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ニュース|2024.09.05

【データでわかるサステナブルファッション③】ファッションと労働者の人権

「地球」「人間」「動物」の3軸でブランドを評価するShift Cと並んでファッション産業の透明性向上を目指す「FASHION REVOLUTION」。このグローバルな運動から今のファッション業界が抱える課題を紐解いていこう。第3回目は、ファッションと労働問題について。

原稿:有川真理子 協力:unisteps 写真:O-DAN

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現代奴隷」は世界に約5000万人

「現代奴隷」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

「教科書で奴隷の歴史は習ったことがあるが、昔の話ではないの?」と思う人も多いかもしれない。しかし、その名の通り、現代においても、まるで奴隷のように働かされている人たちがいる。

「現代奴隷」とは、暴力や脅迫などによって本人の意思に反して無理やり働かされる「強制労働」と同意なく結婚をさせられる「強制結婚」をあわせた総称でその数は世界で約5000万人にものぼる*1。つまり160人に一人は現代奴隷状態にある。さらに残念なことに、昨今、新型コロナウイルスの影響などもあり5年前よりも約930万人増加している*2。

ファッション業界も無関係ではない。第1回の冒頭でも紹介した、バングラディッシュのラナ・プラザビル崩壊事故のように、原材料の生産、紡績、縫製段階で強制労働が行われていることもある。

人権デューディリジェンス進む一方、実行方法は未だ不透明

ラナ・プラザビルの事故以降、ファッション業界も労働者の人権問題に積極的に取り組んできた。

特に、近年、人権デューディリジェンスと呼ばれる取り組みが進んでいる。これは、まずは人権方針を策定し、経営の中に人権尊重を組み込んだ上で、企業活動における人権への悪影響を予め特定し、予防・軽減。問題が生じた場合は改善をはかり、情報公開を行うというこれら一連のプロセスを意味する*3。

人権問題は、どんなに環境整備をしても問題を絶対に発生させないというのは難しい。だからこそ、このプロセスを続けていくことが重要になる。

Fashion Transparency Index2023の調査によると、調査対象になったブランドのうち、人権デューディリジェンスに取り組むファッションブランドは68%。7割近くのブランドが取り組んでいる。

環境デューディリジェンスよりも人権デューディリジェンスに取り組むブランドが多かった理由としては、人権分野では国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)など情報開示に関する手法やポイントがわかりやすく示されているものの、環境分野は議論段階にあること。また、人権問題はブランドイメージに直結しやすいため、優先的に取り組んだブランドが多かったからではないか、と調査担当者は分析している。

出典:Fashion Transparency Index2023

いずれにしても両デューディリジェンスに取り組む割合は前年よりも増加しており*4、その背景にはEUの企業に向けた二つの政策の実施がある。

一つ目は人権だけではなく環境も含めたデューディリジェンス(悪影響の特定・防止・是正・報告)を義務付けるコーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive(CSDDD))、もう一つは取り組みの内容の透明性と情報開示を義務付けるコーポレート・サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive(CSRD))だ*5。

ただ、課題もある。
労働・休憩時間の確保、児童労働や強制・拘束労働の禁止についてのポリシー(政策)の公開割合に比べ、実行方法の公開は軒並み少ない。いくらポリシーがあっても実行方法、さらにはその結果が公開されていかなければ絵に描いた餅になってしまう。今後の改善が期待される点だ。

出典:Fashion Transparency Index2023

生活賃金の支払いをしている労働者数の公開はわずか1%

出典:Fashion Transparency Index2023

生活賃金という言葉を聞いたことがあるだろうか。国などが定める「最低賃金」とは別で、家族と共に食べ物や服などを買い、教育や医療などへの支払いもできる生活を営むに足る金額を「生活賃金」と言う。

最近はインフレの影響もあり、最低賃金では暮らしていけない人が世界的に増えている。世界では10億人もの人々が生活賃金を得られず、厳しい暮らしを強いられているとされ、これは国際労働機関(ILO)の統計上の労働者数の3分の1に該当するという*6。

Fashion Transparency Index2023の調査によると、生活賃金を支払っている労働者の数を公表しているブランドはわずか1%。多くの製品を生産するブランドにとって、複雑なサプライチェーン上で働く人の支払い状況を把握することが容易でないことは想像に難くないが、取り組みは遅々として進んでいない。

生活賃金を求めることは世界人権宣言25条にある、衣食住、医療がゆきとどいた生活を営む権利を実現するという観点から、労働者にとって重要な権利といえる。服をつくる人が安心して暮らせるよう、生活賃金がスタンダードになることを期待してやまない。

外国人実習生問題とファッション

法務省入国管理局報道発表資料もとにUnisteps作図

日本に特化した労働者の人権問題もある。メディアでも話題になっている技能実習生の問題だ。技能実習生に対する長時間労働や賃金の不払い、パワハラやセクハラなど問題は深刻だ。

調査によると、技能実習生約39万人の内、繊維産業に従事している人の割合は8.7%であるにも関わらず、法令違反の件数は44%と全業種の中で最も多い割合を占めている*7。

要因の一つに日本の繊維産業の衰退がある。90年代初頭まで約8兆円あった繊維製品出荷額は2010年代には約2兆円にまで減少。これに伴い、従業員数も90年代初頭は60万人前後だったが、2010年代以降は10万人程度になり、その後も減少を続けている*8。その結果、技能実習生は繊維産業における重要な労働力となってきた。

繊維産業は小規模事業者が多く、労働条件の改善が進みにくいといった状況もある*9。本来であれば十分な賃金を支払うべきだが、第1回で紹介したように、服の平均価格は下落しておりその皺寄せが技能実習生にいっているというわけだ。

しかし、だからといって技能実習生に負担を強いる理由にはならない。そもそも技能実習制度は単なる労働力の確保ではなく技術の習得を目的としている。ましてや不正行為はあっては決してあってはならない事態だ。

私たちを楽しませてくれる服をつくり出す人たちが、心身に辛さを感じたり、安心して家族と暮らしていけないようでは、服を着る私たちも心からファッションを楽しむことは難しい。

服をつくる人たちも幸せであることを願って、各ブランドが労働者の人権にどう取り組んでいるのか注目していくことが重要だ。

*1 国際労働機関(ILO)、国際人権団体「ウォークフリー」と国際移住機関(IOM), Global Estimates of Modern Slavery: Forced Labour and Forced Marriage, 2022, p1

*2 同上, p21。2016年は4030万人だったが2021年には4960万人となった。

*3 外務省、ビジネスと人権に関する指導原則:国連「保護、尊重及び救済」枠組みの実施(仮訳)

*4 2022年の調査では人権デューディリジェンスに取り組むブランドは61%、環境デューディリジェンスに取り組むブランドは39%だった。Fashion Transparency Index 2022, p71

*5 コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive(CSDDD))は2024年6月に企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive(CSRD)は2023年1月に発効

*6 「FORWARD FASTER 生活賃金 アクション・ガイド」United Nations Global Compact, 2023, p2

*8 経済産業省, ファッションの未来に関する報告書, 2022, p149

*9 東洋経済、外国人を不当にこき使う繊維・衣服産業の疲弊、兵頭 輝夏、2019 
30人以下の工場が9割以上を占める。

*7 法務省入国管理局報道発表資料, 2018

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