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ファッション|2025.09.11

北欧発 “責任ある美しさ” が世界基準に―コペンハーゲンファッションウィーク現地レポ(後編)

参加ブランドへ19のサステナ基準*が設けられたコペンハーゲンファッションウィーク。ショーのプロップの使い捨て禁止や、働く人のDEIB、スマート素材が全体の60%以上であることなど…もはやサステナは“大前提”として、思い思いのクリエイションが繰り広げられた北欧ファッションの祭典。日本でもおなじみのマリメッコやセシリー バンセンが登場した後半の様子を、現地で取材した髙岡英里子さんが紹介。

 

原稿:髙岡英里子

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競馬場に舞い降りる、色彩と物語のパレード──Baum und Pferdgarten (バウム ウンド ヘルガーテン)が奏でる、“華やぎと勇気の春夏”

コペンハーゲン郊外にある「チャーロッテンルンド・トラヴバネ」。1901年開業の北欧最古の競馬場。歴史ある競馬場で開催されたショーは、伝統と現代性、そして持続可能性への敬意が込められた特別なステージとなった。

バウム ウンド ヘルガーテン(Shift C評価:ここから)のコレクションが初披露されたのは、古い厩舎の間。一世紀以上の時を刻む競馬場が、情熱と創造性に満ち溢れる“非日常空間”へと変貌し、スポーティさとエレガンスが融合する新たなファッション叙事詩への序章となった。

バウム ウンド ヘルガーテンが描き出すのは、疾走する馬たちのエネルギー、ジョッキーの誇りとスリル、そして歓声に沸く観客たちのきらめき。大胆なストライプやチェック、ジョッキーのユニフォームから着想を得たカラフルな配色に、会場は一瞬で引き込まれた。フェイクレザーやフェイクスエードなどの動物由来でない素材を使用し、サステナブルな姿勢も際立っている。流れるようなドレスにはヴィンテージレースや繊細なフリルが施され、歩を進める度に軽やかに揺れて、観る者の心を高揚させ、馬のロゼットモチーフやレオパード柄、未来的なフェイクレザーのアクセントは、伝統と現代の美学がせめぎ合うスリリングなコントラストを生み出していた。

「着る人を人生のレースで一歩リードさせてくれる」──そんな想いが細部にまで込められたラインナップは、クリエイティブディレクター2人(Rikke Baumgarten /  Helle Hestehave)が幼い頃に過ごした馬とともにある日々、その記憶と情熱がディテールのひとつひとつに宿り、観る人・着る人を物語の主人公に変えてくれる生命力が宿る印象的なコレクション。
会場の誰もが、“鑑賞者”であることを忘れ、心ごとコレクションの世界観へと没入していった。

James Cochrane
James Cochrane
James Cochrane
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ゆるやかに移ろう光とともに──CMMN SWDN(コモン スウェーデン)が紡ぐ今を生きるためのサマーコンフォート

コペンハーゲンファッションウィークによる若手デザイナーや新進ブランドの育成・支援プログラムCPHFW NEWTALENTとして登場したコモンスウェーデン。

ショー会場となるCIFF※Copenhagen International Fashion Fair(コペンハーゲン国際ファッションフェア)は、コペンハーゲンで年2回開催される北欧最大級のファッション展示会である。

Emma&Saif Bakir夫妻が手がける今季は、夏の柔らかな光、ゆったりと流れる時間、そして“素顔の自分”を受け止めてくれるようなやさしい空気感に満ちていた。淡いイエローやグリーン、クリームにサンド、さりげないメタリックなど、移ろう夏の光や影を思わせるカラーでまとめられ、素材は軽やかなコットンやリネン、さらっとしたシルク。“鎧”ではなく「包み込む服」を意識し、ゆるやかなシルエットと重なり合うレイヤーが、気負わず自然体でいられるコレクションに。「深呼吸するように、無理せず自分らしく楽しめる服を」と、主張しすぎず寄り添うデザイン&カラーが、日常に上質なやすらぎとエネルギーをもたらした。

「Shifting Light」は毎日を忙しく駆け抜ける私たちに必要な“深呼吸”のようなコレクション。肩ひじ張らなくていい。「自分のまま、穏やかでいられる服を届けたい」とSaif Bakir 。

エマの直感的なウィメンズとサイフの研ぎ澄まされたメンズウェアが融合し、ただ美しいだけでなく、着る人それぞれの“アイデンティティ”を引き出してくれるのも特徴だ。本質的な価値にフォーカスするサステナブルな考え方に根付く、決して主張しすぎない、“自分らしさ”に寄り添い、明るい未来へと歩み出すための優しい伴走者なのだ。

