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製品のライフサイクルの前半・後半をカバーする制度として、EUのサステナビリティに不可欠なESPRとEPR
まずは、EUのファッション・繊維に関連する政策について、おさらいしていこう。

持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR:Ecodesign for Sustainable Products Regulation)
持続可能な製品のためのエコデザイン規則(以下、エコデザイン規則)は、製品が市場に出る「前段階」=設計段階での持続可能性を義務化する制度だ。
アパレルに限らず家具、ITデバイス、鉄鋼など様々な製品が対象となっている。
具体的には、
- 設計段階で耐久性、修理のしやすさ、再利用・リサイクルのしやすさなどを考慮する
- 製品ごとに「デジタル製品パスポート」などを用い、環境性能を明示する
などが挙げられる
拡大生産者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)
拡大生産者責任は、これまでの生産者の責任範囲を製品の生産・使用段階にとどまらず、製品の廃棄やリサイクル段階まで拡大するという考え方だ。
ESPRが製品が市場に出る「前段階」=設計段階での持続可能性を高めるのに対して、EPRは市場に出た「後段階」=廃棄・回収・リサイクルの段階での持続可能性を高めるといえる。
具体的には
- 生産者は、製品の廃棄・回収・リサイクルにかかるコストを負担
- 使用済みの製品を生産者が引き取る
などが挙げられる
この2つの法整備により、例えばブランドがエコデザイン規則に基づいて、リサイクルしやすい服を設計すれば、EPRによって負担しなければならない製品の廃棄・回収・リサイクルにかかるコストが軽くなる、といったように企業にとっても経済的なメリットが生まれるというわけだ。
そして、この異なる業界や分野にまたがった2つの大きな枠組みを基にして、繊維業界向けの目標として出されたのが、次に紹介するテキスタイル戦略だ。
テキスタイル戦略
2022年3月に発表されたEU Strategy for Sustainable and Circular Textiles(持続可能な循環型繊維製品戦略。以下、テキスタイル戦略)では2030年までにEU市場に流通する繊維製品はすべて、持続可能で循環性の高い製品であることを目指している。そのために、以下を含む様々な要件が導入されている。
- デザイン要件の設定:エコデザイン規則案の施行後に、耐久性、修理やリサイクルの容易性、リサイクル済み繊維の混合、懸念すべき物質の含有などに関する法的拘束力のある製品別の要件を設定する。
- デジタル製品パスポートの導入:エコデザイン規則案の一部として「デジタル製品パスポート」を導入し、循環性やその他の環境面での情報提供を義務化する。消費者がより正確な情報に基づく選択ができるよう、耐久性の保証や修理に関する情報の提供を求める。さらに、グリーンウォッシュを防ぐために、「環境にやさしい」といった表現に一定の基準を設ける。
- 過剰生産・過剰消費の抑制:ファストファッションは持続可能でなく、「時代遅れ」と指摘した上で、急速に変化するトレンドに合わせたビジネスモデルから、1年間に発表するコレクションの数を減らすなどして、サーキュラーエコノミーに基づいたビジネスモデルへの転換を強く推奨する。
- 未使用繊維製品の廃棄禁止へ:エコデザイン規則案において、未販売や返品された繊維製品の廃棄の抑制策として、中小企業以外の企業に対して、こうした製品の焼却や埋め立てなどの廃棄、再利用やリサイクルなどでの処分に関する情報開示を義務付ける。場合によっては、こうした製品の廃棄禁止も検討する。
- 生産者責任の見直し:使用済み衣類の収集とリサイクルなどへの拡大生産者責任を規定し、廃棄の抑制や再利用などに向けたエコ調整料金を導入する。また、繊維製品廃棄物の再利用とリサイクル目標の義務化も検討する。
この他、消費される衣料品のほとんどは他国から輸入されていることを受け、持続可能かつグローバルな連携を重要課題とし、環境面だけではなく、バリューチェーン上の人権面にも配慮されることが明記されている。
これらの法整備を具体的なアクションに落とし込むため、欧州委員会は業界団体・NGOといったステークホルダーとともに、「繊維製品のエコシステムのためのトランジション・パスウェイ」を共創するプロセスを2022年から開始し、2023年6月に公表した。
