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ニュース|2026.02.16

地球、人、ビジネス全てが得をする「美しい方程式」を実現するイケアの循環型モデル

世界最大級の小売イベント「NRF 2026」に新設されたサーキュラーエコノミーセクション「NRF Rev」では、IKEA U.S.のCEO兼CSO、ハビエル・キニョネス氏がキーノートセッションに登壇した。同社は「資源の無駄遣いは罪である」という50年来の信念を貫きながら、CO₂削減と経済成長の両立を成し遂げている。その鍵となる「循環型ビジネスの方程式」とは何か。マーケターの田原美穂さんが現地からレポート。

原稿:田原美穂 

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先月1月に開催された世界最大級の小売りイベント「NRF Big Show」。その中でも、静脈物流(リバースロジスティックス)のトピックに焦点があてられた「NRF Rev」では、循環型モデルを実現する企業がその道のりを語った。

キーノートセッションとして登壇したイケアは、循環モデルを企業の根幹に据え、その仕組みを何十年もかけて整えてきたリーディング企業である。IKEA U.S.のCEO兼CSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)のハビエル・キニョネス(Javier Quinones)氏は、「サステナビリティには、(地球、人、ビジネス)全員が得をする『美しい方程式がある』と、断言した。

写真:イケア 2026年1月末より展開中の値段を隠した屋外広告。キャッチコピーは、「もし価格をみれば、これが無垢材とは信じないだろう」

ディカップリングを実現するイケア

まず、イケアの「健全性」から見てみたい。
イケア(正確には、世界のイケア売上の約9割を占める最大のフランチャイズリテーラーIngka Group)は、売上や利益といった企業のエコノミクスと、CO₂排出や廃棄量といった環境負荷を「切り離す」 ディカップリング をすでに実現している。

2025年度の総収益は415億ユーロ(約7兆5,000億円)、営業利益は15億ユーロ(約2,700億円)。収益は前年比0.9%とわずかに減少したものの、営業利益は3%増加している。それと対照的に、CO₂排出量(Scope1・Scope2)は前年から22%削減され、2016年度比では71%もの削減を達成している。

こうした成果は、もちろん一朝一夕で生まれたものではない。

半世紀にも及ぶサーキュラリティの思想と試み

イケアは低価格で家具を提供しているため、「ファストファッションの家具版」と受け取られることも多いが、その思想はむしろパタゴニアのような持続可能性を軸にしたブランドに近い。
創業者イングヴァル・カンプラード(Ingvar Kamprad)氏は「資源の無駄遣いは罪である」と考え、50年以上前からサーキュラーデザインや長寿命設計の重要性を提唱していた。私たちがイケアと聞いて思い浮かべる組み立て式家具も、輸送効率の向上や資源・コスト・CO₂排出量の削減といった環境負荷低減の発想から生まれたものだ。

こうした循環型思考やサステナビリティを組織の中心に置く姿勢は、経営体制にも現れている。NRF Revに登壇したハビエル氏は、IKEA U.S.のCEOであると同時にサステナビリティ責任者も兼任しており、環境配慮を経営判断の中枢に据える姿勢を体現している。

NRF提供写真
右からIKEA U.S. CEO兼CSOのハビエル・キニョネス、NRF VPコーポレート・ソーシャルリスポンシビリティ&サステナビリティのスコット・ケース

拡大し続けるリセールと新たな試み

イケアは、2030年までに全商品で平均9割の「サーキュラリティ達成度スコア」を実現することを目標に掲げている。このスコアは、再使用・修理・リサイクルなどの観点から製品を総合的に評価する、イケア独自の指数だ。
ハビエル氏は、この目標を達成するためにも「イケアは常に循環型の取り組みをテストし、挑戦を続けている」と語った。

その取り組みのひとつとして紹介されたのが、約1年半前に開始したPeer to Peer(P2P)プラットフォーム『IKEA Preowned(プレオウンド)』 である。これは、ユーザー同士が中古のイケア家具を直接売買できるオンラインマーケットプレイスだ。現在はスペインやノルウェーを含む3カ国のみで展開されているが、今後は欧州全域、さらに米国での展開も予定されている。

イケア SpainのP2Pマーケットプレイス

そもそも中古家具市場全体を見ると、eBayやFacebook Marketplaceなどを含む二次流通において イケア製品は約10%ものシェアを占めていると公表されている。こうした背景から、市場で流通している中古イケア家具を企業の利益構造に取り込む意図も想像できる。しかしハビエル氏は、目的は単なる再販ビジネスの拡大ではないと強調する。
「私たちが目指しているのは、商品ライフサイクルの端から端まで責任を持つことだ」と語り、循環型ビジネスの本質を示した。

