「衣服を手放した後」という新たな視点。ファッションの循環とその透明性に迫る!
これまで語られることの少なかった、衣服を“手放した後”の行方。その透明性に迫るシンポジウムが、FASHION REVOLUTION JAPANの主催で4月25日(金)に開催された。
FASHION REVOLUTIONの日本支部を務める一般社団法人unisteps 共同代表理事の鎌田安里紗さんは、オープニングで次のように語った。
「FASHION REVOLUTIONは、透明性こそがサステナビリティ実現に不可欠であるという考えを軸にしています。今年は初めて“手放した後”にフォーカスします。衣服というのは、物理的な寿命よりも先に、情緒的な寿命がきてしまうもの。つまり、服が使えなくなる前に、飽きてしまう。生活者はそうした服をどう手放せばよいのか、考える機会が増えているのではないでしょうか。今回は、最新の調査データから現状を捉えるとともに、先進的な取り組みを続けている企業の歩みや現場の声を共有する機会にしたいと考えています。」

基調講演:廃棄される衣類は間違った場所に行き着いた資源?「T-REXプロジェクト」
イベントの冒頭ではフィンランドのアアルト大学から2名の研究者アヌブティ・バトナガルさんとエリーナ・レヴェさんが基調講演として、繊維から繊維へのリサイクルに関する現状とポイントを整理した上で、同大学がメンバーとして参加したT-REXプロジェクト(Textile Recycling Excellence Project/ 以下 T-REX プロジェクト)について説明。
T-REXプロジェクトは、家庭から出る繊維廃棄物を「ゴミ」ではなく、新たな製造サイクルに参入できる「有益な資源」として再定義することを目的としたプロジェクトだ。
2022年6月から36ヶ月に渡り実施され、繊維のバリューチェーン全体から13の主要パートナーが参画。循環型のテキスタイルシステムを構築する取り組みが進められている。
プロジェクトの中では、繊維廃棄物の再活用がもたらす環境・社会的なメリットと、それを阻む課題についても報告があった。
その中で明らかメリットは以下のような点だ:
- EU内にリサイクルインフラを整備することで、繊維製品に従事する高度技術者の雇用を生み出すことに繋がる
- 廃棄物がEU圏内で適切に管理されることで、インフラが不十分な国々への輸出リスクを抑えることができる
また、このプロジェクトでは、消費者への支援活動にも力が注がれており、市民参加の有効性と重要性が強調された。
まず、約3,000人を対象に繊維リサイクルに関するアンケート調査が実施された。その結果、以下のような課題が消費者の意識から浮かび上がった:
- 回収ボックスが身近にないため、リサイクルの機会が得られない
- 服の状態に応じた適切な処理方法がわからない
- ヴァージンのもの(新品の原料だけを使って製造されたもの)に比べて品質が低下するのではないかという不安
- 製品の価格が高くなる懸念
- 回収ボックスに入れた後、衣類がどう処理されるのかが不透明
こうした課題に対し、衣類の交換会やリサイクルセンターの見学といった市民向けワークショップを通じた実践的なアプローチが行われ、多様なグループでワークショップを行うことが参加者の意識やモチベーションの向上に寄与することも明らかになったという。

トークセッション1:政治とスタートアップの立場から考える。日本のファッションロスの現状と産官協力の可能性は?
元環境大臣の小泉進次郎衆議院議員と、株式会社ヘラルボニー代表取締役社長の松田崇弥さんによるトークセッションでは、世界各国の経済・産業の状況を常に意識する両者が、日本におけるファッションロスの課題と今後の産官連携の可能性について語り合った。
松田さんは、出張で訪れたガーナで目にした「ゴミの山」の衝撃について触れ、「サステナビリティの重要性は頭では理解していたが、嗅覚も含めて五感で感じたとき、これは本当に世界的な課題だと痛感した」と語る。
障害のネガティブなイメージを変えることに挑むスタートアップとして、製品の背景にある生産過程でも自然環境やメーカーに負担をかけたくないとの思いから、「責任あるものづくり宣言」を発表。ヨーロッパに進出して感じた「サステナブルであることがサプライチェーンの前提条件」という現実も共有した。
一方、小泉議員は、日本のファッション自給率がわずか2%という事実に強い危機感を抱いたことをきっかけに、ファッションロスの課題に向き合うようになったと語る。さらに「他の産業と同じくアパレル産業もサプライチェーンが多岐に渡っているため、1つの省庁だけで課題を解決することは難しく、産業に関わる全ての関係省庁が集まり連携し合うことの重要性を強調。
さらに、日本には“高度の資源循環”を実現するための独自技術が生まれる可能性があり、経済産業省もその可能性に注目していると述べ、日本の繊維産業が世界の循環型モデルの一端を担う可能性に期待を寄せた。

