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ファッション|2026.10.29

アシックス「ニンバスミライ2」が直面した回収の壁。循環型ビジネスに必要な次の一手

使用後にリサイクルできるよう設計された「ニンバスミライ」。初代の発売から約2年が経ち、このほど回収された素材の一部を使った「ニンバスミライ2」が発表された。見えてきた循環の課題と解決法とは? 一ノ瀬メイさん、サーキュラーエコノミー戦略家の安居昭博さんらが参加し、ラウンドテーブルが行われた。

原稿:廣田悠子 写真提供:アシックス 

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アシックスは10月15日、使用後の回収・リサイクルを前提に設計したランニングシューズ「ニンバスミライ2(NIMBUS MIRAI 2)」を直営店と公式オンラインストアで発売した。価格は2万4200円。2024年に発売した初代モデルから約37gの軽量化を実現し、商品全体の約30%に植物由来材の活用などによって温室効果ガス排出量を1足当たり4.9kgCO₂e*と、約20%削減した。さらに、初代モデルの回収品から再生したポリエステルをアッパーのアシックスストライプ部分の刺繍糸の素材のうち約1%に採用。使用済みシューズを新たなシューズの原料として再利用する取り組みを一歩前進させた。

初代「ニンバスミライ」は、ランニング性能を維持しながら再資源化を可能にするため、アッパーをポリエステル単一素材とし、独自開発の接着剤によって、回収後に熱を加えることでアッパーとソールを分離できる構造を実現。ソールは機能性を優先して単一素材化せず、使用済みシューズの自宅回収や返却者への2000円分のワンアシックスポイント付与など、回収を促す仕組みも製品設計と一体で構築した。

初代モデルの発売から約2年を経て、課題が浮き彫りになった。リサイクル技術の確立以上に難しいと感じたのが、購入者から使用済みシューズを回収することだという。これまでに回収した「ニンバスミライ」は約60足。そのうち約40足を再資源化し、「ニンバスミライ2」のアッパーに重量比で約1%のリサイクルポリエステルを使用した。

「ニンバスミライ」は約500kmの走行を想定した耐久性を備えており、現在も使用を続けている購入者が多いことが一因とみられるが、同社は「シューズを返却する文化や習慣が根付いていないことが、大きな壁となっている」と捉える。技術的な進化をいかに資源循環につなげるのか。アシックスはこの課題を共有し、解決の糸口を探るため、初代「ニンバスミライ」開発から伴走するサーキュラーエコノミー戦略家の安居昭博さんと、元パラ水泳選手でタレントの一ノ瀬メイさん、メディアを招きラウンドテーブルを開いた。

左からサーキュラーエコノミー戦略家の安居昭博さん、元パラ水泳選手でタレントの一ノ瀬メイさん、アシックス・サーキュラーエコノミー推進部部長の立石純一郎さん

リサイクル前提の設計から、回収・再資源化の実装へ

サーキュラーエコノミーの実現には、従来のリサイクルとは異なる発想が求められる。欧州の循環型ビジネスを長年調査してきた安居さんは、「従来のリサイクルやアップサイクルが、廃棄物となった後に再資源化を考える『対症療法』だとすれば、サーキュラーエコノミーは製品やビジネスモデルの設計段階から使用後を考える『予防医療』のようなもの」と説明する。

シューズは、異なる素材を接着剤で貼り合わせた複雑な構造から、再資源化が難しく、また、使用済み製品を回収するには、消費者の協力が不可欠になる。こうした課題に対し、初代「ニンバスミライ」は設計段階からアプローチした。

安居さんは初代「ニンバスミライ」を「欧州の先進事例と比較しても衝撃的だった」と振り返る。その取り組みを進化させたのが「ニンバスミライ2」だ。材料開発とリサイクル技術の研究開発を担当する鈴⽊千早さんは、初代モデルの回収品から再生したポリエステルを新モデルに採用できたことを大きな成果として挙げる。「初代モデルの回収品から再生したポリエステルは、刺繍糸の約1%(重量比)とまだ小さいが、真のクローズドループの実現に向けた決定的な一歩になった」。

