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ストーリー|2024.08.13

サステナビリティはクールだ! カリスマデザイナー、ショーン・ウェザースプーンと語る持続可能性

ファッションアイコンであり、ヴィーガンデザインで人気を博すショーン・ウェザースプーン氏。大阪は北加賀屋にできた「スマセル サステナブル コミューン」に「I’m Shipshape」を出店したショーンに、“だれもが参加できるサステナビリティ”の秘訣を聞いた。

原稿:平井有太

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「スマセル サステナブル コミューン」にてアイテムの説明をするショーン・ウェザースプーン氏。

すべての始まりは家族と自分がヴィーガンになったこと

ー日本にはどれくらいいるんですか?

LAと日本を行ったり来たりして、年間で5ヶ月くらいは日本にいるんじゃないかな。

ー1年の約半分が日本ですね。

大好きだから(笑)。あとはBape、ポケモン、セントマイケル、レディメイドなどなど、一緒に仕事をする企業の多くが日本にあるということもある。
グローバルパートナーのポルシェやアディダス、GAPとかの拠点があり、僕のファンは東南アジアに多いから、日本だとファンたちと近くいられるのも大きい。クアラランプールのファンが旅行で日本に来て、僕に会いに来てくれることもあるんだ(笑)。

ーなぜアジアにファンが多いのでしょう。「サステナブル」や「エシカル」というテーマに、アジアの人たちが反応している?

サステナブルというテーマは西側の国で強いと思う。僕が考えるにアジアでの人気は、僕の西海岸的なヴァイブスじゃないかな(笑)。サステナブルか否かではなくて、「なんだか楽しい」「カラフルでかわいい」というようなことだと思う。

ーあなたの今の活動は、DIYが得意だった祖父母の影響が大きいと聞いています。

本当の始まりは、ヴィーガンになったことなんだ。10年前に食生活をヴィーガンに変えて、そこからすべてが始まった。その前はサステナブルと聞いても「自分とは関係ない」という具合で、正直それが10年前の僕なんだ。

ーそれでは、なぜヴィーガンに?

それは当時の彼女であり、現在は僕の妻からの影響だね。彼女は動物を愛していて、僕も最初は彼女のためにヴィーガンになった。それが徐々に、自分のライフスタイルになっていった。ヴィーガンであるほうが身体が充実するし、地球に対してポジティブな感覚があって、徐々にヴィーガンであることが誇りに思えてきた。

そうしてさまざまなプロジェクトに携わりながら、ヴィーガンであることがクールな要素であることに気づいたんだ。自分がヴィーガンであることで、他にはないデザインを提供できるから。スニーカーの世界でいうと、僕がヴィーガンであることで、とてもユニークでオリジナルな価値観を提供できると思う。

実際僕は毎日ヴィーガン食で、新しいヴィーガンレストランを見つけることが生活の一部になっている。日常に根付いて、その視点から、だれが見ても「超クール!」というデザインを考えている。「ヴィーガンはどうせダサい」という今までの常識を打ち破りたいんだ。まず「これは格好いい」と手に取ってもらい、「欲しい!」と購入して身につけて、そこから調べたら「え、これはヴィーガンだったの?」という流れが理想。だからまず第一にクールなこと。その次がヴィーガンという優先順位なんだ。

ーアジアとヨーロッパでも違うと思うが、人々の反応は変わってきている?

そこは興味深いね。サステナブルについて、ヨーロッパは基本的にとても進んでいる。サステナビリティやヴィーガンへの理解が深くて、アジアやアメリカと比べても頭一つ抜けている。街が主体になり環境負荷を減らそうとしているし、パリ五輪にしたって、出している食事の6割はヴィーガンだと聞いた。素晴らしいことだよね! 昔は友だちに「食事に行こう」「ヴィーガン食べよう」と誘うと「うーん、どうだろう」という反応だったのが、今は「いいね!」と返ってくる。それはアメリカでも、日本の友人にもある変化だ。

ショーンと、東京を拠点に活動するファッションディレクターUchiの共同プロジェクトである「I’m shipshape」。リメイクしたデニムジャケットやお宝のヴィンテージTシャツ、世界の蚤の市で見つけた雑貨などポップで楽しいアイテムが並ぶ。

好きなものを守るために、サステナブルなデザインをする。自分の行動と理由が合致してきた。

ー日本の状況をどう見ている?

アジアや日本、特に日本は遅れてるというよりも「慎重」という表現が合っているように思う。けれど、そもそも日本料理にはヴィーガンがたくさんある。漬物、米、豆腐といった素晴らしい伝統食が溢れている。

ー壇上でのトーク企画にもあったように、私たちの祖父母の生活にヒントが隠されている?

