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21世紀が始まる直前に、自費出版「ELPEE MAGAZINE」を発行
1980年代にそのキャリアを雑誌「an・an」でスタートさせた伏見京子は、東京で最もエネルギッシュなスタイリストの一人である。DCブランドブーム、日本のバブル経済期をファッションスタイリストとして目の当たりにした伏見が、2022年にアップサイクルブランド「CYCLEING」をスタートさせたのは、必然だったとも言えるだろう。
伏見は1999年に、仲間たちの協力を得て自費出版の「ELPEE MAGAZINE」を発行した。ホンマタカシやHIROMIXなどのクリエイターたちが寄稿していたその雑誌の中で、伏見はCO2の排気量や環境破壊に関して警鐘を鳴らしている。
「1960〜70年代のヒッピーのムーブメントの流れから生まれた『地球の上に生きる』という書籍が、その時の私の中にスッと入ってきたんですよね。著者アリシア・ベイ=ローレルのメッセージにインスパイアされて、ELPEE MAGAZINEを作りました」と伏見は言う。
しかしELPEE MAGAZINEを2冊出した後、伏見は環境問題の啓蒙活動から距離を置いた。「ファッションと関わっている中で、100%の環境保全は不可能だと感じて、次第にゆったりとしたスタンスで環境問題を考えるようになったんです」。
その後2015年に国連総会でSDGsが採択され、日本でもこのムーブメントがやってきた。ようやく時代が伏見に追いついたとも言える。
手元にあったデザイン画でリサイクルしたことが、CYCLEINGを始めるきっかけだった
2020年に伏見はあるPVでのスタイリングの依頼を受けた。約20人分の衣装を作るにあたり、伏見は古着をリメイクすることを提案した。しかし、「実は古着は高い」という壁にぶつかり、この計画は頓挫したのだそう。
「20人分の衣装のために用意したデザイン画が手元に残ってしまったんです。せっかくだからリメイクアイテムを作って、以前から仲間と始めていた「The HAPPENING」のコレクションで発表すればいいやって思いついたんですよね。それからコンスタントに古着をリメイクしたアイテムを作るようになったんです」。
これがアップサイクルブランド「CYCLEING」のスタートである。
この作業の過程で伏見は、関東から不要になった洋服を引き取り、分別し販売している問屋の存在を知る。
「体育館3つ分くらいの空間に、山のように古着が積まれているんですよ。それを見て、20年前と何も変わっていないんだなと失望感を覚えました。ファッション業界的には、売れている洋服の数は増えているけど、売り上げは落ちていると言われています。つまり単価の安い洋服が消費されているということ。つくづくデザイナーは服を作ることに責任を取らないといけないと思いましたね」。
そして自分のスタイリストという職業の特性を活かした道を再確認する。
「新品の生地を使った洋服は、売れないと在庫になってしまう。これどうする? って“商品”が“在庫”になり“不要品”へと名前も変わっていく。だから私はありものを使って洋服を作ることにしたんです。やっぱり自分はスタイリストなんだと思いました。加工したり組み立てる作業は、コーディネートと一緒だから」。
右:Tシャツをキャミソールにし、柄物のシルクのスカーフを合わせたスカーフキャミソール¥6,800
右:複数のエコバッグを解体して組み合わせたエコバッグブラウス¥30,800
伏見は月に一度倉庫に行き、山積みになった衣類の中からコンディションが良く、自分のイメージに合うものを買い付けている。メンズのスリーピース×エコバッグ、Tシャツから作ったキャミソール×シルクスカーフなど、自由すぎる組み合わせは、タイムレスであり新鮮だ。アップサイクルとサイクリングを組み合わせた造語であるブランド名が表すように、伏見が作るアイテムにはどこかスポーティさがある。
独特の感性から作られるCYCELINGのアイテムは、もちろんどれも一点もの。Webサイトで購入が可能だ。