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ストーリー|2025.05.04

シーイン(SHEIN)とは?デザイン盗用訴訟が相次ぐウルトラファストファッションの実態

シーイン(SHEIN)は、2008年に中国で設立され、世界的に急成長を遂げているウルトラファストファッションブランドだ。驚異的な低価格と豊富な品揃えで若者を中心に人気を集める一方、テム(Temu)やH&Mとの法的紛争、そして多数の小規模デザイナーからのデザイン盗用疑惑に直面している。大手同士が法廷で争う裏で、無数の独立デザイナーたちが声を上げる業界の実態を、シーイン(SHEIN)の基本情報から問題点まで、消費者として知っておくべき情報とともに解説する。

写真:Unsplash

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シーインとは?世界を席巻するウルトラファストファッション

シーインの設立と急成長

シーイン(SHEIN)は、2008年に中国・広州で創業されたファッションECブランドだ。設立当初はブライダルドレスを専門としていたが、現在は幅広いアパレル商品を展開するグローバルファッションブランドへと成長した。特に2020年以降、パンデミックの影響でオンラインショッピングが加速する中、シーインは急速に知名度と市場シェアを拡大。SNSマーケティングを効果的に活用し、若年層を中心に人気を博している。

シーインのビジネスモデルと特徴

シーインの最大の特徴は「ウルトラファストファッション」というビジネスモデルだ。従来のファストファッションよりさらに短いサイクルで、膨大な数の新商品を投入し続ける手法を取っている。具体的には以下の特徴がある:

  • 超高速サプライチェーン: デザインから製造、販売までわずか数日で完結
  • 膨大な商品数: 常時60万種類以上の商品をオンラインで販売
  • 驚異的な低価格: Tシャツ500円、ドレス1,000円など、従来のファストファッションより大幅に安い価格設定
  • AIを活用したトレンド分析: SNSや検索データを分析し、人気の出そうなデザインを素早く特定・製造

た、シーインは実店舗をほとんど持たず、ほぼ100%オンライン販売に特化している点も特徴だ。これにより店舗運営コストを削減し、低価格を実現している。

シーインの市場規模と影響力

シーインの急成長は数字にも表れている。2022年の推定売上高は300億ドル(約4.5兆円)超とされ、2021年には米国でのダウンロード数でアマゾンを上回るアプリとなった[出典:Bloomberg, 2023]。特にZ世代(10代後半~20代前半)の若者に絶大な人気を誇り、TikTokやInstagramでの「SHEINハウル」(大量購入した商品を紹介する動画)がトレンドとなっている。

2023年時点での企業価値は約640億ドル(約9.6兆円)と評価され、ロンドン証券取引所への上場も計画されている。もはやシーインは単なるファッションブランドではなく、グローバルなファッション産業の構造を根本から変えつつある存在となっている。

シーインが直面する問題

シーインに対する最も大きな批判の一つが、デザイン盗用問題だ。独立系デザイナーからの訴えは枚挙にいとまがない。

オーストラリア人デザイナーのレイチェル・バークは、リボンやおもちゃを使った独創的な「着られるアート」で知られているが、彼女のデザインの写真がアリエクスプレスに無断で掲載され、コピー品が販売された。「打ちのめされた気分、まったく意味がわからない」と彼女はTikTokで訴えている。

他にも、カリフォルニアを拠点とするニットウェアメーカーの「ベイリー・プラド」はシーインが45以上のデザインを盗んだと主張。ナイジェリアの「エレキアリー」も、職人が4~5日かけて編み上げるセーターのデザインを盗用されたという。

こうした問題はSNS上で頻繁に告発されているが、シーインの商品数の膨大さから監視は困難を極める。一日に数千点もの新商品がアップロードされるプラットフォームで、すべてのデザインをチェックすることは事実上不可能だという実情がある。

労働環境と人権問題

シーインの低価格を支えているのは、厳しい労働環境という側面もある。2021年のChannel 4の調査では、中国・広州の工場で週に75時間働く労働者が月給約2,000元(約4万円)で働いている実態が明らかになった[出典:Channel 4 Documentary, 2021]。

また、アメリカのNGO「グローバル・レイバー・ジャスティス」の報告によれば、シーインのサプライチェーンでは労働法違反が横行しているという。さらに、テムに対する訴訟の中でシーインは「テムはウイグル人の強制労働によって製造された製品を販売している」と主張する一方、同様の疑惑はシーイン自身にも向けられている。

