• トップ
  • Learning
  • 11歳と15歳の児童労働も。上場に向けて明らかになるシーインの労働問題

ストーリー|2025.03.11

11歳と15歳の児童労働も。上場に向けて明らかになるシーインの労働問題

150カ国で展開し、この10年で世界有数のグローバルブランドに急成長したシーイン。ロンドンでの株式公開に向けて準備をしているが、「2000円のワンピース」の裏にある労働問題や素材調達についてさまざまな不都合な真実が明らかになっている。さらに「トランプ関税」のスタートによって逆風も吹きそうだ。

 

原稿:上杉沙樹 写真:pixabay

Share :
  • URLをコピーしました

中国格安EC「シーイン」とは?

中国発のファストファッションブランド「シーイン」(Shift C評価:他の選択を)は、2008年に「南京希音電子商務」として創業。ブランド名「シーイン」は、漢字で「希音」と表記され、中国語で「希望の音」を意味する。当初はアメリカの顧客向けに比較的安く買えるウェディングドレスのオンライン販売を手がけていたが、その後商品の幅を広げ、メーカーから顧客に直接販売するD2Cアパレル事業へと転換し、2015年に現在の「シーイン(SHEIN)」へとリブランドされた。

シーインの強みは、サプライチェーンの徹底的な最適化とオンライン販売への特化による低価格戦略にある。AIを活用したトレンド分析や100枚程度からの小ロット生産による在庫リスクの抑制、インフルエンサーマーケティングなど、デジタル時代に対応したビジネスモデルを構築し、トレンドをおさえたデザインのアイテムを低価格で提供することで、10代、20代を中心に圧倒的な支持を得ている。

2020年12月には日本語版ECサイトをローンチし、2022年11月には東京・原宿に実店舗をオープンするなど、日本市場への進出も加速している。アプリの利用者数は2024年1月時点で839万人に達し、ZOZOTOWNを凌駕する勢いだ。

再び指摘された児童労働。上場審査の過程で明らかになるシーインの労働問題

そんな急成長を遂げている同社は、2024年にロンドンでの上場申請を行った。その審査過程で、これまでもたびたび問題になったシーインのサプライチェーンの実態が明らかになりつつある。

最新の報告では、中国を拠点とする製造委託先の工場に対する監査の結果、児童労働の事例が2件見つかった。これは、超党派の議員グループが工場への監査を求めたなかで発覚したもので 1件は11歳、もう1件は15歳の子供が関与していたとされている。シーインはこれらの事例を児童労働と正式に認定し、サプライヤーとの取引を直ちに停止したと発表した。また、2023年には約28万5000人、2024年には約31万7000人の労働者を対象に監査を実施しており、今後も児童労働に対して厳格な姿勢で臨むと表明している。

工場の監査を強化するとシーインは語っているが、今年1月のBBCの取材では別の実態が明らかになった。BBCはウルトラファストファッション大手の衣料品の多くが生産されている中国広州の番禺村(通称「シーイン村」)に数日滞在して、工場の状況を詳しく調べている。

シーインの特徴は何といっても、類をみない大量生産を驚くべき速さで行うシステムだ。企画から販売までに必要な日数は最短3日といわれ、レディースだけで1日に3000点のアイテムを生産するという。これを支えているのが、番禺村などの縫製工場の労働者たちだ。村の通りにはずらりと掲示板が並んでおり、チノパンやジャケットなどその時必要とされている作業別に、日雇いの労働者を募集している。

「朝の9時から夜の9時まで、週6日働いています」
この村で取材に答えたある労働者はこう語っている。ここでは中国の労働法に反して、週75時間労働も当たり前になっている。報酬は作った枚数で決まり、Tシャツであれば1枚1ドル未満だという。

また上場にあたっては、ウイグル族の強制労働が指摘される中国産のコットンの使用も問題となっている。アメリカは新疆ウイグル自治区産のコットンを使った製品の輸入を禁止しており、シーインもアメリカで販売している製品にウイグルコットンは使用していないとしている。しかし、イギリスでも同じルールをとるかどうかは明言を避けたという。

トランプ関税によって揺らぐシーインのビジネスモデル

上場を巡ってヨーロッパでブランドの在り方を問われているシーインだが、最大市場であるアメリカからも大きな波を受けそうだ。それがトランプ政権の中国製品の輸入に対する規制強化、トランプ関税だ。

SHEINはコロナ禍においてアメリカで急拡大し、最もダウンロードされているショッピングアプリの1つとなった。アメリカでは800ドル(約12万円)以下の小規模な輸入は無関税で、中国の工場から直接消費者に格安の商品を送るシーインは、この恩恵をうけてきたのだ。しかしトランプ大統領が2月初めに、中国からの輸入品に対して10%の関税を課し、この800ドル以下の免税も中止する法令に署名した(後に現場の対応のため一時的に延期)。

朝日新聞の現地取材によると、シーイン村で10人の従業員を抱える工場経営者の男性は「今年に入ってシーインからの発注が急にゼロになった。去年は発注が止まらなかったのに」と関税の影響の大きさを語った。

さらに、EUでも2月5日に少額輸入品に対する免税廃止が提案されており、影響は広範囲に及ぶことが予想される。

わずか数年でファッション業界の中心に躍り出た「シーイン」。  しかし、今までの安さと速さをキープしていくことは、トランプ政権による関税政策や、IPOの厳しい監査の目などを経て困難になりつつあるのかもしれない。

Share :
  • URLをコピーしました

Ranking ウィークリーランキング (2025.03.05〜03.12)

Instagram Follow us