このトランジション・パスウェイは、8つの主要なブロックから成り立ち、50の具体的なアクションが示されている。

その中でも、私たち服を購入する側にとって特に注目すべきは、「インフラ構築のアクション」だろう。
EU全体の規制設計のベースになるほど先進的な取り組みを行っているフランスでは、すでに政府や企業、輸入業者による資金拠出によって「衣類リサイクルのための基金」が運用されている。
政府はこの基金に対し、2023年から2028年の5年間で総額1億5,400万ユーロ(約248億円)を拠出予定。ここから、修理や回収に携わる事業者に対して補助金が支給される仕組みだ。

この基金を実際に運営しているのが、非営利団体Re_fashionだ。
Re_fashionに認定された修理業者が、修理代の6〜25ユーロを補助することで、消費者の実際の支払額が割り引かれるようになっている。
具体的には、靴のかかと修理なら7ユーロ(約1,100円)、衣類の修理なら10〜25ユーロ(約1,600円〜4,000円)といった具合だ。
(※換算レート:1ユーロ=161円/2025年4月時点)
しかしながら、フランスでは毎年約70万トンもの衣類が廃棄されており、そのうちおよそ3分の2が埋め立て処分されている。
いくら政府が制度を整え、企業が資金を出資しても、消費者がそれを「利用しなければ」その効果が十分に発揮されない。
より良い服の選び方、そして手放し方といった、 私たち一人ひとりの選択が、持続可能なファッションの実現において欠かせないということを、改めて意識したいところだ。
EUの現状は?生産と消費がもたらす課題と可能性
では、ここからは欧州環境庁が発表した最新の報告書からEUの現状を見ていこう。前出のテキスタイル戦略に対するEU域内での繊維製品の生産と消費の現状、そして循環型社会に向けた取り組みと課題が明らかにされている。その概要を紹介しよう。
生産・消費の拡大
繊維・衣料品産業は、EUにとって重要なセクターの1つだ。2023年には1,700億ユーロの売上を記録し、197,000の企業で約130万人を雇用している。コロナ禍で一時的に落ち込んだ生産量も、2022年には回復し、現在は主に高技術の繊維や高付加価値の衣料・フットウェアの分野で競争力を維持している。また、2022年には400万トンもの完成品がEU域外へ輸出され、その価値は730億ユーロに上る。
オンライン販売の拡大と環境への影響
衣類やテキスタイル製品のオンライン販売は、2009年の売上比率5%から2022年には11%にまで倍増。手軽さや低価格、返品のしやすさなどを理由に、特にファストファッションやウルトラファストファッションが急成長している。
しかし、その一方で、安価で低品質な商品の大量消費が環境に与える影響も深刻で、試着できないオンライン販売では、複数サイズを購入・返品する傾向が強く、返品された商品の22〜44%が再販されずに廃棄されているというデータもあるという。さらに、長距離輸送や梱包による温室効果ガスや廃棄物の増加も課題となっている。
繊維消費量の現状と変化
EUにおける2022年の1人あたりの繊維製品消費量は平均19kgで、2019年の17kgから増加している。内訳は、衣料品8kg、シーツなどのホームテキスタイル製品7kg、フットウェア4kgだ。2010〜2019年は14〜17kgで推移していたことからも、近年の増加傾向が見て取れる。
廃棄物と回収に関する課題
同じく2022年、EU市民1人あたりの繊維廃棄量は16kgと報告されている。問題はその多くが分別されずに廃棄され、焼却や埋立処分されていることであると分析。
これに対応すべく、2025年からはすべての加盟国で繊維製品の分別回収が義務化される予定だ。回収率向上が期待される一方で、回収品の輸出増加による新たな問題も懸念されている。輸出先での処理方法には大きな差があり、アフリカでは焼却・投棄、アジアではリサイクルされる一方で一部は廃棄されている実態があるからだ。
繊維製品の「安全性」と「環境配慮」
テキスタイル戦略では、繊維産業がもたらす環境・気候負荷の最小化と、繊維製品中の有害物質の削減も大きな柱の1つとして掲げられている。
具体的には、EEAが運営する「Circular Metrics Lab(サーキュラー・マトリックス・ラボ」を通じて原材料使用、水資源、土地利用、温室効果ガス排出量などの環境指標を継続的にモニタリングされる。また、「REACH規則」や「化学物質戦略」により、有害化学物質の排除と代替を進めている。

今後に向けた課題と注目したい動向は?
