※この記事はHow Does Biodiversity Tie Into Sustainable Fashion?を日本語に訳したものです。
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「蜂が絶滅したら、人類も滅びる」。一連のサイクルの上に成り立つ私たちの暮らし
読んで字のごとく、地球に暮らす生物たちの多様性を意味するこの言葉。
虫や動物たちの助けで受粉した植物が実らせた果実を他の動物が食べ、地面に落ちた食べかすが微生物によって分解されると土壌の栄養分となる──そのような一連のサイクルは生物多様性の好例だろう。
私たち人間は、多種多様な生態系が作り上げた自然界の恩恵である空気や水、食物を得ながら文明を発展させてきた。
しかし文明の発展は、蜂の減少など、多種多様な生態系を脅かすようになってきた。かつてアインシュタインは「蜂が絶滅してしまったら、人類は4年で滅びてしまう」という言葉を残したほど、蜂は自然界で重要な役割を果たしている。
悪影響を及ぼす人間の営み「ワースト4」
実感は薄いかもしれないが、私たちは現代社会でも自然に依存した生活を送っている。2020年の世界経済フォーラムでのレポートでは、世界の総GDPの半分以上が「自然界またその産物に依存しているために、自然が損失の危機にさらされている」と記されたくらいだ。
また、欧州環境機関が発表した数値的データでは、「地球の陸地の4分の3と海洋の3分の2が人間によって大きく変化し、約100万種が絶滅の危機にさらされている。」と示されている。
こうしてダメージを受けた生物多様性は近年起きている気候変動をさらに加速させてしまう。
人間生活の中でも一体どのような営みが悪影響を及ぼしているかを紐解くと、たいてい下記4つに大別される。
・エネルギー
・自動車をはじめとするインフラ
・食物
・ファッション
そう、ファッション業界も生態系にダメージを与える要因の一つなのだ。
過剰な消費がもたらしたもの
服の素材となる綿花の生産から製品の洗濯まで、ファッションは水源をはじめとした自然界と密接に関わっている。
Shift Cがデータベースを利用しているオーストラリアのエシカル評価機関Good On Youのベッカ・ウィルコックス氏はこう語る。
「製造時の化学物質の流出による生態系への影響から、土壌に埋め立てられる服のゴミに至るまで、この産業は生物多様性の損失に加担してしまっています。服と自然との関係性は『搾取』から『相互恩恵』へ、循環と再生をもたらすものにシフトしていかなければいけません」
また、ファッション業界で最も生態系に弊害をもたらしている要因には
・綿花栽培
・生地の染色
・染色後の処理
・人造繊維の製造
・マイクロプラスチック
・廃棄物
が挙げられるとマッキンゼー社がレポートしている。
NPO「The Fashion Pact」は「アマゾンやセラードでは牧畜のための農地開拓が進み、セルロース系繊維を生産するために森林伐採が行われており、ファッションアイテムに使われる素材の大半がこうした失われた森林地域で栽培されている。」と報告した。
森林伐採をして行う牧畜は必ずしも酪農ではなく、レザーを生産する目的の場合もある。
そしてレザーの製造工程では水源汚染や化学物質の流出といった問題が周囲の生態系にダメージを与えている。
BBCによると、カシミヤの需要の増加によって、モンゴルでのカシミヤヤギの牧畜が拡大。その結果、草原だった地域が砂漠へと変わり果ててしまったという報道もある。ヤギの放牧が難しくなり、一部の農家は牧畜を諦めて都市に拠点を移すことを余儀なくされている。
さらに、モンゴルは過去70年間で平均気温が2.1度上昇してしまったため、ヤギたちは以前と比べて体を温める必要がなくなり、その毛質自体も落ちてしまっているのだ。
今ファッション産業がすべきことは「トレーサビリティの確立」
こうした現状の中で、ファッション産業は今何ができるだろう?
初めの一歩を踏み出すには何をすればいいのだろう?
その答えはサプライチェーンの「透明性」と「トレーサビリティ」を確立することにある。
ブランドが自社の取り組みによる影響を調べ、開示することで軌道修正ができ、さまざまな面の前進が期待できるはずだ。
過剰生産と過剰消費の問題はどうだろう。生産量を減らし、再販やリサイクル、修理プログラムを通じて、少しでも長く使うことを促進し、生き物たちのすみかが廃棄衣料に埋もれる問題も改善に導ける。
お手本となるブランドは?
ウィルコックス氏は、サプライチェーンで生態系保護に力を入れ、再生農業へ投資しているブランドとして
Finisterre(良い)
Eileen Fisher(良い)
Patagonia(良い)
を挙げる。
Finisterreは再生繊維を使用したアイテムを発表しているブランドだ。「自然との調和、土壌のCO2吸収を最適化し、健全な生物多様性と土壌作りを促進する」ことを目標に掲げている。実際の取り組みとして、土壌の健康維持のために輪作を取り入れ、生物多様性の面では製造地域で元々生息している動植物の保護に力を注いでいる。
Eileen Fisherは、南米の羊毛農家の再生農業をサポートしている。羊を放牧する際の自然な移動パターンを把握しているため、牧草地の劣化を抑えることができるのだ。また、大量消費と廃棄に対する取り組みとして、サステナブルなワードローブづくりやスタイリング方法、セーターのケア方法といった長く愛用するための秘訣がブログに投稿されている。
Patagoniaは1996年から、コットン製品にはオーガニックコットンのみを使っている。2017年には「牧草を食べる動物たちの福祉、農家と労働者への公正な関係づくり、土壌の健康管理の徹底」に焦点を当てたリジェネラティブオーガニック認証を協同設立している。
「生物多様性を守る」といったゴールは壮大で、私たち消費者の日常生活に落とし込むイメージは湧きづらいかもしれない。しかしファッション産業の一部が今日も私たちの地球に影響を及ぼしているのは確かなこと。だからこそ、ブランドのサステナビリティレポートに関心を寄せることやブランドからの根拠のあるメッセージに注目することで、次の選択肢をより良いものにできる。
GOTS(Global Organic Textile Standard)やSoilAssociationといった認証を受けた素材でできた製品に目を向けてみることも、より良い服選びのヒントになるはずだ。