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NYの夏が終わったかと思うとすぐに、ニューヨーク・ファッション・ウィーク(NYFW)SS26が9月11日から16日まで開催された。この期間は、アメリカ・ファッション・デザイナー協議会(CFDA)が主催する公式のショーや展示会の他に、世界中から集まるファッション関係者向けに、様々なブランドが、ポップアップや独自の企画も行っている。今年注目されたのは、NYブルックリンを拠点とするストリートウェアブランドのキッドスーパー(KIDSUPER)とブルックリン区長が主催した、地元の若手デザイナー5名に焦点を当てた「ザ・ピープルズ・ランウェイ(THE PEOPLE’S RUNWAY)」や、プロエンザ・スクーラー(PROENZA SCHOULER)の新デザイナーであるレイチェル・スコットのクリエイティブ。また、トリーバーチ(TORY BURCH)のプレッピースタイルでのブランド復活、COSのすぐに着用できるAW25コレクションでのランウェイなどであった。
そんな中、eBayが「新しいデザインや素材の服は一つもない」、CFDA公認のエンドレス・ランウェイ(ENDRESS RUNWAY)を9月10日にNYチェルシー地区にて開催した。

eBayのファッションカテゴリ売り上げのうち40%はプリラブド品
eBayの昨年の年間総商品売上高(GMV)は、約75億ドルだったが、そのうち約14%がファッションカテゴリが占めており、エレクトロニクスに次ぐ第2の売上カテゴリである。その中の約40%が、誰かが手放したプリラブド品の服・靴・鞄の売上で構成されている。さらに、eBay内で「ヴィンテージ(vintage)」という検索ワードは、1分間に1200回以上検索されるほど人気が高い。そのような需要を機会に変え、ファッション業界全体が変化させるべく、eBayは以下のように様々な角度から循環型ファッションの推進を行っている。
- ユーズドファッションのトレンドレポートeBay Watchlistの発刊: 2025年に有名スタイリストのブリ―・ウェルチ(Brie Welch)をレジデントスタイリストとして向かい入れ、ユーザーのユーズド・ファッション購買行動に基づくデータを使用したトレンドレポートを同年5月に開始。
https://static.ebayinc.com/static/assets/Uploads/Stories/Articles/eBay-Watchlist.pdf - サーキュラーファッション財団設立:2025年末までに約18億円を、レンタル、修理、リサイクルなどの循環型サービスを地峡するスタートアップ企業などへの資金援助を実施。資金提供のみならず、それらの企業へ200時間以上のメンタリングとネットワーキング支援を行った。
eBay エンドレス・ランウェイとは
eBayのエンドレス・ランウェイは、上記eBayの循環型ファッション推進の大きな柱の一つであり、NYFWでの発表は今年で2回目となる。ファッション業界が一斉に注目するファッション月間において、世界中でプレラブド・ファッションの価値と可能性を示す事が目的だ。昨年は、ニューヨークとロンドンのみで開催されたが、今回はパリ、ミラノを含む4大ファッション都市へと広がりを見せている。ランウェイには、デザイナーは当然ながら存在しないため、キュレーター/スタイリストが重要な役割を果たす。ニューヨークでは、リジデント・スタイリストのブリ―・ウェルチ(Brie Welch)が担当し、アルトゥザラ(ALTUZARRA)、エックハウス・ラッタ(ECKHAUSE LATTA)、カルメイヤー(KALLMEYAR)、ルアー(LUAR)などのブランドのプリラブドアイテムを直接eBayから調達し、キュレーションした。

ルック②コートCALVIN KLEIN、セーターZANKOV、シャツRALPH LAUREN、ショーツTHOM BROWNE、シューズOUR LEGACY
ルック③シャツLUAR、スカーNORMA KAMALI、シューズMARC JACOBS

ルック②シャツTHEOPHILIO、スカートTIBI、シューズKHAITE
ルック③コートECKHAUS LATTA、スカートKALLMEYER、パンツPETER DO、シューズMARC JACOBS
その他のスタイリングは以下のようなショーノートと共に紹介された。

ショーのアイテムをライブ配信でオークション
エンドレス・ランウェイ開催中には、InstagramおよびeBay Liveでライブ配信され、視聴者はリアルタイムでルックを確認でき、コメント投稿や、オークション形式で購入出来る仕組みを採用した。また、全ての都市での開催が終了されるまで、eBayのサイトには、エンドレス・ランウェイ特設のアイテムが並んだページがオープンしている。現時点では、eBayから正式なアクセス数や、販売額の公開はされていないが、筆者が確認した限りでは、常時5千~7千人ほどの視聴者であった。NYFWでの収益は、CFDAへアメリカのファッションデザイナーの未来を支援するために寄付される。


セーターはKALLMEYER、パンツはANNASUI、シューズはUGGxECKHAUSE LATTAのもの
ロンドンで9月18日に開催されたショーでも、同様の形式をとっており、eBay UKのレジデントスタイリスト、エイミー・バナーマンがキュレーションを担当し、ライブ中の収益は、英国ファッション協議会財団(BFC Foundation)へ寄付される。
今後はプレラブドアイテムがブランドのランウェイに並ぶことを期待
NYでのエンドレスランウェイの状況を見ると、フロントロウには数人のセレブリティや、インフルエンサー、コンテンツクリエーター達の参加が見られたが、筆者の実感としては盛り上がりに欠ける印象だった。冒頭に挙げたNYFWで注目されたブランドなどでは、ショー直後に多くのメディアが取り上げたが、eBayエンドレスランウェイに限ると、ほとんど記事も見ない。また、事前告知、大規模なランウェイなどを実施したにも関わらず、ライブ配信の同時アクセス数が(筆者が確認した限りでは)7千人と、非常に少ない。プリラブドオンリーでのランウェイには大賛同であるが、今回のショーでは、残念ながら世の中の大きな関心を得ることが出来ていないと言えるのではないだろうか。循環型ファッション自体へは関心が高いが、NYFWでは、そんなものは見たくないというのだろうか。はたまた、リセールのプラットフォームが開催するショーには話題性がないと思われているのか、eBay自体のブランディングを変える必要があるのか、問題点と解決策はまだ見つかってなさそうだ。今後は、eBayやそのほかの循環型ビジネスも更なるアイディアを試しつつ、各ブランド自身が顧客などから回収されたビンテージや、プリラブドアイテムなどを選別し、スタイリングを行い見せるなどという手法が広がる事を期待する。