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「新しいものをつくること」が価値だった時代が、変わりつつある。2026年9月20〜27日に行われたClimate Week NYC(クライメート・ウィークNYC)2026の2つのセッションで見えてきたのは、循環型デザインが「産業」になるまでの3つの段階だ。
• 創造性で価値を示す: 「環境のための制約」を「創造性の源泉」に変える
• 技術でスケールする: 「一点もののクラフト」を、量産に近い効率に乗せる
• 仕組みで広げる: 自社だけで完結させず、他社が使える形にする
この3段階を、NYファッションウィーク等を主催するアメリカ・ファッション・デザイナー協議会(CFDA)のパネルとE.L.V. Denimのセッションから追い、日本企業が向き合うべき問いを考えたい。
気候危機の中心で、ファッションの未来が語られた

ニューヨークの秋を象徴するイベント、Climate Week NYC。国連総会と同じタイミングで開催されるこの一週間は、世界中の政府、企業、大学、NGO、クリエイターが集まり、気候危機への具体的な行動を議論する場だ。ファッション産業も例外ではない。世界のCO₂排出の約8〜10%を占めるとされ、気候危機の文脈で避けて通れない存在である。
今年の公式プログラムの一つとして、コロンビア大学で「コロンビア・ファッション、エネルギー、気候サミット(Columbia Fashion, Energy, and Climate Summit)」が開かれた。その中のパネル「ランウェイのその先へ:ファッションウィーク、文化、そして循環型デザイン(BEYOND THE RUNWAY:ビヨンド・ザ・ランウェイ)」では、ファッション産業が気候危機の時代にどう再設計されるべきかが議論された。
評価されるのは「新しさ」より「長く続く価値」

登壇したCFDA(アメリカ・ファッションデザイナー協議会)のサラ・コズロウスキー氏は、こう語った。
循環型デザインは「環境のための制約」ではない。「創造性を広げる新しい基盤」として捉えるべきだ、と。
この変化は、CFDAアワードの評価にも表れている。
かつての評価軸は、商業性とトレンドだった。マーク・ジェイコブスやプロエンザ・スクーラーのように、「新しいものを生み出す力」が称賛された。
転機の一つが2019年だ。伝統的なテキスタイルを再構築し、BODE(ボーディ)というブランドを展開するエミリー・ボードディー氏が、新人賞にあたるエマージング・デザイナー賞を受賞した。ボーディー氏は2022年にメンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤーも受賞している。2025年には、ゼロウェイストを探求するAshlyn(アシュリン)が新人賞に選ばれた。ザ・ロウやトム・ブラウンなど、流行より長期的な価値とクラフトマンシップを重んじるブランドへの評価も、同じ流れの中にある。

ここで大事なのは、サステナビリティが「審査項目の一つ」になったわけではない点だ。評価軸そのものが書き換わりつつある。業界の基準が変われば、デザイナーや企業の投資先も変わっていく。
制約が、新しい創造性を生む
美学の転換を象徴する例として挙がったのが、Ashlyn(アシュリン)とCollina Strada(コリーナ・ストラダ)だ。
Ashlyn は、布の端材がほとんど出ないようにパターンを設計する。廃棄を減らす手法であると同時に、服の形そのものを更新する創造的な挑戦でもある。「廃棄を出さない」という条件が、新しい形を引き出している。
Collina Strada は、余剰生地(デッドストック)をブランド成長の核に置く。素材は限られていても、独自の色彩感覚とユースカルチャーを重ねて、他にない世界観をつくる。


どちらも制約を弱みにせず、ブランドの個性に変えている。
ただし課題が残る。創造性が評価されても、産業として広がるとは限らない。素材が一点ずつ違い、手間のかかるアップサイクルは、構造的にスケールしにくい。この壁にどう挑むのか。その答えを示したのが、E.L.V. Denim(イーエルヴィーデニム)だ。
一点ものでビジネスをする。クラフトで終わらせないE.L.V. Denim
NYのローワーイーストサイド(LES)で、別日に行われたClimate Week NYCのセッション「ファッションの循環型未来をつくる(Building Fashion’s Circular Future:ビルディング・ファッションズ・サーキュラー・フューチャー)」に、E.L.V. Denim創業者のアナ・フォスター氏が登壇した。彼女は、25年以上スタイリストとして働いた後、2018年にブランドを立ち上げた。ブランド名は、育ったイーストロンドンにちなむ「East London Vintage(イースト・ロンドン・ヴィンテージ」の略だ。


アナ氏は、まず最初に言葉の整理を行い、業界で広がる誤解を解いた。
- アップサイクル:機能を失ったアイテムを再構築し、元より高い価値を与えること。繊維に分解するリサイクルとは別物。
- デッドストック:ロール全体が傷んで、通常は使えない素材のこと。単に余ったロールは「ただのロール生地」にすぎない。
アップサイクルを雰囲気やスタイルではなく、技術として扱う姿勢がよく表れている。

素材の質が低下するなら、デザインを変える
2018年から今までで、最も大きな変化は素材の質の低下だという。ヴィンテージデニムが減り、ストレッチ素材が増えた。ストレッチは縫うと形が崩れやすく、再構築が難しい。それでもアナ氏は、状態の悪い素材を避けなかった。素材に合わせてデザインを変えたのだ。
例えば
・前面が傷んでいても、背面がきれいなデニムはワンピースに使う
・ストレッチ素材は裏地にして、軽さを生かしたジャンプスーツにする
という具合だ。
「素材の軽さという唯一の共通点を見つけたとき、可能性が一気に広がった」と彼女は語る。

