ストーリー|2025.05.02

石山アンジュに聞く、シェアリングエコノミーとは

個人の資産や場所、スキルなどを他者と共有して収益を得る「シェアリングエコノミー」。インターネットを通じて事業者を介在し、消費者間で取引をする新しいビジネスモデルで、近年、急速に発展・普及していてフリマアプリやカーシェア、民泊など、私たちの身近なサービスにも広がっている。そこで、今回は一般社団法人シェアリングエコノミー協会の代表理事であり、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍している石山アンジュさんにインタビュー。シェアリングエコノミーの基本から、具体例、メリット、そして今後の課題・展望まで解説していただいた。

写真:五十嵐一晴 取材:藤井志織

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石山アンジュ
「一般社団法人シェアリングエコノミー協会」の代表理事。シェアの思想を通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、テレビ番組への出演や著書出版など、幅広く活動。環境省・経済産業省などの資源循環・サーキュラーエコノミーに関連する政府委員も務め、2017年デジタル庁シェアリングエコノミー伝道師に任命。政府と民間の間で、シェアリングエコノミーの普及のための規制緩和や政策推進に従事している。

シェアリングエコノミーの定義とは?

ーー石山さんが考えるシェアリングエコノミーの概念を教えてください。

世界的に「シェアリングエコノミーとは」という確固たる定義があるわけではありませんが、日本的な解釈で説明するとしたら、昔ながらの醤油の貸し借りをイメージしてもらったらわかりやすいかもしれません。
それがデジタルの時代になって、誰が醤油を持っていて貸せるのか、ということをデジタル上で可視化できるようになった。人と人、人と企業がつながって、貸し借りや売買が急速に広範囲でできるようになったんですね。
お醤油の貸し借りって、知ってる人や信頼している人としかできないと思いますが、デジタル上でどんな人が借りられて、既にその人から借りた人はどんな評価をしているのか、という新しい信頼の仕組みによってできるようになった。それが今のデジタル時代におけるシェアリングエコノミーです。昔はご近所さんしかできなかったけれど、今は誰もが持っているツールを通じて、世界中の人たちとやりとりができるわけです。 これまでは企業が生産したものを個人が消費するBtoC型しかなかったのが、個人と個人がなにかを売買するCtoC型、個人間取引という新しいビジネスモデルなんですね。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会による「シェアリングエコノミー領域MAP」(2025年1月)

いろいろな形態がありますが、ものを共同利用したり、貸し借りしたりということですね。セカンドハンドショップや、「メルカリ」のようなフリマアプリも、一つのものを複数の人で共有、利用するという意味で、広義ではシェアリングエコノミーと言えます。
洋服や子供服、家具などのモノだけでなく、自転車・キックボード・車などの移動領域、IT化や家事代行、子どもの見守りといったスキルや時間、シェアハウスや民泊のような住居など、さまざまなシェアリングがあります。
市場規模としても、2024年時点で3兆円の市場規模(※)を記録し、さらなる拡大が見込まれています。

※一般社団法人シェアリングエコノミー協会の調査によると、日本のシェアリングエコノミー市場規模は年々拡大しており、2024年度には3兆1,050億円に達した。今後も成長が続くと予測されており、2032年度には最大15兆1,165億円に拡大する可能性もあると言われている 

シェアリングエコノミーのメリット/デメリットとは?

ーーシェアリングエコノミーのメリットとデメリットを挙げるなら?

シェアリングエコノミーというビジネスモデル自体がサステナブルなものだと思います。新しくものを作らなくても、例えば私がいらないと思った服は0円の価値ですが、デジタル上で誰かが欲しいと思えば1万円の価値になる。現在あるものの価値を循環させていけるのです。
これまでビジネスにおけるサステナビリティで注目されてきたのは、販売後の廃棄削減と言ったリデュースや、再資源化といったリサイクルがメインでしたが、シェアリングエコノミーはリユース・リコマースの新たな形態として日常生活であまり意識しなくても消費しているだけでサステナビリティに貢献できるわけです。

「所有から利用へ」と言われて久しいですが、一度利用してみると「わざわざ新しいものを買わないでよかったな」という満足感もあるかもしれません。だからリピート率が高い。ものを所有しないでよいという身軽さは気持ちがいいものです。傘も自転車も、自分でいつも所有していなくても、使うときだけあればいい。そのほうが便利。世の中がそういったライフスタイルに変化してきているように感じています。

また、人のつながりが生まれるという楽しさも味わえます。旅行をしたからといってホテルや旅館の受付の人とお友達になることはそうないけれど、民泊を利用したことで、一緒に食事をして友達になれたりする。「宿泊」という消費行動は同じだけど、シェアリングには人とつながるという付加価値がついてくるのです。
キャンプ用品など年に数回しか使わないものも、シェアリングはおすすめです。預けておけば他の人が借りた利用料を副収入にできる。家に置く場所も節約できて、メンテナンスもしてもらえて、収入にもなるなんていいこと尽くしですよね。

とはいえ、デジタルは参入障壁が低いために、トラブルはゼロではありません。安心安全の向上のために、事業者側も消費者側もリテラシーを上げていかなくてはいけませんね。

シェアリングエコノミーの変遷

ーー石山さんがシェアリングエコノミー協会を立ち上げてから、これまでに世の中の変化を感じていますか?

