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ショップ内には作家の創作を間近で見て交流できるアトリエスペースも
都内初の常設店舗となるHERALBONY LABORATORY GINZA(ヘラルボニー ラボラトリー ギンザ)は、障害のある作家のアート活動やプロダクトを通して新しい価値観に出会える空間だ。
ショップとギャラリーが併設する構成で、作家や作品との出会いを生み出している。ショップでは、プロダクトが購入できるだけでなく、作家のアトリエスペースが常設設置されており、月に1回程度、ヘラルボニー契約作家の生の創作活動を間近で見ることができる。また、ギャラリーでは、アートの展示販売に限らず、ヘラルボニーの発信の場として様々な展示企画が予定されている。

ファッションとアートの震源地である銀座に生まれた“実験室”
障害のある兄をもつ松田兄弟が創業したへラルボニー。創業当初は「福祉実験ユニット」と名乗っていた。銀座の店舗には、その原点に立ち返り、「さまざまなものが混じり合い、新しい社会を検証する場所=ラボラトリー(実験室)」という意味が込められている。高級ブランドが立ち並び、一般的に「障害」という言葉とは縁遠く感じられる銀座だからこそ、「さまざまな人がありのままで活躍できる」というメッセージを発信していく。
2025年4月からヘラルボニー CAO(Chief Art Officer)に就任する金沢21世紀美術館チーフ・キュレーターの黒澤さんは、「銀座は日本の文化の発信地。そこで単に作品を売るだけでなく、その作品が持つメッセージをできるだけ遠くまで届けたいと考えています。作品を見て素敵だなと思うだけでなく、作家が在廊している際には気軽に声をかけられて距離が縮まる場になってほしい。作品は抽象的でありながら、作家ご本人には確固たるテーマがあります。ぜひ、タイトルから創作背景などを紐解いていただきたい。」と語る。

また、記者会見の当日には、契約作家であるmarinaさんによる公開アート制作も行われた。
marinaさんの作品は「marina文字」と呼ばれる、marinaさんにしか書けない古代なのか宇宙なのか未来の言語なのか、と思わず想像が膨らむ神秘的でリズミカルな文字が特徴だ。
最初は、ノートなどに書き綴られた比較的小さな作品が多かったが、最近では、色をたくさん使うようになり、かなり大きく大胆な作品も手掛けられるようになっているという。


へラルボニーが描くこれからの当たり前。障害への意識が変わる場所

HERALBONY LABORATORY GINZAでは、来店者に、どんな体験や発見をしてもらいたいのか?2015年に障害のある作家が創作したアートに衝撃を受け、創業を決意した双子の弟の崇弥さんは、こう語る。
「銀座の街では、なかなか障害のある人に出会うことがないですけど、日本の人口の割合では8%近くいらっしゃいます。そういう意味において、銀座への出店は、障害のある人も銀座の街を歩いていることが「当たり前の景色」になるための一歩かなと思っています。この当たり前を創るために、よく『障害のある人と上手に付き合うコツってなんですか?』と質問されるんですが、本当にないんですよね。人間ですから、話せば、ちょっと違うなって思う人もいますし、合うなっていう人もいる。全然普通のことなんです。その点で、障害のある方と出会って、『あ、なんだ普通なんだ…』と気付ける最初のきっかけとして非常に素晴らしい場所になると思っています」
作家たちの作品の魅力は、「うまく」描こうとしないこと。人間の神秘ともいうべき世界がある
作家たちのアートの魅力はどんなところにあるのだろうか。
「僕には5歳になる娘がいるんですけど、最近僕が空を赤で塗っていると『それ間違ってるよ』と指摘してくるようになったんです。いわゆる健常者の人たちは、大人になるにつれて社会の中で無意識のうちに何か『正しい、正しくない』という決めつけのようなものを持ってしまう。でも、障害がある彼らには、そういった固定観念のようなものがない。つまり”うまく判断しようとしない”んですよね。
かの有名なパブロ・ピカソも『子どもは誰でも芸術家だ。問題は大人になっても芸術家でいられるかどうかだ。』『ラファエルのように描くには4年かかったが、子どものように描くには一生涯かかった。』という言葉を残しています。
ピカソの言葉にもあるように、世界的な画家も羨むような感性を彼らは持ち続けているんです。その作品には、本当にいつも驚かされますし、人間の神秘のようなものを感じます」
「実は先日まで2週間ほど、ヨーロッパを回って作家さんたちに会ってきたんですが、本当に素晴らしい福祉施設とめぐり逢うことができました。こんな風に知らなかった素晴らしい作家さんと出会える瞬間は本当に嬉しくて。パリで福祉施設が運営する陶芸工房を訪れたら『何これ?初めて見た!』という陶器に巡り会えて、思わず買ってきちゃいました。こういった作品をどんどん発掘していきたいですね」と、海外作家のクリエーションに目を輝かせる。

