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ストーリー, ニュース|2025.05.26

世界の服のごみが廃棄されるチリ、アタカマ砂漠の「服の墓場」。ファッションショーが教えてくれる衣料廃棄の現実

チリの観光名所「アタカマ砂漠」に広がる「服の墓場」、そこでは世界中から流れ込む大量の衣料廃棄物が、環境に深刻な影響を与えている。なぜ美しい自然が、衣服の墓場と化してしまったのか?

写真:MAURÍCIO NAHAS

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「服の墓場」とは何か? 知られざる衣料廃棄の現実

チリには、年間約6万トンの古着が到着し、その大部分が売れずに「アタカマ砂漠」に不法投棄される

チリ北部に位置するイキケ自由港には、欧米やアジア諸国から年間およそ5万9,000トンに及ぶ古着や売れ残りの衣料品が持ち込まれている。そのうち約3万9,000トンが国内市場で消費されることなく、最終的にアタカマ砂漠へと不法に投棄されている。これらの衣類の多くはポリエステルなどの合成繊維で構成されており、生分解されることがないため、長期にわたり環境中にとどまり続ける。その影響として、砂漠の生態系や景観に深刻な悪影響を及ぼしていることが懸念されている。このように大量の衣類(主に古着や売れ残り品)が不法または半合法的に投棄されている場所「服の墓場」と呼ばれる。

衛星写真にも映るほどの規模。風で飛ばされ砂漠中に拡散

不法投棄された衣類の山は、地上からはもちろん、衛星写真でも視認できるほどの規模にまで拡大している。強い風によってこれらの衣類が砂漠中に拡散し、広範囲にわたって環境負荷を及ぼしている様子が確認されている。こうした状況を受けて、現地メディアや国際報道機関は、この地を「洋服の墓場(clothing graveyard)」と形容している。これはファストファッションが生み出す過剰な生産と消費、そしてその果てにある廃棄の現実を象徴するものとして、世界的に注目されている。 (出典:AFPBB News

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チリのアタカマ砂漠が「服の墓場」になった理由

近年、チリのアタカマ砂漠が「服の墓場」と化している背景には、ファストファッション産業の急成長と大量生産・大量消費の仕組み、衣服の使用年数の短期化、そしてチリの地理的・経済的特性が複雑に絡み合っている。

チリは現在、南米最大の古着輸入国であり、その中心となっているのが北部のイキケ自由貿易港である。この港は1975年に開設され、輸入品や再輸出品に関税が課されない構造を持つ。これにより、ヨーロッパ、アジア、アメリカ各地から毎年数百万トン規模の古着がイキケに送られてくる

年間およそ5万9,000トンの古着がイキケに到着するが、そのすべてが再利用されるわけではない。国内消費や中南米諸国への再輸出に回される一方で、売れ残った約3万9,000トンの衣類が、アタカマ砂漠に不法投棄されているのである。

自由貿易港は本来、地域経済を活性化する仕組みであるはずだが、現在のイキケは、世界のファストファッションによって生まれた過剰在庫の終着点となりつつある。大量消費の影で「不要」とされた衣類が、チリの乾いた大地に静かに積み上がっていく 。それが、「服の墓場」と呼ばれる所以である。

「服の墓場」「砂漠にゴミ」がもたらす問題

  • 衣料廃棄物の火災と大気汚染

さらに、不法投棄された衣類が現地で焼却されることもあり、焼却時に発生する有毒ガスが大気汚染を引き起こしている。これは周辺地域の住民の健康にも悪影響を与える要因となっている。アタカマ砂漠では定期的にこうした衣類の山が自然発火や人為的な焼却によって燃え上がるという火災も発生しており、温室効果ガスの排出も深刻な問題のひとつとされている。

  • プラスチック繊維の分解困難性と温室効果ガス排出

現代の衣料品の多くは、ポリエステルやナイロンといったプラスチック由来の繊維で作られており、自然に分解されることはほとんどない。こうした衣類を焼却処分すると、有害物質が発生し、土壌やオゾン層、そして地域住民の健康にも悪影響を及ぼす。

