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Climate Week NYC(クライメート・ウィークNYC)2026の期間中、ニューヨークでは数多くのファッション関連イベントが開かれた。その一つが、9月23日にローワーイーストサイド(Lower East Side)で開催された「ファッションの循環型未来をつくる:共感形成、消費者行動、そしてスケールする取り組み(Building Fashion’s Circular Future: Buy-In, Consumer Behavior, and Programs That Scale)」だ。
第1回では循環型デザインがもたらす創造性を、第2回では循環を支える制度と市場を伝えた。第3回の本稿が向き合うのは、その市場を実際に動かす存在、顧客である。
このイベントで特に注目を集めたのが、パネルディスカッション「循環する顧客(The Circular Customer)」だ。テーマは、循環型の行動を生む心理とコミュニティの仕組み。リセール、レンタル、修理の現場で消費者行動の変化を牽引するリーダーたちが登壇した。

- ケイト・サナー(Kate Sanner):ベニ(Beni)共同創業者兼CEO。ベニは、40以上の中古マーケットプレイスを横断検索し、閲覧中の新品と同じ、または似た中古品を自動で表示するリセール検索サービス。
- ノエル・シアッカ(Noelle Sciacca):ザ・リアルリアル(The RealReal)ファッション&戦略的パートナーシップ責任者。同社によれば、真贋鑑定済みラグジュアリーリセールで世界最大のオンラインマーケットプレイス。委託品を預かり、鑑定・価格設定・撮影・発送までを自社で担う。
- アレクサンドラ・パルマー(Alexandra Palmer):ピックル(Pickle)マーケット担当バイスプレジデント。ピックルは、個人同士がクローゼットの服を貸し借りし、売買もできるピア・トゥ・ピア型のマーケットプレイス。
- ドナテラ・ベローネ(Donatela Bellone):アルー(Alu)創業者兼CEO。アルーは、デジタル・プロダクト・パスポート(Digital Product Passport:DPP)を、修理・リセール・レンタル・リサイクルへの入口に変えるブランド向けプラットフォーム。
4人はそれぞれ異なる領域から循環型ファッションを推進している。共通していたのは、「循環の未来は消費者がつくる」という確信だった。

右からアレクサンドラ・パルマー:Pickleマーケット担当バイスプレジデント、ドナテラ・ベローネ: Alu創業者兼CEO、ノエル・シアッカ: The RealRealファッション&戦略的パートナーシップ責任者、ケイト・サナー:Beni共同創業者兼CEO、メロディ・セラフィノ:No.29 Communications共同創業者
“疲れた世界”で、消費者は何を求めているのか
セッションの冒頭で語られたのは、現代の消費者心理の変化だった。ケイトは、今の世界を「疲れている」と表現した。広告が溢れ、SNSでは絶え間なく“買え”というメッセージが流れ続ける。
ファッションは本来、自己表現だ。良い服を着たときには、背筋が伸びるような高揚感がある。しかし、その“良い服”に辿り着くまでのプロセスが、今はあまりにも複雑で、あまりにも疲れる。
ケイトが率いるベニは、この状況への解決策として生まれた。自らを「中古ファッションの検索エンジン」と呼ぶ。ユーザーがブランドサイトやECで新品を見ていると、無料のブラウザ拡張機能が、ザ・リアルリアル(The Real Real)、ポッシュマーク(Poshmark)、イーベイ(eBay)、スレッドアップ(ThredUp)、ヴェスティエール・コレクティブ(Vestiaire Collective)など40以上の中古マーケットプレイスを横断検索する。そして、同じ商品や似た商品の中古在庫を、価格とともにその場で表示する。同社によれば、ユーザーは新品価格から平均約55%を節約している。
画像から中古品を探す「ベニ・レンズ(Beni Lens)」や、アプリでの入荷アラートなど、“欲しいものを中古で賢く手に入れる”ための機能も揃う。ケイトは「中古を選ぶことが、もっと簡単で、もっと楽しく、もっと当たり前になるべきだ」と語った。
この領域は今、競争が激しくなっている。ベニのユーザーは2025年初めに100万人近くに達した。同じく新品と中古の価格を比較するフィア(Phia)は、2026年1月に3,500万ドルを調達し、ユーザーは100万人を超えた。中古を探す手間そのものが、テクノロジーによって消えつつある。
広告に左右されるのではなく、自分が本当に欲しいものを選ぶ“意思のある買い物”。ベニは、その新しい選択の形をつくり出している。