James Cochrane
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Marimekko(マリメッコ)、色彩と柄の“新しい対話”── サステナビリティとクリエイションの新章

陽ざしが差し込むコペンハーゲン港の旧工場跡というインダストリアルな空間に、夏のマリメッコは鮮やかな革命をもたらした。かつてないほど解放感あふれるパターンが重なり、ひねりの効いたプロポーションやエネルギッシュな配色が、空間そのものを塗り替える。

マリメッコ(Shift C評価:ここから)がランウェイに刻んだのは、未来へ向かう希望のグラフィック。「伝統」と「刷新」が交錯するデザインには、懐かしさのなかに新鮮な意志が宿り、ピオニーや桜色、アジサイやスピルリナのニュアンスが、ピスタチオグリーンやレモンイエローの差し色と躍動する。
ミニとマキシの対話、重ね着の軽やかさと機能性、異なる価値観がひとつの装いに絡み合い、多様性を称える熱量に包まれる。会場に響くのは、ヘルシンキの自社工場で収録された“ものづくりの鼓動”。アディダス トウキョウのフットウェアが足元に今季らしさを添えた。

1956年から変わらず愛され続ける「ヨカポイカシャツ」に再び光を当てた。ジェンダーレスなフィットとシルバーのボタン、自由な手描きのピッコロストライプ――その名作が、70周年の節目に、現代的なアレンジとともに新たな息吹を得て登場。70年継続生産という「ロングライフデザイン」は“使い捨て”ではない持続的消費を提唱。ピッコロストライプの筆致が織りなす新たな彩りは、Marimekkoが誇るアート性とクラフトへの敬意のシンボルだ。

名作マリミニ・ドレスは、過去の型から抜け出し、今の自分を映すキャンバスとして生まれ変わった。
アートと実用性を柔軟に揺らし、「自由」そのものを装うファッションの純粋な喜びが満ちている。進化し続ける伝統と、未来への挑戦を感じさせるコレクションであった。

James Cochrane
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Cecilie Bahnsen (セシリー バンセン)10周年記念ショー『HANA-BI』 ― ブランドの軌跡、新時代の“花火”

一際注目を集めたショーはデンマークを代表するブランド、セシリー バンセンの10周年アニバーサリーショーだった。会場はかつて工業地帯だったレフサイレウン。マリメッコとはお隣の会場だ。

「HANA-BI」は日本語の“花火”に由来し、花と火、繊細さと強さ、静けさと爆発力といった相反するエッセンスを込めたテーマ。ブランドが歩んだ10年を振り返るだけでなく、次なる10年への始まりを高らかに謳うショーだ。

ブランドアイコンとも言える“白”で幕開けし、やがてシルバーへと変化。“進化”を色の移ろいで表現したコレクションは、まるで夜空に現れる花火そのもの。クラシックなテクニックと現代的アレンジが緩やかに交差し、一瞬一瞬が感情として浮かび上がる。

今回のショーのために、アーカイブはすべて解体・再構築し、廃棄を最小限に。懐かしいピースに新たな命を吹き込み、一点ものや新作を織り交ぜることで、“今”のブランド像を提示しつつ、大量生産に頼らないクラフト重視のサステナビリティを実現して見せた。
定番のオーガンザやキルティング、シグネチャー技法を用いながら、シルエットや仕立てには意外性や遊び心を加えている。

モデル全員が履くのはホワイトのアシックス。長年続く協業を祝して、刺繍や箔によるアップデートも披露された。

最後はドリーミーな余韻と「静かなインパクト」でフィナーレ。10年分の感謝と挑戦が詰まった“コレクション=物語”で、ブランドの未来を予感させるイベントとなった。それは過去を抱きしめ、今を燃やし、未来を切り拓く決意の火花となって、胸を打つ鮮烈な体験を生み出した。

ブランドの歩みの集大成であると同時に、新たな伝説の幕がここから始まる―そんな高揚感に満ちたショーとなった。
パリファッションウィークでもどのように披露されるかが楽しみである。

James Cochrane
James Cochrane
James Cochrane
James Cochrane

CPHFW閉幕ショーROTATE(ロテイト)が魅せる――太陽に包まれて咲く“女性らしさ”のニューフェーズ

ファッションウィークのラストを飾ったロテイトの舞台は、元ビール工場をリノベーションしたインダストリアルな大型会場「タップワン」。高い天井から差し込む自然光や、素材そのままのコンクリートの風合いが、現代的な空気感とともにどこかノスタルジックな余韻を醸し出す。

