• トップ
  • Learning
  • リジェネラティブとは?サステナブルの先へ!地球を再生するビジネス事例とネイチャーポジティブへの道

ニュース|2025.07.04

リジェネラティブとは?サステナブルの先へ!地球を再生するビジネス事例とネイチャーポジティブへの道

「リジェネラティブ」は、ただ環境負荷を減らすだけでなく、自然を再生し、地球全体の健やかさを取り戻す考え方。今、農業やファッション、建築などさまざまな業界で、サステナブルの次の一歩として注目されている。この記事では、実際の企業事例や「ネイチャーポジティブ」実現に向けた取り組みを紹介。

写真:unsplash

Share :
  • URLをコピーしました

リジェネラティブ(ネイチャーポジティブ)とは?その本質と定義

リジェネラティブの基本的な考え方

リジェネラティブという言葉を聞いたことがあるだろうか。これは、単に環境を保護するだけでなく、より積極的に環境を改善し、再生していくという、革新的な考え方である。日本語では「環境再生型」あるいは「再生的な」と訳されることが多い。

これまでの「サステナビリティ(持続可能性)」は、現状の環境を維持し、これ以上の悪化を防ぐことを主眼としていた。しかし、リジェネラティブはさらに一歩進み、地球の生態系そのものを、過去よりも健全な状態へと回復させることを目指しているのである。

これは、現状を維持するに留まらず、これまでの環境破壊によって損なわれた自然の力を取り戻し、未来の世代のためにより豊かな地球を残すための活動である。「リジェネ」と略されることもある。

農業、エネルギー、建築、ファッションなど、多岐にわたる分野でこの考え方が広まっており、それぞれの分野で具体的な手法や技術が開発されている。これらの取り組みは、地球温暖化の緩和、生物多様性の喪失、資源の枯渇といった地球規模の課題解決に貢献することが期待されている。

リジェネラティブは、単なる環境保護の手段ではない。社会、経済、そして環境が調和した、より豊かな未来を創造するための哲学であると言えよう。

サステナブルとの違い:進化する環境へのアプローチと「プラネットポジティブ」「カーボンポジティブ」

サステナブル(持続可能)という概念は、環境負荷を抑え現状を「維持」し、将来の世代も同様の資源や環境を利用できるようにすることを目的とする。一方、「リジェネラティブ(ネイチャーポジティブ)」は、それよりもさらに積極的に環境を改善し、生態系を「再生」し、より良い状態へと回復させることを目指す点が大きく異なる。

この積極的な再生へのアプローチは、地球全体にとってプラスの影響をもたらす「プラネットポジティブ(Planet Positive)」な状態を実現しようとするものである。「プラネットポジティブの意味」とは、事業活動や製品のライフサイクルを通じて、温室効果ガス排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルや、負荷を削減するサステナブルの段階を超え、地球環境に対して測定可能で具体的なプラスの貢献を生み出す状態を指す。具体的には、生物多様性の向上、水資源の浄化・保全、土壌の肥沃化などを通じて、地球の健康を積極的に増進させることである。

さらに、リジェネラティブな取り組みは、大気中の二酸化炭素(CO2)の吸収量が排出量を上回る「カーボンポジティブ(Carbon Positive)」の達成にも貢献しうる。例えば、リジェネラティブ農業は、土壌の炭素貯留能力を高めることでこれを実現しようとする。米国のロデール研究所が行った比較実験では、リジェネラティブな手法を取り入れた農地は、従来の慣行農法と比較して、土壌有機炭素を大幅に増加させ、温室効果ガスの排出量を削減する可能性が示されている。具体的には、リジェネラティブ農業システムでは、年間1ヘクタールあたり平均で約2.6トンの炭素を土壌に隔離できるとの報告もある 

[参照元:Rodale Institute, “Regenerative Agriculture and the Soil Carbon Solution”, (参照日: 2025年5月17日), https://rodaleinstitute.org/ 

ネイチャーポジティブとは?リジェネラティブとの違い

リジェネラティブと並んで近年注目されているのが「ネイチャーポジティブ」という概念だ。これは、文字通り「自然を(現在よりも)肯定的な状態にする」ことを目指すもので、具体的には生物多様性の損失を食い止め、回復させることに焦点を当てている。私たちはこれまで、森林伐採や開発、気候変動などによって、多くの生き物や植物、そしてそれらが織りなす生態系を失ってきた。ネイチャーポジティブは、こうしたマイナスの状況から、ゼロ地点を超えて、以前よりも豊かな自然を取り戻そうという、意欲的な目標を掲げているのである。

