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アメリカで国際協力を学んだ女性二人がスタートさせた
ヤクの産毛(うぶげ)を使用したニットブランド、ショーケイがスタートしたのは2006年。ハーバード大学ケネディ行政大学院の同級生だった台湾出身キャロル・チャウと香港出身のマリー・ソーが在学中に創設した。彼女たちが学んでいたのが国際協力だったことから、中国辺境の少数民族の貧困問題をビジネスで解決させるために事業をスタートし、彼女たちが注目したのがチベット(※1)の遊牧民が家畜として飼育しているヤクだった。
※1:チベット民族はチベット高原を中心に居住し、中国のチベット自治区だけではなく、青海省、甘粛省、四川省、雲南省などでも暮らしている。国としてのチベットは存在しないが、チベット民族が住むエリアを“チベット”と呼ぶのが一般的だ。
ショーケイは、ブランド設立当初から、チベット民族のコミュニティに協同組合を作ってもらい、仲買人を通さず、従来の価格よりも高い価格で買い取ることで、安定した収入をもたらしている。また、彼らの収入の安定以外にも、女性の医療プログラムや、子供の教育、若い人々へのソーシャルビジネスの応援など、チベットのコミュニティをサポートする活動も数多く行っているのだ。
ヤクとはどんな動物なのか?

ヤクは標高4,000〜6,000mにある草原や岩場などに生息するウシ科の動物で、全世界で約1400万頭いるうちの9割以上がヒマラヤやチベット高原で家畜として飼育されていると言われている。
ショーケイではヤクの顎や腹部の柔らかい産毛だけを使っている。5〜8月の換毛期に櫛で梳いて採取された毛は非常に高品質で、それを現地の人たちから、公正な価格で買い取ることで彼らの生活を守り、安定した収入をもたらすようにしているのだ。

ショーケイと香港理工大学との共同研究により、ヤクは高い保温性と通気性を兼ね備えていることがわかっている。
ウールやカシミヤと比較したテストでは、保温性はウールより約30%高く、カシミヤと同等。 通気性はカシミヤよりも120%高く、毛玉になりにくいという結果が出ているのだ。
また、牛のゲップや糞尿から発生するメタンが温室効果ガスとされているが、ヤクは他の牛に比べてメタンの排出量が半分以下と言われている。
氷点下40度以下にもなる厳しい高地環境にも適応できように、省エネ体質という特徴も持つ。
ショーケイが取り組む、チベット草原再生プロジェクトとは

ここ数年、チベット民族の拠点であり、世界最大の広さを持つチベット高原の砂漠化が進んでいて、46,000ヘクタールの草原が失われたという。
原因は地球温暖化や中国政府による土地の区画化などが考えられるが(※2)、放牧した動物による草の食べ尽くしもその一つと考えられている(※3)。草の地表に現れている部分のみならず、根こそぎ食べてしまうヤギなどの動物を過放牧したことで、その土地にはその後何も生えなくなってしまったというのだ。ちなみにヤクは、草の地表に現れる部分のみを食べ根は残すので、砂漠化の原因にはなっていない。
ショーケイが2021年から支援しているチベット草原を再生させるプロジェクトを主宰しているのは、チベット出身の環境保護活動家のドラキョム・パルザン。
チベット高原の地域文化や環境問題を理解するためのコミュニティセンターを設立するなど、チベットの若者のエンパワーメントに尽力している人物だ。 彼はチベット高原の再生に、ヤクの特性を活かしたプロジェクトを考案し実行している。

パルザンが考えたプロジェクトの内容は以下の通り。
・地元種子(オート麦)の種まき
・ヤクによる踏圧と糞の堆肥効果
・フェンスによる植生保護
これらはこの土地にあるものを使って草原を再生するだけでなく、遊牧民族の生活を再生することも目指している。
ヤクや羊の放牧を生業にしている彼らに、それまで行ったことがない種まきと植物の生育の方法を伝授しているのだ。

このプロジェクトに参加しているのは、遊牧民族とショーケイをはじめとするブランドや企業と、個人の支援者たちだ。
2018年から、紡績メーカーUPS、ファッションブランドFrank And Oakとショーケイは基金を作り、ヤクを使った商品の収益の1%を、このプロジェクトに寄付をしている。
プロジェクトがもたらしているもの

2022年にプロジェクトに参加した遊牧民族のヤクは、それまで栄養不足のために2年に1度しか出産しなかったが、翌年にはほぼ全ての雌ヤクが出産したのだという。
土地の多くは緑に覆われているが裸地も残っていて、これからは自分で草原を広げていく予定とのことだ。

今年の5月に行われた種まきにより、これまでのプロジェクト総面積は約45ヘクタール(東京ドーム約9.6個分)となった。 砂漠化したチベット高原の土地の広さは前述の通り46,000ヘクタールと言われていて、それに比べたらまだまだ小さい面積だが、この再生化には地道な努力が必要だ。

ショーケイの草原再生プロジェクトの映像はこちらから
※2:https://savetibet.org/chinese-policies-increase-risk-of-climate-emergency-for-tibetan-nomads-un-panel-says/
※3:https://www.theguardian.com/environment/2010/sep/02/tibetan-plateau-climate-change