※この記事は、Fashion’s Footprint In Our Forestsを一部抜粋し、日本語訳したものです。
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ファッション産業が森林に及ぼす隠れた影響
ファッションが森林に与える影響は、少なくとも農業などの影響ほどは明らかではない。リサイクルや動物福祉などのわかりやすい課題と比べて、サプライチェーンが不透明であることや、消費者からの改善要求が少ないことを理由に森の問題に取り組まないブランドや協会もある。しかし、ファッションが依存する原材料の多くは、植物やそのパルプから作られており、ファッションと森林は本質的に結びついているのである。
実は、ファッションに使用される原材料の多くは、植物やパルプから作られている。例えば、綿はプランテーション、レザーは牛の放牧のために森を開拓している。ファッションパクトは、「ファッション素材の大部分は、森林破壊地域内またはその近くで調達されている」と示唆している。ファッションと森林は本質的に結びついているのだ。
ファストファッションのために伐採される木々
2024年4月、NGOのアースサイトはブラジルのセラード地域での綿花生産に関する1年間の調査の結果を明らかにした。生物多様性に富んだこの地域では、2023年には森林破壊が43%増加した。報告書は、綿花生産に関連した違法な森林破壊、土地の強奪、暴力が蔓延しており、H&Mやザラの親会社である大手メーカーインディテックスのサプライヤーがこのような生産背景の綿花の大部分を輸出していることを明らかにした。「大豆や牛肉がブラジルの森林に何をもたらしたかは誰もが知っているが、綿花の影響はほとんど注目されてこなかった。しかし、この数十年間で綿花の収穫が急増し、環境災害となっている」とアースサイトのディレクター、サム・ローソンは述べた。
綿花生産がここ数十年でより利益を生むようになったのは、皮肉なことにファストファッションと過剰消費のおかげでもある。私たちはかつてないほど多くの衣服を購入しており、それらの素材はどこかから調達しなければならないからだ。WWFは、繊維製品の半分は綿花から作られていると推定している。綿花の需要が高まるにつれ、綿花を栽培するために土地を開墾する動機も高まり、違法な場合でも行われやすくなってしまう。
単一栽培のために土地を伐採すると何が起こるか
綿花栽培や人工セルロース繊維生産用の樹木など、プランテーションを作るために土地が整地されると、さまざまな植物やあらゆる種類の生物が生息する豊かな森林は、材料生産に利用するためにできるだけ早く成長させられる単一の植物や樹種の列へと姿を化す。これらは単一栽培と呼ばれ、生物多様性にとって悪影響を及ぼす。
大量消費に応えるこの形態の大量農業は土壌浸食を招き、単一植物種の広大な地域は昆虫に弱いため、有害な農薬を使用を加速させる。自然の生息地を奪われた在来種は繁栄する場所がなくなるため、単一栽培の土地では生物多様性が著しく減少する。
環境団体キャノピーが説明しているように、これらの森林が古いものである場合、影響はさらに深刻だ。「数百年、数千年にわたって維持されてきたシステムが破壊され、それが波及効果をもたらし、動植物、さらには土壌のミネラル含有量や川の流れにまで影響を及ぼす。場合によっては、生物多様性や野生生物の豊かさが劇的に失われ、絶滅危惧種の地域的絶滅につながることもある。また、森を故郷とし、森の動植物に食料や生計を依存している人々が移住を余儀なくされる可能性もある」。
森林破壊における人工セルロース繊維の役割
ビスコース、リヨセル、モダールなどの人工セルロース繊維(MMCF)は、溶解した木材パルプから作られているため、原材料として木に依存している。そのためキャノピーは、ファッションアパレル用のMMCFを製造するために、毎年約3億本の木が伐採されていると推定している。
その需要の影響は憂慮すべきものだ。ファッション・フォー・グッドは、ビスコース用の木材の約30%が絶滅危惧森林から調達されていると示唆しており、グリーンピースの2023年の報告書は、世界最大のパルプ会社の1つと、ボルネオオランウータンなどの絶滅危惧種が生息する熱帯雨林の森林破壊との関連を強調した。一方、木材パルプ用の単一栽培プランテーションによって先住民コミュニティの土地が破壊または劣化しているという証拠もあり、マッキンゼーが述べているように、「プロセスが100%クローズドループでない限り、プランテーション林やパルプ加工中に使用される化学物質による水と土壌の汚染は、生息地の喪失を促進し、種を絶滅の危機にさらす」。
レザーが森林を劣化させる仕組み
多くのレザー生産者は、レザーが食肉産業の副産物であるため、牛の飼育や森林の牧草地への転換には関与していないと主張してきた。しかし、これは完全に真実ではない。レザーは現在、重要な収益源であり、需要のある副産物となっているからだ。つまり、なめし革工場、サプライヤー、ブランドは、購買力を利用して、牛の飼育と森林破壊との関連に影響を与えうるのだ。
NPO団体テキスタイル・エクスチェンジによると、レザーが森林破壊フリーであることを保証するために消費者からブランドへの圧力が高まっている。それにも関わらず、「ブランドは、サプライヤーと関与して、サプライチェーンをマッピングし、原材料の供給元を特定することはおろか、対策を講じることも難しいと感じている」。この継続的な課題は、ガーディアン紙の2021年のレポートで実証されており、ザラやナイキを含む少なくとも50のブランドが、間接的なサプライヤーであると主張する企業を通じて、アマゾンの森林破壊への関与が知られているレザー輸出業者と、サプライチェーンで繋がっていた。これは、サプライチェーン全体で完全な透明性が緊急に必要であることを浮き彫りにした。
森林破壊を阻止するために業界の取り組み
このような大規模な問題に対して何をすべきか途方に暮れてしまう。しかし、状況を改善しようと取り組んでいる人々や組織がある。
Shift Cのデータベース元であるGood On Youでは森林への影響もブランドの評価対象としている。アナリストは、レザー、ゴム、金属、貴石、MMCF など、森林破壊に関連する生地の使用による森林破壊を回避または最小限に抑えるためにブランドが講じている措置を考慮する。また、ブランドには、森林伐採のリスクのあるすべての繊維に関する方針と、その実施のための明確な戦略を求めている。業界の他の分野では、テキスタイル・エクスチェンジとレザー・ワーキング・グループが提携して、森林破壊のないレザーのための行動喚起(Call to Action for Leather)を作成した。これは、ブランドに対し、2030年までに、森林破壊や土地転換のないサプライチェーンからの牛皮の調達を約束することを要請している。このプログラムでは、ブランドに対し、先住民や地域社会の権利を含む、革のサプライチェーン全体での人権尊重を約束することも求めている。
一方、キャノピーは絶滅危惧種と消滅しつつある森林に焦点を当てており、これらの問題についてブランドと連携するキャノピースタイルキャンペーンを立ち上げた。このプログラムは、繊維廃棄物や農業廃棄物などの木材パルプを使用しないMMCF生産の次世代への解決法の推進と開発も目指している。キャノピーはまた、世界のビスコース生産者に、サプライチェーンから古代の森林や絶滅危惧の森林から調達された木材を使わない進捗状況をランク付けし、革新と保全への取り組み方を問う「ホットボタンレポート」も作成している。
結局のところ、健全な地球には健全な森林が必要なのである。森林は数十億トンの二酸化炭素を吸収し、生物多様性を支える上で不可欠であり、降雨量を調節するのに役立つ。だからこそ、ブランドやサプライチェーンの利害関係者が自らの影響に責任を持ち、その影響を減らすよう努め、自らの慣行について透明性を保つことが非常に重要なのだ。