では、リジェネラティブとはどう違うのだろうか。リジェネラティブが、土壌や水、エネルギーといった地球のシステム全体、さらには社会や経済の仕組みまでをも含めて「再生」を目指す、より包括的な概念であるのに対し、ネイチャーポジティブは、その中でも特に生物多様性の回復と増加に特化していると言える。例えるなら、リジェネラティブが「家全体をより快適で持続可能な状態に建て替える」ことだとすれば、ネイチャーポジティブは「庭の生態系を豊かにし、以前より多くの種類の植物や生き物が住めるようにする」ことに焦点を当てている、と考えると分かりやすいかもしれない。しかし、両者は決して対立するものではなく、ネイチャーポジティブな取り組みは、リジェネラティブな社会を実現するための重要な要素の一つであり、互いに補完し合う関係にあるのだ。

つまり、リジェネラティブは、単に「マイナスをゼロに近づける」サステナブルから、「ゼロからプラスを生み出す」という、より野心的で希望に満ちた環境アプローチなのである。これは、環境問題が深刻化する現代において、より積極的かつ効果的な解決策となり得るだろう。

リジェネラティブが注目される背景

地球温暖化、森林破壊、海洋汚染など、地球規模での環境問題が深刻化の一途をたどる現代において、従来の環境対策では、問題の根本的な解決には至らないという認識が広がっている。単に環境への負荷を減らすだけでなく、積極的に環境を回復させ、再生していくという考え方が、持続可能な社会の実現に不可欠であるという認識が高まっているのだ。また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書なども、土地利用の改善や生態系再生を通じた気候変動緩和策の重要性を強調しており、リジェネラティブな取り組みの科学的根拠を裏付けている。

 [参照元:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクルhttps://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html]

消費者の環境意識の高まりも、リジェネラティブな製品やサービスへの需要を押し上げている。企業は、環境への責任を果たすだけでなく、新たなビジネスチャンスを獲得するために、リジェネラティブな取り組みを積極的に導入するようになっている。このように、環境問題の深刻化、科学的知見の蓄積、消費者の意識変化、企業の戦略的判断などが複合的に作用し、「リジェネラティブ」が注目される背景となっている。

リジェネラティブな取り組みが活発な分野と具体例

農業分野におけるリジェネラティブの可能性

リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」は、土壌の健康を回復させ、生態系を改善することを目指す農法である。化学肥料や農薬の使用を極力抑え、代わりに堆肥や緑肥などの有機物を活用し、土壌の微生物多様性を豊かにする。

具体的な手法としては、いくつかの特徴的な方法がある。

  • 不耕起栽培:土を深く耕さないことで、土壌からの炭素放出を防ぎ、土壌の構造を良好に保つ。
  • 輪作:異なる種類の作物を計画的に順番に栽培することで、土壌の栄養バランスを整え、特定の病害虫の発生を抑える。
  • アグロフォレストリー:農地に樹木を植えることで、土壌の保水力を高め、多様な生物の生息環境を創出する。

これらの農法を組み合わせることで、土壌の肥沃度が高まり、作物の栄養価や収量も向上する。さらに、土壌が空気中の炭素をより多く貯留するようになり、気候変動の緩和にも貢献する。また、生物多様性の保全にも繋がる点が重要である。

リジェネラティブ農業は、食料生産と環境保全を両立させるための、世界中で注目される重要な手段である。消費者も、リジェネラティブ農業によって生産された食品を選ぶことで、持続可能な食料システムの構築に貢献できるのである。

漁業・水産業における新たな試み:ブルーカーボンの活用

「ブルーカーボン」とは、海洋生態系、特にマングローブ林、塩性湿地、海草藻場(アマモ場など)といった沿岸生態系によって吸収・貯留される炭素のことである。これらの生態系は、光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収し、植物や地底に積もった泥の中に長期間炭素を固定する。国際自然保護連合(IUCN)によると、これらのブルーカーボン生態系は、陸上の森林よりも単位面積あたりで炭素を貯める速度が速く、気候変動対策としてのポテンシャルが高いと評価されている [参照元:IUCN, “Blue Carbon”, (参照日: 2025年5月17日), https://www.iucn.org/]。漁業・水産業では、藻場や海草藻場の造成・再生を通じて、ブルーカーボンの吸収量を増やし、海洋生態系の回復を目指す取り組みが進んでいる。具体的には、海藻の植え付けや、海草の移植などが行われている。また、養殖方法の改善も重要な要素である。例えば、二酸化炭素を吸収しやすい海藻類を養殖したり、魚介類の排泄物を他の生物の餌や肥料として活用する循環型の養殖システム(例:IMTA – 複合養殖)を導入したりすることで、環境負荷を減らし、海洋の再生に貢献できる。これらの取り組みは、気候変動の緩和だけでなく、海洋生物の生息場所の提供、水質浄化、漁獲量の安定・増加、地域経済の活性化にもつながる可能性がある。

