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デッドストックの素材を、輝くジュエリーへと生まれ変わらせる
デッドストックのストーンやアコヤパールといった素材を活用し、個性的で洗練された、唯一無二の輝きを放つジュエリーを生み出すブランド、「Adlin Hue(アドリンヒュー)」。
デザイナーの安部真理子さんが資源を活用したジュエリーに着目したのは、ファッション業界での経験がきっかけだったという。ジュエリーに使用される貴金属や宝石がリサイクル可能で、品質がほとんど損なわれない循環可能な素材であることに魅力を感じ、ジュエリーブランドの立ち上げを決意したという。
「金や銀は簡単に捨てられることなく適切に再利用されますし、石もリサイクルすることで新たな価値を見出せます。この循環の可能性に魅力を感じ、ジュエリーブランドを立ち上げました。」
まず、2021年12月にファインジュエリーブランド「sharanpoi(シャランポワ)」を立ち上げた。このブランドでは、主に古い宝石から取り外したダイヤやルビーなどの貴石と、日本やアジアの伝統工芸を組み合わせ、18金を基調としたファインジュエリーを展開している。
背景には、日本のジュエリー市場が抱える課題があった。古いジュエリーに使用されている宝石は、その価値が十分に評価されず、低価格で取引されることが多いという。その結果、多くの石が海外バイヤーの手に渡り、国内から流出しているのが現状だ。
この問題に対し、安部さんは「国内に眠るデッドストックの石や素材を掘り起こし、それらをジュエリーとして蘇らせることで、新たな価値を生み出したい」という強い想いを抱き、sharanpoiをスタートさせた。
一方で、安部さんにはもう一つの懸念があった。それは、アフリカの採掘現場で起きている労働問題や環境破壊だ。特に採掘現場の透明性が不明なことから、新たに採掘される石を使用することには慎重にならざるを得ないという。
「現場の透明性がわからない以上、新しい石を使うのではなく、地球上に既に存在する資源を活用する方法を考えるべきだと感じました。」
これらの想いを形にするため、2022年7月、新たなジュエリーブランド「Adlin Hue」をローンチ。デッドストックの石や素材を活用し、シルバーを基調とした幅広いスタイルのジュエリーを展開している。
この取り組みは、デッドストックの素材に新たな価値を吹き込むだけでなく、国内にまだ眠るジュエリーの可能性を見出すことにも繋がっている。
「Adlin Hueを始めてしばらくしてから、日本国内にはまだ大量のデッドストックが眠っていることを知りました。特にバブル期に大量に仕入れられた原石が、ドラム缶いっぱいに詰まったまま放置されているケースもあります。ジュエリーにも流行があるので、新しい石が注目されがちですが、こうした未使用の石を掘り起こし、新たな価値を生み出していけたらと思っています。」
こうした想いから、Adlin Hueは「地球上に既に存在する資源の活用」をブランドの基本理念に掲げ、サステナブルで価値あるジュエリーの製作に取り組んでいる。
見過ごされてきた素材に、新たな価値を
Adlin Hueのジュエリーには、安部さんの素材へのゆるぎないこだわりが息づいている。
例えば、パール。一般的には真っ白で均一な形状のものが高く評価される一方で、Adlin Hueでは、廃棄される運命にあったパールを使用している。そこには、「見落とされがちな素材にも新たな価値を見出し、独自の美しさがあることを伝えたい」という安部さんの想いがある。
「形の不揃いなバロックパールの中でも、傷や黒いシミが理由で廃棄されるものが多いですが、私はその不完全さにこそ個性や魅力があると感じています。」
こうした思いから、廃棄予定のパールを生産者から直接仕入れ、その個性を活かしたジュエリーを生み出している。捨てられてしまうものを単なる“素材”としてではなく、新たな“価値”として蘇らせる。これが、Adlin Hueのものづくりの根幹だ。
また、安部さんが特に惹かれる素材のひとつが、甲府の宝石研磨職人よる「かっこみ」という技法で作られた水晶だという。
「通常、磨かれていない水晶は価値が低いとされがちですが、不揃いな形状が生み出す表情豊かな輝きは、宝石として新たな魅力を感じさせてくれます。一つひとつ異なるカットや形状の石を使うことで、独自の表現を追求しています。」
