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ビューティー|2025.08.26

ビューティー業界はどのくらいサステナブルなの? 239ブランドの評価基準と結果から見えてきたこと

Shift Cで日本のビューティーブランドのエシカル度が検索できるようになった。90を超える日本ブランドのレーティングはどのように行われているのか?Shift Cが提携する世界最大級のエシカル評価機関で、評価を行うGood On Youのガイドラインのポイントを紹介する。最後には、高評価を得たビューティブランドのランキングも発表。

写真:Unsplash

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※この記事は、How Sustainable Is the Beauty Industry? We Rated 239 Brands to Find Out (2024年10月配信済み)を日本市場向けに翻訳しています。

はじめに:ビューティーブランドはどれくらいサステナビリティに取り組んでいるのか?

Shift Cが事業提携するGood On Youは、ファッション業界における世界最大級のサステナビリティ評価機関として、6,000以上のブランドを公開データに基づいてレーティングしてきた。Shift CとGood On Youのユーザーは何百万人にのぼり、消費者は買い物の参考に、ブランドは自社のサステナビリティ施策の改善に、メディアは公正なサステナビリティの情報源としてGood On Youを活用している。

ビューティーブランドのサステナビリティ情報を知りたいという多くの声に応えるため、Good On Youは透明性を原則とした公正な評価方法を1年かけて開発した。

これは美容業界全体にわたるサステナビリティへの取り組みに対する調査だ。以下のレポートでは、その調査から得られた結果について発表する。 世界239ブランドの評価を受けて作成したこのリポートは、バリューチェーン全体を通じて「地球」「人間」「動物」への影響を考えて業界がどのような対策を講じているかを明らかにしている。239ブランドには、だれもが名前を知っているような最大手で最も収益性の高いブランド、トレンドのブランドやドラッグストアブランドのほか、斬新なビジネスモデルを持つ新興の小規模ブランドも含まれており、業界の現状が俯瞰できる。

Shift Cの新カテゴリ「ビューティー」の評価基準とは?

評価のポイントとしては大きく分けて下記の5つがある。

  • 成分の透明性:今回の調査対象ブランドの90%が香料を使用している一方で、72%が使用している正確な成分の情報を開示しておらず、健康や環境への影響に対する懸念を残すものとなった。
  • 生活賃金:調査対象ブランドの84%がサプライチェーンにおける生活賃金の確保に対する取り組みを公式に開示しておらず、業界内の人権問題が浮き彫りとなった。
  • 動物実験:「クルーエルティ・フリー」という言葉が広まっている一方で、調査対象ブランド全体の78%に動物実験を行っていないという証明がないことが分かり、業界全体で倫理的な生産へのコミットメントに疑問が生じている。
  • 気候関連報告:評価対象の中でも大手ブランドの80%が温室効果ガス排出目標への進捗の報告がなく、ファッション業界と同様にこの分野での透明性の進歩が期待される。
  • 詰め替え可能なパッケージ:対象ブランドの15%で、取り扱い製品全体の1/3以上で詰め替え用を用意している一方で、把握・報告されているリフィル購入の割合はわずか2%であり、詰め替え用の普及については疑問が残る結果となった。(*1)

評価方法:一般公開されている情報を基にブランドを評価

ビューティーブランドの評価は、畑で素材を作るところから、製造、パッケージ、そして消費者が製品を洗い流した後に何が起こるかまで、ブランドのバリューチェーン全体にわたる42の主要課題を網羅している。これらの課題は、全体的な影響度に応じて優先順位が付けられている。
評価の対象となるのはスキンケア、ヘアケア、メイクアップ製品を販売するブランドであり、一般公開されたデータのみに基づいて評価されているというのが重要な点だ。各評価は、ブランドと連結する親会社の報告書、40を超えるビューティー関連の認証と基準、第三者指標(CDP Climate and Waterなど)と報告書(International Labour Rights Forumやグリーンピースなど信頼できる組織による調査)を考慮している。また、ブランドのバリューチェーンにおいて、グリーンウォッシュや、労働者の権利侵害に関する規制措置など、何らかの問題が報告されたことがあるかどうか、そしてブランドがその後問題を改善したかどうかも評価対象とする。