シェアリングエコノミーの広がり

シェアリングエコノミーはアメリカで2008年頃から登場した概念で、2012年頃から「Airbnb(エアビーアンドビー)」や「Uber(ウーバー)」などがメガベンチャーとして注目されるようになりました。日本には2012年頃に登場し、私がシェアリングエコノミー協会の立ち上げに関わったのは2016年。
環境に配慮した企業設計や企業戦略が求められているという世界的な潮流も背景にあり、現在は認知度もぐんと上がりましたし、市場規模も大きくなりました。利用者の年齢層も広がっていて、都市だけでなく地方においても普及しているように思います。

シェアリングエコノミーにおける日本の現状と課題

ただ、海外では一般的だけれども、日本では制度や規制の影響でなかなか伸びづらい領域もあります。例えばミールシェア。おばあちゃんがおにぎりを作って、それを買って食べたいというニーズがあっても、日本では販売することができないのが現状です。なぜなら衛生許可をとっている施設で商業許可を得事業者でないと販売できないのからです。ほかにも、ペットホテルではなく家でペットを預かるというペット版民泊も、現行法では十分に普及にいたっていません。さらに、個人の車に人を乗せてお金をもらう「ライドシェア」も、日本では制約が多く、普及が進みにくい状況です。    

これらは、既存産業を保護する目的や、公共の安全・衛生を守るために必要な業法による側面もありますが、たとえ個人間のマッチングであっても、営業許可を求められるという厳しさが、日本の現在地です。

一方で、民泊については、シェアリングエコノミー協会をはじめとする関係者の働きかけもあり、 この10年の間に住宅宿泊事業法(民泊新法)が制定され、行政に届け出を出せば、年間180日以内で営業できる仕組みが整いました。日本では、新しい技術やビジネスモデルに合わせた法律整備には時間がかかるため、 規制緩和には高いハードルがあることを実感しています。今後もシェアリングエコノミー協会は業界団体として、法的な整備や規制改革を進めていくための提言活動を行なっていきます。

ーーシェアリングエコノミーの伝道師として、ファッションにおいて提案できることは?

常日頃から、なるべく環境や社会に配慮したものを身につけたいと思っています。テレビに出る仕事では毎回衣装が必要になるので、せっかくならばエシカルブランドやサステナブルな消費のありかたを伝えられるきっかけにしたい。それで「#石山アンジュのサステナ服」というハッシュタグをつけてインスタグラムで発信しています。

本人のInstgramより

最初は「MES VACANCES(ミヴァコンス)」という柴崎コウさんがディレクションを手がけるサステナビューティファッションブランドに、私からリースのお願いをしました。3年ほど続けてきた今は、いろいろなブランドから声をかけていただうようになりました。サステナ服というと、アースカラーのルームウェアっぽいものやアウトドア用のものが多く、画面で華やかに映るかどうかを考えるとブランドは限られてしまうところもあります。それでも、サステナブランドはどんどん増えてきている印象ですし、アパレルだけでなくエシカルジュエリーのブランドも増えています。

私自身にとっても、新しいブランドや、サステナブルな生産工程、再生素材について知る大きなきっかけになっています。まだ世の中に十分知られていないことも多いので、「アンジュさんの投稿を見て、同じワンピースを買いました」「初めてサステナブル商品を知りました」そんなコメントをいただくと、とても嬉しく感じます。

とはいえ、まだまだサステナブル商品は価格帯が高めですよね。もっと手の届きやすい選択肢を広げるためには、消費者の意識向上、企業の努力、そして政府の支援。この三つを一体となって連携しながら、社会全体で動かしていくことが大切だと考えています。

サステナ服でなくても、シェアリングすればサステナブルな消費行動になります。洋服のシェアリングサービスはかなり広がっていて、男性向けやアウトドアブランド、バッグなどの小物、着物を扱う事業者もたくさんある。最近面白いなと思ったのは、旅先で洋服を借りるというレンタルサービスです。手ぶらで旅できるなんて気楽ですよね。 今は百貨店初のファッションサブスクとして注目されている「AnotherAdress(アナザードレス)」というサービスを利用しています。買うとなると着回しできる無難なものになりがちですが、シェアリングなら春に着たい桜のデザインのワンピースや、パーティで一回だけ着たいドレスなどにもトライできる。プロのスタイリストが選ぶ洋服を月額でレンタルできる「airCloset(エアークローゼット)」や、ハイブランドのバッグのレンタルサービス「Laxus(ラクサス)」を利用したこともあります。すべてをサステナ服で揃えるのは難しいけれど、サブスクやレンタルを組み合わせたサステナ消費なら現実的。友人たちにもどんどん薦めています。

本人のInstgramより

シェアリングエコノミーとサーキュラーエコノミーの共通点とは?

