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ストーリー|2024.03.19

“アップサイクル”品が爆発的人気。進化型古着屋を目指す「森」

京都拠点の古着屋「」が手掛けるリメイク品が若い世代から熱狂的な支持を集めている。京都市内の店舗では古着とリメイク品が並び、“アップサイクルプロダクトの開発拠点”「RE;CIRCLE STUDIO」を併設する。スタジオではサンプル製作に加えて、店舗に持ち込まれた衣類の修理を行う。修理はブランドを問わずカスタマイズにも対応。年間250着程度を受け付ける。

写真:細倉真弓 原稿:廣田悠子

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コンセプトは“USEDを拡張する進化型古着屋”

店内の様子。古着やリメイク品に加えて、アクセサリーや花瓶が並ぶ

アパレルブランドのエシカル度を地球、人、動物の3軸で評価するShift Cでは古着屋は高スコアになることが多く、古着は衣類を購入する際に選択肢の一つとして考えたい。「森」は“アップサイクル(価値を高めるリサイクル)”品が売り上げの約60%を占める非常に珍しい店だ。特に2021年に社内デザイナーの青山千夏が「古着がもったいない」と立ち上げた「チナツ アオヤマ」は20代前半を中心に熱狂的な人気を集めている。オンラインで30着発売すれば20分で完売するといった具合だ。「チナツ アオヤマ」の成功が事業として“アップサイクル”品に力を入れるきっかけになり、現在では「コンバース トウキョウ」やJUNの「アダム エ ロペ」などとコラボレーションを行ったり、京都拠点の下着大手ワコールの制服エプロンを手掛けるなど事業が拡大している。

「チナツアオヤマ」と、JUNが手掛ける循環型プロジェクト「RE H」のコラボによる製品。

「森」は2019年3月設立。古着の輸入販売から事業を始め、「スピンズ」や「ムモクテキ」を手掛けるヒューマンフォーラムが手掛ける。当初は大阪・中崎町で250坪規模の店舗で古着を販売していたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、高い家賃を払い、たくさんのスタッフと在庫を抱えるビジネスモデルでは立ち行かなくなった。井垣敦資ディレクターは「大打撃を受けました。事業を縮小し、よりコンセプチュアルにリブランディングを図りました」と振り返る。大きな店舗から小さな店舗へ、eコマースを中心に店舗がないエリアではポップアップストアを開く事業形態に変更した。23年度のオンライン比率は50%と高く、ポップアップストアは25回開催した。

海外のエコバックをパッチワークしたドレス 3万5090円。

“アップサイクル”が成功した理由

ファッションアイテムの”アップサイクル“は難易度が高い。在庫品などをリメイクし、“アップサイクル”品として提案するブランドが増えてはいるが、その多くは消費者が欲しいと思えるアイテムの提案には至っていない。なぜ「森」の製品は顧客に受け入れられたのか。井垣ディレクターは「僕たちに“アップサイクル”するという感覚はなく、手に取ったものがかわいい、恰好いいことを重視しています。作っても売れなかったら意味がない。新製品は少量作り、店頭で反応を見てから改良を加えたり作る量を増やしたりしています」

青山千夏さんのスケッチ(下)とそれを形にするスタッフ。

「チナツ アオヤマ」については「青山千夏さんは、服作りを学んだことはありませんが、大の古着好き。だからこそ奇想天外なアイデアが生まれるのだと思います。そして、それを形にできる技術者が社内にいることも大きいですね。彼女たちのコンビネーションが奏功しているのではないでしょうか。加えて、SNSの影響も大きく、青山千夏さん自身のアカウント上で同年代と盛り上がっています。価格は決して安くはありませんが、ファッション好きの20代は、ある程度服にお金をかけることもできます」と分析する。円安の影響で海外ブランドが高騰する中で、他にはない一点モノの服に支持が集まっている。

