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実は共通点のある京橋とパタゴニア
9月11日に、パタゴニア 東京・京橋店がオープンした。場所は6月に竣工された京橋キノテラスの1〜2階、銀座線の京橋駅から直結した立地の良い場所だ。

京橋にパタゴニア?と思う人もいるかも知れない。銀座と日本橋の間に位置する京橋は、東京駅からも近いため周りに企業が多く、ここ数年の再開発ではスタートアップ企業を支援する施設も多数造られ、ビジネス的にとても活気のあるエリアなのだ。
そしてパタゴニアは長年愛されていた東京・丸の内店が、建物の老朽化により今年3月にクローズすることになり、それに代わる店舗を同じエリア内に開くための物件を探していたのだという。
そんななか出会った京橋キノテラスは、木造ハイブリッド構造になっており建設時のCO2排出量を削減した先進的な環境配慮型建築でパタゴニアの価値観とリンクしている。またこの京橋は江戸時代、鍛冶屋が軒を連ねるエリアだったため(店舗の横、東西の道も鍛治橋通りと呼ばれている)、創業当時はクライミングのギアを作っていたパタゴニアのブランドソースと重なる。まさにここはパタゴニアが新店舗を構えるのにぴったりな場所だったというわけだ。

中央通りに面したエントランスから店内に入ると、内装は木をベースに作られていて1階は天井が高く窓も大きく気持ちがいい。
約100坪ある店内は、パタゴニアの世界観が体験できるブランドエキスペリエンスストア(渋谷・梅田に続き3店舗目)としての機能も持ち、高品質なウエア・ギアのほかにライフスタイルアイテムや、パタゴニア プロビジョンズの食品も揃えている。
関東圏で初となる、Worn Wear(ウォーン ウエア)の常設コーナー

この店舗で特筆すべきがWorn Wear(ウォーン ウエア)コーナーだ。これは、以前よりパタゴニアが行っている不要になったパタゴニア製品の買い取り再販売するサービスで大阪・梅田店に常設コーナーがある。関東圏ではこれまでは間限定のポップアップを積極的に行ってきていたが、常設コーナーはこの京橋店が初となる。
顧客が探しているウエアと同等のものがあった場合は、ショップスタッフも積極的にウォーン ウエア・コーナーのものを薦める場合もあるのだとか。まさに「今あるものを最大限に利用しよう」というブランドポリシーに則った行動と言える。
パタゴニア日本支社長が考える、京橋店の役割とは
多くの可能性を持つ東京・京橋店のこれからの役割について、日本支社長のマーティ・ポンフレー氏に聞いた。

――出来上がったこの新店舗についての感想を聞かせてください。
このニューオープンのプロジェクトはとても素晴らしいものでした。丸の内店をクローズすることになり近くに移りたいと思っていたところにこの京橋店の場所をみつけることができました。
私たちは店舗を作るとき、そのコミュニティにとってギフトになるような存在でありたいという理念があるのですが、それに基づいた店舗ができたと思っています。かつて鍛冶橋があったこの京橋の街と、パタゴニアの創業者が鍛冶屋だったことに歴史的にもつながりを感じていて、1階のレジまわりの作りや店内の壁にかかっている写真などにもそれが表現されています。今日完成した店舗に来て、そういったディテールに感動しました。とても素晴らしい出来上がりだと思います。(パタゴニア日本支社長 マーティ・ポンフレー氏、以下同)

――店内でいちばんのお気に入りはどこですか?
個人的には1階のレジまわりのキャッシュラップが気に入っています。ここは店舗ごとにストーリーがあるのです。鍛冶橋の橋脚をイメージしていて、宮大工の技術で釘を使っていなくて、後ろの壁にある写真のフレームも同様です。さまざまな味わいが表現されています。
スタッフルームに繋がるドアのフレームなどはヴェンチュラ本社のオフィスやストアのサイズになっていて個人的には懐かしい気持ちになりますね。
1階の天井は高く階段も吹き抜けになっていて、リラックスできる空間になっています。階段を上ったところにあるWHERE WE STANDコーナーには、日本の古い地図を掲載していて、このエリアの歴史を知ることができます。
細かいところにも目を向けるのは我々の強み。話し始めたら終わらないです、ディテールおたくなので(笑)。
京橋店をベースに、新しいビジネスコミュニティを構築していきたい
――京橋という街を選んだのは、クローズした丸の内に近いエリアを探していた結果ということなのですね?
丸の内店は長年運営しているなかで私たちのコミュニティができていたので、建物の老朽化によってクローズするのはとても残念でした。新しい店舗を近いエリアで開きたいと考えていたのですが、この京橋エリアは何百年という歴史があってギャラリーや職人の作品が見られる場所も多く、昔ながらのコミュニティも存在します。今回はこの素晴らしいビルに出会えたのはラッキーでした。