13の課題とビューティー業界の対応

原料の透明性

ビューティー業界では、「クリーン」や「ナチュラル」など、曖昧で一般的にはグリーンウォッシュとみなされるような用語が蔓延している。しかし、その裏側ではどのような成分が、どれだけの量含まれているのかという透明性に関して、まだまだ改善の余地がある。ビューティー業界の透明性不足の理由には、複雑なサプライチェーン、企業秘密、全成分リストの開示が必要ない法規制などがある。自分の肌に塗ったり鼻や口から吸い込んだりする製品に何が入っているのかを正確に知る権利がある、という消費者のコンセンサスは高まっているが、多くのブランドは「フレグランス」「パフューム」「アロマ 」といった言葉の陰で、時には数十種類もの香料を使用している。そしてこれらの香料は、ビューティー製品のほとんどすべてのカテゴリーに含まれている。多くの香料は少量であれば安全かもしれないが、一部の原料では人体や環境への影響について適切に評価されていないものもある。

香料以外の成分であろうと、多くのブランドは製品に含まれる量を明確に伝えず、オンラインでも公開していない。これは人体や健康への影響だけでなく、ブランドや製品のサステナビリティを評価する上でも重要だ。

なぜなら、一般消費者が主要製品の成分や量を特定できなければ、ブランドがより低負荷の製品配合を優先しているのか(たとえば森林破壊に関連する成分の使用を減らしているなど)、あるいは流行の成分や低負荷の成分(たとえばアップサイクルや認証成分など)をごく少量使用しただけの製品を誤認させるように打ち出しているのか、誰も本当のところはわからないからだ。

香料の透明性

90%のブランドが香料を使用しているが、そのほとんど(72%)は使用している成分を正確に開示していない。

成分の透明性(香料を除く)

75%のブランドが成分リストをオンラインで開示しているが、使用量(重量、容量、パーセンテージなど)については明確な情報を提供していない。

パッケージとリサイクル

パッケージは、ブランディングと消費者へのアピールにおいて大切な役割を果たしている。パッケージデザインは、ブランドの理念を伝え、競合する製品カテゴリーで差別化を図り、リピーターとの感情的なつながりを築くのに役立つ。しかし、ビューティー業界は純正プラスチックのパッケージに依存し続けており、その大半がリサイクルされていない。ビューティー業界から出るプラスチック廃棄物は埋立地を飽和させ、有毒化学物質を川や海に垂れ流し、分解には何世紀もかかる。

それにもかかわらず、パッケージはグリーンウォッシュの温床となっている。例えば、パッケージの一部にリサイクル素材が使われていると主張するブランドは多いが、多くの場合は展開するプロダクトのごく一部であることが多い。たった一握りの数のブランドが石鹸やシャンプーバーのような水を使わない製品に、プラスチックフリーのパッケージを採用するなど、「循環性」をコンセプトの中心に据えている。しかし、いくつかの前進の兆しがある一方で、依然として無駄の多いパッケージが主流であり、サステナビリティの進歩はむしろゆるやかになっている。

リサイクル素材によるパッケージ

全体の40%にあたるブランドが、リサイクル素材を使用したパッケージを一部の製品に使用している。

しかし、製品の大半にリサイクル素材由来のパッケージを使用しているブランドは5%に満たない。

リサイクル可能な包装と回収制度

38%のブランドがリサイクル可能なパッケージを使用している。

15%のブランドが使用後のパッケージをリサイクル(回収)しているが、その量を開示しているのはわずか7%。

FSC認証材を使用した包装

18%のブランドがFSC(森林管理協議会)認証材を用いたパッケージを使用している。

詰め替え製品

15%のブランドが、家庭用(11%)と店舗用(4%)を含め、詰め替え可能な製品をラインナップの1/3以上で販売している。

しかしこれらのブランドのうち、リピート購入の追跡と報告を行っているのはわずか2%。

使い捨てプラスチックを用いたサンプルの廃止

使い捨てプラのサンプルを廃止したブランドは1%未満。

最小限の包装で製品をデザインする

パッケージを最小限に抑えた製品設計(固形バーや濃縮配合など)をしているブランドは2%。

パーム油

保湿剤、石鹸、シャンプー、コンディショナー、化粧品など、あらゆるビューティー製品を考えてみると、パーム油やパーム核油由来の成分が使われている可能性が高い。しかし、パーム油の使用量は非常に多いにもかかわらず、パーム油が200以上の異なる成分名で表示されているため、ほとんどの消費者は気づかない。パーム油が広く使われる理由の一つはその汎用性だ。天然の軟化剤として、パーム油は髪や肌に潤いを与える製品に多く使われており、多くの化粧品のベース成分にもなっている。もうひとつの理由は、パーム油の元となるアブラヤシの収量が多く、原料が手ごろであることだ。

