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服をブランドではなくモノで選ぶことができる
三井アウトレットパーク 木更津に隣接する木更津コンセプトストアは、“みんなで新しいサイクルをつくる店”をテーマにしている。

まず、店舗に入るのに入場料(コントリ=contributionと呼ぶ)300円を支払う。これは衣服の新たなサイクルを生み出すための、ビジネスや技術開発をする企業や団体へ協賛されるのだ。入る前から、ストアのやる気を感じさせる仕組みである。


約3,000m2の広い店内はAからEまでのゾーンに分けられているのだが、そのほとんどがブランドをミックスしてディスプレイされている。
特筆すべきは色ごとに分けられたAゾーン。ピンクやグリーン、イエローといった色ごとに分けられたラックに気分が上がる。手に取ってみると実はハイ・ブランドのものだったり、その隣にはセレクトショップのオリジナルアイテムが並べられていたりと、ブランドのジャンルやランクを越えて取り扱われていて、客は衣服をブランドではなくモノで選ぶことができる場所なのだ。

広い店内に多くの衣服が並べられ、正直一度に全部は見ることはできないが、え?このブランドってこんなデザインのものを作っているの? と新しい発見と出会いのある体験ができる。
コロナにより、ファッションロスが顕在化したのが立ち上げのきっかけ
この木更津コンセプトストア(以下、KCSとする)では、売れ残って企業やブランドの倉庫に眠っている衣服を買い取り販売していて、2025年9月現在、取引のある会社は148社、約250ブランド、延べ60万点以上もの商品を扱っている。
この店を立ち上げたのはコロナにより、人の流れと消費が止まったことがきっかけだった。

「ファッションロスというのは以前から問題にされていましたが、コロナ禍により顕在化しました。弊社もアウトレットなどの商業施設を運営できなくなり、店が閉まって物の流れが止まり、ブランドも売り上げを立てることができなくなりました。弊社は場所をお貸しする会社ですがブランドの皆様ありきで成長してきましたし、それまで共存共栄してきたブランドの皆様を少しでも助けるために何かできないかという考えから始まりました。
委託販売だと売れ残ったらまた倉庫に戻すことになりますが、この店ではあえて買取という方法を原則としています。
そして商流で言うと下流にあるものを、上流に見せるように努めています。一番大切にしているのは商品が新鮮で魅力的に見えることで、これまでとは違う見せ方で商品の価値をお客様に再発見していただいたいと思いました。
すぐ隣にある三井アウトレットパーク 木更津もそうですが、一般的な商業施設ではブランドごとに空間が区切られていて、一箇所ではそのブランドのものしか見られません。それと同じやり方だと価値を発揮できないと考えたのです。
ブランドとブランドをかけ合わせることで、これまでなかった発見や楽しみを感じてもらいたいというのがコンセプトで、オープンから今まで大事にしています」(三井不動産 商業施設運営一部 主事・伊藤榮輝氏、以下同)
多くの商品の中から、自分で探して選ぶ楽しさを体験してもらいたい

しかしながら、ここでも売れ残ってしまった商品はどうしているのだろうか。
「できるだけ生活者の方に届ける努力をしています。プライスを下げたとしてもセール然として売りたくはないので、できるだけ他の商品と同じように並べています。この店ではディグる(掘り出す)楽しさを体験して欲しいので、プライスを下げた商品もミックスさせています。
あとは時期をみて福袋として販売しています。これはお正月と8月に行っている人気企画なのですが、中身の分からない福袋ではなく、お客様が自分で中身を選べるものです。どの商品もすでにお得なプライスになっているのですが、お客様が好きなものを好きなだけ詰めてもらっています。お客様が好きではないものを売るということはしたくなかったので、このような形にしました。」
客にストレスを感じさせないための取り組みとは


