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ニュース|2026.06.17

【気象予報士が解説】 2026年の夏はどうなる?「スーパーエルニーニョ」が日本の気候と食卓に与える影響

今年よく耳にする「スーパーエルニーニョ」とは一体どんな現象なのか。一般的に冷夏になりやすいとされるなか、なぜ今年は猛暑が予測されているのか。梅雨や台風シーズンの見通しなど、気になるギモンを専門家に聞いてみた。

原稿:上杉沙樹

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4月の時点ですでに気温30℃を超える日を記録し、気象庁は40℃以上という極めて危険な暑さを示す用語「酷暑日」を新たに予報用語に追加した。「今年の夏はどうなってしまうのか」と不安を感じている人も多いだろう。今年の気象を読み解く注目のキーワード「スーパーエルニーニョ」と猛暑の関係について、気象予報士・吉良 真由子さんと、気候変動適応専門員・根本 緑さんの解説をもとに読み解いていく。

ウェザーニューズ気象予報士 吉良 真由子

ウェザーニューズ入社後、鉄道事業者向けの気象予測を担当したのち、気象予報士の資格を取得。2020年からは、データ分析やカスタマーサービス、アプリ開発など多岐にわたる業務を経験。2025年からは予報センターへ異動し、現在はウェザーニュースLiVEで「100年天気予報」という気候変動をテーマにした動画解説を担当している。

国立環境研究所 気候変動適応専門員 根本 緑

2018年入所後、地方公共団体等の気候変動適応の推進支援を担当。2022年に広報戦略チームを発足し、気候変動による影響や適応策を幅広く発信している。著書に『ADAPTATION アダプテーション[適応] 気候危機をサバイバルするための100の戦略』。『気候変動アクションガイド』制作メンバー。

「スーパーエルニーニョ」とは?

まず、エルニーニョ現象とは、太平洋東部赤道域(ペルー沖など)の海面水温が平年より高くなる状態が続く、数年おきに発生する自然現象である。

この海面水温の平年との差が0.5℃を超える場合に「エルニーニョ」となるが、この偏差が3か月の平均値で+2.0℃以上になる非常に強い状態を、「スーパーエルニーニョ」と呼ぶ(※正式な気象用語ではなく俗称として広く使われている)。

提供:ウェザーニューズ

この現象が太平洋だけでなく世界各地の気温や降水パターンに影響を及ぼすことが明らかになったのは、観測網やコンピューターによる解析が進んだ1980年代以降のこと。エルニーニョは、以下のような仕組みにより日本の気候にも影響を及ぼしている。

【エルニーニョが日本の気温に影響する3つのステップ】 

  1. 貿易風が弱まり、海面水温が上昇する(エルニーニョの発生):大気側の貿易風(東風)が弱まると、西側に溜まっていた暖かい海水が東側(太平洋の中央部やペルー沖)へ広がる。この海面水温の上昇は大気の循環にも影響し、海と大気が互いに作用しながらエルニーニョが発達する。
  2. 海と大気が相互作用し、日本へ向かう大気の流れが変わる:温まった海水面と大気がさらに相互作用し合うことで、積乱雲(雨雲)が発生する場所が東へズレたり、それに連動して大きな大気(風)の流れが変わったりする。
  3. 太平洋高気圧の強さが変わる:その結果、日本に夏の暑さをもたらす「太平洋高気圧」の張り出しが弱まったり、形が崩れたりして、日本の気温や雨量に影響を与えている。

気象庁は6月10日、エルニーニョ現象が発生しているとみられると発表した。米国の気象・海洋観測機関であるアメリカ海洋大気庁(NOAA)は、エルニーニョは今後ピークを迎え、今年11月から来年1月にかけてスーパーエルニーニョになる確率は63%と予測している。

過去にスーパーエルニーニョの基準を満たした非常に強い事例は、エルニーニョ監視海域の観測記録上、1982~1983年、1997~1998年、2015~2016年の過去3回。

2026年5月時点のスーパーエルニーニョの発生予測 提供:ウェザーニューズ 原典:NOAA

本来は「冷夏」のサイン。なぜ今年は猛暑を警戒するのか?

これまでは、日本にエルニーニョ現象が発生する年は「冷夏(涼しい夏)」になりやすいと言われていた。これは、熱帯域の雲の発生場所が東へズレることで、日本を覆う「太平洋高気圧」の張り出しが、例年に比べて弱い傾向になるためだ。

しかし、今年の夏は涼しくなるという予測にはなっていない。それどころか、全国15地点の向こう半年の平均気温予測を見ても「プラス」になっているのだ。

その背景にあるのは、エルニーニョの「冷やす傾向」を弱める、別の要因だ。日本の夏の気温を決める要素はいくつかあるが、今年は日本付近に猛暑をもたらす傾向がある「インド洋ダイポールモード現象」が重なる可能性がある。さらに近年は、気候変動による「全体的な気温の底上げ効果」も加わっている。これらが掛け合わさることで、今年は平年よりも高い気温になると予測されているのだ。

そのため、雨や曇りの日で気温の上昇が抑えられることはあっても、晴れて高気圧が張り出してくるタイミングではしっかり猛暑になる。結果として今年の夏は平年より高い気温が予測されており、猛暑日や酷暑日への警戒が必要だ。