トークセッション2:環境省の 調査データから読み解く!手放した服はどうなるのか?
セッション2では、ファッションジャーナリストの向千鶴さんと環境省 環境再生・資源循環局 総務課 リサイクル推進室 兼 循環型社会推進室 近藤室長が登壇。向さんのファシリテーションのもと、日本の循環の課題と政策の動向がデータから読み解かれた。
まず、衣類のマテリアルフローに関する最新の調査結果について説明し、「国内の新規受給量は合計82.2万トンにのぼり、その約7割にあたる55.8万トンが事業所や家庭から手放されているものの、回収・リユース・再資源化されることなく、未利用のまま廃棄されている現状がある」と述べた。
さらに、「第5次循環型社会形成推進基本計画」において、初めてファッション分野に関する方針が盛り込まれた点にも触れ、「家庭から廃棄される衣類の量について、2030年までに2020年度比で25%削減を目指すという目標が設定されている」と紹介した。
近藤さんは、循環型ファッションのシステム構築に向けた検討が進められていることにも言及。「生活者が手軽に衣類を回収に出せる環境づくり」に加えて、「衣類を適切に循環させる仕組み」の構築を目指し、今後以下のような論点について議論が行われる予定であると明らかにした。
①循環の可視化(マテリアルフローの精緻化など)
②受け皿の整備(自治体の回収実態調査、故繊維業者による回収・リユース・リサイクルの実態の把握など)
③使用済衣類の回収量の増加(回収システム構築に向けた方向性など)

トークセッション3:リユースの現状と未来とは?国際資源循環の可能性を探る
この回ではリユースや国際循環に関する最新のレポートをもとに、チェンジング・マーケッツ財団のウルシュカ・トランクさんと、株式会社ECOMMITの上席執行役員CSO 兼 ESG推進室長の坂野晶さんが、国を跨ぐ資源循環の可能性と課題について議論を交わした。
チェンジング・マーケッツ財団が2022年8月から2023年7月にかけて行った調査では、ファストファッションの10ブランドに良好な状態の衣類21点を寄付し、トラッキングディバイスを使ってその行方を追跡した。その結果、76%が再利用やリサイクルされず、破棄されたり、倉庫に放置されたり、アフリカ諸国に輸出されたりしていることが明らかになった。この背景には、ブランド側が回収ボックスで回収した衣類のその後に関して、第三者の回収業者に任せきりで現状を把握していないという問題があると指摘された。
これを受けて、坂野さんは自社の取り組みについて「ECOMMITでは、日本国内で回収した衣類を精緻なカテゴリーに分け、選別を丁寧に行っており、さらにデータを活用してトレーサビリティを確保している」と強調した。また、同社がアパレルやリテーラーに提供している回収ボックスについても触れ、リセール可能なブランドアイテムを自社で再販する仕組みを導入していることを紹介し、結果的にブランド側が企画段階からリセール・リサイクルを前提とした商品企画を行うという影響を期待した。
セッションの終盤に、モデレーターから「What do we do?(私たちはどうすれば良いのか?)」という質問が投げかけられると、ウルシュカさんは「本当にクリーンな廃棄方法は存在しない。やはり、生活者が長く愛せる服を購入し、信頼できるブランドから購入すること、そしてこの課題に対して意識を持つことが大切だ」とアドバイスした。
一方、坂野さんは、「社会課題を解決する時の順序は、まず意識改革をしてから行動すると一般的に言われているが、私たちは先に行動することで意識が変わっていくと信じている。たくさんの回収拠点を設けて社会のシステムを変えていくことに挑戦しているので、消費者にはまずアクションを起こしてもらいたい」と語った。

トークセッション4:服から服のリサイクルの実現に向けた現在地と一般流通への道のりは?
イベントの最後を飾ったトークセッション4では、株式会社JEPLAN 代表取締役 執行役員社長の髙尾正樹さんと、一般社団法人unisteps共同代表理事の鎌田安里紗さんが登壇。18年に渡るJEPLANのこれまでの歩みや、繊維から繊維への循環を実現するための課題について語り合った。
鎌田さんは「現在流通している多くの衣類は、ポリエステルとコットンなどの異素材が混ざった混紡繊維で作られているが、これらのケミカルリサイクルは非常に難しいと言われている。研究の進捗状況はどうか?」と質問。これに対し髙尾さんは、「大学などでの取り組みはまだ実験レベルにとどまっており、商業化できているのは世界でも2〜3社程度」と現状を説明した。続いて「究極の理想は?」という問いに対し、「リサイクルポリエステルが石油由来のものよりも安価になること。もしかすると、あと10年ほどでそれが実現するかもしれない」と、未来への期待を語った。
また会場からの「研究開発の分野においては、独自の技術が企業にとって大事な資源になると思う。そんな中で企業としてのリスクは高まるが業界全体の発展のために、技術を開示をするという動きはあるのか?」という質問に対して、高尾さんは「JEPLANでは2020年から同じ技術を使いたい企業があれば、その技術を開示しますと宣言している。なぜなら、競合云々を言っている場合ではないからです」と力強く語った。そして続けて「僕たちが苦労した10年分の研究を僕たちだけで抱えていても、誰かがまた同じ苦労をするだけ。それなら、僕たちの研究を活かして、より良い技術の開発に取り組んでもらった方が絶対世の中のためになると思っている」と研究開発にかける想いを熱く語り、会場の共感を呼んだ。

ラウンジでのパネル展示や関係者の交流も。
大盛況で終了したFASHION REVOLUTION JAPANのシンポジウム「Waste to Wear:ゴミになる服、ならない服」では、企業・生活者・メディアといったさまざまなステークホルダーが集い、会場だけでも152名が参加。途中休憩には、参加者同士が意見交換を行うなどトークセッション以外でも盛り上がりを見せた。その他、服の循環に関するパネル展示も行われ、出席者はそれぞれの立場から、服の手放し方を考える機会となった。

なお、イベントの様子は全5セッションをアーカイブ動画で見ることが可能。
動画は5月中旬に完成予定なので、トークの内容を最初から最後まで観たい方はPeatixから申し込んでほしい。