「多くの貴重な資源を使って服は作られますが、今、捨てられる服のゴミの量も問題となっています。」
と聞いた時、ピンときた方はいますか?
じゃあ、捨てられた服から新しい服をつくればいいんだ!
そうすれば、使う資源の問題も、ゴミの問題も一緒に解決!世界を救う発見をしたかと思いきや、残念ながら、服から服へのリサイクルを実現するには乗り越えなければいけないハードルがいくつかあります。
世界では、現在進行形でそのひとつひとつのハードルを乗り越えるための研究と実験が進んでいます。今がまさに、資源の流れが大きく変わるかもしれない「過渡期」と言ってもいいでしょう。
まず、服から服へのリサイクルにあたって、現時点での主なハードルにはこのようなものがあります。
①回収のハードル
現在、家庭から出る衣類のゴミの68%はそのままゴミ箱に捨てられています(1)。ゴミとして出されてしまえば埋め立てor焼却の運命を辿るのみ。店舗や行政を通じてなんとかリサイクル用の服の回収を増やす必要があります。
②仕分けのハードル
集まった服を、状態と素材ごとに分けていく作業は、多くの場合手で行われています。ベルトコンベアで流れてくる衣服を裏返し、素材が書いてある品質表示をチェックしていく地道な作業で、人件費もかかります。
③副資材のハードル
多くの服には、副資材と呼ばれるボタンやジッパーなどの部品がついています。この部品はリサイクルできないので、リサイクル前に生地から手作業で取り外す必要があります。こちらも仕分けと同じく人件費のかさむ地道な作業となり、結果的にリサイクル素材の価格を押し上げてしまいます。
④混紡繊維のハードル
いま、売られている服の65%は2種類以上の繊維を混ぜて作った混紡素材です(2)。例えばポリエステル35%コットン65%でできたポリコットンと呼ばれる素材など、機能性を高め、価格を抑えるため、多くの服には複数の繊維が使われています。ただ、混ざり合った繊維を分離する技術がないため、混紡になると途端にリサイクルが難しくなります。
このように、服から服のリサイクルにはわたしたち生活者の習慣から、工場での地道な作業、そして混紡繊維の分離技術と、いろいろな観点からのハードルがあります。この解決につながる技術やイニシアチブをいくつか紹介しますね。
Contents
水平リサイクルを可能にする技術革新やイニシアチブ
ポリエステルリサイクルのトップランナー「JEPLAN」
JEPLANは、日本環境設計から社名を改めた企業。もしかしたら、服から燃料を作り、デロリアンを走らせた会社として記憶している方もいるかもしれません(あれは衝撃でした!)(3)。いま、日本でポリエステルからポリエステルへのリサイクルといえば、JEPLANがトップランナーと思って良いでしょう。筆者は一度現会長、当時の社長のプレゼンを聞く機会があったのですが、「(バージン石油などの)地下資源に頼らず、地上にある服という資源を回して使っていく」という発想に感動したことを覚えています。JEPLANに服をリサイクルしてもらうには、商業施設などにあるBringというハチのマークの回収ボックスに不要な服を入れるだけ。すると、ハチが花粉を集めてくるように、服という資源をリサイクル工場に集めて無限に再生してくれます。回収拠点マップはこちらから。
なお、JEPLANがリサイクルをするのは、ポリエステル100%の服のみ。BRINGのボックスにはポリエステル以外を入れても大丈夫ですが、回収後はJEPLANの工場ではなく、それぞれの素材に合った処理がされます。
それでは、国外ではどのような動きがあるのでしょうか?
