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ストーリー|2024.08.19

モードなルックと環境配慮。日本の技術が生んだ「9-jour.」の革新的カラーデニム

「9-jour.(クジョー)」(Shift C評価:良い)は、デノボストラクチャーが手掛ける初のブランド。製造過程に徹底的にこだわったデニムは、日本古来の染色法を基にした独自技術「新万葉染め」で染められている。21色もの豊富なカラーバリエーションがあり、完全受注生産を採用、注文を受けてから一着ずつ丁寧に染色している。モードなルック、快適な着心地、高品質、そして環境への配慮を兼ね備えたこの革新的なデニムの魅力に迫る。

原稿:藤井由香里 撮影:塚本直純

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京都で“新万葉染め”に出会い、デニムの製作を決意

ファッション業界は、大量生産や大量廃棄、染色に使用される化学物質による水質汚染、過剰生産による労働問題など、様々な課題に直面している。デノボストラクチャー代表の髙田 浩氏は、「地球環境も人間も犠牲にしない服づくりがしたい」と長年思い続けていたと振り返る。特に染色による環境汚染を解決するため、髙田氏はヒントを求めて故郷の京都を訪れた。

京都には古くから続く伝統的な染色の技術がある。髙田氏は、これらの歴史的な技法を現代のファッションに活かせないかと模索した。しかし、多くの草木染めでは、品質維持のために化学染料を使用する必要があり、環境とファッションの共存が難しいと言う現実に直面した。そんな中、最終的にたどり着いたのが川端商店の「新万葉染め」だった。

「9-jour.」のデニム染色を行う川端商店の京都の工房。十二単を彷彿とさせる鮮やかな色見本と、粉砕した草花。

川端商店は、100%天然染料を用いた草木染めを行う、世界でも類を見ない工房だ。かつては化学染料を使用していた時期もあったが、「化学染料が人体や環境に悪影響を及ぼすことが判明し、使用を取りやめた」と代表の川端康夫氏は語る。

人や環境を犠牲にしない染色方法を模索する中で、川端商店は三重大学の木村光雄教授とともに、「新万葉染め」という自然に還る染色技術を研究開発した。この染色技法は、従来の方法に比べて使用する色材の量が10分の1ほどで済み、わずかな原料で染め上げることができる。また、常温で染色が可能であり、排水や沈殿した色素は24時間以内に分解されるという、環境にやさしい革新的な染色方法だ。

一般的な草木染めは、草木を高温で加熱して作った染液で布や糸を染める方法が主流だが、新万葉染めは漢方薬のように微細に粉砕する点が大きく異なる。熱をかけずに粉砕するため使用するエネルギーを抑えられるだけでなく、素材本来の繊細な“生きた色”を引き出し、生分解性も高い。また、新万葉染めの革新性は、インド茜、ログウッド、エンジュ、コチニール、マリーゴールドの5種類の原料を配合すれば、三原色の原理で様々な色彩を再現できる点にある。

染色の材料となるマリーゴールドは、川端商店の自社農園で栽培されている。また、公園などで植栽の植え替え時に廃棄される植物(主にマリーゴールド)を回収し、染料として再利用している。
左上から時計回りに、ログウッド、マリーゴールド、コチニール、エンジュ。川端さんが自ら栽培しているマリーゴールド以外は、全国の栽培者と契約栽培を結び、収穫物を買い取っている。

髙田氏は「この技術を未来へ繋ぎ、新万葉染めを用いて服づくりをしよう」と決意したが、川端商店に何度も断られてしまったという。100%天然色材を使用した新万葉染めは紫外線や湿度の影響で褪色しやすく、色調に多少のばらつきがあるため、川端商店は過去に多くの返品を経験してきた。

それでも、髙田氏は新万葉染めの特徴にデニムとの親和性を感じた。丈夫なデニムは長く愛用することで褪色や風合いの変化を楽しむことができ、価値が増す一面もある。新万葉染めを使用すれば、染め直しも可能だ。熱い思いを伝え続けた結果、カラーデニムの製作がスタートした。

100%天然染料で挑む、前例のないカラーデニムづくり

本当に新万葉染めが環境にやさしい染色技法なのか? 気になった髙田氏は、三重大学と共同で染料の安全性と生分解性の研究を行った。その結果、染色の排水中で魚の胚が発育することが確認され、排水の環境負荷が低く、安全性が高いことが明らかになった。

京都川端商店代表 川端 康夫氏

川端商店では、以前から染液や媒染液、排水に沈殿したかすを畑の肥料として利用している。今後は、このプロセスを循環させるための装置の導入も検討しているという。新万葉染めは、染色の過程で出たものを余すことなく活用できる、まさに環境にやさしい染色技法だ。