建築業界での革新:環境負荷を低減するリジェネラティブデザイン

「リジェネラティブデザイン」は、建築物のライフサイクル全体を通して、環境への負荷を最小限に抑えるだけでなく、自然環境や生態系を積極的に改善し、再生することを目指す設計思想や手法である。建築材料の選定では、リサイクル材や再生可能資源、地産材など、環境に負担のかけにくい素材を優先的に使用し、製造・輸送過程でのエネルギー消費量や廃棄物の発生量を削減する。建物の設計では、自然光や自然換気を最大限に活用し、エネルギー消費量を削減するパッシブデザインを基本とする。さらに、太陽光発電システムや地中熱の利用、雨水を利用するシステムなどを導入することで、エネルギー自給率を高め、水資源の利用効率を高める。建物の敷地内外の緑化や、生物が生息しやすい環境(ビオトープなど)を創出することで、生物多様性の保全にも貢献する。リジェネラティブデザインは、単に環境負荷を低減するだけでなく、そこで過ごす人々の健康や快適性(ウェルビーイング)を向上させ、地域社会の活性化にもつながる可能性を秘めている。これは、持続可能で再生的な社会を実現するための重要な要素となる。

企業がリジェネラティブ・ビジネスに取り組むメリットと課題

環境貢献と企業価値の向上

リジェネラティブ・ビジネスに取り組むことは、企業にとって、単なる社会貢献活動にとどまらず、競争優位性を確立し、企業価値を向上させるための戦略的な手段となる。環境問題への関心が高まる中、環境再生に積極的に貢献する製品やサービスを求める消費者が増加している。「リジェネラティブ」な取り組みを明確に打ち出すことで、企業のブランドイメージを高め、顧客からの信頼と共感(エンゲージメント)を深めることができる。また、ESG投資(環境、社会、ガバナンスを重視する投資)の世界的な拡大に伴い、リジェネラティブな取り組みは、投資家からの評価を高め、資金調達を有利に進める可能性もある。さらに、資源の効率的な利用、廃棄物の削減、生態系サービスの活用は、長期的に見てコスト削減や新たな収益機会の創出につながり、企業のレジリエンス(変化への適応力・回復力)を高めることができる。このように、リジェネラティブ・ビジネスは、環境貢献、企業価値向上、収益性向上という複数のメリットを同時に実現する可能性を秘めている。

リジェネラティブに取り組む企業の事例

Patagonia(パタゴニア):リジェネラティブ・オーガニック認証(ROC)の推進

アウトドア衣料品メーカーのパタゴニアは、「リジェネラティブ・オーガニック認証(ROC:Regenerative Organic Certified™)」の創設メンバーであり、その普及を積極的に推進している。ROCは、土壌の健康、動物福祉、社会的な公正(労働者の権利)という3つの柱に基づいて農場や製品を認証するもので、単なるオーガニックを超える基準を目指している。パタゴニアは、ROC認証を取得した農場からコットンなどの原料を調達し、製品ラインナップを拡大している。同社は、ビジネスを通じて環境問題の解決に貢献することを使命としており、リジェネラティブ農業が気候変動の解決策の一つとなり得ることを強く発信している。彼らの取り組みは、ファッション業界のみならず、多くの企業にとって、「リジェネラティブ」なビジネスモデルの可能性を示す好例となっている。

 参照元:Patagoniaウェブサイト「なぜ、リジェネラティブ・オーガニックなのか?」 https://www.patagonia.jp/regenerative-organic/

ユートピアアグリカルチャー:耕作放棄地を再生する放牧酪農と「幻のチーズケーキ」

北海道を拠点とする株式会社ユートピアアグリカルチャーは、放牧を中心とした酪農を通じて、土壌の健康回復、生物多様性の向上、アニマルウェルフェアの実現を目指すリジェネラティブな取り組みを実践している。同社は、耕作放棄地などを活用して牛を放牧し、化学肥料や農薬に頼らず、牛の糞尿を堆肥として土に還すことで、健康な土壌と牧草を育てている。そこで育った牛から搾られる牛乳は、その品質の高さから評価され、それを使用して作られる「CHEESE WONDER」などのチーズケーキは、オンライン販売で即完売するほどの人気を誇る。同社の取り組みは、美味しい乳製品を提供すると同時に、環境再生と持続可能な食料システムの構築、地方創生にも貢献しており、日本の農業・酪農業界における「リジェネラティブ」の実践例として注目されている。