おじいちゃん、おばあちゃんの世代は賢いよ!(笑)学ぶべきことがたくさんある。
壇上では、この施設のサステナビリティディレクターである深本 南さんが「たくさん海藻を食べましょう!」と言ってたよね。あのコメントが大好きで、我が家でも子どもたちの一番のスナックは海藻なんだ。僕もそれが、とても大切なことだと思っている。

ーこのサイト「Shift C」を運営するUPDATER社は本物の再生エネルギーを販売しています。海中に海藻を増やすのは気候変動対策、脱炭素の上でもとても有効とされています。

海藻は食べるのも育てるのも両方いいということだね。それでさらに、海藻を使ったバイオプロダクトまでつくれたら最高だ!

ーもし億万長者になる日が来るなら、地球を救うため、世界中の海岸線で海藻を育てる事業がしたいです(笑)

どちらでも億万長者になったら、お互いを雇おう。約束だ!(笑)

ーそういうわけで、あなたのデザインの発想はヴィーガンであることからきているんですね。

「自然環境」と言った方がいいかな。自分の仕事については、僕のまわりのあらゆる自然から影響を受けている。昔から自然は好きで「キャンプ最高!」「野外が好き、川も好き!」「スケボー大好き!」だったけれど、ヴィーガンになるほどではなかった。でも今は、もっと自然からインスピレーションを受けるようになった。「ヴィーガンなのも、この川を守りたいから」といった具合で、どんどん理由と行動が合致して、意味深いものになっていった

ーそういったあなたの変化に沿って、大企業の反応も変わっていきましたか。

僕の最初の大きな仕事は、大手スポーツメーカーのデザインだった。彼らに「僕はヴィーガンだから、デザインするスニーカーの素材もヴィーガンにしたい」と伝え、プラントポジティブ(植物によい影響を与える)デザインを作った。

 彼らは当初慎重で「ヴィーガンデザイン」ということを決して言わなかったけれど、結果としてスニーカーの人気はとても良かった。販売も好調で「地球環境にいいスニーカー?」「それは欲しい!」「買うだけで気分がいい!」というような反響があったんだ。

 今では、さまざまなクライアントから「サステナブルなアイディアが欲しい」「ヴィーガンのデザインをしてほしい」と言われる。今や、格好いいデザインは当然で、「ヴィーガンでサステナブル」「ポジティブライフスタイル」がテーマになってくる。子どもが2人いて、家族みんなでヴィーガンであることが、社会にとってポジティブに捉えられるようになったと思う。

「みんながヴィーガンスニーカーをはいている世の中を想像して」。新しい世界を見るために大きな夢を語る

ーあなたにリーチできて大きな企業にできない、大切な要素は何だと思いますか。

それは「ストーリーテリング」。どんなジャンルであれ、もしも君にいいアイディアがあって他との差別化が欲しい時、必ず必要なのがストーリーだ。ある意味アイディアは関係なくて、心に響くストーリーが重要なんだ。

ーでもストーリーを0からつくり上げるのは難しいですね?

それも可能だよ。いいアイディアがあれば、それを突き詰める過程でストーリーが生まれる。僕がここまでの経験で学んだのは、とにかくいいストーリーの必要性だ。ただ「いいアイディアがある」と言っても、それを興奮して伝えると「よくわからない」と言われてしまう。でもその時、背景を支えるストーリーがあれば「そうか!なるほど、すごい話だ!」というように伝わっていく。

ー「ストーリーテリング」と聞くと、’80〜’90年代のヒップホップを思い出します。

まさに!僕はその時代のヒップホップが大好きなんだ。スリック・リックの「Children’s Story」は大のお気に入りだ。残念ながら今のラッパーたちはああいう曲を作らなくなってしまったし、だから僕も最近のラップにそこまでの興味を持てないのかもしれない。当時の楽曲は魅力的で、それもストーリーの強さだと思う。

 同じように自分の発想も細部は伝えない。その代わりに、背景にあるストーリーについては話すんだ。もしそれを気に入ってくれるのなら、僕のつくる製品も好きになって、さらには僕のことだって好きになってくれるんじゃないかと思う。

ーストーリーテリングはどうやって学ぶもの?

それは「間違い」からしか学べないんだ。僕にとってはいつもトライアンドエラーの繰り返しで、そういう意味では最も大変な方法で学んできたのかもしれない。いつもまず最初に間違いをして、そこから学んできた。
かつては一生懸命自分のアイディアをねじ込もうとしていた。でもそこで、ある年配のデザイナーが教えてくれたことがある。曰く「ショーン、それでは無理だ」と。「ストーリーを伝えないといけない。企業に自分のアイディアを通そうとするなら、その周辺のストーリーについて伝えないといけない」ということを言われて「なるほど」と思ったんだ。。

ーでもそのストーリーは、必要だからといってウソではダメでしょう?