川端氏は「新万葉染めのような自然に還る染色技術が普及することを願っています。未来の環境問題に対処するためには、他のアパレル企業も本格的に取り組む必要があると思います」と語る。

卓越した技術をもつ工房をたどり、スペシャルデニムが完成

「9-jour.」が展開する21色のカラーデニムは、デニムを縫製した後に新万葉染めで染色を行う。一方で、新作のドレスデニムは先染めを行うため、まずコットン自体を染色してからデニムの形に仕上げるという、まったく違う工程を経る。

ドレスデニムの製作においては、天然染料でロープ染めを行い、それを使ってカラーデニムを作るという前例のない挑戦に多くの困難が伴った。糸を染める工房を探し歩いた末に、200年以上の歴史と伝統を持つ播州織の手法を受け継ぐ「八千代染工」にたどり着いた。当初は色むらが出るなど難航したが、遠心分離を活用した独自の染色技法を開発し、新万葉染めによる初の糸染めを実現した。

「何度も試行錯誤を重ね、ようやく完成したデニムを目の前にした時、とんでもないものを作ってしまったと衝撃を受けました(笑)」と髙田氏は語る。一点一点顔が違うカラーデニムは、多くの人を魅了している。ゼロからスタートしたモノづくりに懸命に向き合ってきたからこそ、革新的な商品が生まれたのだ。

新万葉染めは、染めを重ねる回数によって色の濃さが変わる。そのため、黒を再現するためには3度の染め重ねが必要。

カラーバリエーションは、日本の四季をイメージした「SAKURA」や「KINKAN」、「BOTAN」など21色が揃う。鮮やかな色の中から、自分に合う色を探すのも楽しいだろう。

素材、シルエット、着心地。デザイン性と環境への配慮を両立させたこだわりのデザイン

新万葉染めで染められた「9-jour.」のカラーデニムは、完全受注生産を採用している。注文を受けてから一点一点、丁寧に染め上げられる。素材やデザインには、40年以上にわたって数々のブランドの企画やモデリングを手がけてきたデノボストラクチャーならではのこだわりが詰まっている。
「素材や製造過程が環境に良くても、デニムのデザインが格好よくなければお客様に選んでいただけない。ここからが、長年服作りをしてきた私たちの腕の見せ所であり、『9-jour.』の製品作りで最も力を入れた部分です」と髙田氏。

デニムの製作において、ヴィンテージ風の普遍的なデザインを追求しながら、地球環境に負荷をかけない生産過程を実現するための素材を探した。その中でたどり着いたのが、アフリカのブルキナファソからフェアトレードで入手した綿を使用したデニム地。広島の「篠原テキスタイル」にて旧式織機を使ってセルヴィッチデニムの織り生地が作られる。この生地には、ヴィンテージの風合いを出すために必要な長さの繊維が使用されている。縫製は岡山のデニム縫製工場「ナイスコーポレーション」(Bコープ取得企業)で行い、縫製に使用する糸も生分解性のあるテンセル糸を使用している。

ブルキナファソへのリスペクトを込め、デニムの裏側には国旗の色が織り込まれている。裾を一度折り返すと見えるさりげない部分にもこだわりが光る。

このカラーデニムのさらなる魅力は、美しいシルエットにある。股下にマチを施すことで、立体的な仕上がりとなり、脚のラインがきれいに見える。また、ヨーク位置とポケットの位置を高く設計することで、ヒップアップ効果も。さらに、ジェンダーレスでサイズを選べるのも大きな魅力だ。

仕上げにはコラーゲン加工を施し、色落ちを防ぐだけでなく、柔らかい風合いと肌にやさしいソフトな質感を実現している。化学的なものを一切使用していないため、肌が敏感な人でも安心して着用できる。

また、ブランドネームタグや品質表示タグには、キュプラ素材を100%使用し、表示のプリントには大豆を原料としたソイプリントを使用。さらに、ボタンやファスナーは取り外し可能なデザインになっており、容易に分解して染め替えられるよう工夫されている。

環境への配慮とデザイン性、着心地を両立させた革新的な「9-jour.」のカラーデニム。これまでのデニムとは一線を画すデニムは、現在「9-jour.」のオフィシャルサイトで販売中。東京・表参道の体験型ショールームでは、全色全サイズを試着することができる。ぜひ一度、「9-jour.」の世界観やデニムの鮮やかなカラーリング、シルエット、そして履き心地を体験してみて欲しい。

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