しかし、アブラヤシには注意すべき点も多い。パーム油の世界的な需要を満たすために、主に東南アジアで、現地の生物の生息地を破壊し、先住民族を土地から追い出し、大気中に二酸化炭素を放出し、熱帯雨林を伐採している。パーム油に関連する多くのリスクが知られているとはいえ、代替原料にも同様の問題が多数存在するため、パーム油を避けることが必ずしも正しい選択とは限らない。認証制度もたびたび議論の的になるが(*2)、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)などの認証を受けたサプライヤーからパーム油を調達することは、環境負荷などを減らすための第一歩と言えるだろう。

パーム油使用ブランド

97%のブランドが少なくとも一部の製品にパーム油を使用している。

認証パーム油

36%が RSPO認証パーム油を一定量使用しており、その総量を開示している。

17%のブランドはRSPO認証パーム油のみを使用している。

56%が認証供給源からのパーム油は使用していない。

気候変動に関する目標と開示

ビューティー業界が気候変動に与える影響は小さくない。これには、農業、輸送、製品や包装の生産、さらには消費者が製品を使用する方法まで、あらゆるものが含まれる。

ビューティーブランドが関わる温室効果ガス(GHG)排出を理解するために、排出量はたいてい以下の3つのスコープに分類される。 スコープ1は「自社製造施設からの直接排出」。スコープ2は「自社事業における購入電力、暖房、 および同様の設備からの間接排出」。スコープ3は「自社事業外の間接排出」で、原材料の生産や輸送などの上流工程、顧客による使用や製品の 廃棄などの下流工程を含む。スコープ3の活動は、通常、ビューティー業界全体の排出量に最も大きな影響を与えるが、測定と対策が難しいため、3つのスコープすべてを網羅する包括的なGHG排出目標を設定しているブランドは、実際にはほとんどない。

しかし、スコープ1の直接排出に関する限定的な目標を設定した場合でも、大半のブランドは、その目標を達成できるかどうかさえ不透明である。

CDP(気候変動開示プロジェクト)に開示し、トップスコアを獲得するブランドが増えるなど前進の兆しも見られるが、全体としてビューティー業界はこの重要な問題について不透明なままである。

大手ブランドの温室効果ガス排出(GHG)目標

大手ブランドの70%が何らかのGHG目標を掲げているが、そのすべてが包括的なものではない。ブランドの20%がスコープ1、20%がスコープ2、8%がスコープ3の目標を設定している。

大手ブランドの46%が承認済みの「科学的根拠に基づく目標(SBT)」を掲げ、さらに6%がその目標を設定することを約束している。

GHG目標に対する進捗を報告していない大手ブランド

大手ブランドの18% は、目標達成に向けて順調に進んでいると公表しているが、これは少数派である。

同じく80%が目標に見合う進捗の開示を行っていない(残念なことに2023年に行ったファッション業界の環境実績の分析と類似しており、当時も気候変動目標を掲げているほとんどのファッションブランドは、その進捗状況を開示していないことがわかった。

大手ブランドによるCDP気候情報開示

大手ブランドの60%がCDP気候情報を開示している。

CDPに報告したブランドのうち、42%が「A-」もしくはそれ以上のスコアを獲得。

生態毒性とマイクロプラスチック

生態毒性とは、化学物質が単一の生物だけでなく、食物連鎖や生態系全体に及ぼす影響を指す。ビューティー製品の多くには、特定の肌悩みをケアし、環境ストレスから私たちを守り、日焼けによるダメージを抑える成分が含まれている。しかし、多くの消費者は、これらの製品を洗い流した後、残留する化学物質が地球に害を及ぼす可能性があることに気づいていない。一般的なビューティー製品に使用されている成分の中には、生態毒性を持つものが何百種類もある。これらの化学物質は水路や海に流れ込み、水生生物に害を与えたり、水生生物の体内に濃縮される可能性がある(その後私たち人間が食べることもある)。マイクロプラスチックは、洗顔料のような角質除去製品に含まれていることが多く、ビューティー製品における生態毒性を示す憂慮すべき一例であり、キャンペーン団体「ビート・ザ・マイクロビーズ」によって、頻繁に使用される500以上のマイクロプラスチック成分が特定されている。