ウソはもちろんダメだけれど、それが「夢」であればいい。でっちあげの話はしないけど、大きな構想や「自分が描く夢」については話す。だから「聞いてください。僕はみんながヴィーガンのスニーカーを履いている世の中を想像しています」という風に話し始めたりする。それは僕の本当の夢であって、ウソではないし、妄想で終わるかもしれない。でも人間は夢について語ること、聞くことが好きな生き物なんだ。

ー健全な地球環境の維持と継続は、誰にとっても実現して欲しい夢です。

その通り。しかも、アイディアはいろいろと現実可能性を証明しなければいけないけれど、夢はいくら見ても、語っても、喜ばれる。そうして毎日目を閉じて、新しい世界に自分自身を連れて行くんだ。

名前は船舶用語の「Shipshape and Bristol fashion」が由来。大海原を安全に航海をするためにあらゆる設備や道具を整然と携えた船をイメージさせる。

ーお話した通りUPDATERは、環境破壊しない再生可能エネルギーを調達基準を設けて供給していますが、再エネを拡めることに苦労も多いです。

それは簡単で、そのことに興味ない人たちに拡める場合は特に、彼らの言語で話すことが大切。自分の言語では、すでに理解してくれている人たちにしかメッセージが届かないし、さらに何かを伝える必要はないんだよ。そうではなくて、もともと理解してくれない層に何かを伝える時は特に、彼らの言語で話すのが肝要。だから僕はもう、「サステナブル」とか「ヴィーガン」ということを言わないようにしている。

ーでは、何と言うんですか?

「僕はデザイナー。この靴、好き?嫌い?どちら?」それだけ(笑)。それでもし「好き」と言ってくれたら、そこでやっと「おめでとう!実はこれヴィーガン素材でできた靴なんだ」と伝えるようにしている。

ーそれが、今まで積み重ねてきたトライアンドエラーの結論ですね?

そう。なぜなら再生可能エネルギーについて興味のない人たちにとって、その話は複雑過ぎるから、極力シンプルにする必要がある。その時にやっと、彼らは「なるほど」と言ってくれる。つまり、話す相手によって自分の性格を変えていく。そうすれば向こうもこちらと繋がっている感覚を持ってくれる。

ーまるで役者みたいですね(笑)

そうだね(笑)。僕らはみんな俳優が好きだよね? 同じ俳優でも役によって「超格好いい」と思ったり「共感できない」と思ったりする。彼らは役柄によって人間性を変えて、うまく渡り歩くよね。

ーずっとそういうことが得意でしたか?

いや、下手だった。今でも上手くいかなくて、毎日が勉強だし練習のつもりだよ。さっき君が海藻やブルーカーボンのことを教えてくれたように、すべてが自分にとっての学びになるんだ。そうすると僕はそれを次の機会で、別の人に伝える。そしてそれが新しいプロジェクトに繋がっていったりする。そういう意義を大切に、常に新しい場所に行って、新しい人に会うようにして、質問をたくさんするんだ。

ーアメリカでの日常にも学びが溢れてる?

アメリカは本当に人と場合による。とても詳しい人がいる一方で、興味すらない人もいて、そういう意味での多様性がすごい。「サステナビリティ(持続可能性)」を、そんな多様な人たちが気軽に参加できる話に変えていきたいんだ。現状ではややこし過ぎる。
今のままでは、何かと「サステナビリティ? ヴィーガン食? 電気自動車? ソーラーパネル? もうたくさん、お腹いっぱいだよ!」となる。だから「いやいや、違うよ!すべて簡単でクールで楽しいものなんだ」と。それが僕らの仕事だし、僕自身ずっとやってきたことでもある。

ー日本では大井競馬場のフリーマーケットや岡山のデニム工場も訪ねて回っている聞きます。

いろいろな場所を巡って、日本の企業と仕事をすることが好きなんだ。そして最近考えるのは「日本に還元したい」ということ。みんな日本には大きな影響を受け、インスピレーションをもらってるはず。だから僕は、日本の企業と企画をして、日本のデザイナーと仕事をし、日本のテキスタイルを使い、日本で製造して、そうやってできたものを日本で売りたい。 

ーすごく嬉しい発想です。その日本への愛情は、どこからきていますか?

それは自然なことなんだ。日本は今まで、僕にたくさん愛を注いでくれた。多くの時間をここで過ごし、たくさん刺激をもらった。それをただアメリカに持って帰って商品に反映させるだけでは、正しいと思えない。僕にできることは、日本の文化に光を当て、世界の目を向けさせること。日本のアーティストや職人たち、そして工場に、正当な評価と対価が払われるべきなんだ。

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