“太陽に包まれる真夏の夢”をテーマに掲げ、70年代の温かな記憶と最先端のエレガンスがひとつに重なった。ケープやフロアレングスのシアードレス、風をはらんで柔らかく動くワイドシルエット――流れるような素材感や構築的なラインが、女性らしさとしなやかな力強さを両立。主役となったのは、みずみずしいパステルカラーやとろみのあるサテン、さらりとしたオーガニックコットン、リネンといった夏らしい素材。コレクションを象徴する大胆なアニマルプリントや可憐な花モチーフ、初登場のシューズラインは、コーディネートに新しい可能性を加えた。さらに、LOVE STORIES(オランダのランジェリーブランド)との大人可愛いランジェリーは、見えない部分にこそ“ときめき”を仕込むアイテム。

CHIMI(スウェーデンのアイウェアブランド)のエッジィで洗練されたサングラスや、The Good Statement(同じくスウェーデン発)のメタルベルト、カラフルなジュエリーがアクセントとなり、ワントーンコーデにモードなスパイスを効かせた。昼も夜も使える万能性や、オン・オフ問わず“自分らしさ”を自由に表現できる懐の深さが魅力。フェミニンの新境地を見せながら、ノスタルジックなムードと新しさを見事に融合させた今季のコレクションは、ロテイトが描き出す“夏の記憶”として、鮮やかに焼きつくコレクションとなった。

James Cochrane
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世界が注目!グローバルファッションプロフェッショナルが北欧でキュレーション

ショーの傍ら、世界のファッション界が熱視線を注ぐ特別なプログラムも開かれた。世界各地の編集者、フォトグラファー、バイヤー、マガジンディレクター、有名ショップのセレクター、ジャーナリストなどが集まったカンファレンスでは、トレンドの未来像やグローバルマーケットの動向が、時にディープに、時に遊び心たっぷりに議論された。

このプログラムの狙いは、北欧ファッション業界と世界とのさらなる架け橋となること。各国の感性とエネルギーが、新たなインスピレーションを生み出し、未来のグローバルファッションシーンに革新をもたらそうとしている。

日本からの招待者はミュージックプロデューサーの藤原ヒロシ氏、ユナイテッドアローズ共同創業者の栗野宏文氏、同じくユナイテッドアローズのディレクター/バイヤーの内山昌治氏と豪華な顔ぶれ。彼らの視点とネットワークが、国際的なファッション交流にさらに厚みを加え、今後の北欧ファッションがどのような進化を遂げるのか、目が離せない。

そしてシーンを塗り替えたのはSNS世代の新星たち――今シーズンのCPHFWの主役はTikTok公式アンバサダーだった。Moyo J. Ajibade、Jessi Regina、Imane Asry、Hana Maiという旬なクリエイターがリアル空間とデジタルを駆け抜ける。彼らのスマートフォン越しに、現場のストリートスタイル~バックステージの裏側、ライブイベント、フロントロウの熱狂までが、ノンフィルターで世界中へダイレクト発信。グローバルコミュニティと北欧デザインを繋ぐ新しい「現場目線」の波を生み出した。

この「現場の鼓動×SNSパワー」のシームレスな連携こそ、今季のハイライトだ。北欧発の包摂性、革新性がノンストップで波及し、デジタルからリアル、リアルからデジタルへ。いま、この大胆な波に日本のクリエイティビティやコミュニティからも新たなケミストリーが生まれようとしている。

セシリー バンセンのバックステージ。©Bryndis Thorsteinsdottir

北欧ミニマリズムの進化論—コペンハーゲンファッションウィーク2026春夏分析

夏にもかかわらず、北欧の冷んやりと透き通る空気感と、タイムレスな革新精神。その両輪で突き進んだ2026年春夏のコペンハーゲンファッションウィーク。今季は、「リアル」と「可能性」が丁寧に織り交ぜられた、独自のトレンドが際立った。

サステナビリティは“あたりまえ”のその先へ

グリーンウォッシュを超えた本質的アプローチが標準化。リサイクルやアップサイクルはコレクションの一部として自然体で存在し、バイオ由来素材や循環型生産など、一歩先を行く未来志向が随所に感じられた。一過性ではなく、北欧らしい誠実さで“持続可能な美”を積み重ねる姿勢が印象的。

ミニマルで、機能的。それでいて角のない洗練

ミニマルなラインやナチュラルなテクスチャーに、素朴なノイズすら美しさへと変換する。
着心地・動きやすさを計算し尽くしたデザインは、静けさの中にエネルギーを内包する。
主張し過ぎない佇まいが、現代の都市生活者にフィットする調和を生んでいる。