 [参照元:Utopia Agricultureウェブサイト https://www.utopiaagriculture.com/]

ケリング:自然再生基金による大規模なリジェネラティブ農業の推進

ラグジュアリーグループのケリング(グッチ、サンローラン、ボッテガ・ヴェネタ等を擁する)は、2021年にコンサベーション・インターナショナルと共同で「自然再生基金(Regenerative Fund for Nature)」を設立し、今後5年間で500万ユーロ(610万米ドル)の基金により、世界各地の優れた革新的な再生型農業プロジェクトを支援している。

この基金は、主に次の3つの目標を掲げている。

土壌機能の改善: 土がより多くの炭素を蓄え、水分をしっかりと保持できるよう、土の機能を高めることを目指す。

生物多様性の保護・回復・強化: 農場とその周辺地域において、多様な生物種を守り、失われたものを回復させ、さらに豊かな状態へと強化していくことを目指す。

生態学的手法の採用: 合成農薬などの投入物を使用せず、自然の生態系が持つ仕組みを活用した農法を取り入れることを目指す。

最初の助成先として南米、中央アジア、インド、ヨーロッパ、アフリカの7つの地域から7団体が選出され、84万ヘクタールの土地を環境再生型農業に転換し、世界各地の農業従事者6万人に恩恵をもたらすプロジェクトが進行中である。ケリングの取り組みは、2025年までに”ネット・ポジティブ(全体でプラスとなる)”な環境保全を実現するという目標の重要なステップであり、合計200万ヘクタールを環境再生型農業へ変換させることを目指している。ファッション業界における原材料調達の根本的な変革を通じて、リジェネラティブ・ビジネスの新たな可能性を示している。

LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン:生物多様性と土壌再生のためのアグロエコロジー

高級ブランドグループであるLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)もまた、サプライチェーン全体での環境再生に力を入れている。特に、ワインやスピリッツの原料となるブドウ栽培などにおいて、リジェネラティブな農業手法(アグロエコロジーやアグロフォレストリーを含む)の導入を推進している。例えば、畑の土を守る草や植物の利用、不耕起栽培、化学農薬の使用削減、生態系コリドー(生物の移動経路)の設置などを通じて、土壌の健康を改善し、生物多様性を高め、水資源を保全することを目指している。LVMHは、2030年までにグループ全体で500万ヘクタールの動植物の生息地を再生・保全するという野心的な目標を掲げており、その一環としてリジェネラティブ農業への投資を加速させている。ラグジュアリーブランドが率先して「リジェネレーション」に取り組むことは、業界全体への波及効果も大きいと言えるだろう。

 [参照元:LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン「CBA and LVMH announce major new project – The Circular Bioeconomy Alliance」https://circularbioeconomyalliance.org/sustainable-cotton-growing-in-africa/]

まとめ:リジェネラティブな未来に向けて

地球規模の環境問題が深刻化する現代において、持続可能な社会の実現は、人類共通の喫緊の課題である。その解決策として、そしてさらにその先を見据えたアプローチとして、「リジェネラティブ」な取り組みが世界的に注目されている。これは、現状維持を目指すサステナビリティから一歩進んで、地球環境や社会システムを積極的に「再生」し、より豊かで健全な状態へと導こうとする考え方であり、実践である。

企業は、従来の環境負荷低減策にとどまらず、事業活動を通じて積極的に環境を再生していくという視点を持ち、新たなビジネスモデルを構築していくことが求められる。消費者もまた、日々の選択を通じて、「リジェネ」な製品やサービスを支持することで、この動きを後押しし、持続可能で再生的な社会の実現に貢献できる。政府や自治体は、リジェネラティブな取り組みを支援するための政策を策定し、推進していくことが重要であり、研究機関は、その技術や手法の開発を加速させ、効果を科学的に検証していくことが求められる。

私たち一人ひとりが、「リジェネラティブ(ネイチャーポジティブ)とは何か」を理解し、地球と社会の健康を自分ごととして捉え、日々の生活や消費行動の中で意識していくことが、リジェネラティブな未来を築くための確かな第一歩となる。共に、地球の未来のために、より豊かで希望に満ちた「リジェネレーション」の時代を創造していこう。

Share :
  • URLをコピーしました

Ranking ウィークリーランキング (2025.06.27〜07.04)

Instagram Follow us
nanadecorが無農薬コットンを育てている奥出雲エリアで、種まきを体験してみた

nanadecorが無農薬コットンを育てている奥出雲エリアで、種まきを体験してみた