ーー政府と民間をつなぐ石山さんが目指す、資源循環型社会への展望は?

今、国のビジョンは、リデュース(減らす)、リユース(再利用)、リサイクル(資源として再利用)の「3R」から、これにリニューアブル(再生可能な、更新可能な)を加えた「4R」としてのリコマースへと舵を切っています。リコマースは、再利用(Re)と商取引(Commerce)を組み合わせた言葉で、使用した中古品を再販して経済的価値を創り出す、つまりシェアリングエコノミーですね。

循環させるだけでなく、それを日本の産業として経済成長につなげていきましょう、経済を発展させるものこそがサステナブルだ、という動きです。このための閣僚会議が定期的に開かれているし、各省庁で助成金などもどんどん設けられています。

日本人は新しいもの好き。欧州などと比べ、新築物件数が多いし、家電も新しい型番のほうがビジネスの優位性がある。これまでの大量生産、大量消費型の経済成長を遂げてきた日本では、新しい商品を出し続けることが競争優位となってきました。かつての日本は隣3軒で1台のテレビだったのが、結果的に一家に1台、1部屋に一台、1人で三つのデバイスを持ってというのが豊かだという消費の価値観になってしまった。資源循環型社会の実現のためには、企業にも消費者にも根付いているこのリニアエコノミー型の価値観を、資源をシェアして循環させ続けていくサーキュラーエコノミー型のモデルに、抜本的に変えていかねばなりません。

ものづくり産業大国である日本では「シェアリングエコノミーが普及すると、モノが売れなくなるのではないか」とご質問をいただくことがあります。しかし時代は変わりつつあります。シェアリングエコノミーが普及しても、モノが売れなくなるわけではありません。「所有から利用」へとニーズが変化するだけで、人々の消費行動自体は続きます。シェアを前提に、耐久性やデザイン性に優れたモノが求められるようになり、新たな顧客層との出会いや、継続的な収益モデルを生み出すチャンスにもなります。売り方と価値の伝え方を進化させる時代だと捉えています。

例えば「車を買わない」若者が増えている現状に、車のシェアリングサービスが広がれば、ブランドタッチポイントになるかもしれません。    

企業の取り組み事例

自社事業としてシェアリングエコノミー事業に進出する大企業も増えてきました。ショッピングモールや百貨店のような「物を販売することこそが仕事である」というビジネスモデルだった企業が、シェアリングサービスと協業して「売らない店舗」という企画を始めたり。世の中の新しい価値観や行動の変化によって、新たなビジネスモデルの可能性が広がっています。

このように既存領域と新しい産業が手を組むことによって、サステナ社会に変えていける、という考え方がここ2年のトレンド。私は、国の審議会の委員もしていますが、国が号令をかけてくれていることで少しずつ動き出しているように感じています。
再生素材に対して企業が配慮する基準を検討したり、サステナブル消費を促していくために、事業者に対しての評価やインセンティブをどうしたらいいか、制度設計や、支援制度、消費者へのコミュニケーションなどが議論されているのですね。シェアリングエコノミーは経済も環境も両輪でまわしていける新しい産業なのです。

ワンピースは「CFCL」のもの。ペットボトル由来の再生ポリエステルを使用し、裁断工程がない3Dコンピューター・ニッティングの技術によってゴミの排出量を最小限に抑えている。機能性や環境への配慮を実現し、国産素材の選択、流通経路の透明性を追求しているブランド。「代表の髙橋悠介さんは同世代の起業家仲間で、ずっと応援しています。斬新な発想でサステナブルに取り組んでいて、日本のアパレルブランドで初めてB Corp認証を取得。早々にパリコレにも出て、世界中から注目されています」と石山さん。
アメリカ発のサステナブルシューズブランド「Allbirds(オールバーズ)」のパンプス。メリノウールやサトウキビなどの天然素材を多く使い、CO2排出量が少ない製造過程を実現。カーボンフットプリントの数値を可視化し、新たな指標として選べるような技術も開発。「競合から共創へ」というモットーのもと、それらの技術をオープンソース化している。「#石山アンジュのサステナ服 をきっかけに知ったブランドです。製造過程や輸送に至るまで炭素排出量を削減していたり、天然素材を利用していたり、とことんサステナブルですごい」
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編集ライター
藤井志織
主に雑誌や書籍、WEB、企業の販促物などで編集や取材、執筆を行うほか、イベントやプロダクトの企画やディレクションを行うことも。担当した書籍に、草場妙子著『TODAY’S MAKE BOOK 今日のメイクは?』、ウー・ウェン著『100gで作る北京小麦粉料理』などがある。

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