――丸の内と京橋は近いとはいえ雰囲気などが全く違います。
丸の内はフレッシュなイメージがありますが、京橋は歴史があってパタゴニアと通じる特徴があります。もともとあるコミュニティも素晴らしく、近隣に企業や政府機関も多くあります。今後の私たちの活躍の一つとして、「私たちは故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッションステートメントを多くの機関や企業に知ってもらいたいと思っていて、その責任のあるビジネスのハブとしてこの店舗を活用していきたいですね。他の企業とのイベントも展開していければ良いと思っています。
――マーティさんが登場する機会も増えそうですね。
おっしゃる通り、ビジネスシーンに私が登場して活動するタイミングなのかなと思っています。一社だけで動かそうとしてもやれることは限られていますが、大手企業と手を取り合って会話の場を作ってビジネスコミュニティを構築すれば、環境問題など多くのことに立ち向かっていけるのではないかと思っています。そうすることで解決する可能性、比率が上がると思っています。
私の役割は多くのビジネスをつなげて会話の場を増やしていくことだと思っています。この店舗に気持ちのいいバルコニーも作ったので(笑)。
――先ほどミッションステートメントの話が出てきましたが、これを浸透させるには何を優先させるべきだと思いますか?
先日、環境庁との共同として協定を結びました。Ridge to Reefというプロジェクトで、手を取り合って進めていく予定です。プロジェクトの詳細はまだ出ていませんが、楽しみです。
一社だけだと出来ることに限界があるので、これからは政府機関や多くの企業と手を組んでさまざまな問題の解決策を模索していきたいと考えています。
多くの企業が環境問題に対する解決策を探したいという思いはあると思うので、さまざまな視点や観点、ダイバーシティに根差した考え方が解決策に繋がると考えています。

――ビジネスでサステナビリティを目指すなかで、事業として成立させることが大事だと思います。日本の若いファッションデザイナーの多くが、サステナブルかつファッショナブルなものを作りたいと思いながら苦労しています。どうしたらサステナビリティとカスタマーの心を掴むようなストーリーが両立できると思いますか?
私たちも模索しているところなので明確なアドバイスができるかどうかわかりませんが。
パタゴニアではこの10年くらい、サプライチェーンに関して力を入れています。clean up your own houseということで、まず自分たちの家を整理整頓しないといけません。
個人的には“サステナブル”ではなく“レスポンシブル(責任を果たす)”という言葉を使っていますが、アパレルというのは必然的に環境に負荷を与えてしまうというジレンマがあります。まずできることから手をつけることが大切です。工場でクリーンエネルギーを使い、環境に配慮した素材を使い、そして作り手の労働環境を整える。そこから始めました。
それには労力が要るし費用もかかるし、素材の調達には時間もかかります。他にオプションがあるかというと、今の気候変動を見るとないのです。環境に負荷をかけることで全員が影響を受けるという事実があるからこそ、各ビジネスができることをやっていくことが大切だと考えています。
パタゴニアでは3年前に「地球が唯一の株主である」という理念のもと、利益の全てを環境問題に関わるNGOに渡すという体制に変わりました。他社にもgood businessのあり方がどういうものなのかを示せる存在になれればと意識しています。
搾取的なモデルではなく環境に配慮したビジネスのやり方を広めていくことも、私たちの責任だと思っています。

――ところでご存じのように今年の日本の夏はとても暑く、来年以降も同じ状態が予想されます。今後パタゴニアのビジネスは変わっていくのでしょうか?
ちょうど2週間前にヴェンチュラの本社で来年のプレゼンテーションがあって新製品を見てきたところですが、日本について言えることはショルダーシーズン、春から夏にかけての期間が短くなって、夏が長くなると予想されます。UVプロテクションに関する革新的な開発や技術を取り入れた素材、猛暑に耐えられるような通気性に優れて皮膚を守ってくれるものを開発して販売していく流れになるでしょう。
パタゴニアではこれまでは、フリースなどの秋冬の製品に力を入れてきましたが、これからは暑さ対策にも力を入れていきたいと考えています。
――ぜひ夏を快適に過ごせるアイテムを作ってください!
(日本語で)ガンバリマス!!(笑)
パタゴニア 東京・京橋
住所:東京都中央区京橋2-4-12 京橋キノテラス
電話番号:03-3214-2101
営業時間:11時〜19時