エディターズコラム|2024.09.10

「また同じ服」は悪いこと?

サステナブルなクローゼットにしたいと思ったときに誰もが通るのが、何着服を持っているのが適正なのか?ということ。ミニマルなクローゼットに憧れる人もいれば、同じ服を何度も着ることに抵抗のある人も多いのではないだろうか。毎日同じ服を着たらどうなるのか、unistepsメンバーがほぼ毎日同じ服を2か月着続けた続けて感じた変化とは?

原稿:一般社団法人unisteps

Share :
  • URLをコピーしました

「ユカって、物持ちいいよね。」

5年以上にもわたって夏になるといつも着ている、とても風通しの良いイエローのワンピースを指して古い友人Aにそう言われた時、一瞬「それ、もう着るのやめれば?」ってこと?と勘ぐってしまった筆者。

実際にはそんな遠回りな指摘をする間柄ではなく、ピュアで真っ直ぐなアーティストである彼女は単に観察して思ったことをそのまま言っただけなのですが、それが悪口のように捉えられることもあると思い、その背景を考えてみたくなりました。

友人Aのように単純に気づいたことを言っただけのことも多いとはいえ、いつも同じ服と言われることがマイナスなニュアンスを含むことも一般的にはあります。今回はそのマイナスパターンの「また同じ服着てるね」コメントについて掘り下げてみます。

「おしゃれな人」とは?

好み、年代や価値観によって大いに差がある「おしゃれな人」の定義。

一般的におしゃれな人といえば、自己表現が上手い、センスとバランス感覚が良い、スタイリングに工夫がある、適度なトレンド感と清潔感があるなど、いろいろな要素が挙げられます。

そして、この「いつも同じ服を着ていることはおしゃれではない」というコメントの背景にあるのは、「おしゃれな人」=「たくさんの服を持っていて、毎日違うコーディネートを楽しんでいる人」という定義なのかもしれません。

それも一つのあり方ですが、必ずしもそれだけがおしゃれの正解ではありません。実際、社内のメンバー数人(30-40代の女性)とこのテーマで話したところ、例えば10−20代のころはクローゼットに収まらないくらいたくさんの服を買っていたけれど、今ではワンシーズン上下3着ずつなど最低限の量を着回すスタイルに落ち着いたなど、多くの服を持つというよりは少しの服と自分との関係性を強化する方に興味が向いているようです。そんなメンバーからは「また同じ服着てますね」と言われても「そうですが何か(キリッ)」と返しそうなほど、自信と魅力に溢れたパワーを感じます。

何もいつも同じ服を着ていたスティーブ・ジョブスを目指そうと言っているのではありません。ただ、おしゃれな人イコール衣裳持ちとは限らないという考えのもと、皆さんもぜひ一度、自分が思う「おしゃれさん」はどんな人なのか、周りの素敵な人を思い浮かべながら考え、自分なりの適正量を探ってみてくださいね。

1.5℃目標のためのサステナブルなアイテム数=74

適正量という言葉が出てきましたが、わたしたちは一体どれくらいの量の服を持つことで豊かになれるのでしょうか?

2022年に発表されたレポート*では、ファッション産業が排出する温室効果ガスを全産業の4%と保守的に見積もったうえで、パリ協定で掲げられた1.5度目標に整合する生産と消費スピードを割り出した結果、ひとりあたり74着を持つのがサステナブルな水準という結果が出てきました。なお、イギリスでは一人あたり平均118点服や下着を所有しているというデータがありますので、ファッションという営みを持続可能にするためには、今よりも大幅に服の量を減らす必要がありそうです。個人のライフスタイルやファッション感度とは関係のないところで導かれた74という数字ですが、サイズダウンの目安として目標にするのもいいかもしれません。

少ない服を着回すと得られる効果

実は筆者は数年前に、平日ほぼ毎日同じ服を着たらどんな気持ちになるのか?を実験してみたことがあります。ちょうど、クローゼットのサイズダウンに興味がで始めた頃です。ウエストがドローストリングになっていて調節できる長袖シャツワンピを制服と勝手に定め、2日着て1日洗う、また2日着る(夏場だと洗濯頻度が高くなるので、秋冬にお勧めします)、そして週末は違うコーディネートというサイクルを2ヶ月間繰り返しました。

気になる実験結果ですが、特に劇的な変化や結果につながったわけではありません。

普通に、できてしまったのです。特に苦労も我慢もなく。(なんだかすみません)

とは言いつつ、この実験による1番の収穫は、新しい服を高い頻度で買うことにあまり興味がなくなったことです。制服自体が好きな形であることが前提条件ですが、自分は、少ないものでも慣れれば心理的に満たされることができる人間なのだと、実証できたことが嬉しかったのを覚えています。

他にもこの実験によって得られたことはいくつかあって、まず、期間中は毎朝「何着よう」と考えることがなくなり余裕が出ました。また、同じ服でもうきうきするような小物使いやアクセを考えることが多くなりました。ハットをかぶる、アクセサリーを投入する、思い切った赤いリップを塗るなど、持っていたけれど今までいまいち活かしきれていなかった小物類が急に回転率を上げはじめ、小物使いのスキルが上がりました。

同じ服を着るという制限をかけてみてはじめて、自分の大切にしたいこと、特に大切ではないこと、ワクワクすることや煩わしく感じることがわかった貴重な2ヶ月間だったと思います。

「最近あればっかり着てる」と言われたかどうかは定かではありませんが、また、毎日洗濯をする必要がない涼しい季節になったら制服化を実行して、自分自身にどんな気づきがあるのかを探ってみたいと思います。

本記事は日本のユーザーの方のために、「多様で、健康的なファッション産業をつくる」ことをミッションに活動する一般社団法人unistepsが執筆しています。

*“Unfit, unfair, unfashionable” by Hot or Cool Institute
https://hotorcool.org/unfit-unfair-unfashionable

Share :
  • URLをコピーしました

Learning他の記事を読む

絞り込み検索