「森」では「チナツ アオヤマ」の他、5人で構成するデザインチームが手掛けるミリタリーアイテムやシャツをリメイクした製品も好評だ。「ミリタリーアイテムやシャツは時代を超えます。特にミリタリーアイテムは頑丈だから、リメイクするには最高のスペックといえます」。現在、50~60年前の米軍の寝袋カバーを解体して作ったジャンパースカートが人気を集めており、年間数百着を販売する。ちなみにリメイクの際に出る大量の端切れは就労支援A型事業所スマイルウィズに依頼してパッチワークして、クッションカバーとして販売している。

米軍の寝袋カバーをリメイクした2ウェイワンピース 3万3990円。リメイク品は社内縫製師2人に加えて、提携する縫製師が製作する。「リサークルパートナーズ」と呼ぶ提携する縫製師は、有力ブランドを縫った経験のある人から主婦までさまざまで全国各地に26人いる。

アップサイクル品と古着を選択肢の一つに

古着販売やすでにある古着を材料に国内で製品作りを行うことは、輸送の環境コストはかかるものの、新しい素材から服を作る事業に比べて環境への負荷は格段に低い。

「服を長く着ることがクールなことだと訴求したい。僕たちが古着を好きな理由も、リメイクやリペアを行う理由もこれに尽きます。製品を長く着てもらうことは地球環境にもポジティブに働きます。アップサイクルや古着が定着する一助になりたい。ファッションには影響力があります。僕自身、ファッションを通じて影響を受けることが多かった。そして、いい影響を与えていければ」と井垣ディレクターはいう。

井垣ディレクターへの取材は「森」と同じフロアにある「ムモクテキ」のカフェで行った。「いきるをつくる」をコンセプトにヴィーガンやベジタリアン対応の食事やスイーツを提供する

影響力を大きくするには事業拡大など多くの人を巻き込む必要がある。リメイク品の生産拡大は材料面でも人材面でも難易度は高い。「積み上げて拡大していくほかないですね。リメイクの比重を下げて良質な古着を提案することにも挑戦したいと考えています。古着は若い世代ではここ1~2年で選択肢の一つになりましたが、30歳以上では、選択肢に入っていない人もまだまだ多いと感じます。普段ファッションビルで買い物をするような方にとっても古着が選択肢のひとつになるような提案をしてみたいですね」と意気込む。今後、東京と大阪に小規模な店舗を持つ予定だ。

売り上げ至上主義ではなく新しい価値を提案することを重視

「森」店舗に設置した回収ボックス。同様のボックスをメインバンクの京都信用金庫など市内200カ所に設置した。

「森」事業部を運営するヒューマンフォーラムは京都市と連携して年2回「循環フェス」を主催している。使用済衣服の回収ボックス「リリース・キャッチ(RELEASE⇔CATCH)」による古着回収や、回収された古着のうち3点を持ち帰ることができる「ゼロエンマーケット(¥0Marcket)」、リユースやリサイクルに触れることができるワークショップや展示、トークショーやフードマーケットなどを企画する。昨年11月に4回目を開催した。持ち込まれた服が2230kg(約8920着)に対して持ち帰られた服は442.5kg(約1770着)だった。「まずは京都市で回収したものを京都市で循環させることに挑戦したい」と、スーツやシャツなど売り場を編集した無人販売所を運営する予定だという。

フェスはファンやコミュニティを作るには有効なメディアだ。古着やリメイクを文化として根付かせ、その規模を大きくするためには、継続的にフェスを行うことは重要だ。短期的にみると効果は見えづらいが、長期的には来場者それぞれが服と自分との関係を変える可能性もあるからだ。「事業を継続するためには売り上げはもちろん必要ですが、僕たちは売り上げとは別に、人々のファッションに対する価値観を変えたいと思っていますし、それがチームのモチベーションになっています。チームメンバーには仕事を通じて自己実現してほしいですし、皆で成長していければ」と語った。

進化型古着屋“森” 〒604-8061 京都府京都市中京区寺町通蛸薬師上ル式部町261番地 ヒューマンフォーラム本社ビル 2F 

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