スケールの壁を突破するための技術と発想
E.L.V.Denimは、複数のデニムを組み合わせて新しい生地をつくる。それをロール状にして、通常のパターンを適用できるようにした。これで製造ラインに乗せやすくなる。ブランドが求める均質な見た目と、量産に近い効率が両立する。
素材の幅も広い。ホテルのベッドリネン、家具や自動車内装の革の端材、テーラリングの残布、ポリエステルの古着など、異業種の廃材も取り込んでいる。
アナ氏は「私たちは世界で唯一、アップサイクルだけでスケールしているブランド」と語った。
同ブランドは、ロンドンの3マイル(約5km)圏内で完結するローカル生産を保ちながら、ラグジュアリーブランドとの協業や国際的な百貨店での展開も広げている。アップサイクルデニムの世界市場は、2024年の約4.6億ドル(約720億円)から2031年には7.4億ドル(約1,200億円)へ成長すると予測されている(複数の市場レポートによる)。もはや小さなニッチではない。
仕組み化し、自社だけで完結させない
アナ氏がもう一つ力を入れているのが、他ブランドへの展開だ。アップサイクリングを自社だけで完結させるのではなく、他ブランドが内製化できるようにするための仕組みを開発している。開発中のシステム「マテリアル・インテリジェンス・デザイン・エンジン(Material Intelligence Design Engine:MI)」は、次のように動く。
- ブランドの過剰在庫を、画像認識で分類する
- パターンや技法をデータ化する
- ブランド自身のサプライチェーンに組み込める、アップサイクル手法を提供する
アナ氏は「過剰在庫は廃棄物ではなく資源」と語る。ポイントは、アップサイクルを外部の特別なプロジェクトにせず、ブランドが自ら担う「内製化」を支援することだ。自社が成長するだけでなく、他社の実装も後押しする。そうして個別の取り組みを、産業の標準へ引き上げようとしている。
ここまでの流れは、3つの段階にまとめられる。
<創造性で価値を示し、技術でスケールし、仕組みで他社に広げる>
これが、循環型デザインが産業になるための道筋だ。


10年後のランウェイはどうなっている? 問われる「価値の伝え方」
コロンビア大学でのパネルの最後には、ファッションウィークの未来も語られた。CFDAのコズロウスキー氏は、10年後のファッションウィークは「ランウェイだけでなく、制作の舞台裏を深く伝える多次元的な場になる」と語った。
すでに、QRコードでゼロウェイストの制作過程を見せるブランドもある。ただ、観客はまだ気づいていない、あるいは関心が薄いという。素材の背景、職人の技、修繕や再生の思想を、どう見せて伝えるか。それは、スケールするための仕組みを作ると同時に必須の課題だ。創造性を示し、技術でスケールしても、価値が伝わらなければ成果は届かない。3段階と並列で考えなければならない課題である。
では、日本の現場には何が問われるのか。
日本企業が考えるべきこと
日本には、この道筋を描く土壌がある。児島のデニム、尾州のウールなど、世界に通用する素材と加工の産地を持つ。近年は産地発のブランドが増え、京都紋付のように伝統技術を循環の取り組みにつなげる事例も出てきたが、まだ点にとどまっている。ここからは筆者の考察として、「創造性・技術・仕組み」の3段階に沿って、6つの問いを立てたい。
【創造性】何を「価値」と見なすか
① 評価軸:社内の物差しを、書き換えられるか
CFDAが「新しさ」から「長く続く」へ評価軸を書き換えたように、社内の評価が変わらなければ、現場は動けない。売上や在庫回転率に加えて、「どれだけ長く使われたか」「廃棄をどれだけ設計に組み込めたか」を評価できるか。
② 文化:「繕う文化」を、事業にできるか
刺し子、ボロ、金継ぎなど、日本には直して使う文化がある。海外でビジブル・メンディング(見せる修繕)が評価される中、自社の事業にできているか。文化を語るだけでは産業にならない。誰に、どんな価格で届け、どう採算をとって続けるのか。事業としての検証が欠かせない。
【技術】制約から出発できる現場か
③ 職能:「白紙から描く力」に、「制約から出発する力」を足せるか
E.L.V.は、素材を見てから描く。ゼロから発想する力は引き続き必要だが、素材を見極める力、パターンと構造の技術、制約を編集する力も要る。まずは端材だけで1型をつくる企画を、次シーズンに置いてみるのはどうだろうか。
④ 組織:素材とデザインの距離を、分業の中で縮められるか
日本のアパレルは企画、MD、生産、OEM/ODMと分業が細かく、デザイナーが素材や在庫の状況を知らないまま設計する場面も多いのではないか。余剰在庫や端材の情報を、企画の初期に見られる形にすることが第一歩になる。
【仕組み】余剰を「回る資源」にできるか
⑤ 数字(出口):余剰は、コストか資産か
余剰在庫は評価損として処理されがちだが、素材として捉え直せば、新商品の原価にもなり得る。EUでは拡大生産者責任(EPR)の導入が進む方向にあり、廃棄コストは今後上がる可能性がある。まず余剰を種類と量で棚卸しし、数字にしたい。
⑥ 上流(入口):似たブランドを、いくつも抱える必要はあるか
アップサイクルは余剰の「出口」だ。本質的な問いは、なぜ余るほど作ったのかにある。複数のターゲットが近いブランドを抱える企業は、それぞれ新作と在庫を持つ構造で、作る点数を膨らませていないか。ブランドごとに、別の存在理由があるかを確認したい。
<創造性で価値を示し、技術でスケールし、仕組みで広げる>
日本には、素材も技もある。すでに手の中にあるそれらを、「点」から「面」へ、そして「産業」へ育てられるか。問われているのは、その設計である。