境界線をそっと溶かすジェンダーレス

性別を超えた解釈は今や当然。だが単なるトレンドではなく、コレクションの根幹として機能する。
オーバーシルエットやナチュラルカラーがもたらす余白が、多様な個性を優しく受け入れる。
ダイバーシティの“その先”へ向け、北欧ファッションが静かに問いかける。

ソフトなアーストーン、そして再解釈されたパステル

北欧の大地や空、草花の色から着想。ベージュやセージグリーン、淡いイエローやウォッシュドブルー。
アーシーな温もりに、透明感あるパステルが柔らかな光を落とし込む。どこか知的でニュートラルな配色センスが、今季を象徴する。
偶発性を許容しながら、普遍的な美を追求していくコペンハーゲンの今。倫理と審美の接点で生まれる新たなモードは、“持続可能な個性”について、そっと、でもしっかりと語りかけてくる。

次回20周年に向けて、今後も成長が期待されるファッションウィークとなっている

2026年には20周年という節目を迎えることもあり、今後さらに参加ブランドや規模の拡大が期待されている。

関係者の間では、「世界のメガファッションウィークに次ぐ存在」になることを目指す気運も高まっており、今後の発展に注目が集まっている。

マリメッコのバックステージ。©Bryndis Thorsteinsdottir

※以下はコペンハーゲンファッションウィークで設けられた19のサステナビリティ最低基準。
戦略的方向性(Strategic Direction)
1)環境と社会の両面に配慮した正式なサステナビリティ戦略を策定・承認していること。経営層による承認が必要。方針のレビュー・モニタリング体制も含む。
2)多様性・包摂性を促進する方針や構造を整備していること。DEIB(Diversity, Equity, Inclusion, Belonging)に関するポリシー、採用の偏りを防ぐ仕組み、研修などが該当。
3)過剰在庫やサンプルを焼却・廃棄せず、適切な処理フローを確立していること。

デザイン(Design)
4)製品の耐久性・寿命を確保する基準を設け、顧客にその価値を伝えていること。テスト方法や顧客からのフィードバックの反映、ケア情報の提供などを含む。
5)リペア可能性、再利用性、再循環性、再利用素材の使用など、サーキュラー(循環型)のデザイン原則を取り入れていること。
6)スマート素材の選択(Smart Material Choices)認証素材、優先素材、またはデッドストック素材のいずれかで、 少なくとも60%以上の素材で構成されていること。
7)優先素材リスト(Preferred Materials List)を整備していること。
8)EUのREACH指令に準拠した有害物質制限リスト(RSL)を持ち、サプライヤーと連携した試験プログラムを実施していること。
9)バージンファー(新素材の毛皮)、野生動物の皮革、羽毛(いわゆるエキゾチック素材)を使用していないこと。

労働条件(Working Conditions)
10)国際的なガイドラインに準拠した行動規範(Code of Conduct; CoC)を整備し、サプライヤーに対して自己評価、第三者監査、研修などで遵守を促していること。
11)調達実務において人権侵害を回避するための対策(責任ある調達ポリシー等)を実施していること。
12)職場でのハラスメントや差別を排除し、多様な属性(性別、人種、宗教、性的指向など)を尊重する安全で尊厳ある環境のための方針・体制を整備していること。

消費者とのエンゲージメント(Consumer Engagement)
13)店舗スタッフおよびオンラインカスタマーサポートに、サステナビリティ戦略に関する教育・研修を提供していること。
14)少なくとも2つのプラットフォーム(ウェブサイト、SNS、店舗内掲示など)で、グリーンクレーム指令に則ったサステナビリティ情報を顧客に提供していること。
15)店舗およびオンライン注文における梱包材の環境負荷を削減する取り組みを継続していること。

ショーケース(Showcase)
16)ショーおよび舞台裏のプロップ・小道具に使い捨て素材を使用せず、レンタルや長期再利用を前提にしていること。
17)使い捨てプラスチック包装の使用を廃止し、廃棄物はデンマークの分別ルールに従って処理していること。
18)ショーで発生する排出量に対して、CPHFWが実施する気候削減/インセット活動を支援することに同意していること。
19)デンマーク・ファッション倫理憲章(Danish Fashion Ethical Charter)への署名者であり、その規定に準拠していることを証明できること。
https://copenhagenfashionweek.com/sustainability/sustainability-requirements

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パブリシスト/コラムニスト
髙岡英里子
幼少期をフランス・パリで過ごす。社会人を経て再び渡仏し、現地PR会社にてパリファッションウィークに携わる。帰国後、国内外のファッションブランドPRとして活動。2016年に独立し、ファッションに加えライフスタイル、ビューティー、音楽、アート、食と分野を広げ、パブリシスト/コラムニストとして活動中。

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