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ティップス|2025.08.11

アートと自然が息づく瀬戸内から発信するファッションの循環!AJI CIRCULAR PARKに行ってきた。

今年も瀬戸内国際芸術祭で盛り上がる香川県。世界的に有名な彫刻家イサム・ノグチも愛した高品質の石材と石材加工業が今も残る庵治町にあるファッションの循環の発信地、AJI CIRCULAR PARK。年に1回行っているファッションの循環に関わるイベントに足を運んでみた。

原稿:白石 綾

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「循環」をテーマにしたライフスタイルショップ、アジサーキュラーパークとは?

AJI CIRCULAR PARKは「つどう、つながる、めぐる。」をコンセプトに、カフェ・衣服や雑貨・余剰資材等の販売などを行う「循環」をテーマにしたライフスタイルショップだ。

運営を手がけるのは、創業100年以上の歴史を持つ地域商社・中商事だ。同社は呉服の小売業からスタートした。

モノが不足していた時代には、商社が仲介役としてモノや情報を地域に効率的に流通させることが、地域の発展において重要な役割を果たしており、そうした時代背景の中で、同社も香川県を中心に四国の地域経済の一翼を担ってきた。

しかし、時代が進み、モノや情報が豊富かつ容易に手に入るようになると、従来の商社としての機能は次第にその意義を失い、同社も経営は厳しい局面を迎えることに。

そうした中で、代表取締役社長の中(なか)さんが、創業以来同社が果たしてきた「つなぐ」という役割に改めて注目、祖父の代から続く企業としての価値や使命を見つめ直して、モノや情報ではなく、「人と地域」「想いと未来」といった新たな対象をつなぐことで、地域の活性化や価値創出に貢献しようという方向へと舵を切った。

その1つの表現の形が「AJI CIRCULAR PARK」なのだ。サーキュラーエコノミーをテーマに週末に様々なワークショップやマルシェを開催するなど、公園のように様々な目的を持った人達が気軽に集える場所だ。

AJI CIRCULAR PARKの入口。寝具の倉庫だった場所を改装した本社の一角にAJI CIRCULAR PARKがある。

イサムノグチが愛した石の産地、庵治とは?

3年に一度、瀬戸内国際芸術祭が開催されるなど、多くの現代アート愛好家を魅了し、国内外から観光客が訪れる香川県。

その県庁所在地である高松市の北東部に位置する庵治(あじ)町・牟礼(むれ)町は、日本一高価な石とも称される「庵治石(あじいし)」の産地であり、古くから石材業が発展してきた地域だ。「花崗岩のダイヤモンド」とも呼ばれる庵治石は、その美しさと希少性により全国的に知られている。

このような産地としての背景から、20世紀を代表する彫刻家イサム・ノグチが1969年からアトリエと住居を構え、約20年間アート制作に励んでいた土地でもある。現在では、当時の拠点が「イサム・ノグチ庭園美術館」として生前の雰囲気をそのままに保ったまま一般公開されており、現代アートを愛する人なら、一度は訪れてみたい特別な場所だ。

毎年7月開催の循環フェスタ、今年は日本の文化と創業の原点となる「着物」の魅力を再発信!

AJI CIRCULAR PARKでは、毎年7月に衣服の循環をテーマとしたイベント「循環フェスタ」を開催しており、今年で3回目を迎えた。

今年のテーマは、同社の原点であり、日本の文化でもある「着物」だ。長年にわたり培ってきた着物への知見やネットワークを活かし、今回はそのルーツに立ち返る形でさまざまなコンテンツを展開した。

なかでも注目を集めたのが、イベントに合わせて発表された新作商品だ。状態の良い着物生地を再利用し、アロハシャツや傘などの小物へと仕立てたアップサイクル商品が登場。呉服店としての背景を持つ企業ならではの視点が生きたラインアップとなった。

着物のアップサイクルで作られたアロハシャツ。もちろん全て1点ものだ。

とくにアロハシャツは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてハワイに移住した日本人が、持参した着物や浴衣を現地の気候や労働環境に合わせて仕立て直したことに由来するとされている。その歴史的背景に着想を得て今回の採用が決まり、日本の伝統と日本人移民の知恵が融合したストーリー性のある商品展開となっている。

また会場では、つまみ細工や藍染など、日本の伝統技法を体験できるワークショップも実施。今年初開催となったつまみ細工のワークショップには、子どもから大人まで幅広い層が参加し、ひとつひとつ丁寧に作業を進めながら、自分だけのアクセサリー作りを楽しんでいた。

地元の服飾専門学校「吉田愛服飾専門学校」とのコラボレーション!