この問題に真剣に取り組むブランドは、成分や製品の使用後(たとえば、消費者が製品を排水口に流した後どうなるか)の影響を調査し、マイクロプラスチックやその他の汚染物質の使用を最小限に抑えるための明確な目標を設定し、その進捗状況を公表している。現時点では、汚染が生態系(そして結果として私たち自身の健康も)に害を及ぼしているにもかかわらず、基本的なステップさえ踏んでいないブランドがほとんどだ。

生態毒性と生分解性に関する方針

48%のブランドが、成分の生態毒性と生分解性の評価に関する方針や声明を発表していない。

生分解性と生態毒性を改善させるために、製品開発と配合の段階で重要な研究に投資しているブランドは11%である。

サンケア(紫外線対策)製品と既知の汚染物質

58%のブランドがサンケア(紫外線対策)製品を販売しているが、環境への影響を最小化したり、汚染物質に対処するための有意義な措置を講じているブランドはわずかである。

このうち、HEL(Haereticus Environmental Laboratory:ヘレティカス環境研究所)の汚染物質リストに掲載されている汚染物質が含まれていない同製品を販売しているのは、わずか15%にすぎない。

マイクロプラスチック

81%のブランドは、全製品においてマイクロプラスチック不使用を明言していない。

11%のブランドは洗い流し用製品(液体石鹸など)においてマイクロプラスチック不使用である。

現在、製品からマイクロプラスチックを排除する短期的な目標を設定しているブランドは1%。

【解説:リスクの高いマイクロプラスチックとは?】

一部の管轄区域では、プラスチックマイクロビーズを取り締まる法律が制定され、その使用は減少しているが、多くのブランドは、一般的にマイクロプラスチック成分として分類される合成ポリマーを依然として使用している。

 これには、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ナイロン(PA)、ポリウレタン(PU)、アクリレーツコポリマーなどが含まれるが、これらに限定されない。キャンペーン団体「ビート・ザ・マイクロビーズ」は、リスクの高いマイクロプラスチック成分リストを公表している。これは、ビューティー成分リストで一般的に使用されている合成化学用語のガイドとして役立つ。

水資源の開示と削減

多くのビューティー製品・化粧品は、そのほとんどが水である。しかし、ビューティー製品の主な成分として水が含まれていることだけでなく、素材生産で使用される水から、水を大量に消費する包装資材(段ボールやプラスチックなど)の生産に至るまで、ビューティー業界はほぼすべての製造段階で淡水資源の問題と隣り合わせだ。消費者がシャワージェルやシャンプーのような水ですすぎ落とす製品を使用する際の排水は言うまでもない。

ビューティー産業が水を大量に消費する一方で、ブランドはその影響を測定し緩和するための限られた行動しかとっていない。ポジティブな兆候のひとつは、ブランドに対して環境への影響についてより透明性を高めることを奨励する世界的な報告プロジェクトである「CDP・Water」へ開示する大手ブランドの数である。しかし、このポジティブな指標を越えて、業界は多くの課題を抱えている。サプライチェーンにおいて有意義な水使用の削減の取り組みを行っているブランドは少ないようだ。水資源のフットプリントが最も大きく、それゆえに行動する責任がある大手ブランドは、CDPの情報開示はするものの、この問題についてほとんど沈黙を貫いている。小規模ブランドは、より革新的な「ウォーターレス」製品を開発したり、生産における水使用量を削減したりと、リーダーシップを発揮しているブランドもあるが、まだ少数だ。

