アパレル界において従来とは全く異なる実験的なアプローチを試みているのが、2022年4月に登場したアウトドアウェアブランド「アーリー・マジョリティ」(ShiftC評価:ここから)。その革新性は、わずか7着の新作でローンチした鮮烈なデビューの仕方にも表れている。
創業者のジョイ・ハワードは、アトランタ出身の人気インディーズロックバンド「Seely」のメンバーとして活躍した異色の経歴の持ち主。バンド解散後にコカ・コーラやナイキのマーケティング部門責任者を経て、2013年にパタゴニアのマーケティング部門副社長に就任するなど、ビジネス界で躍進した。
彼女はナイキやパタゴニアでプロアスリートの顧客も多く抱えていたが、プロ仕様のアウトドアウェアはニーズに応じて細分化し、服の種類をマニアックに広げてしまうジレンマに直面していた。企業はアイテム数を広げて成長することが宿命だとしても、消費者はそうではない。消費者もマーケットが細かく分割されることにうんざりしているのではないか――。アーリー・マジョリティのブランドコンセプトは、彼女のこうした反骨精神が原動力となっている。
紳士服デザイナー出身のハンナ・テル・ミューレンと意気投合した彼女は、思い切った変革を盛り込んだ新ブランドを構想。ストラップやバックルなど不必要な装飾は取り除き、軍用グレードの生地とストリートウェアのシルエットを組み合わせたジェンダーレスなテックウェアのラインナップを作り出した。ジャケットやコート、ケープ、ベースレイヤーなどの少数アイテムを、着る人が自在に組み合わせて用途を満たすという斬新なアイデアだ。
アイテムをモジュール的に組み合わせ、大自然から街まで自由に行き来する
例えば、防水加工を施したアウターウェアのフードは取り外し可能で、天候に応じてアレンジできる。インナーとして着るフィット感のあるウインドブレーカーや首にジッパーのついたフリースなど、個別にも着用できるが、組み合わせると保温効果や風よけ、雨よけ機能が増す。ジッパーを開けたり閉めたり、付属品を取りつけたり、取り外したり……。各パーツをモジュール式に組み換えたり、重ね着すれば、気まぐれな思いつきで、自然の中へ出かけたくなった時に即行動に移せる。そこがアーリー・マジョリティの服の魅力だ。服には“the anti-merchmap”と呼ばれるマッピングマトリックスがついていて、どのアイテムがどんな気象条件に合うかが示されており、組み合わせの参考になる。
アウトドアに限らず、近年のオフィスワーカーはゲリラ豪雨から猛暑まで、街中にいても異常気象に備える準備が必要になっている。「性別は関係ありません。私たちはただ、あなたがクールな服で風雨から守られていると感じてほしい」とハンナ・テル・ミューレンは語っている。
環境負荷となる大量生産を避けるための会員販売システム
また、アパレルにとって最大の環境負荷である大量生産を避けるため、販売は有料会員制にしている。非会員でもアーリー・マジョリティの服を買うことはできるが、年会費を払ってメンバーになれば、4割引とはるかに安く購入できる。ユーザーからのフィードバックをデザインの改善や生産計画に反映し、無駄な生産を抑えることが目的だ。ブランドに共感するコミュニティの拡大で成長を目指し、いずれ会員費収入が非会員の売り上げを上回るようになれば、販売は会員のみに限定するという。
アーリー・マジョリティというユニークなブランド名は、もともとはマーケティング用語。新商品やサービスに敏感に反応する流行の一歩先をいく感度の高い消費者で5つの部類のうち34%いるといわれる。今は先鋭的に映るビジネスモデルも、近い将来は多数派になる。いや、なってほしい。社名にはそんな願いが込められている。
参考
https://www.earlymajority.com
https://eleminist.com/article/3152
https://disegnojournal.com/newsfeed/early-majority-hanna-ter-meulen-fashion-interview
https://www.bloomberg.com/features/2017-how-did-i-get-here/joy-howard.html