このレポートからテキスタイル戦略が発表された2022年時点まででは、EUのテキスタイル製品の生産は、高付加価値の繊維・アパレル製品を中心にコロナ前にまで回復していること、またオンライン販売の拡大やファストファッションの浸透により消費が加速傾向であることが見てとれた。
EUはすでに、エコデザイン規制などを通じて、循環型の繊維システム構築に向けた政策をさらに推進している。しかし、現時点でどこまでの効果が得られているかは、不透明な部分が多く、今後も数値データが必要な状況だ。今年からEUでは洋服の分別回収が義務化され、今後は回収・選別・再利用の仕組みがどれだけ効果的に構築されるかが重要な焦点となると見られている。
そのため、今後注目すべきは、①EU域内での選別・リサイクルインフラの整備、②輸出依存から脱却した国内循環の実現、③そして消費者自身の行動変容と言えるだろう。
日本では、まだここまでの法整備は進んでいないものの、私たち一人ひとりの「服の選び方」や「手放し方」が、ファッションを持続可能な形で楽しめる未来をつくる鍵となることは間違いなさそうだ。
最後に、EUの動きや報告を受けて、私たちが今日からできることを以下にまとめたので、ぜひあなたの服との付き合い方のヒントにしてみて。
①環境配慮型ブランドを応援する
EUのような制度はなくても、私たちの選択がブランドを変えていく原動力になるはず。ShiftCのレーティングでブランドの取り組みについてチェックして、評価の高いブランドからのアイテム購入を検討するのもおすすめ。
② 長く着られる服を選ぶ
EUは2030年までに「耐久性・修理性・リサイクル性」を備えた製品だけを流通させる方針。「何年着られるか」「修理できるか」を基準に、ブランドやアイテムを選ぶという視点も忘れたくない。
③ 返品=廃棄かも?を意識
EUでは、返品された商品の約44%が廃棄されているという衝撃的なデータも。私たちもオンラインショッピングによる環境への悪影響を考え、慎重な買い物を心がけたい。
④ リユース・リペア・リメイクを生活に
まだ使える服は人に譲る、直して使う、別のアイテムに作り変えるなど、「循環」に関わる選択肢を検討してみよう。地域のリペア店や古着屋も活用したい。
⑤ 「買わない選択」をする勇気
EUは“過剰生産・過剰消費”を問題視している。あなたも「セールだから」「新作だから」と無意識に買ってしまう習慣を見直し、「本当に必要か?」と立ち止まってみて。
<参考>
・EPR(拡大生産者責任)とは?日本や欧州の動向や問題点を簡単に解説(出所:朝日新聞)
・EU Strategy for Sustainable and Circular Textiles (出所:EUROPEAN COMMISSION)
・欧州委、持続可能な繊維戦略を発表、ファストファッションは時代遅れと批判(出所:JETRO)
・10月から衣類・靴の修理費用支援制度を開始(出所:JETRO)
・繊維製品の情報開示や サステナビリティへの取組について(出所:経済産業省)
・Eco-organisation mission and objectives(出所:Re _fashion)
・Circularity of the EU textiles value chain in numbers (出所:欧州環境庁)