大学キャンパスでも始まった家具の買い取りサービス

さらに、イケアは、これまで展開してきた家具の買い取り&再販サービス(Buy Back & Resell)から派生させる形で、大学キャンパス内で家具を買い取る新たなトライアルを始めている。米国では、不要になった家具を道ばたにそのまま置いて捨ててしまう光景がよく見られる。特に大学の引っ越し日には大量の家具が廃棄される。イケアはこの大きな課題をビジネスチャンスと捉え、大学へ直接出向き、その場で査定して買い取る仕組みの実証を進めている。 通常のBuy Back & Resellサービスでは、不要となったイケア製品が約3,000点の買い取り対象リストに含まれていれば、AIによる査定を経て、合意した金額で買い取られる。顧客はその金額分のイケアクーポンを受け取り、買い取られた家具は「As-Is(アズ・イズ)コーナー」で再販される。日本でいう 「サーキュラーマーケット」 にあたる場所であり、現在は世界420店舗以上とオンラインで展開されているため、すでに馴染みのある仕組みだと感じる人も多いだろう。

イケア Webサイト参照 / 店頭のAs-Isのコーナー

NRF Revで登壇したハビエル氏は、この取り組みを「クールなだけでなく、ビジネスとしても非常に優れたモデルだ」と強調し、その理由を明かした。家具を売却した顧客は、受け取ったクーポンの3〜4倍の金額の買い物をする傾向があるという。また買い取った中古家具は、イケアが必要な修理や整備を施して再販し、As-Isコーナーでは平均48時間以内に売れていくと語られた。

この様な試みも含めて、イケアは2025年度に約69万点の中古製品を回収しており、その数は前年より40%近く増加している。

ハビエル氏は、これらの取り組みを「地球・人・ビジネス」のすべてにとって好循環を生む「完璧な三方良し」だと胸を張った。

高度な技術を使わずとも、効率的に廃棄物を減らす仕組み

再販と並んで多くの企業が力を入れ始めている「修理(リペア)」の分野でも、イケアは着実に成果を上げている。ハビエル氏は、「イケアでは何十年も前から修理を提供しているが、少しの改善が、大きなコスト削減、顧客満足度の向上、そして廃棄物削減につながっている」と語った。

その改善とは、スペアパーツを商品とは別にあらかじめ準備し、必要な顧客へ無料で配送する仕組みだ。従来は、顧客が部品をなくした場合や、中古家具の一部が欠けている場合など、店員が新品の箱を開けてパーツだけ取り出す必要があり、結果として新品が一部無駄になる問題があった。しかし、パーツを独立して管理するようにしたことで、新品商品を開封せずに必要な部品だけを届けられるようになった。

その効果は大きい。ハビエル氏によれば、昨年9月からの4カ月間で10万点以上の部品を無料配送した結果、1,400万ドル(約21億円)以上のコスト削減を実現できたという。

さらに興味深いのは、すべてのイケア店舗に「再包装機」が導入されていることだ。これにより、たとえ梱包箱が破損していても、中身に問題がなければ新しい箱を自動でつくり、再び梱包できる。このように一見シンプルな仕組みであっても、現場の効率を大きく変え、廃棄を大幅に減らす「ゲームチェンジャー」になり得ることが示された。

まとめ

イケアは、半世紀にわたり根づいてきたサーキュラリティ思想を軸に、数多くの施策を積み重ねてきた。その結果、循環型ビジネスの到達点ともいえるディカップリングすら実現している。ハビエル氏は「サステナビリティに取り組むことで、より手頃な商品を提供でき、利益も増え、顧客満足度も向上した」と語る。そして「最終的な判断者は常に顧客である。どれほどP/Lに良い影響があっても、顧客にとって価値がなければ意味がない」と強調する。さらに彼は、「これが完成形だと思った瞬間にイノベーションは止まる。だからこそ探求し続ける姿勢が必要だ」と呼びかけた。ハビエル氏が示す『地球・人・ビジネスの美しい方程式』とは、壮大な理念ではなく、日々の改善と仕組みづくりの積み重ねが生んだ「実践のモデル」なのである。

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サステナビリティ・マーケター
田原美穂
NY在住。CoachやH&Mなどのマーケティングに10年以上携わり、2020年に独立。ファッション産業において循環型ビジネスを中心に、プロジェクトマネジメント、アドバイザー、マーケティング支援を行う。リアルな視点を届けるべく、NYでの視察ツアーや執筆活動も行う。FITにてサステナブル・デザインを、MITでは循環型経済について学び、実践と知見を融合させた支援を行っている。

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