さらに、地金にはインドの工房と協力し、リサイクルを実現したシルバー925を使用。環境への配慮とオリジナリティを両立させたジュエリーを生み出すことを目指している。
「シルバーは削りカスや粉末になると再利用が難しいので、多くの工房で廃棄されることが少なくありません。でも、インドの工場ではこうしたシルバーを再利用し、廃棄を減らす取り組みを進めています。」
一点物のジュエリーができるまで
Adlin Hueのジュエリーは、一つひとつが個性的で特別な存在感を放っている。
その独特な魅力は、デザインの発想から製作の細部に至るまで、安部さん自身の経験やセンス、そしてインドの職人たちの技術が融合して生まれている。この神秘的な美しさを放つジュエリーは、どのように作られているのだろうか。
「Adlin Hueのジュエリーは、石そのものが主役なんです。まず気に入った石を購入して、じっくり観察しながら、その形や色の魅力を最大限に引き出すデザインを考えます。時には原石からカットすることもありますが、基本的には『この石をどうやって可愛く見せるか』を追求します。」
石を主役として捉え、その特徴を存分に活かしたデザインを考えるからこそ、石そのものの美しさが引き立つのだという。
デザインが決まると、一つひとつの石に合わせた型を製作。インドのジャイプールにある工場で、職人たちが石留めや細かいセッティングを手作業で行う。ジャイプールは世界中から石が集まる場所であり、ジュエリー生産の中心地。この地で、安部さんは8年以上にわたって信頼関係を築いてきた。
「インドの職人さんたちは、独自の技術と文化を持っているので、継続的に発注し、約束を守り続けることで関係を深めてきました。日本の厳しい基準を押し付けるのではなく、彼らの個性や文化を尊重することで、より良い関係を築くことができました。」
インドは、世界一のジュエリー生産国。職人の技術が高いため、大量生産ではなく、それぞれの石に合わせたジュエリー製作が可能。また、インドではCAD(コンピュータ支援設計)の技術が進んでおり、ジュエリー製作においても、一つひとつの型をデータで精密に設計することができる。
手作業では膨大な時間がかかる工程も効率化できることで、高コストになりがちな一点物のジュエリーも、手の届く価格で提供できる仕組みが整っているのだという。
「私はインドの職人さんが手がける、メレダイヤの繊細なパヴェ留め*が大好きなんです。日本ではしっかりとした爪でダイヤを固定するので、ダイヤの一部が隠れてしまうことが多いのですが、インドでは極小の爪を使って、ふわっと軽やかに仕上げてくれます。これによって、ダイヤの輝きを最大限に引き出してくれるんです。これは、インドで制作する大きなメリットでもありますね。」
*多数の小さな宝石をぎっしりと敷き詰め、互いに密着させてはめ込む石留めの方式のこと
ジュエリー製作を通じて描く、幸せの循環
Adlin Hueがブランドとして大切にしていること。それは、「ジュエリーを作る過程と利益が循環し、すべての関係者に幸せをもたらすこと」だと安部さんは教えてくれた。
「素材選びでは、環境への負荷を最小限に抑えることを心がけています。そして、生産者には敬意を払い、彼らが幸せに働ける環境を作ることが大切だと考えています。私たちの取り組みやデッドストックの活用に共感し、ジュエリーを手にとってくださるお客様がいることで、価値観が自然と広がり、製品がその方の生活の一部になっていく。その循環がとても嬉しいんです。」
さらに、安部さんはこの取り組みがAdlin Hueだけでなく、多くのブランドに広がることを願っているとも語る。デザインやスタイルは違っても、共通して循環の仕組みを持つことで、社会全体にポジティブな変化をもたらすことができるからだ。
「いずれは、インドに就業支援施設を作りたいとも考えています。現地のジュエリーの生産現場は危険な環境も多く、女性が関わる機会がほとんどないのが現状です。困難な状況にいる女性たちが安心して働ける場を提供できれば、私たちのジュエリーがその一端を担える。そんな循環を実現していきたいと思っています。」
Adlin Hue(atelier salon)
〒107-0062 東京都港区南青山 4丁目10-12 VICOLO102
営業時間 / 木曜日-土曜日 12:00-19:00(事前予約必須)
日曜日 12:00-19:00(フリー入店可能)
HP:https://adlinhue.com/
Instagram:https://www.instagram.com/adlinhue/