作家からお預かりしている作品に責任感を持って向き合い、世界からかっこいいと思ってもらえるブランドに
また、エシカルファッションを身につけたい私たちにとって、製品が出来上がるまでのプロセスで「人権が尊重されているか」は見逃せない重要なポイント。
そんな中で、海外展開など事業が成長する中でも、意思疎通が難しい作家の気持ちを尊重し丁寧にコミュニケーションをとるヘラルボニーの製品化のプロセスには脱帽だ。作家ファーストでプロダクトを展開してきた理由について崇弥さんはこう語る。
「まずは、作家さんたちに胸を張って語れるものを作りたい、という思いがあります。基本的に、福祉施設や親御さんから何か強い要望が入るってことは、ほとんどないんですよね。 健常者のアーティストであれば、『こうしてほしい』『これは作りたくない』と意思表示ができますが、作家たちはそれをうまく伝えるのが難しい。その分、すべて任せていただいているという責任感を持ち、透明性を大切にすることが重要だと考えています。そういった思いで、『責任あるものづくり宣言』も出しました。グローバルで見たときにも、ちゃんとやってんだなって思ってもらえる会社であった方がかっこいいなと思って。」

作家ファーストでありながら日本というローカルで挑戦するものづくり
崇弥さんが魅了され続ける作家たちの作品をプロダクトに落とし込んでいるのが、同社のアートライフスタイルブランド「HERALBONY」だ。銀座のオープンにあたり、スウェットやTシャツ、レイヤリングに活用したいシースルドレスなどのアイテムが新たに加わった。強烈なアイデンティティの先に生まれたアートを、ファッションアイテムやインテリアなどのプロダクトデザインに落とし込み、人々のライフスタイルを彩ることで社会に新しい価値を創出している。
リテールディレクターの大平さんは、事業が拡大する中でも、へラルボニーが作家ファーストであり続けることを改めて強調する。
1.アートから派生するモノづくり
プロダクト起点ではなく、アートを起点にプロダクト開発
2. アートの再現性
アートのエネルギーをそのままに、あらゆる素材での再現性を追求
3. 作家へのアプルーバル(承認)
作家の意思を尊重したプロダクト開発
これら3つの基準により、実際に各施設の担当者が丁寧に施設や在籍している作家に対してコミュニケーションをとっており、これまでも再現性の面で断念した製品や、作家の意思にそぐわず、販売直前のところで販売を中止したプロダクトもあるという。
さらに、新たな取り組みとして、「ローカルであること」にこだわったものづくりが進められる。世界展開を見据えながらも、世界にとっての「ローカル」である日本において、国際的に評価されている織物工場や縫製工場などとの協業に力を入れていく方針だ。

昨年7月から海外展開をスタートさせ、銀座からも新たに発信を始めることになるへラルボニー。
障害のある作家たちが生み出すアートやプロダクトに触れることで、あなたがこれまで無意識に抱いていた「常識」や障害に対する固定観念が大きく揺さぶられるかもしれない。
新しい社会のかたちを模索するこの実験場に、ぜひ足を運んでみてほしい。
■HERALBONY LABORATORY GINZA(へラルボニー ラボラトリー ギンザ)
所在地:東京都中央区銀座2丁目5−16 銀冨ビル1F
営業時間:11:00〜19:00
定休日:火曜(祝日の場合翌日休業)
HERALBONY LABORATORY GINZAに関する詳細はこちら
インスタグラム:https://www.instagram.com/heralbony/