大手ブランドの「CDP・Water」への開示

大手ブランドの55%が「CDP・Water」に情報を開示している。

CDPに報告したブランドのうち、60%が「A-」もしくはそれ以上のスコアを獲得。

CDPに開示していない大手ブランドの取り組み

‣CDPに開示していない大手ブランドのうち、80%は水使用削減のイニシアチブを実施していないようである。

小規模ブランドの水削減の取り組み

小規模ブランドの2%が生産に雨水を使用している。

小規模ブランドの2%が、生産時に浄化した再生水を使用している。

小規模ブランドの2%が、消費者に「水を使用しない」製品を販売している。

サプライチェーンのトレーサビリティ

ビューティー業界のサプライチェーンが完全にトレーサブルな状態というのは、ブランドが原材料の段階から消費者に届くまでの製品の歩みを明確に追跡できることを意味する。しかし、ビューティーの複雑なサプライ・チェーンのほとんどは不透明で追跡不可能なままだ。ブランドの中には、最終生産段階(製品が組み立てられ、包装される段階)の追跡を進めている。(たとえば、口紅の最終生産段階では、精製シアバター、マイカ、顔料などの一般的な成分が配合され、その後容器に詰められ、ラベルが貼られる)。ブランドにとってこの最終生産段階はコントロールが利きやすいため、より多くのブランドがこの段階を追跡・把握している。実際のところは、多くの大手ブランドが最終段階の生産施設を自社で所有している。

しかし、二次生産段階や一次生産段階を追跡しているブランドはほとんどない。(口紅の例でいえば、第一生産段階はマイカの採掘やシアの木の栽培、第二生産段階はこれらの原料の精製や加工などにあたる)。すべての生産段階を追跡しているブランドはほとんどない。

最終段階の追跡、限られた透明性

70%のブランドが最終生産段階のほとんど(つまり90%以上)を追跡している。

しかし、完全かつ詳細なサプライヤーリスト(各施設の名称、住所、またはそれ以上を含む)を公表しているのはわずか4%に過ぎない。

第二次生産段階の追跡

第二生産段階の大部分(つまり90%以上)を追跡しているブランドは6%で、さらに第二生産段階の少なくとも半分(つまり50%以上)を追跡しているブランドは8%である。

47%のブランドは、第二次生産段階の追跡を行っていない。

第一次生産段階の追跡

2%のブランドが第一次生産段階の大部分(つまり90%以上)を追跡しており、さらに3%のブランドが少なくとも半分を追跡している。

42% のブランドは、第一次生産段階をまったく追跡していない。

サプライチェーンで働く労働者の生活賃金

現在、ブランドがサプライチェーンで働く労働者に生活賃金を支払っている証拠はほとんどない。私たちが調査したほぼすべてのブランドは、賃金改善のための限定的なプロジェクトさえも公表していない。

ビューティーサプライチェーンの抱える複雑さや、トレーサビリティへの進展が限定的であることは、ビューティーブランドにとってこの重要な労働者の問題がほとんど可視化されていない理由でもある。消費者、メディア、規制当局からこれらのブランドに対する監視の目も行き届いていないことも問題だ。ビューティーサプライチェーンで働く労働者には生活賃金が支払われるべきだが、現時点では、収益性の高い成長産業でありながら最低限の賃金さえまかなえていない。

ほとんどのブランドが生活賃金について言及していない

84% のブランドは、生産のどの段階においても、生活賃金の支払いを確保するための指針を公表し行動をとっていない。

限定的な生活賃金方針をとっているブランドもある

最終生産段階の労働者の半数以上に生活賃金が支払われているブランドは9%である。

サプライチェーンの賃金を改善するためのイニシアチブを実施しているブランドは12%である。

【解説:ファッション業界VSビューティー業界の生活賃金開示】

ビューティー業界の生活賃金に関する統計は憂慮すべきものであり、他の業界と比較した場合、それほど驚くべきものではない。Good On Youは10年近くにわたり、何千ものファッション・ブランドを評価してきたため、生活賃金ポリシーを注意深く追跡してきた。2022年、私たちのディレクトリにある大手なファッションブランドを対象に分析を行ったところ、なんと86%の大手ブランドが、サプライチェーンのどの段階においても、生活賃金の支払いを保証するために公に開示された行動をとっていないことがわかった。

現代奴隷制(人身売買)

