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ニュース|2025.07.17

太陽光の42%を占める「近赤外線」をコントロールする新素材「SOLAMENT®」の可能性に迫る

この夏も、猛暑が予想されている。東京都水道局はこの夏の4ヶ月間、水道料金を無償にすることで熱中症の被害を抑える策に出た。温暖化が進むなか、冷暖房を控えることも危険と背中合わせの時代だ。そんななか、太陽光の近赤外線を吸収することで暑さ・寒さをコントロールできる住友金属鉱山の新素材「SOLAMENT」に注目が集まっている。着目から十数年の歳月を経て2004年に誕生した素材が今、実装の拡大と新たな可能性に向けて動いている。

取材・文:吉野ユリ子

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暑さ・寒さのコントロールから肌老化防止、盗撮対策まで叶う

太陽光をコントロールするという青い粉末、「SOLAMENT」。そのテクノロジーはどのような仕組みなのだろうか。

「太陽光は可視光線、紫外線、近赤外線などによって構成されていて、よく知られている紫外線はそのうちのわずか6%。一方近赤外線は42%を占めるのですが、これまであまりフォーカスが当てられていませんでした。SOLAMENTはこの近赤外線を吸収し発熱するという機能をもっています」と、住友金属鉱山(株)機能性材料事業本部イノベーション戦略統括部の石橋佳祐さん。

吸収するという特徴は、さまざまな可能性をもっているという。「近赤外線を吸収して発熱した面は暖かくなりますので、防寒・保温に役立ちますし、発熱面によって熱が遮断されるため、その先の空間は逆に涼しく感じるようになります。これにより屋外で使用するアパレルやアウトドア用品に採用すれば温度コントロールに効果を発揮します。日傘やタープに使えば、既存の遮熱をうたっているタープなどに比べ、さらに-3℃〜6℃の遮熱効果が得られます」。温度コントロール以外の効果もある。「人の肌への影響では、UVは肌表面の炎症になる一方、近赤外線は肌の奥の筋肉に届いてシワやたるみ、脱水などの原因になると言われていますが、この原因となる近赤外線を防ぐことができます。また近年社会問題となっている、赤外線カメラによる衣服を透かした盗撮からも自衛できるのです」

高い透明性と近赤外線吸収性能をもつ唯一の素材

他の原料でも近赤外線を吸収できるものはあるが、SOLAMENTの特徴はその透明性の高さだ。「コバルトブルーのような青い粉体になっていますが、非常に少量でも高い効果を発揮するため、実際に使用するとほぼ無色透明の素材として使えます。そのようなものは現状SOLAMENTのみです。そのため、透過性を大事にしたいガラスやビニールなどにも活用できるのが特徴です」。車の窓ガラスや建物のガラス、スポーツスタジアムの天井、建物の建材や農業などで使用するビニールハウスにも使われていて、近赤外線をカットする素材としては世界で大きいシェアを占めている。「農業用のネットやビニールハウスなどでの活用はもっと推し進めたいと考えています。光合成に必要な可視光線は通して、働く人への負担となる暑さや、近赤外線をカットするこの素材は、労働環境の向上にも確実に寄与します。また近年温暖化に伴い農作物の採れる緯度に変化が起きていますが、この調整にも役立つと考えています」

「可能性に、光をあてろ。」を掲げたブランド開発で、一般への認知を目指す

一方、素晴らしい素材でありながら活用方法に新たな展開が見いだせずにいた。そんな中、2023年よりブランド開発に着手。「温度コントロール」や「透明性」といった特長をファッションで表現することで、認知を広め実装の可能性を拡大することを目指した。「【可能性に、光をあてろ。】というフレーズをタグラインに立てました。これは素材としての可能性を探っていきたいという思い、そして太陽光をコントロールすることで着る人、使う人のパフォーマンスが高まり、人本来のポテンシャルを引き出す働きをするのだという思いを込めました。光をあてろ、はもちろん、太陽の近赤外線を力に変える、というところから発しています」と、ブランド開発に携わったアクセンチュア ソング傘下のクリエイティブ・エージェンシーDroga5 Tokyoの小出鯉子さん。「これまでもウィンドウフィルムなどの世界では大きなシェアを持っていましたが、より広く可能性を探るうえで、機能性とファッション性を両立させることがカギになりました」

ダウンを使わない近未来型ダウンジャケットで届けるメッセージ

ここから誕生したのが「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」で発表したプロトタイププロジェクト「DOWN-LESS DOWN JACKET」だ。鳥の羽毛を使用せず、空洞構造ながら、太陽光を受けて発熱し、ダウンと同等の温かさを体感できる。宇宙服のような近未来的なデザインだ。デザイン監修にファッションデザイナーの津村耕佑さんを迎え、ファッション感度の高い一般の人々の注目も集めるものになった。「温かさのイメージとしてダウンジャケットを考案しましたが、結果的に羽毛を使わないという点で環境や社会の持続可能性にも繋がることを訴求できました」。このダウンジャケットはあくまでプロトタイプだが、ミレーやスノーピークといったアウトドアブランドで、アパレルやアウトドア用品への採用が進んでいる。

アパレル業界で「近赤外線吸収」の価値をいかに伝えるか

生地に落とし込むことができたのはSOLAMENTの粒子によるところもある。生地化したのは繊維商社の瀧定名古屋。「繊維に新原料を織り込む試みは多く行ってきましたが、それが成功するのは1割程度。そんななかSOLAMENTはナノレベルで分散した状態で糸にできているため、安定した形で生地にすることができました」と高機能商品開発販売課の宮川朋之さんは言う。「アパレルの世界では、“UVカット”や“遮熱”というワードがトレンドとなり、その点を打ち出した商品が乱立していますが、その実態は怪しいものも多数あります。だからこそ、“近赤外線”の認知度を上げ、本当に機能性の高い製品が評価されるよう、私達も頑張っていきたいと思います」

地球からいただいた素材を、地球のためになることで使う

現在開催中の大阪万博では、住友館周辺に設置されたパラソルに採用しているほか、UVと近赤外線を両方カットする日傘を限定発売した。冒頭の石橋さんは言う。「暑さ、寒さのコントロールができれば、人間の機能低下を防ぎ、また冷暖房によるCO2排出も抑えられます。地球からいただいた素材だからこそ、地球のためになる使い方をしたい。SOLAMENTの可能性を今後も探っていきたいと思います」

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ライフスタイルジャーナリスト
吉野ユリ子
1972年埼玉県生まれ。エディター、ライターとして女性誌やウェブを中心に、心豊かな生き方・暮らし方の提案を行うほか、ブランディングライターとして企業のサービスや商品の価値を言語化し届けることにも力を注ぐ。プライベートでは、2016年に娘を出産するまではトライアスロンが趣味で、アイアンマンを3度完走。現在の趣味は朗読。

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