中古は“最後の選択肢”ではなく“最初の出会い”へ
ザ・リアルリアルのノエルは、ラグジュアリー市場で循環が本格化していることをデータで示した。
同社の2025年版リセール・レポートによれば、米国の消費者の58%が新品よりも中古市場をはっきりと好む。47%は、新品を買う前にリセール価値を考慮する。そして2026年8月、同社は最新レポートを「リセールは買い物客の第一の選択肢になりつつある」という見出しで発表した。15年間で販売した5,000万点以上のデータをもとに、ヴィンテージ需要が2020年比で432%増えたことを報告している。
ノエルはさらに、ブランドのロイヤル顧客の行動について、次の数字を共有した。
- ブランドのロイヤル顧客の約70%が、中古市場でも同じブランドを購入している
- ロイヤル顧客が中古市場で購入する頻度は、新品の約2倍にのぼる
- 過去シーズンの名作を探すために、中古市場を定期的にチェックしている
中古は「新品を買えない人の選択肢」ではない。「ブランドを深く理解している人の選択肢」になっている。
この変化は、ザ・リアルリアルだけの話ではない。イーベイは、ラグジュアリーブランドを初めて買う場面の40〜65%が中古市場で起きていると見ている。スレッドアップの2026年版レポートは、世界の中古衣料市場が2030年に3,930億ドルへ拡大すると予測する。同レポートは、2030年までの市場成長の約7割をZ世代とミレニアル世代が担うとしている。ザ・リアルリアル自身も、顧客の半数超をこの二つの世代が占める。 ノエルは、雑誌のファッションエディターだった頃を振り返り、「当時、古着を着ることはキャリアに良くないとまで言われた」と語った。中古は“ブランドの終着点”であり、価値が下がったものが流れ着く場所だと考えられていた。それが今、ブランドとの最初の出会いの場になっている。

ヴィンテージのウェディングドレスもトレンドに
ザ・リアルリアルでは2025年、ウェディングドレスの検索が247%増えた
レンタルは“所有の代替”ではなく“スタイルの拡張”
ピックルのアレクサンドラは、レンタル市場の急成長を語った。レンタルは「買えないから借りる」ものではなく、「必要なときだけ使う」という合理的な選択になっている。
特に伸びているのは、大学生のイベント需要だ。テーマパーティーやソロリティ(女子学生クラブ)の行事など、一度しか着ない服を買う合理性は薄れている。アレクサンドラによれば、大学生のレンタル利用は前年の6倍に増え、ブライダル関連のレンタルも前年比300%増と急成長している。
ピックルの特徴は、運営会社が在庫を持たず、ユーザー自身が自分の服を貸し出して収益を得られる点にある。月額制ではなく、取引ごとに20%の手数料を受け取る仕組みだ。2022年にニューヨークで始まり、2025年3月には1,200万ドルを調達。現在は全米50州に広がり、2025年には上位の貸し手が月平均約5,700ドルを得たと同社は説明している。
アレクサンドラは、「人々はクローゼットを資産として捉え始めている」と語る。着るだけでなく、貸し出し、最後に売る。服は「消費財」から「収益資産」へと変わる。
レンタルは「スタイルの実験場」としても機能している。新しいブランドを試したり、トレンドを気軽に体験したりできる。アレクサンドラ自身も、ピックルで借りたダニエル・ギジオ(Danielle Guizio)のアイテムを着て登壇していた。「買う前に試せる」という体験は、レンタルならではの価値だ。
ブランドの視点から見れば、これは脅威ではなく試着の機会である。広告費をかけずに、新しい顧客が自社の服に袖を通す。レンタルで好きになった人が、次に新品や中古を買う。リセールと同じく、レンタルもブランドへの“入口”になりうる。

循環を動かすのは“心理”と“コミュニティ”
ここで、ドナテラの話が非常に示唆的だった。彼女が強調したのは、「人は正しさでは動かない。感情で動く」という点だ。
サステナビリティは、知識や罪悪感だけでは行動につながらない。「環境に良いから買う」という動機は弱く、長続きしない。ドナテラは、行動変容の鍵は“所属感”と“自己表現”だと語った。
人は、自分が属したいコミュニティ、憧れるスタイル、なりたい人物像に合わせて行動する。だからこそ、循環型ファッションを広げるには、「循環を選ぶことが、かっこいい・楽しい・自分らしい」と感じられる仕組みが必要になる。
アルーが提供しているのは、まさにその仕組みだ。服に付いたQRコードやNFCタグからDPPを読み取ると、修理、リセール、レンタルのサービスにつながり、リワードやコミュニティ体験も得られる。ロイヤルティ、スタイリング、コミュニティ、リセールや修理の導線を一つの体験にまとめ、“循環型の選択をしたくなる顧客体験”をブランドに提供している。アルーは2026年、H&Mファウンデーション(H&M Foundation)のグローバル・チェンジ・アワード(Global Change Award)を受賞した。
ドナテラはこう語った。
「人は“正しいから選ぶ”のではなく、“自分らしいから選ぶ”。循環型ファッションを広げるには、感情に働きかける設計が必要だ。」