日本の平均気温地点の11月にかけての気温予測 提供:ウェザーニューズ 

スーパーエルニーニョが異常気象を定着させるとの最新研究も

2025年に発表された気候科学の論文で大きな話題となったのが、スーパーエルニーニョが引き金となって起こる気候の移行「レジームシフト」だ。

現在の気候状態を「谷底にあるボール」だとする。普段は谷底の範囲内で、毎年「暑い・寒い」と揺れ動いている。しかし、スーパーエルニーニョという非常に強い衝撃(ショック)が加わると、ボールは山の頂上を越え、これまでとは全く別の谷(新しい気候状態)へと転がり落ちてしまうのだ。

図解:レジームシフト ※本画像はAIによって生成されました

実際の地球上で一度このシフトが起きるとどうなるのか。異常気象により地上気温が高温になると、蒸発により土壌水分も減少する。するとますます地上気温が上がってさらに土壌が乾燥する。このようなフィードバック効果が長続きすることで、平均的な気候の状態がシフトチェンジしたような状況になる。 

これは、強い異常気象の状態がその地域に記憶装置のように「レコーディング」されてしまう感覚に近い。そのため、一度起きてしまうと、十数年から数十年単位で元の気候には戻りにくい状態になると指摘されている。 

夏だけではない。台風の増加と、食卓への連鎖的なダメージ

6月10日に気象庁はエルニーニョが発生していると発表し、すでに私たちの気候に影響を与え始めている。だが、今回のエルニーニョが「スーパーエルニーニョ」の基準に達するかどうかが確定するのは、9〜11月の観測結果次第だ。海面水温の広がりは、今年の年末から来年の春にかけてピークを迎えると見られている。

つまり、スーパーエルニーニョの影響は今年の夏だけにとどまらず、冬から春、そして来年以降の天候や私たちの「食卓」にも大きく関わってくる。

まずは目先の国内の天候において、大きく2つのリスクに警戒が必要となる。

ひとつは、梅雨の大雨だ。近年はエルニーニョの有無にかかわらず、気候変動による気温の底上げの影響で梅雨時期の大雨傾向が強まっている。今年も6月下旬から7月中旬にかけて梅雨前線の動きが活発になり、線状降水帯などのリスクが高まる時期を迎える。

そしてもうひとつが、まさにエルニーニョの影響によって引き起こされる台風の発生増加である。フィリピン沖の熱帯モンスーンの影響で対流活動が活発化するため、今年の台風の発生個数は平年(25個前後)より多い27〜29個になると予測されている。

2026年5月時点の台風発生数予測 提供:ウェザーニューズ

コーヒーや砂糖が値上がり。世界の異常気象と食卓への影響(過去の事例)

スーパーエルニーニョが直近で発生した2015〜2016年には、世界各地で深刻な干ばつや熱波が記録された。こうした海外の異常気象は決して遠い国の話ではなく、巡り巡って日本の家計に直接的に影響する。

特に身近なトピックは、極端な雨不足による農作物の不作だ。過去の事例では、以下のような事態が発生している。

  • ベトナムの干ばつ: 川の水が枯渇して海水が逆流し、地下水に塩分が混ざったことで、コーヒーや胡椒などの農作物が大きな被害を受けた。
  • インドネシア・マレーシアの干ばつ: パーム油(植物油脂)の原料となる植物が育たず、私たちが日常的に口にするカップ麺や揚げ物などの生産・価格に影響が及んだ。
  • インド・タイの熱波: 春の極端な熱波と雨不足でサトウキビが不作となり、世界的な供給不足から砂糖の国際価格が2倍に跳ね上がった。
2015-2016年のエルニーニョ時の東南アジアの気圧偏差グラフ 提供:ウェザーニューズ  原典:FAO

さらに、影響は農作物だけでなく物流の停滞にも及ぶ。たとえば南米と北米の間にあるパナマ運河では、2023~2024年のエルニーニョの影響で雨が減ると水位が下がり、大型船が通航できずに大渋滞を引き起こした。迂回ルートの選択や待機によって膨らんだ輸送コストは、最終的にスーパーに並ぶ商品の価格に上乗せされることになる。

パナマ運河の通常ルートとエルニーニョ発生時に使われる迂回ルート図 提供:ウェザーニューズ


異常気象の影響は日本にも。将来は、国産のアボカドが普通に?

このような異常気象による変化は日本でも既に生じている。国内でも高温化や降水パターンの変化によって、米や果物、畜産物、水産物など農林水産分野への影響が起きている。

例えば、従来の人気ブランド米「コシヒカリ」は暑さへの耐性が中程度とされる。そのため、近年は暑さに強く品種改良された「高温耐性米」がスーパーに並びつつある。一般にはあまり知られていない品種だが、農家による栽培も進んでおり、今後はブランド米に代わる新たな選択肢として広がる可能性がある。

一方で、かつては国内生産が難しかった、アボカドなどの熱帯フルーツの栽培地域も広がりつつある。将来は国産アボカドが身近な食材になったり、漁獲量の変動で魚の種類が変化したりすることなどが予想されている。

気候変動によって変化する未来の食卓(イメージ) A-PLAT公式サイト#食の適応より

このような変化に対応するために私たちができる行動としては、以下のようなことが挙げられる。

・日頃から気候変動や国内外の気象・食料動向に関心を持つ
・気候変動による食の変化について理解を深める
・地域のもの、旬の食材を楽しむ
・食品ロスを減らす

気候変動による影響に備え、これからも快適に過ごすために必要な適応アクション。スーパーエルニーニョのような気候現象をきっかけに、身の回りで起こる変化に目を向けながら、日々の暮らしの中に「適応」の工夫を少しづつ取り入れていこう。

地球沸騰化時代の生き方改革#適応しよう
https://adaptation-platform.nies.go.jp/everyone/

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