ビューティー業界の長く複雑なサプライチェーンは、比較的単純な製品であっても、複数の国や大陸にまたがるのが一般的であり、現代奴隷制や人身売買のリスクと無縁ではない。特定の「エキゾチックな」成分の需要は、労働保護が弱い国から調達されることが多く、搾取につながる可能性がある。加えて、コストを低く抑えるようブランドに圧力をかける市場競争の原理も、非倫理的な習慣や透明性の乏しいサプライヤーへの依存のリスクがある。

良いニュースは、現代奴隷制に加担すべきではないと考えるブランドが増えつつあることだ。実際、ほとんどのブランドが、この問題に対して何らかの取り組みを行っている。最も一般的なのは、サプライチェーンの労働者が報告できる、秘密厳守の告発システムなど、実施しやすい取り組みだ。しかし、根本的な原因に対処するために信頼できる人権団体と汲んだり、サプライヤーに意識向上のためのトレーニングを提供したり、サプライチェーン全体の定期的な第三者監査を行うといった的確な取り組みをしているブランドは依然として少ない。現代奴隷制はまだ一般的なリスクと言えるだろう。以下のデータは、リスクと影響力が共に大きくなる大手ブランドの取り組みに焦点を当てている。

大手ブランドの3分の2が何らかの措置をとっている

大手ブランドの33%はサプライチェーンにおける現代的奴隷制の防止策を取っていない。

現代的奴隷制に関して、大手ブランドがとっている行動

42%のブランドは、労働者が現代的奴隷制/人身売買の疑いを報告するための告発システムを提供しているが、これは多くの場合最終生産段階でのみ導入され、サプライチェーンの上流で導入されることはまれである。

12%のブランドは、サプライヤーに現代奴隷/人身売買に関する意識向上のための研修を提供している。

信頼できる人権団体、人身売買防止組織(Stop the Traffikなど)に積極的に関与しているブランドは9%。

‣ブランドの7%は、サプライヤーが労働者に募集費用を支払うよう求めることを禁止している。

マイカと人権

マイカ(雲母)は光を反射して輝く鉱物の一種だ。キラキラのアイシャドウ、口紅のメタリックやパールのような色合い、ハイライターなど、その視覚効果は目を見張るものがあるが、マイカのサプライチェーンは人権問題に悩まされており、特に児童労働のリスクが高い。マイカは主にインドで採掘されるが、労働者は日常的に危険な状況にさらされている。鉱山の陥没の危険性、呼吸器系の問題、有害な化学物質への暴露などがよく報告されている。低賃金のため、労働者が自分自身と家族を養うことは難しい。そのため、多くの子どもたちがマイカ鉱山で働かざるをえず、賃金や教育を向上させるという偽りの約束に誘われ、貧困の連鎖に陥っている。

児童労働の問題などが広く知られるようになり、マイカのサプライチェーンはより厳しく監視されるようになった。責任のあるマイカを認証するResponsible Mica Initiative(RMI)からの調達を徹底しているブランドもあるが、透明性が欠如しているため、多くのマイカやマイカ由来製品は、児童労働やその他の深刻な人権侵害のリスクにさらされている。

マイカを使用しているブランド

マイカを使用していないことを明確に表明しているブランドは1%である。

11% のブランドは一般的にマイカを使用する製品を製造していない。

79%のブランドはマイカの調達について何も公表していない(成分表にマイカを明記している場合でも)。

責任あるマイカ・イニシアティブ

12% のブランドは、Responsible Mica Initiative (RMI) の職場基準の監査を受けたサプライヤーからのみマイカを調達している。つまり90%は対象外だ。

マイカの児童労働と人権問題

マイカ採掘産業における児童労働をめぐる問題に取り組むため、現地 NGO と提携しているブランドは 3%である。

マイカに関する一般的な人権に関する声明はあるが、正式な方針はない。(正式な方針を持っているブランドは1%未満)。

動物実験

毎年ビューティー製品の実験に使用されている動物の数は、少なくとも数十万匹と推定されている。これらの動物は通常、ビューティー製品の実験のためだけに飼育されている。そして、注射や皮膚への刺激が繰り返され、強制的な成分の摂取、強制的な物質の吸入、(時には母子ともに)死亡することもある。

