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ストーリー|2024.09.04

回収ボックスのその先に潜入。手放した衣類のたどる道とは?

服の回収が当たり前になりつつある近年、着なくなった服を罪悪感なく手放せるようになった。しかし回収された服の行きつく先を知らないもの。そこで、新人エディターが大阪にある廃棄衣類工場「東谷商店(ひがしたにしょうてん)」を訪問!回収のその先をお届けする。

原稿:上杉沙樹

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廃棄衣類を資源として新たな活用方法を模索する「東谷商店」

歴史と伝統が息づく大阪府の南西、泉州エリア。

ここには毎日1トンの古着が運び込まれている。その内訳は、売れ残った在庫品、ファッションブランドや自治体による回収品だ。これら全国から運び込まれた古着を70〜80種類に分類し、古着屋への販売や海外への輸出を行っているのが、株式会社東谷商店だ。

見学に来た我々を迎えてくれたのは、三代目社長の東谷正隆(ひがしたに まさたか)さん。一旦は別の会社に就職したものの25歳の時に実家の工場を継ぐと決めた。

反毛機をみせてくれる東谷さん

「繊維や工場への興味は全くなかったけれど、継がないと工場がなくなってしまうなと思って継ぐことを決めました」

当初は、繊維や工場についての知識がほとんどなく、従業員の人に受け入れてもらうのも一苦労だったと語る東谷さん。今では工場長として、数名の従業員たちと毎日朝から晩まで倉庫で作業をしている。工場を訪問した7月、工場の中は35度近くあった。倉庫自体の断熱能力が弱いうえに、繊維が舞うので換気を良くする必要があるが、繊維詰まりによる故障を避けるためにエアコンをつけるのが難しいからだ。

保温効果を高める合成繊維の混紡が、リサイクルを難しくする

実は、国内リユースされる古着はたったの1割。最も多いのは、海外輸出で4〜5割です。輸出先は東南アジアや韓国ですが、最終的な終着点はマレーシアということはわかっています。船で搬入され内地へ移動し販売されるそうですが、”埋め立てていない”という確証はありません。
 また常夏の東南アジア地域に輸出されるということは、現地で需要のない冬服が廃棄になりやすいことを意味します。それならリサイクルすればよいと思うかもしれませんが、ほとんどの衣類は混紡素材なのでそれを難しくしています。」

日本で回収される洋服のうち6割以上は、複数の繊維が複雑に織り交ざってできており、その数は年々増加傾向にある。現在の技術では、異なる素材が組み合わさった複合素材を分離するのが難しく、たとえ分離できたとしても、残った素材を捨てることは避けられないそう。これが、服の循環において単一素材であることが大切な理由だ。

中には廃棄になる古着も多くある。ウエス(拭き取り用の端切れ)にもならない服は、焼却処分場まで自ら運び込む。引き取ってもらうには、服1トンあたり1万円程度のコストがかかるという。

古着をほどいて新しい服を作る

東谷商店では古着を丁寧に分別し、新たなモノづくりも行っている。特に力を入れているのが、素材と色ごとの分別を実践していることだ。

一般的に色の分別まで手が回らないのがリサイクル工場の現状だというが、これがリサイクルの可能性を狭めている。色ごとや素材ごとに丁寧に分別された繊維は、廃棄衣料の色味を生かしたアイテムをつくるTONITOなどに提供される。

またダウン類は羽毛のリサイクルに取り組むグリーンダウンプロジェクトに回されるという。

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そして驚くことに、ここでは“反毛”という、洋服をほどき、繊維の状態に戻す作業を行なっている。原料はウールまたはカシミヤが100%に限定し、反毛機にかけ、新たな生地へと生まれ変わらせている。端切れが機械を通して、ウールになり、ワタになってゆく様子は圧巻だ。ウール100%、またはカシミヤ100%の古着は、反毛すれば何度でも新しい素材に生まれ変わらせることができる。

東谷商店が最近購入した反毛機。手放そうとしていた年配の国内の業者さんから買い取ったそう。50年ものとのこと。

毎日1トンほどの洋服を、70〜80種類の形に選別、そして100%単一素材のカシミヤとウールを抜粋し、さらに色ごとに選別し、細かく裁断して、反毛機にかける。

この膨大な工程を行う理由は、洋服は既に作られすぎていてその多くが捨てられていることへの葛藤が東谷さんの根底にあるからだ。

古着のニットが端切れになり、ほどかれ、ワタになる様子。
古着のウールを反毛して糸にし、その糸で編んだ試作品ニット生地

東谷商店は自社で反毛した繊維を、地域の業者と協力して製品化を試みている。これを実現するためには、一緒に取り組むパートナー企業、そして安定した出荷口が必要だ。この循環への取り組みは始まったばかりで、東谷さんは「メニューがないのに材料ばかり集めているよう」という。

昔は地域で分業して服作りを行っていた。しかし今では日本で流通する98%の洋服が海外産となり、国内のアパレル産業に打撃を与えている。そして着られなくなった後、外国へ輸出されて埋め立てになっている可能性もある。これは資源の無駄であり、とてももったいないことだ。

日本で作られた服を日本で再資源化して、新たな服に生まれ変わらせる。

そのことが可能だということをこの日私は目の当たりにした。そのためには日本でローカルに生産された単一素材の服を選び、長く使い、着られなくなったら、信頼のできるリサイクル工場に送りたい。

工場に行って考えた、今後の洋服の選び方

古着として回収された服はどことなくよれて魅力に欠けるが、繊維にもどると鮮やかでふわふわでとても愛らしい。要は、ごみと捉えるか資源ととらえるかは自分次第なのだ。

また、海外に出ていく古着が半分近いと聞いて、一般的にサステナブルと呼ばれる洋服の店頭回収サービスの終着点について考えさせられた。気に入らなかったら回収ボックスに出せばいい。そんな思考は危うさをはらんでいる。

改めて、本質的にサステナブルなデザインとは、手放す時にゴミにならない服だ。循環しやすい服の生地は、単一素材であること、特にポリウレタン混紡で廃棄率が高くなる冬物や、ニット類の素材選びには気を付けようと心に刻んだ。

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