現在、現地当局によって不法投棄は禁止されているが、広大な砂漠では監視の目が行き届かず、廃棄物は増え続けている。

「服の墓場」に光をあてる取り組み――廃棄衣類からコレクションを生み、前代未聞のオンライン販売へ

この現状に一石を投じたのが、2024年4月に開催されたファッションショー「アタカマ・ファッションウィーク2024」だ。現地NGO「Desierto Vestido」の共同設立者アンジェラ・アストゥディージョ氏が中心となり、ブラジルの「Fashion Revolution Brazil」や広告代理店「Artplan」などが協力して開催され、そのようすは世界中に配信された。

アストゥディージョ氏は、ショー用の衣装を制作するため、自ら砂漠に足を運び、現地に捨てられていた衣類を回収。それらを手作業でカットし、縛り合わせることで、「土」「火」「空気」「水」の4元素をテーマにしたコレクションを制作した。

さらにその約1年後、2025年3月には、同じ砂漠で見つかったブランド衣類をクリーニングし、オンライン上で無料販売。ナイキアディダスのショートパンツ、カルバン・クラインのジーンズ、レザースカートなど、300点の商品を送料のみで販売した。新品未使用や状態の良いものも多く、これらの商品は5時間で完売。ブラジル、中国、フランス、アメリカ、イギリスなど、世界各国へと届けられた。

このプロジェクトは、製品の誕生から廃棄までの責任の所在を問い直す試みであり、古着の輸出を通じて「責任逃れをする」現在の構造を明らかにした。Fashion Revolution Brazilのフェルナンダ・シモン氏は、こうした慣行を「人種差別的かつ植民地主義的」と批判。衣服の原料の多くはグローバル・サウス(南半球)から供給されているにもかかわらず、大量消費を行う欧米諸国の不要品が再び南半球へと送り返されるという構造を指摘する。このプロジェクトは、忘れられた衣類をオンラインショップで販売することで、消費者がその仕組みに影響を与える力を持っていることを示し、問題解決に貢献できることを伝えようとしている。

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このように、先進国が消費の恩恵を享受し、廃棄物を途上国に押し付ける構造は、倫理的にも、また持続可能性の観点からも大きな課題となっている。こうした背景のもと、ヨーロッパでは「製造者責任拡大(EPR)」に関する統一規約の整備が進められており、製造企業が製品の設計段階から廃棄段階まで責任を負う制度の導入に向けた動きが加速している。EPRの制度化は、責任の転嫁を見直し、より公平で持続可能な循環型社会への転換を促す一歩といえるだろう。

「服の墓場」から考えるファッションと消費

私たちの消費行動と衣料廃棄物の関係

現代のファッションは、低価格でトレンドを追いやすいファストファッションの普及により、衣類の購入と廃棄のサイクルが短くなっている。​環境省の調査によると、日本人は年間平均で約18枚の衣類を購入し、約15枚を手放しているが、一年間一度も着用されない衣類が一人あたり35着も存在する。​ このような消費行動が、衣料廃棄物の増加につながっている

日本の衣料廃棄量の実態

日本国内で新たに供給される衣類は年間約81.9万トン(2020年)に上る。​そのうち約78.7万トンが事業所や家庭から手放され、約51万トンが廃棄されている。​これは、手放された衣類の約65%が焼却や埋立て処分されていることを意味し、リサイクルやリユースの割合はそれぞれ約15.6%と19.6%にとどまる。

解決に向けた取り組み:世界と日本の取り組み事例

革新的な衣料リサイクル技術の開発事例

日本の企業「帝人フロンティア」は、ポリエステル繊維を従来の約60%のエネルギーで石油由来と同等の品質に再生する新しい触媒を開発した。​この技術は、衣料品のケミカルリサイクルを効率化し、環境負荷の低減に貢献している。

オランダのRE&UPは、繊維から繊維への再生を可能にするサーキュラーテック企業。綿とポリエステルの混紡素材(ポリコットン)を効果的に分離・再生できる独自技術を有し、従来は困難だった混合素材のリサイクルにも対応している。同社は、2030年までにリサイクル処理能力を100万トン以上に引き上げる予定だ。

スウェーデンのCirculoseは、使用済みの衣料から再生パルプ「Circulose」を生み出す技術を開発した。100%リサイクル由来でありながら、ビスコースやリヨセルなどの再生繊維に変換可能なセルロース素材である。2024年に旧社名Renewcell時に一時破産を申請した同社だが、その後Altor社に買収され再出発を果たした。