残念なことに、動物実験を行なっていないという第三者認証を取得しているブランドはほとんどない。また、ビューティー分野の多くのブランドは親会社があり、主に動物実験が法的に義務付けられている市場でビジネスをする場合、親会社では動物実験を明確に禁止していないことが多い。

厳格な非動物実験証明しているブランドは少ない

78%のブランドは、動物実験を行っていないことを示す認証を取得していない。

しかし、動物実験をめぐる消費者の反発を受け、一部のブランドはリーダーシップを発揮し、22%が動物実験を行っていないと認証されている(Leaping Bunny、PETA、Vegan Societyによる認証など)。

しかし、認証を受けていないブランドでも、依然としてクルーエルティフリーを主張している。31%のブランドは、クルーエルティーフリーを主張し、程度の差はあれ独自の非動物実験方針を掲げているが、厳格な認証は取得していない。

動物実験の不正確さと代替方法

明らかな有害性だけでなく、多くの科学者活動家は、動物実験が信頼性に欠け、不正確であると主張している。幸いなことに、動物実験に代わる先進的な方法が近年開発されている。また、運動家たちの活動のおかげで、化粧品における動物実験を禁止する法域も増えている。(たとえば、EU加盟国は化粧品での動物実験を禁止しているが、EU法は依然として化学物質の実験を義務づけている)。自分の価値観に合った買い物をしたいなら、信頼できる第三者機関の認証を受けた製品を選ぶことが、消費者としてできるひとつのアクションになる。

ヴィーガン

ビューティー業界における動物虐待は、動物実験だけではない。マスカラやチャップスティック、モイスチャライザーやシャンプーに至るまで、日用品に動物由来成分が幅広く使われている。これには、ミツロウ、ハチミツ、ラノリン(羊毛の脂肪質)、カルミン(昆虫由来の赤い色素)、コラーゲン、ミルクプロテイン、スクワレン(このために毎年多くのサメが殺されている)などの成分が含まれる。一部のブランドはリーダーシップをとり、ヴィーガンシリーズを提供しているが、これは現在のところ業界全体のほんの一部に過ぎない。

ヴィーガンと明言しているブランドはごく一部

9%のブランドがビーガンであることを表明しているが、その裏付けとなる認証は公表していない。

ビーガン認定を受けているブランドは9%(例:PETA-Approved Vegan、Vegan Society、Vegetarian Society)。

使用している動物由来成分の開示状況

動物由来成分(例:コラーゲン、マリンコラーゲン、ラノリン、ケラチン、エラスチン、スクワレン)を使用していることを明確に公表しているブランドは40%である。

15%のブランドが昆虫由来成分(一般的にハチミツ、ミツロウ、カルミン)を使用しているが、その他の動物由来物質は使用していない。

21% のブランドが、動物由来の可能性がある成分(グリセリンやステアリン酸など)を使用しているが、その由来を明らかにしていない。

ココナッツの使用とサルの強制労働

近年、ココナッツのサプライチェーンにおける非倫理的な猿の労働にスポットを当てたキャンペーンが、食品・飲料部門における問題意識を高めている。キャンペーンは東南アジア、特にタイ産のココナッツを中心に、野生のサルが捕獲され、過酷な条件下で檻に入れられ、高い木からココナッツを収穫させられていると報告されている。この物議を醸す行為はボイコットにつながり、一部の食品ブランドはタイ産ココナッツから撤退している。一方、タイ政府も国際的な批判に対処するため、公の場でいくつかの措置を講じたが、活動家たちはココナッツのサプライチェーンでこの慣行が続いていると主張している。

ビューティーの文脈でも、ココナッツやココナッツ由来の成分は広く使われている。この問題を認識しているブランドの中には、ココナッツのサプライチェーンを追跡するための措置を講じているところもある。

ほとんどのブランドがココナッツを使用

83%のブランドが、少なくとも一部の製品にココナッツ由来成分を使用しているようだ。

ほとんどのブランドはココナッツの産地すら確認できない

67%のブランドは、サプライチェーンで猿労働が行われているかどうか、ココナッツがタイから調達されているかどうかを確認できない。

13% のブランドはココナッツのトレーサビリティに努めていると述べているが、サルの強制労働については明確に対策していない。

ココナッツのサプライチェーンでサルによる労働が行われていないことを確認するために、サプライヤーに直接働きかけているブランドは1%未満である。

239ブランドを徹底評価!ビューティー業界のサステナ最新動向とリードするブランドとは?