アシックスは欧州でも資源循環の取り組みを進めている。例えば今年3月に発売した「ネオタイド(NEOTIDE)」では、欧州で発生したデッドストックやサンプル品、社内規格を満たさなかった製品などを粉砕・再資源化し、新たなシューズの部材として活用した。本モデルでは、シューズを再生した粉砕材料を、スニーカー全体の約17.5%に使用。その他の一般的な再生材料を含めた再生材料比率は、約39.4%。回収から再資源化、製品化、販売までを欧州域内で完結させるモデルだ。

こうした技術開発が進む一方、使用済みシューズを消費者から回収する仕組みは、まだ十分に機能しているとはいえない。「ニンバスミライ2」では、新たに中国にも回収・リサイクルの仕組みを拡大する。サーキュラーエコノミー推進部の⽴⽯純⼀郎部長は、製品開発に加えて「使い終わったシューズを回収・リサイクルに出せる選択肢を用意することが重要」と語る。

消費者の意識を変えるより、参加したくなる仕組みをつくる

初代「ニンバスミライ」をランニングやジムで日常的に愛用している一ノ瀬メイさん

では、どうすれば使用済みシューズの返却を促せるのか。その手がかりの一つが、製品や取り組みの価値をいかに消費者に伝えるかにある。

元競泳日本代表の一ノ瀬メイさんは、初代「ニンバスミライ」をランニングやジムで日常的に愛用している。周囲のランナーからシューズについて尋ねられることも多いというが、アシックスの資源循環に向けた取り組みを知らない人は少なくないという。一方、その背景を説明すると、共感して購入する友人も増えた。

一ノ瀬さん自身、13歳から約10年間、日本代表としてアシックスのウェアを着用してきたが、同社のサステナビリティへの取り組みを深く知ったのは、アンバサダーに就任してからだった。「サステナビリティレポートを読んで、こんなに取り組んでいるのかと驚いた。製品の機能性も環境への配慮も、設計段階から考えられている。それなのに、私自身も数年前まで知らなかった」。製品や技術の進化と、その価値が消費者に伝わることの間には、まだ隔たりがあると感じているという。

特にランナーは、気候変動によって屋外で安全かつ快適に走れる期間が短くなっていることを実感しやすい。一ノ瀬さんは、これからも健康な地球でランニングを楽しみ続けるための選択肢として、循環型シューズの存在をより多くの人に知ってほしいと期待する。

サーキュラーエコノミー戦略家の安居昭博さん

安居さんは、循環型ビジネスが進まない理由を消費者の環境意識の低さだけに求めるべきではないと指摘する。「欧州でも環境意識が高い人が多数派というわけではない。循環型ビジネスで成功している事例に共通するのは、まず機能性やデザインなど、誰もが魅力を感じる価値があること。その上で、環境に配慮されていたり、返却できる仕組みがあったりすることが、リピート購入や口コミにつながっている」。

安居さんが音楽イベント「京都音楽博覧会」で古着の回収を企画した際には、多くの来場者が着なくなった衣類を袋に詰めて持参したという。回収した衣類を地域でリユースするという仕組みに共感したことが、参加を促したのではないかと分析する。「単に捨てるのではなく、納得できる形で手放したいという潜在的なニーズは、日本でも高まっているのではないか」。

企業と消費者の関係も変わりつつある。安居さんは、欧州では「消費者(consumer)」ではなく「利用者(user)」という捉え方が広がっているという。企業が製品を一方的に販売するのではなく、利用者が修理や返却を通じて資源循環に参加する、双方向の関係への転換だ。安居さんは、回収を義務や負担としてではなく、新しいライフスタイルとして提案することも重要だと考える。修理や回収は、企業と顧客の接点を増やす機会にもなると指摘。安居さんによれば、日本や海外では、修理カウンターや回収ボックスを設置することで、商品購入を目的としない来店が増え、結果として売り上げにつながったという企業の声もあるという。オンラインショッピングが普及する中、「実店舗は商品を販売するだけでなく、顧客との継続的な関係を築く場へと役割を広げられる可能性がある」と加える。

