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ストーリー|2025.03.28

デザインの力で社会課題に挑む! アップサイクルジュエリー「RINMO」で形にする砂田安菜の想い

2024年にスタートした「RINMO(リンモ)」は、リサイクルシルバーや廃材を活かし、新たな美しさへと昇華するジュエリーブランド。そのデザインには、環境への配慮と「一生もの」のクオリティを追求する哲学が込められている。熟練の職人とともに、ひとつひとつ丁寧に生み出されるジュエリーには、どんな想いが込められているのか?デザイナーの砂田安菜さんに、ものづくりの背景にある考えや思いについて話を聞いた。

原稿:藤井由香里

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砂田安菜
高校卒業後、イタリアでプロダクトデザインを学び、ミラノのデザイン事務所でプロダクトデザインに携わる。その後、グラフィックデザイナーとして社会課題に取り組むブランドのデザインを手がけ、2021年にSAND DESIGNを設立。2024年、リサイクルシルバーを用いたエシカルジュエリーブランド「RINMO」を立ち上げた。

アパレルの循環を目指す古着屋から、ジュエリーデザイナーの道へ

——グラフィックデザイナーとしても活躍されている砂田さんですが、RINMOを立ち上げる前のキャリアについてお聞かせいただけますか?

イタリア・ミラノの「Istituto Europeo di Design Milano」でプロダクトデザインを学んだ後、ミラノのデザイン事務所で2年間、家具デザインのアシスタントをしていました。その後、グラフィックデザインに転向し、社会課題に取り組むブランドのデザインを手がけるようになりました。

社会に良い影響を与えられている実感はあったのですが、もっと自分自身で直接アクションを起こしたいと思い、「RINMO」を立ち上げました。ブランド名には「素材を輪廻の輪に戻す」という意味を込めています。

——社会課題への意識はいつからあったのですか?

中学生の頃からものづくりが好きで、「消費や生産、ものへの愛」といったテーマに興味がありました。高校では英語専攻のコースにいたこともあり、環境問題に関する英語の文献を読む機会が増えたことで、より意識が強まりましたね。

その後、イタリアに渡ると、ヨーロッパではサステナビリティが前提となっていることや、社会課題を身近に感じる機会が多いことに気づきました。

大学生活でよく教授に言われたのが「デザインとアートは違う。デザインは誰かの何かの課題を解決しないといけない。」ということ。環境問題、人種差別、難民問題などさまざまな社会課題を体感する中で、私がデザインで何かの課題を解決できるのであれば、社会課題に取り組みたいと思うようになりました。

——もともとはアパレルの循環に取り組まれていたとのことですが、なぜジュエリーを選んだのですか?

アパレルの廃棄を減らし、資源を循環させたいという思いで古着屋をやっていたんですが、次第に「自分にしかできないものづくりがしたい」という思いが強くなりました。そんな時、ジュエリー職人の方と出会い、「リサイクルシルバーを使って一緒に挑戦しませんか?」と声をかけてもらったんです。

ジュエリーは贅沢品ですが、「贅沢品だからこそ地球や人を傷つけてはいけない」という考えを持っていました。また、リサイクル素材にはまだ「安っぽい」「粗悪」というイメージが残っていると感じていたので、ジュエリーという一生ものを通して、そのイメージを変えられるのではないかと思いました。やる意味があると思ったのが、ジュエリーを選んだ一番の理由ですね。

廃材に新たな命を吹き込む、持続可能で美しいジュエリーのかたち

——素材としてリサイクルシルバーや廃材を使用されていますが、それらに着目された背景にはどんな思いがあったのでしょうか?

素材の循環を前提に考えていたことが大きな理由です。展開しているジュエリーのメイン素材にはすべてリサイクルシルバーを使用しており、工場や工房から出る端材をアップサイクルしたシリーズも展開しています。工房の方々と話しているうちに、廃棄するのにお金がかかることや、良い素材を捨てることに対する心理的な負担があることに気づきました。工房側には新商品を開発する余裕がないので、私たちがその素材を活かして、何か素敵なものを作れたらと思ったんです。

リングはマイナス号数から28号まで、幅広いサイズをセミオーダーで製作できる

シルバー925は92.5%の銀に合金を加え扱いやすくしたものですが、Silver999は99.9%が銀で、銀自体は柔らかい性質があります。そのため加工が難しいのですが、RINMOでは、職人が叩きながら密度を上げて強度を高める鍛造(たんぞう)という技法を採用しています。その純度の高さがもたらす美しさやアレルギー反応の少なさが魅力です。銀はリサイクルしても質が落ちない点も特徴ですね。

左:Rootsコレクション 右:高級眼鏡のフレーム制作過程で生まれたセルロースアステートの端材

これはアップサイクルのシリーズです。家の近くにメガネフレームの工房があるんですが、そこでメガネフレームを作る際にどうしても端材が出てしまうと教えていただきました。それを磨くと、石のように美しくなるんです。初めは自分で加工しようとしたんですが、自分では加工が難しく諦めていたところ、ジュエリー職人さんが「できる」と言ってくれて、実現しました。メガネフレームの素材は、溶かさずに切って削る方法で加工します。色によって仕上がりも変わり、黒いものはオニキスのような質感になるんです。

——職人さんとの信頼関係を築かれているのも印象的ですね。新しい素材や技法に挑戦する上で、どのようなやりとりをされているのでしょうか?