混合素材の分離リサイクルを可能にした「Samsara Eco」
強度がありスポーツウェアなどに使われる化学繊維、ナイロンのリサイクルに特化したオーストラリアのSamsara Ecoは、繊維が混ざっていても分離できるという、「④混紡繊維のハードル」をクリアした企業です。その鍵は「酵素」。ナイロンが含まれた生地から、酵素の力を使って目的の繊維のみを取り出し、新たな製品の原料として再利用します。混紡素材でも対応ができるということに加え、リサイクル工程自体の温室効果ガス排出量も大幅に削減されることから期待されるベンチャーです。
レギンスなどの生産でナイロンを多用するヨガウェアブランドとコラボレーションして、服から服へのリサイクルを現実のものにしています。
AIにより古着の仕分けを高速化「Coleo」
Coleoはスペインのリサイクル企業。革新的な点は、上記「②仕分けのハードル」をAIにより低コスト・高速化することで乗り越えた点です。人が一つ一つチェックするのではなく、あらゆる繊維の特徴を学習したAIが、布地の画像を解析し、組成を瞬時に判断し仕分けしていきます。
また、上記JEPLANとSAMSARAが繊維を化学的に分解する「ケミカルリサイクル」という手法であるのとは異なり、Coleoはコストが比較的低く、反毛など布を引っ掻いて繊維に戻す物理的なアプローチをとった「マテリアルリサイクル」に特化しており、既に何百万枚もの生産・販売実績を誇ります。あえて(少なくとも現時点では)高コストの混紡繊維の分離はせず、混ざった繊維をそのまま混ざった繊維の製品として再生するという発想で見事「④混紡繊維のハードル」もクリア。マテリアルリサイクルの工程では布地の質にとって超重要な「繊維の長さ」が短くなってしまうため、品質が落ちたり、バージン繊維と混ぜる必要があるものの、現時点での現実的な品質、コスト、生産量のバランス感覚に天晴れ。
ヨーロッパにてリサイクルをシステム化するプロジェクト「T-REX Project」
とはいえ、現在国内では手放される衣類のうちのわずか1%、ヨーロッパでも2%にとどまる服から服へのリサイクルは、個社で実現できるものではないのかもしれません。現在、 リサイクルのバリューチェーンに関わるヨーロッパの複数の企業が協力して、リサイクルのシステムを社会に実装するために必要な取り組み、技術や法規制を探る、T-REXと呼ばれる3年間のプロジェクトが進行中。2025年夏のガイドラインの発表を目標に実証実験などを行っています。結果が楽しみですね!
また、上記の取り組みの多くは既に作られた服をどのようにリサイクルしていくかという話でしたが、そもそも服を作るデザイン段階でリサイクルがしやすいような工夫をした方が効率が良いですよね。そのための「繊維製品のための環境配慮設計ガイドライン」という指針が、欧州で既に進んでいる法規制などを参考に経済産業省から発表されました。これからは「リサイクルしやすい」という点も服のデザインの特徴となっていくでしょう。
他にも多くのわくわくする取り組みが進んでいるので、気になった人はリサーチしてみてくださいね。今、この分野は「過渡期」と冒頭に書きましたが、それはエキサイティングであると同時に不安定でもある状態といえるかもしれません。というのも、新たな解決策が出てきてもまずは少量からの生産となるため、どうしてもコストが上がってしまいます。大量生産された既存のバージン素材と比べると必然的に高価になるため、なかなかブランドに採用されず、結局価格も落ちないというやきもきする状況にあることも確かです。
リサイクルが当たり前になるために、覚えておきたい4つのこと
そんな時、私たち生活者は何ができるのでしょうか?
- 回収に協力し、良質の「原料」をリサイクル事業者に届ける。
- 服からリサイクルされて作られた製品を積極的に購入する。
- リサイクルしやすいように配慮された製品を積極的に購入する。
- リサイクル繊維とバージン繊維の価格ギャップを是正するような法律をサポートする。
さて、近い未来、当たり前のように服は服から作られるようになるのでしょうか?わたしたち生活者と産業全体が協力して、愛するファッションを持続可能にしていきたいものです。
本記事は日本のユーザーの方のために、「多様で、健康的なファッション産業をつくる」ことをミッションに活動する一般社団法人unistepsが執筆しています。
1環境省 サステナブルファッション
2 経済産業省 繊維 to 繊維リサイクルを困難にする要因:構成素材の多様性
3 デロリアンが走った 「楽しくすてきな」リサイクル