持続可能な素材の開発と普及を促進するマテリアル イノベーション イニシアチブによると、2023 年には世界中で144 社が次世代材料の研究開発に取り組んでおり、これは 2021 年の 95 社から増加したという喜ばしい結果も出ている。

日本のアパレルブランドによる循環の取り組み

ブリング(BRING)
ブリング(BRING)は、ポリエステルのリサイクル技術を軸に、不要になった衣類を資源として循環させるサーキュラーエコノミー企業。

全国各地の回収ボックス「BRING」で集めた衣類のうち、再利用可能なポリエステル製品は、繊維レベルにまでリサイクルされ、新たな衣類として生まれ変わる。BRINGの服は、何度でもリサイクル可能な設計となっている。また、ポリエステル以外の素材や、着用できない状態の衣類についても、可能な限りマテリアルリサイクルを行い、資源として再活用している。

ユニクロ
ユニクロは、「REDUCE(廃棄削減)」「REUSE(再活用)」「RECYCLE(再生)」の3つのアクションを軸に、服の循環を目指す「RE.UNIQLO」プロジェクトを展開している。

ユニクロ、ジーユー、プラステの不要になった衣類は、各店舗に設置された専用ボックスで回収される。まだ着られる服は、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)との協力のもと、世界中の難民キャンプへ届けられる。届ける際には、気候や文化、宗教などを考慮して18種類に仕分けされ、現地のニーズに応じて、NPOやNGOと連携しながら的確に支援が行われる。

ダウンやフェザー素材は再利用され、新たなリサイクルダウン製品として店頭に並ぶ。

無印良品
無印良品は2010年から衣類の回収に取り組んでおり、現在は「Re MUJI」という名のもと、リユースとリサイクルを進めている。
店頭では、無印良品で購入した衣料品やタオル、シーツ、布団カバーなどのアイテムを対象に回収を実施。ただし、下着や靴、バッグなどは対象外となっている。
集まった衣類の中で再び着用できるものは、藍染めや黒染めを施した「染めなおした服」、丁寧に洗浄した「洗いなおした服」、パーツを組み合わせた「つながる服」などに生まれ変わる。傷みが激しい衣類については、資源として新たな製品の原料に再利用される。

私たちにできる5つのアクション

ファッションの楽しさを保ちながら、環境にも配慮するために、私たち一人ひとりが今日から始められるアクションを紹介する。

1. 購入前に考える3つの質問

衣服を買う前に、次の3つの質問を自分に投げかけてみることが重要である。

  • 本当に必要か?
  • どれくらいの頻度で着るか?
  • どう処分するか?

これらを意識することで、衝動買いや不要な廃棄を防ぐことができる。

2. 長く着られる質の高い服を選ぶポイント

品質の良い服を選ぶことで、長く愛用でき、結果として廃棄を減らすことが可能である。縫製の丁寧さ、生地の厚みや耐久性、そして洗濯表示などのチェックがポイントとなる。

3. 衣服のメンテナンス方法(修繕・お手入れ)

服はケア次第で寿命が大きく変わる。基本的な洗濯方法を守ることに加え、穴や破れが生じた際には、修繕やリメイクを行うことで、服をより長く楽しむことができる。

4. 古着の寄付・リサイクル方法

着なくなった衣服は、捨てるのではなく、寄付やリサイクルを検討するべきである。

5. エシカルファッションブランドの選び方

素材、製造過程、企業姿勢に透明性があり、サステナビリティに積極的なブランドを選ぶことが推奨される。判断に迷ったときは、第三者評価を活用するのも手である。

たとえば、サステナブルファッションメディア「Shift C(シフトシー)」では、オーストラリア発のブランド評価「Good On You」のデータをもとに、倫理的で環境に配慮したブランドを紹介している。ブランド選びの参考に活用できる情報源である。
▶︎ https://shiftc.jp

まとめ:ファッションの楽しさと環境への配慮を両立させるために

ファッションを楽しむことと、環境問題への関心を持つことは、決して矛盾するものではない。
「服の墓場」と呼ばれるチリ・アタカマ砂漠の現状を知ることは、私たちの消費行動を見直す第一歩である。

日々の小さな選択が、大きな変化を生む。 自分にできることから始め、次の一歩を踏み出すために、信頼できる情報源や行動のヒントを積極的に取り入れていきたい。

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