一ノ瀬さんは回収への参加を促すには、まず手間を減らすことが重要だと語る。自身が愛用するコスメブランドでは、オンライン購入時に使用済み容器を返送する封筒が同封されているという。「購入時に回収プログラムを知らなくても、商品が届けば知るきっかけになる。使い終わったら封筒に入れてポストに投函するだけ。環境意識の高さにかかわらず、誰もが参加しやすい仕組みだと感じる」。シューズでも、購入時に回収用の封筒やボックスを同封するなど、返却のハードルを下げる工夫が考えられると指摘する。「次回購入に使えるポイントや植樹などのインセンティブも、参加を促す動機になる」と加える。さらにラウンドテーブル参加者から、人気マラソン大会への出走機会につながるような特典というアイデアが上がると、一ノ瀬さんも同意した。

回収率だけでは測れない、循環の質と経済合理性

一方で、回収率の向上だけを追い求めることには注意が必要だ。安居さんは、脱炭素の取り組みでCO₂排出量の削減だけに注目し、ほかの環境・社会課題を見落とす「カーボントンネルビジョン」を例に挙げる。「回収率が高くても、回収したものが実際に再資源化され、新しい製品に使われるとは限らない。回収量だけでなく、その先でどのように資源が循環しているかを見る必要がある」。

衣類の回収ボックスなどは普及しつつあるものの、回収後の製品がどのように処理・活用されているのか、十分に情報が公開されているとはいえない。その点で、アシックスが回収実績や再資源化の成果、課題を正直に共有したことには意義があると評価する。回収量を増やすことと、回収した製品を実際に再資源化すること。その両方を進めながら、消費者とのコミュニケーションを重ねることが重要だ。

こうした資源循環の仕組みづくりは、環境への配慮だけでなく、経済合理性の観点からも重要性を増している。欧州では、エコデザイン規則(ESPR)に基づき、2026年7月から大企業を対象に売れ残った衣料品や履物などの廃棄禁止が適用された。アシックスも欧州市場での対応を進めている。

安居さんは政策の背景には、環境意識だけでなく資源を使い捨てることの経済合理性が失われつつあると指摘する。「半世紀前は、大量生産・大量消費が合理的な仕組みだった。しかし今は、資源を輸入し、使い終われば廃棄するというモデルが、企業や国にとって必ずしも合理的ではなくなっている」。

欧州では民間企業も政策形成に関与し、規制への対応を見据えたビジネスモデルの構築が進んできたという。サーキュラーエコノミーは、環境負荷を減らすための取り組みであると同時に、限られた資源を有効活用し、事業の持続可能性を高めるための経済モデルでもあるからだ。

「ニンバスミライ2」が示したのは、リサイクル技術の進化だけでは循環型ビジネスは成立しないという現実だ。製品設計から回収、再資源化までを一体で考えることに加え、利用者が無理なく、そして自発的に参加できる仕組みを整える必要がある。回収率約60足という現状は、その難しさを浮き彫りにした。同時に、回収を消費者の善意や環境意識に委ねるのではなく、製品の魅力や利便性、企業との新たな接点を通じて、資源循環を日常の行動に組み込むことの重要性を示している。

※NIMBUS MIRAIは ASICS’ carbon footprint methodology version 1.1を使用。
NIMBUS MIRAI2は ASICS’ carbon footprint methodology version 1.4を使用し算出

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Office for Sustainable Fashion代表
廣田悠子
千葉大学大学院修了後渡英し、ロンドンでスタイリストのアシスタントやファッション PR会社でのインターンシップを通じて見聞を広げる。2006年INFASパブリケーションズへ入社し、「WWDJAPAN」記者として海外コレクション、セレクトショップ、百貨店、シューズなどの分野を担当し、18年サステナビリティ分野を新設。21年6月Office for Sustainable Fashion設立。記者としての活動を続けながらアパレル企業のサステナビリティ対応に関する事業戦略策定支援などを行う

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