職人さんの中には、新しいことに慎重な方も多いのですが、RINMOが依頼している職人さんはチャレンジ精神があり、「これをやってみたい」と言うと、前向きに挑戦してくれます。「これは難しいかもしれないけど、こうすればできるかも」と提案してくれることもあり、柔軟な発想を持っている方々です。お互いにアイデアを出し合いながらものづくりを進めていく過程が、とても刺激的で楽しいですね。

——ものづくりにおいて、特に大切にされていることや譲れない部分があれば教えてください。

一生ものとしてのクオリティを大切にしています。壊れにくい強度を重視していて、設計段階から丈夫なものをデザインしています。Silver999という素材自体は、強度を出すのが難しいんですが、職人さんの技術でこの硬さを実現できています。

流行にとらわれない、心に響く一生もののデザイン

——RINMOのジュエリーはその独特な造形美が魅力的ですが、デザインのインスピレーションはどのようなものから受けていますか?

日常の風景や自然の力強さから、様々なインスピレーションを得ています。たとえば「地層」シリーズは、大地に刻まれた地層の重なりから着想を得ました。私は常に「強さ」をテーマにデザインを考えていて、ジュエリーを身につけたときに「強くなった気がする」という感覚を大切にしています。特に、壮大な岩の地層を見たときに感じた「動じない強さ」から、このシリーズが生まれました。

地層シリーズでは、同じ素材でも仕上げ方法を変え、叩き跡を残したものと研磨したものを展開。自然に刻まれた質感が、唯一無二のデザインを生み出している

また、「コンコルディアナ」のシリーズは、アルブカ・コンコルディアナという植物にインスピレーションを受けています。この植物は直射日光の厳しい環境でも生き抜くため、自分の根を守るように葉を巻いて影を作ります。その生命力の強さを形にしたいと思い、デザインしました。

——ミラノでデザインを学び、家具等のプロダクトデザインにも携わっていた経験が、ジュエリーデザインにどのように影響していますか?

イタリアのデザイン事務所で働いていたとき、上司たちは身近なものや自然の造形からデザインのアイデアを生み出していました。その姿勢は、私のものづくりにも大きな影響を与えています。私の作品にも、植物や地層など、自然の美しさをモチーフにしたものが多いのですが、これはイタリアでの経験があったからこそだと思います。

「自然の強さ」をコンセプトにしているのもその影響のひとつです。ジュエリーという小さなスケールでも、自然の壮大なエネルギーを感じられるデザインを目指しています。

——一生ものとして長く愛されるジュエリー作りにこだわりを感じます。「長く使えるデザイン」とは、どのようなものだと考えていますか?

何よりも、身につける人にとって「お気に入り」になることが大切だと思っています。そのために、一点もののデザインであることや、こだわりの詰まった背景をしっかり伝えることを意識しています。

また、時代に左右されないデザインであることも大事ですね。トレンドに流されないよう、自分が日常の中で良いと感じるものをジュエリーに落とし込むようにしています。

アパレルブランド「URUH」とのコラボレーションで製作した、残布を使ったチョーカー

——流行にとらわれず、本当に気に入ったものを長く愛用する大切さが伝わってきます。一つ一つが、まるでアートピースのようですね。そんなジュエリーが持つ力について、砂田さんはどのように考えていますか?

アクセサリーを身につけた時の、「強くなった気がする」という感覚を大切にしています。私自身、もともとは自分の意見をはっきり言えないタイプだったのですが、ファッションを通じて少しずつ自信が持てるようになったんです。

きっと、自分に自信を持てずにいる人は多いと思います。そんな時、ファッションがその最初の一歩を後押ししてくれることもあります。強さを象徴するようなジュエリーを身につけることで、最初は「強いふり」をしてみる。すると、それが少しずつ本物の自信に変わっていく。そういう気持ちを込めて、大ぶりのデザインを多く作っています。

ジュエリーの枠を超え、サステナブルな未来をデザインしていきたい

——今後、ブランドとして挑戦してみたいことはありますか?

今後は、ジュエリー以外の分野にも挑戦してみたいと考えています。ブランド名に込めた「素材を輪廻の輪に戻す」という軸は変えずに、家具やインテリアなど、さまざまなメーカーの廃棄課題に寄り添ったプロダクトを作ってみたいですね。

また、ジュエリーを買わない方々にも、RINMOのコンセプトを届けられるような活動をしたいという思いもあります。デザインには大きな可能性があると信じているので、価値観を共有できる仲間と出会い、一緒に新しいものづくりができたら嬉しいです。

RINMO
https://www.instagram.com/rinmo_official/
https://rinmo.theshop.jp

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ライター/エディター
藤井由香里
ファッションメディアのライター/エディター、アパレル業界での経験を経て、2022年に独立。現在は、ファッション、美容、カルチャー、サステナビリティを中心に執筆・編集を手がける。Webや紙媒体のコンテンツ制作に加え、広告制作、コピーライティング、翻訳編集など、多岐にわたるプロジェクトに携わる。

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