地域商社として、AJI CIRCULAR PARKは産学連携にも力を入れており、今回3回目となる地元の服飾専門学校「吉田愛服飾専門学校」との共同プロジェクトも実施された。この取り組みでは、学生によるアップサイクル製品の制作・販売に加え、ファッションショーも開催された。

当日は、吉田愛服飾専門学校の学生たちが店頭に立ち、販売も経験した。

学生たちはまず、地元の古繊維回収業者を訪問。実際に大量の衣服が廃棄される現場を目にしながら、アップサイクルの素材として使いたい古着を自らの手で選び、デザインのアイデアを練り上げていった。

このプロジェクトは、一般的な自分のアイディアを「ゼロ」から形にしていくデザイン制作とは大きく異なり、すでに完成された衣類という“制約”のある素材に対し、いかに手を加え、新たな価値を生み出すかが問われる。学生たちにとっても、通常の授業とは異なる思考プロセスや制作スキルを求められる中で、多くの学びを得る貴重な機会となっているという。

通常営業時も、一部の商品が店頭で販売されているので、ぜひ手にとって見てみてほしい。

商品に付けられたタグにアップサイクルをする前の写真が添付されており、アイテムの原型が分かるように工夫されている。

洋服が交換できる服の循環コーナーや、丁寧な暮らしにぴったりの地元資源を活用したアイテムも

AJI CIRCULAR PARKは、イベント時だけでなく、通常営業日でも気軽に訪れて楽しむことができる。

なかでもユニークなのが、「服の循環コーナー」だ。

自分の着なくなった服を3着持参すれば、500円でその場にある服と3着まで交換できる仕組みになっている。並んでいる服は、誰かが「誰かに使ってもらえたら」と思いを込めて持ち寄ったものばかり。販売は行っていないため、服を交換したい場合は、必ず譲りたい服を持参するのがおすすめだ。

服の循環コーナー。ベルトやバックなどの小物の持ち込みもOKだ。

また、常設の販売コーナーでは、最新のサステナブルファッションブランドのアイテムや、地元資源・事業者によるライフスタイル雑貨が豊富に展開されている。

ファッションアイテムとしては、地域商社としてのネットワークを活かし、地方ではなかなか手に入らないブランドも取り扱っている。たとえば、オランダ発のサステナブルデニムブランドMUD Jeansや、瀬戸内産の素材と生産にこだわった自社のルームウェアブランド set セトウチリズム、さらに厳選された古着など、循環や地域性を意識したラインアップが揃う。

ライフスタイル雑貨も充実しており、土や釉薬まで瀬戸内の離島・手島でつくられるてしま島苑の器、庵治石を日常生活に取り入れるプロダクトを展開するAJI PROJECTのアイテム、香川特産のオリーブや庵治石を混ぜて作られたガラス製品など、地域の素材と技術を活かした品々を実際に手に取って見ることができる。

(※取材当時2025年7月の取り扱い商品)

地域資源や地域経済への関わりを感じられる場所

AJI CIRCULAR PARKは、かたちこそ新しく生まれ変わってはいるが、その根底に「地域をより良くするために、自社の役割を活かす」という、創業以来、中商事が大切にしてきた理念が息づいている。

ここで販売される商品から、この土地で育まれてきた素材や産業、そしてそれを支えてきた人々の手仕事に触れてみてほしい。

地域に根ざしたものづくりは、一つひとつの工程がビジネスとして継続できてこそ初めて成り立つ。たとえ小さな一工程であっても、担い手がいなくなれば、全体のものづくりは立ち行かなくなる。

実際、四国は全国に10年ほど先駆けて高齢化が進み、人口減少とともに多くの社会課題が顕在化している地域でもある。日本全体がこれから直面するであろう課題の“先行事例”とも言えるこの地では、その危機はすでに現実のものとなりつつあり、地域全体の産業構造が揺らぎ始めている。

今、私たちが手に取る一品が、そうした産業の存続を支える大切な一歩になり、買うという行為が、単なる消費ではなく、「この土地にこれからも続いてほしい」という意志の表れとなる。
AJI CIRCULAR PARKでの体験は、そんな“選ぶ責任”と“関わる喜び”の両方を感じさせてくれるだろう。ぜひこの場所に訪れ、あなたの手で地域の未来に加わってみてほしい。

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AJI CIRCULAR PARK(アジ・サーキュラー・パーク)

香川県高松市庵治町丸山6391-19
営業時間 10:00-17:00
営業日 土・日・月曜日
公式ウェブサイト:https://ajicircularpark.jp/
インスタグラム:@aji_circularpark

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Stories behind 代表/鎌倉サステナビリティ研究所 スタッフ
白石 綾
アパレルブランドで販売や商品企画に携わる中で業界の課題を実感。イタリア在住をきっかけに、特に環境問題との関係に強い関心を抱く。2020年にMilano Fashion Instituteでサステナブルファッションを学んで以来、強い当事者意識を持ち、業界の問題解決に向けた活動を続けている。

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