Farm to Fashion——「カポックノット」のトレーサビリティを重視したものづくり
アパレルブランドのエシカル度を「環境」「人権」「動物」の3軸で評価するShift Cにおいて、「カポックノット」は世界6200ブランドの中でも1%に位置する4/5点という「良い」評価を受けている。エシカルファッションブランドを築く上で、生産過程における透明性や持続可能性は重要な要素だ。「カポックノット」は、立ち上げ当初から地球の未来を見据え、独自の理念や価値観に基づいて服づくりを進めてきた。
深井「ブランドを立ち上げた当初から『機能』『デザイン』『サステナブル』という軸を大切にしてきました。すべてのプロダクトをこの3つの視点で評価し、独自の基準を超えるように設計しています。繊維への加工が難しいとされてきたカポックを用いて新たなものを作ることには多くの困難が伴いましたが、諦めずに挑戦し続けてきた姿勢や過程こそが、カポックノットの大きな価値でもあると感じています」
「Farm to Fashion 農園からこころよい暮らしを」をコンセプトに掲げるカポックノットでは、深井氏が自ら現地訪問を行い、労働環境や賃金の改善などに力を入れている。そこには、憧れだったと語る「MOTHERHOUSE(マザーハウス)」の存在や、自身が老舗アパレルの4代目として、アパレル業界の大量生産・大量廃棄という負のシステムと、そのシステムが生み出す弊害を目の当たりにしてきた背景があるという。
深井「ブランドを立ち上げる際、私のロールモデルは『マザーハウス』でした。彼らが未知の土地に飛び込み、ゼロから工場を開拓し、小売業までのすべてを手掛けている姿をずっと見てきました。私の家業のルーツはカシミヤ業で、代々モンゴルから素材を調達し、トレーサビリティを重視したものづくりを行ってきました。ですから、ブランドを立ち上げる際には、素材の生産から販売まで、すべてのプロセスを一貫して行うことを大切にしたいと思ったんです。現地へ足を運ぶことの重要性は、家業から学んだことでもあります。」
アパレル業界の課題を解決しうる「カポック」とは
インドネシアで自生する植物の木の実であるカポックの綿は、コットンの1/8の軽さと、吸湿発熱の機能を持ち合わせている。さらに、カポックコットンはCO2を吸収するため、CO2排出量の削減にも役立つ。収穫時は森林伐採をする必要がなく、少ない水で育ち、農薬も不要と、まさにサステナブルな素材だ。しかし、その軽さと短さ故に、繊維への加工が難しく、カポックはアパレル業界での商品化が困難な素材とされてきた。
一方で、カポックノットは長年にわたる大手企業との研究開発の末、驚くほど薄くて軽く、かつ暖かいシートに生まれ変わらせた。それが、「Ethical Down Kapok(エシカルダウンカポック)®」だ。通常、ダウンには水鳥の羽が使用されるが、これはアニマルフリー。
当然のことながら、2年以上の研究を重ねて開発した「Ethical Down Kapok」の実現には、多くの苦労が伴った。当初は研究開発のスピードが追いつかず、洗濯すると繊維が抜け落ちたり、工場で綿を開いた際に繊維が舞ってエアコンに詰まったりといった様々な問題に直面したという。
深井「様々な困難に直面しながらも、最初は実現可能性が高いものの、拡張性に欠けるという課題に対して、カポックとポリエステルのシートを使用して一定の成果を得ました。その後は、実現可能性は低いものの、業界を変革する可能性があるほどの拡張性を持つと期待できるものの研究開発を進めています。これに関しては、5年経過した今でも試行錯誤を続けていますが、難しさを感じながらも、楽しみながら取り組んでいます。」
深井氏は、カポックノットが持続可能なブランドであり続けるために、「『社会性(サステナビリティ)』と 『事業性』を両立させることが重要」だと語る。
カポックは、まさに社会性と事業性を兼ね備えた素材だ。動物を傷つけず、木を伐採する必要もないといった社会性があることに加え、同時に機能性やコストのメリットがある。カポックの需要が増えれば増えるほど、東南アジアでの雇用創出や緑化、さらには森林保全のサイクルが生まれることが期待できる。
生産者から消費者まで、関わるすべての人が豊かになれる選択肢を作る
カポックノットを運営する「カポックジャパン」では、自社で「サステナビリティ アニュアルレポート2022」を作成し、農園の労働環境や賃金形態など、生産過程におけるソーシャルインパクトを見える化している。カポックジャパンが使用したカポックの木が今年削減したCO2の総数や、農園リサーチを通じた労働環境や賃金の把握などを公開している。
