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自然と共鳴した彫刻的なフォルムで人気のジュエリーブランド、AGMESは、2016年にニューヨークで設立された。すべてリサイクルメタルを使用しており、地元であるニューヨークの職人たちによって生産されている。幼い頃に描いた「BARNEY’S NEW YORKに出店するブランドになる」という夢を実現するためのプロセスは必然の流れであったという。自然物からのインスピレーションと、内から湧き出る創造性を形にしてきたと語るのは、デザイナーのモーガン・ラング。Shift Cでの評価「良い」を獲得するサステナブルブランドの真実とは? 来日中に話を聞いた。

従来のファッションのあり方から離れ、自分なりの価値を定義する
――「Shift C(Good On You)」で高評価を獲得されていますが、率直な感想をお聞かせください。
『Good On You』から高い評価を受けたことは、私たちの倫理的な取り組みに対する姿勢が認められた証であり、大きな励みとなりました。いただいたフィードバックは、サステナビリティの取り組みを継続的に見直し、改善していく重要性を再確認させてくれるものです。
この評価は、私たちの価値観と向き合い続けること、そしてコミュニティに対して透明性を持って活動を発信していくことの大切さを、あらためて思い出させてくれました。
――デザインプロセスにおいて、サステナビリティの概念を組み込むことの重要性をどう捉えていますか?
AGMESを立ち上げた当初、私はバイヤーとしての初期キャリアを終えたばかりでした。そこで得たのは、消費の在り方や、ファッション業界における過剰生産への意識です。私は、トレンドやシーズンに左右される従来のファッションのあり方から離れ、環境への負荷を抑えた素材を生かしながら、ビジネスを築きたいと強く思っていました。
日々の暮らしでも、私はできる限り天然素材から作られた衣服やスキンケア製品を選ぶようにしています。自分の身体にも、地球にも優しいものに惹かれるのです。そうした価値観があったからこそ、自然とその延長線上にある形でデザインをすることになったのだと思います。
ブランドとして活動していると、どうしても生産や調達を効率化するためのプレッシャーはつきものです。でも私は、時代に左右されないタイムレスなデザインと、リサイクル素材を使った高品質なジュエリーを届けることで、お客様がそのピースを大切にし、やがては世代を超えて受け継いでいただけるような存在にしていきたいと願っています。

――日本のものづくりは、職人不足や後継者問題など、伝統技術の維持と革新が大きな課題となっています。ニューヨークではこれに共通するような困難はありますか?
はい、ニューヨークでも同様の課題に直面しています。特に熟練した職人の不足や、地元での生産コストの上昇が大きな問題です。これは継続的な課題ですが、私たちは共に仕事をする職人たちとの長期的かつ密接な関係を育むことで対応してきました。
地元の職人技術を支えることは、私たちの価値観の中心にあります。ブランドが成長するにつれて、今後は職人の育成やメンターシップにもより積極的に投資していきたいと考えています。
職人を大切にし、公正な報酬を保障し、相互の尊重を築くことで、品質や細やかな配慮、そして継続性を重視したパートナーシップを築いてこられたと感じています。



「サステナビリティ」とは終わりのないプロセスを表す言葉
――ブランド設立以来、倫理的な生産を貫いてこられましたが、現在、どのような課題に向き合っていますか?
「サステナビリティには一つの定義があるわけではなく、終わりのないプロセスを表す言葉だと私は考えています。『完全に害のない消費』というものは存在しませんが、常により良い選択肢や取り組みの余地はあります。
今年、私たちは〈Care & Services〉プログラムを立ち上げました。これは、サステナビリティの一環として“メンテナンス”や“修理”という価値観を根づかせることを目的としています。こうした考え方は決して新しいものではありませんが、私たちが提供できる価値の幅を広げるうえで、非常に重要な前進だと感じています。
ジュエリーは、地球から生まれた貴重な素材から作られており、それ自体が意味のある存在です。そして幸いなことに、ジュエリーは手をかけることで再生し、修復され、大切な存在としての価値を取り戻すことができます。
私たちは、お客様が“愛着あるものを手入れしながら長く使い続けること”をポジティブに捉え、それを実践するためのサポートを提供したいと考えています。タイムレスでモダンな“未来のヴィンテージ”として、世代を超えて受け継がれるジュエリーでありたいと考えています。



――2025年の新作コレクションである ILONA COLLECTIONは、水の流動性や静けさに着目されたとのことですが、そのインスピレーションをどのようにジュエリーのデザインへと昇華させましたか?
水は、いつも私の人生において心を落ち着けてくれる存在でした。静かな力強さ、流れるような動き、光を映し出し、環境とともに変化していくその姿。そうした美しさは、心に深く残ります。
デザインをするとき、私は何かを明確にイメージしているわけではありません。手を動かしながらワックスを削ったり、フォルムをスケッチしたりする中で、素材と直感に導かれるようにして形にしていきます。
完成したあとになって初めて、曲線やバランス、光を受ける面に、水の存在がそっと映し出されていることに気づくことがよくあります。それは意図していたわけではなくても、流動性や静けさといった感覚が自然と作品の中に現れてくるのです。
まるで、水の持つ静かな癒しの余韻が、ジュエリーの中に宿っているようで一そこに深い安らぎを感じています。
――「Symbols of Love」と「Astrid」。それぞれのコレクションにも素敵なストーリーがあります。
「Symbols of Love」は、私の結婚がきっかけで生まれたコレクションで、「繋がり」がテーマです 。一つひとつが美しいピースを組み合わせると、抽象的なハートの形が浮かび上がるんですよ 。「Astrid」は、ニューヨークで生き抜くための「内なる強さ」や「自己愛」を表現しています 。どちらのコレクションも流行を追うのではなく、長く寄り添うタイムレスなものであることを目指しています 。


自然の中にある強さや静けさを、身につけることで感じてほしい
――AGMESの作品を通じて、自然環境や自然物の形状の美しさを表現することには、どのような意図や願いが込められているのでしょうか?
自然は、私の作品の中に静かに、でも確かに存在しています。私は、自然の美しさや複雑さに対する深い敬意を、ジュエリーという形を通して伝えたいと願っています。
身につける人が、そのフォルムや佇まいを通して、どこか心が落ち着いたり、バランスが取れたように感じたり、自分自身とつながるような感覚を持ってもらえたら嬉しいです。それは決して大げさなメッセージではなく、むしろさりげなく、静かに心に響くようなもの。私が自然の中に見出す静けさや力強さの、ほんの一片でも作品に宿すことができたなら、そのジュエリーはその役割を果たしてくれたと思います。
私は今もなお、自然から日々新たな驚きとインスピレーションを受け取っています。そこに身を置き、観察し、感じることで見えてくる様々な表情の中に魅了され続けています。特に心に残っているのは、オーストラリアの海岸沿いにそびえる断崖、ハワイの火山岩、コロラドの雄大な山々、そしてここ日本の温泉地など。それぞれが異なる形で、私の感性に語りかけてくれる存在です。

――今後、AGMESとしてより革新的な取り組みについてのお考えはありますか?
最近、ニューヨークではスタジオを新しい建物へと移転しました。それはとてもワクワクする出来事でしたし、この新しい環境の中で、どのように新たなプロセスを始めていけるかを考えるきっかけにもなりました。
そして来年、AGMESは10周年を迎えます。それに向けて、今はまだお話しできない“ちょっとしたサプライズ”もいくつか準備しているので、楽しみにしていていただけたらと思います。
短く言えば、“はい、これからも挑戦を続けていきます”。常により良いものづくりを目指して、私たち自身にも高い基準を持ち続けたいと思っています。