Good On Youのアナリストは、公開情報をもとに「地球」「人権」「動物」の3つの軸でブランドを評価し、消費者が理解しやすいよう「素晴らしい(5/5)」から「他の選択を(1/5)」までの5段階に分類している。

今回の239ブランドの初回調査では、「素晴らしい(Great)」「良い(Good)」と評価されたのは全体の10%未満。約3割がいずれかの分野でリードを見せたが、半数以上は「まだまだ(Not Good Enough)」にとどまった。つまり、業界全体では進展があるものの、本格的なサステナブル経営にはまだ距離があることが浮き彫りになった。

地球(planet ratings)

依然として半数以上のブランドが「まだまだ」に分類されており、地球に対する取り組みは業界全体で十分に広がっていないことが明らかになった。

人権(rabor ratings)

最も取り組みが遅れている分野。「素晴らしい(Great)」と評価されたブランドは0、「良い(Good)」と評価されたブランドは1つだった。

動物(animal ratings)

動物への配慮は比較的進んでおり、「素晴らしい(Great)」を獲得したブランドは全体の約15%。一方で「他の選択を(We Avoid)」と評価されたブランド数も多く、対応しているかどうかで二極化が見られた。

高評価を得た小規模ブランド10選

今回のランキングは、公開情報に基づいて評価された239ブランドの初回調査結果によるものだ。循環的で革新的なビジネスモデルを取り入れる小規模ブランドは、総じて大手ブランドよりも高いスコアを獲得している。特に注目すべきは、最高評価「素晴らしい(Great)」を得た2ブランドがいずれも小規模ブランドであった点だ。

一方、大手ブランドについては、サーキュラーエコノミーへの取り組み、例えばパッケージ廃棄の削減など、Good On Youが重視する42の重要課題の一部において、今後さらなる深化が期待される。

高評価を得た大手ブランド10選

大手ブランドの多くは低評価にとどまったが、それでも5段階中4の「良い(Good)」を得たブランドは6つ存在した。239ブランド中で業界をリードする取り組みを示しており、大手ならではの影響力が今後の変革を加速させる可能性がある。

このレポートの作成者と主なポイント

このレビューは、Good On Youの評価責任者Kristian Hardimanとビューティー評価マネージャーBecca Willcoxが率いるチームによって開発された評価方法をもとに作成された。評価過程では、大手ブランドや小売業者、専門家、活動家、研究者など幅広い声を取り入れ、業界の現状を反映させている。

239ブランドを対象とした初の分析から見えてきたのは、業界全体で透明性をさらに高める必要があるという点だ。多くのブランドは、バリューチェーン全体で直面する課題への対策を十分に公開していない。比較的透明性が高いブランドでさえ、製品の原産地や具体的な原料についての情報開示は限定的であり、改善の余地があることが分かった。

【解説】
*1 詰め替え容器の落とし穴「ゴースト・リフィル」ー多くのブランドは製品ラインの一部しか詰め替えに対応しておらず、消費者の利用状況も不透明だ。このような実態は「ゴースト・リフィル」と呼ばれ、詰め替え可能であることだけがアピールされ、実際の使用や効果はほとんど明らかにされていない。

家庭用詰め替え製品もサイズが大きいだけで大量販売されることが多く、包装削減の効果は繰り返し使用した場合に限られる。そのデータはほとんど存在せず、環境負荷軽減につながらない可能性もある。

*2 パーム油認証への批判 ーRSPOはGood On Youのビューティー評価基準が考慮する数多くの情報源のひとつである。そして、広く精査されている多くの認証制度と同様、英国の非営利団体エシカル・コンシューマーが2021年にまとめたように、環境NGOからの批判に直面している。完璧な認証制度は存在しないが、RSPOは会員にパーム調達に関する年次報告を義務付けているため、商品の状態を示す指標としては有用であり、ビューティー業界の透明性にとって正しい方向への一歩である。

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【8月28日】サステナファッション講座「Shift Club(シフトクラブ)Vol.2」開催!

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