カルチャー、サステナビリティを中心に執筆・編集を手がける。Webや紙媒体のコンテンツ制作に加え、広告制作、コピーライティング、翻訳編集など、多岐にわたるプロジェクトに携わる。

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