深井「僕たちが実現したいことは、『Farm to Fashion』 、つまり生産者から消費者まで、サプライチェーン全体が豊かになっていくことです。農園の労働者はもちろん、日本の生地メーカーや工場、そして私たちのチームや消費者も含め、すべての関係者が豊かになるための選択肢を見つけることが重要だと感じています。」
一方で、サステナビリティを追求しながらビジネスを拡大することは容易ではない。カポックノットは、ビジネス規模がまだ十分に大きくないため、カポック農園の労働者に直接的な影響を与えるには、さらなる成長が必要だと考えている。
深井「サステナビリティを宣言することとものを売ることのバランスは非常に難しいですが、これはブランドビジネスとして大きな挑戦だと捉えています。今後は国内での展開にとどまらず、エシカルやサステナブルファッションに関心がある層にアプローチするため、グローバル展開や素材開発を検討しています。最近では、外部パートナーとの協力で資金調達を行い、新しい素材ブランドの開発に着手しました。」
さらに、カポックノットはすべてのプロダクトで素材・製造・消費者の3点における「カーボンフットプリント(CFP)*」を算出。プロダクトのタグや、ブランドサイト上の商品ページに各アイテムのCFPを掲載することで、消費者が気になったプロダクトがどれくらいの温室効果ガスを発しているのかを意識するきっかけを生み出している。
*製造過程から廃棄に至るまでに排出される温室効果ガスの数値
深井「自分たちがやっていることを見える化するのは、ブランドや企業として非常に重要です。社会性と事業性の両立を考えた時に、見える化が最も効果的な手段だと感じたので、CFPの算出と発信を行いました。」
計算式の中には、不確実性を加味するため、一部に「Uncertain Score(平準化スコア)」を加えている。CO2の排出量は、サイズや配送先の要素を網羅的に計算すると齟齬が生じることがあるためだ。ブランドとして、まだ明確にわかっていない部分も正直に伝えることを大切にしている。
生産者、消費者そして地球環境という多角的な視点を持ち、ブランドとしての活動を客観的に検証し、積極的に発信を続けるカポックノット。深井氏は、今後の展望をこのように語ってくれた。
深井「私たちは、今後日本が再び世界の繊維産業の中心になると確信しています。これまでの繊維産業の革命は合成繊維の技術によるものでしたが、次なる革命は『植物由来の素材×テクノロジー』だと考えています。まさにカポックがその一例です。」
深井「植物由来の素材や未開拓の素材は、温暖な東南アジアにたくさんあります。そうした場所に文化的にも物理的にも距離が近い日本は、素材の開発において大きな可能性を秘めていると感じています。日本の強みは、技術力やブランドの思想を理解しながら、ものづくりを進める能力です。私たちはそれらの能力を高めながら、素材開発をリードするブランド・企業になっていきたいと思っています。」
手編みのカポックから生まれた、リカバリーブランケット“MUSUBI”
この夏、アパレル以外のアイテムとして満を持して登場するのが、疲労回復とリラックス効果にフォーカスした「リカバリーブランケット」。カポックとニットデザインの融合から生まれた、365日使用できる「MUSUBI」だ。
このブランケットの中綿には、弾力と心地よい反発力が特徴のカポックの木の実の綿を採用している。繊維の80%が空洞で通気性に優れたカポックと編みのニットデザイン構造により、季節問わず快適に使用することができる。また、カポックは植物由来のため、敏感な方や子供でも安心して使用することができる。
人間が自然体で心地よく眠るためには、体重の10%前後の重さの適度な圧力をかけるのが理想的とされている。そのため、MUSUBIのブランケットは重さで身体にフィットし、安心して眠ることができるよう設計されている。
表地には、自然に還るサステナブルな素材であるテンセルを使用。保湿性と速乾性を兼ね備えたこの素材は、オールシーズン活躍し、とろけるような肌触りが特徴だ。
さらに、このブランケットの大きな特徴は、インドネシアで一つひとつ丁寧に手編みされていること。現地でのカポックの収穫は9〜11月に行われるが、収穫期以外の期間にもブランケットの制作を行うことで、現地の生産者に一年を通じて安定した雇用を提供できる可能性がある。
同コレクションは、7月末よりMakuakeにて予約販売開始。部屋に一つ置くだけでアクセントとなり、安心感のある新しいリラックススポットになるだろう。心地よい肌触りと適度な重さを感じられるリカバリーブランケット“MUSUBI”を、是非とも体感してみて欲しい。