KCSでは客側がショッピングを楽しむために4つの“しない”がある。「過度な接客」「ブランドやカテゴリー分け」「試着点数の制限」「返却台の片付け」だ。
「アパレルのお店で感じるちょっとしたストレスってありますよね。試着室に入ることや、そのあと店員さんに声をかけられることとか。私たちも納得したうえで衣服を買ってもらうために、できるだけ試着してほしいし、たくさん袖を通していただくことを大事にしたいのですが、その際にお客様がストレスを感じるのであれば、それを取っ払いたいと思ったのです。
接客が面倒という方も多いですが、だからといって放置していいわけでもないですよね。一般的なお店と違うことをやるからといって、それらのお店を全否定しているわけではありません。あのお店素敵だよねとみんなが思うようなお店に行ってみて、どう感じたか話し合ったりしています。この4つの“しない”は、お客様にとって楽しい買い物をしてもらうためにはどうしたらいいかを考えて設定しました」
試着の点数制限がないと、試着しに籠りっぱなしの客もいるのでは?
「出てこない方は出てこないです(笑)。マダム3人組が入ってずっと楽しそうに過ごしていることもあります。2階にあるフィッティンスタジオは、複数人で入って試着して欲しいと思って広く作ってます。ストア全体では約20部屋あります」

入場料(コントリ)を支払うのも、新鮮な体験だ。
「入場料をいただくのはブランドのイメージを守るためでもあります。お客様はどなたが入ってもいいのですが、入る時に服の新しいサイクルを生み出す技術や企業・団体に協賛するシステムであることをご理解いただき、ブランド側にはそれらを理解しているお客様が来ているということを伝えるためのものです。入場料のほかに、売上の一部をコントリに回しています。使い道は社内社外でいろいろと考えました。コントリ先の基準は、これからの新たしい服のサイクル技術を追い求めていたり、新しいサイクルを目指している方々です」
次の世代にも、サステナブルなものづくりなどについて伝えていく

KCSでは、ファッション関係の大学や専門学校に通う学生にサステナブルなものづくり・商流づくりに関する講義を行ったり、VMD(ヴィジュアル・マーチャンダイジング)に関する授業を開催したり、地域の子供たちが衣服のサイクルについて学ぶ場所も提供している。
「次の世代の方たちに何かを届けていこうと考えていて、学校というのは連携先としてとても大事な存在です。
KCSでは倉庫に眠っていた多くの衣服を目の当たりにする機会でもあるので、これから洋服を作る人や販売する人にとって、何らかのヒントになるといいなと思っています」

「また今年はトータル約150人の子供たちの夏休みの自由研究のお手伝いをしました。
店内を案内しながら空間デザインやSDGsの取り組みや、洋服がどうやって作られるか、端材を使って何を作るかなどをご説明しました。それらをまとめて自由研究として提出したそうです。
KCSはただのオフプライスストアではなく、新しいサイクルをみんなで作っているということをお客様が知って買い物を楽しんでもらい、かつ子供たちも新しいことを学んでもらえるようにしています」
産学連携、地域連携にも力を入れているというわけだ。今後の課題はなんだろうか。
「コンセプチュアルであるとか新しいことをやるのは大事ですが、意識の高い人だけがやっているのでは効果的ではないと思います。服が好きな人もそうじゃない人も服は着るわけですから、その時の行動が少しでも変わることが大事だと考えています。
最先端なことをやりながらも、地に足がついているようにしていきたいですね。ここはアウトレットのすぐ横にあるので、より多くの方々にも楽しんでもらえることを目指しています。先ほどの自由研究などもアカデミックにではなく、楽しいところから派生して欲しいと思っています。
服が要らなくなった時に、一般ゴミに混ぜて捨てないだけでも違いは大きい。服を届けるのが役割ですが、そういったことも含めて、お客様の行動が変わるきっかけになったらいいなと考えています」
木更津コンセプトストア
千葉県木更津市金田東2-9-1
三井アウトレットパーク 木更津 近接(駐車場P9横)
*営業時間や休みは三井アウトレットパーク 木更津に準ずる