この世界には、どれくらいの服があるのでしょうか。
少しでも気を抜くと増えてしまう、服。わたし一人のクローゼットでさえこの状態なのだから、これが世界の色々な国で暮らすひとりひとりの部屋で起こっているとしたら。一度は身につけた自分を想像してうきうきしたことがある服の、今となっては渦巻くようなこの圧倒的な生地や色や質感の洪水は、人間が地球上に生み出し、所有した(そしてのちに手放すことになる)「モノ」としてどんな意味があるのでしょうか。
Shift C ブログ(元エディターズコラム)を書きはじめてちょうど1年が経ちます。この間、どうしたら服とうまく付き合っていけるかを、なるべく個人的な体験を交えながら書いてきましたが、今回は薄目で俯瞰するように、地球上でどのくらいの量の服がどんな動きをしているのか、考えてみたいと思います。
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過去20年間で倍になった、服の量
こちらのストーリーにデータやグラフが詳しく載っていますが、世界の繊維生産量は過去20年間でほぼ倍に。今ではなんと1500億着の服が、毎年毎年作られています。人口も増加しているとはいえそこまでは増えていませんので、これはファストファッションの登場で、消費スピードがあがったことが要因と言っていいでしょう。これでは、意識して買う量を抑えないと、収納力が劇的に伸びたわけでもないクローゼットに服が入りきらなくなってもまったく不思議ではありません。
さて、作る服の量は倍になりましたが、少し時間を巻き戻して、その服は何から作られているのでしょうか?新しい服は、その54%が石油から、その他は綿やウールなどから作られています。なお、服からへのリサイクルは、1%とまだほとんど行われていません。
今度は時間を早送り。クローゼットに留めておくわけにもいかず、手放すことになった服はどうなるのでしょうか。国内で手放された服は、多くの資源を費やしてつくったとはいえ、その66%がゴミとして燃やされるか埋立地行きとなります。残りの34%は防音材などにダウンサイクルされたり、海外に中古衣料として送られます。世界規模では、海外に自国で不要になった中古衣料を送ることで送り先の自然環境や経済に悪影響を及ぼしていることが報告されており、他国にゴミを押し付ける「廃棄物植民地主義」という問題を引き起こしています。
つまるところ、原料の調達も、手放し方も、地球規模で見るとわたしたちは、なんだかいまいち上手にできていないようなのです。服由来のリサイクル素材の使用など素晴らしい希望の見える取り組みは多くありますが、倍増という圧倒的な生産量には、いまだ太刀打ちできていないのが現状です。
一方通行の電車
地球の資源である石油や綿などの原料を採掘・栽培し、服を作り、服を着て、役割を終えたものを捨てる。
大まかな状況を掴むために細かい事情は一旦置いておきますが、現状を電車に例えてみると、イメージが沸くかもしれません。資源の調達を始発、燃やされたり捨てられるところを終点とすると、この電車は線路を一方通行で運行しています。その始発駅から終点までかかる時間(運行速度)は20年前に比べて半分に、列車の頻度はなんと倍になりました。
その結果、駅の周りではどんな風景が広がっていると思いますか?始発駅周辺では地上も地下も資源が枯渇し、終点の駅では今日もどんどん運ばれてくるごみが積み上がっています。終点の駅でごみの山に積み上げず、他の用途のために持っていくものもありますが、始発駅に戻るものはほとんどありません。
電車をスローダウンさせるには
気の滅入る話をここまで読んでくださってありがとうございます。それでは私たちはどうすればいいのでしょうか。はたしてこの超スーパーエクスプレス列車をスローダウンし、キャベツ畑の中をのんびり走る銚子電鉄並に速度と頻度をおとすことはできるのでしょうか。
もしかしたら、「もう服は買いたくない」と思う方もいるかもしれません。しばらくは買わずにも生きていけるでしょうが、そうも言っていられません(あまり我慢しすぎると、反動でたくさん買ってしまうなんて人も・・・筆者では決してありません)。そこで、服を売る立場にも関わらず過剰消費に警笛をならしていた故ビビアン・ウエストウッドは「buy less, choose well, make it last(買う量を減らし、よく選び、長持ちさせること)」をすすめました。
予算倍増頻度半減チャレンジ
具体的には、例えば今まで月に5千円の服を2枚買っていたのであれば、これからは同じ期間に1万円の服を1枚買うようにするということです。年間の服にかける予算が同じだとすれば、1着にかけられる金額は上がります。20年前に戻り、今の倍の価格の服を、今までの半分の頻度で買うのです。良いものを買うのですから、よく選び、手入れをして長く着るようにもなるでしょう。
お給料が増えたわけでもないのに、今までよりも良い服が買えるトリック。我慢はほどほどに、でも確実に電車の速度と頻度を落とす行動をとってみませんか?
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本記事は日本のユーザーの方のために、「多様で、健康的なファッション産業をつくる」ことをミッションに活動する一般社団法人unistepsが執筆しています。