ここに、第2回で伝えたEUの規制との接点がある。DPPは、ブランドにとって「対応しなければならない情報開示」として語られがちだ。しかし、情報を開示するだけでは人は動かない。第1回で触れたように、ランウェイ会場のQRコードは、置くだけでは観客の関心を引けていなかった。
アルーの発想は、その逆を行く。規制が求めるデータを、購入後も続く顧客との接点に変えるのだ。DPPをコストとして終わらせるか、顧客体験の入口にするか。その分かれ目は、技術ではなくマーケティングの設計にある。
循環型ファッションを“義務”ではなく“文化”として広げる。ドナテラの視点は、そのための重要な示唆となった。
“買う”という行為の再定義
セッションの最後に議論されたのは、「買う」という行為そのものの変化だった。
ケイトは、広告が購買行動を極端に短縮してしまったことを問題視した。SNS広告は、発見から購入までを数秒に圧縮する。その結果、消費者は衝動的に買い、返品が増え、着ないまま手放す服が増えるというのが彼女の見立てだ。
ブランドにとっても損失は大きい。消費者が商品について考える時間が減れば、ブランドストーリーは伝わらなくなる。ブランドは「ユーティリティ化」し、価格競争に陥る。
ケイトは「買い物はもっと楽しいはずだ」と語った。広告に追い立てられるのではなく、ゆっくり選び、試し、考える時間が必要だ。循環型ファッションは、その“選ぶ時間”を取り戻す手段になりつつある。
AIによって私たちは“選ぶ楽しさ”を取り戻すのか?
AIの進化も、消費者行動を変えている。セッションでは、AIが情報を透明にし、消費者が広告に頼らず「本当に欲しいもの」を自分で選びやすくなる、という期待が語られた。
手がかりになるデータは出始めている。2026年8月に公表された、パフォーマンス・マーケティング企業RTBハウス(RTB House)による日本を含む4か国・1,800人超を対象とする調査では、回答者の68%が直近3か月に買い物でAIを使い、62%が価格やブランド、レビューの比較をAIに頼ったと答えた。興味深いのは、米国の消費者の42%が「AIを使うと、何を買うか決めるまでの時間が長くなる」と答えたことだ。選択肢が増えるからである。広告が縮めた“選ぶ時間”を、AIが少し取り戻しているとも読める。
ただし、楽観はできない。同じ調査で、購入判断でAIを信頼する人は44%にとどまり、家族や友人の59%に及ばない。そしてAIそのものが、新しい売り場になりつつある。オープンAI(OpenAI)は2025年9月、チャットの中でそのまま購入できる機能を米国で始め、アマゾン(Amazon)やウォルマート(Walmart)も買い物AIを投入した。発見から購入までの距離は、AIによってさらに短くなる可能性もある。
AIが消費者の味方になるか、新しい広告板になるかは、まだ決まっていない。確かなのは、AIが新品と中古を同じ棚に並べて比較する時代には、二次流通で価値が残る服かどうかが、買う瞬間に可視化されるということだ。
日本のクローゼットには、すでに“資産”が眠っている
この議論は、米国だけのものではない。むしろ日本は、土台がすでに整っている市場だ。
リユース経済新聞によれば、日本のリユース市場は2025年に3.5兆円となり、16年連続で拡大した。2024年にはファッションリユースが初めて1兆円を超え、市場全体は2030年に4兆円規模に達すると予測されている。フリマアプリもリユース店も、生活に根づいている。
一方で、環境省によれば、1年間に一度も着られていない服が一人あたり約24枚ある。手放された服のうち、古着としてリユースされるのは約35%にすぎない。アレクサンドラの言う“資産としてのクローゼット”は、日本にも大量に眠っている。
課題は、この二次流通がブランドの外側で起きていることだ。中古市場は、ブランドから「自社の売上を奪うもの」か「関与しないもの」と捉えられがちだ。今回のセッションは、その前提を見直す材料を与えてくれる。
環境省などは2026年、「『衣替え』でクローゼットから循環をはじめよう」をコンセプトに、サステナブルファッションのキャンペーンを立ち上げた。その機運を行動につなげるうえでも、ドナテラの言う“選びたくなる体験”がヒントになりそうだ。
循環型ファッションは“消費者の革命”である
このセッションが示したのは、循環型ファッションの未来を動かすのは消費者だということだった。消費者は今、所有より体験、新品より選択、大量消費より合理性、広告より自分の意思を重視している。
リセールは“入口”になり、レンタルは“実験場”になり、修理は“愛着の証”になり、クローゼットは“資産”になった。循環型ファッションは、環境のためだけではなく、消費者自身のための選択肢として広がっている。

ただし、問われることが二つある。
一つは、中古やレンタルが、新品の購入を本当に置き換えているかどうかだ。デポップ(Depop)は、自社での購入の5件に3件が、ほかで新品を買う代わりになっていると述べている。裏を返せば、残りは新品の代替ではなく、純粋に消費が増えただけの可能性がある。手軽になった中古が消費の総量を押し上げるなら、それは循環ではない。
もう一つは、消費者だけに委ねてよいのかということだ。消費者が選べるのは、目の前にある選択肢だけである。第1回で見たように、長く価値が続く服をデザインするのはつくり手だ。第2回で見たように、循環するほうが有利になる市場のルールをつくるのは政策だ。そして、その選択肢を「正しいから」ではなく「選びたいから」手に取ってもらえる体験にするのが、ブランドとマーケターの仕事である。
Climate Week NYC 2026のこのセッションは、「循環型ファッションは、消費者の革命である」という強いメッセージを残した。その革命を一過性のトレンドで終わらせないために、消費者が“選びたくなる循環”を用意できるか。問われているのは、企業の側だ。