環境への影響

ウルトラファストファッションの環境負荷も大きな問題だ。シーインの商品はその多くが数回の着用で廃棄される「使い捨てファッション」となっている。

イギリスの環境監査委員会の調査によると、ファストファッション産業は世界のカーボンフットプリントの約10%を占め、航空産業と海運業を合わせた以上の温室効果ガスを排出している[出典:UK Environmental Audit Committee, 2023]。シーインのような超高速・大量生産型のビジネスモデルは、この環境負荷をさらに悪化させる要因となっている。

シーインと他ブランドの法的戦い

シーインVSテム:ウルトラファストファッション同士の訴訟

2024年8月、シーインはライバルのECプラットフォーム「テム(Temu)」を訴え、「テムは偽造、企業秘密の盗難、知的財産権の侵害、詐欺を行っている」と主張した。80ページに及ぶ訴状の中で、シーインはテムが著作権侵害だけでなく、シーインを装った偽のSNSアカウントを作成したり、インフルエンサーに競合他社の信用を傷つけるよう指示するなどで消費者を欺いていると主張している。

一方テムは、シーインを「マフィア風の脅迫と拘束の脅迫戦術」で訴えたことがあり、サプライヤーがテム社と取引しないように独占取引契約を強制したと訴えている。

これに対してテムの広報担当者はTIME誌にこう語った:「信じられない大胆さだ。知的財産訴訟を山のように抱えているシーインは、自分たちが繰り返し訴えられている不正行為について、他社への告発をでっち上げる神経を持っているとは」

皮肉なことに、お互いを盗作だと非難するシーインとテムだが、両者とも小規模ブランドからデザインを盗んでいると繰り返し指摘されている。この法廷闘争はまさに「犬が自分の尻尾を追いかけるような」状況を作り出している。

小規模デザイナーとシーインの対立

小規模デザイナーがシーインのようなファストファッション大手にデザインを盗まれた場合、法的に争うことは非常に困難だ。特許弁護士のジェニー・ウィンダム・ウィーラーによれば、「デザイン権侵害を証明するには、オリジナルの発案者は盗用疑惑のアイテムが『全体的な印象が実質的に類似している』ことを示す必要がある」という。

しかし、小規模ブランドには法的措置を取るための資金や時間がないことが多い。デザイナーのクリスタ・ペリーは、デザイン盗用を訴えてシーインと対決した後、わずか500ドル(約7.5万円)の和解金を提案されたが拒否したという。

「アーティストの作品はときに、魂から生まれるものです。喜び、痛み、トラウマ、夢、文化が混ざり合った個人的な人生の経験から誕生します。そんなデザインを盗むなんて冒涜です」とペリーは語る。

シーインの公式見解と対応策

シーインの広報担当は、デザイン盗用の疑惑について次のように回答している:「シーインはデザイナーやアーティスト、そして他者の知的財産権を尊重しています。私たちはすべての申し立てを真摯に受け止めています。正当な知的財産権保有者から正当な苦情が申し立てられた場合、シーインは速やかに状況に対処し、調査中は念のため製品を当社サイトから削除します」

さらに、シーインは「小規模デザイナーの強力な支援者だ」と主張し、「シーインXというプログラムでは、小規模ブランドやアーティスト、デザイナーとコラボして限定コレクションを出しています」とアピールしている。同プログラムでは46,000種ものアイテムを販売したというが、シーインの全体の商品数(60万点以上)から見れば一部に過ぎない。

消費者として知っておくべきこと

エシカルな選択肢を考える

シーインの低価格と豊富な品揃えは魅力的だが、その裏にある問題も考慮する必要がある。サステナブルファッションの教育者であるニーナ・グボールは「デザインの盗用があまりにも一般的になったため、盗用は許されるという風潮が強まっている。これはサステナビリティの進歩を遅らせています」と警告する。

消費者としては、以下のような点を意識したファッション選びが重要だ:

  • 少量購入: 必要なものだけを購入し、長く着られる質の良いアイテムを選ぶ
  • 独立デザイナーの支援: 可能であれば、創造的な仕事に正当な対価を払うことを意識する
  • 中古やリサイクル: セカンドハンド市場やリサイクルショップの活用も環境負荷軽減に効果的

シーインの良い点と問題点

シーインのビジネスモデルには良い面もある。低価格帯で多様なファッションを提供することで、限られた予算の人々にもトレンドを楽しむ機会を与えている。また、多くの小規模工場に仕事を提供し、雇用を創出しているという側面もある。

一方で前述のような深刻な問題も抱えている。消費者としては、便利さと低価格の裏にある真のコスト(環境、人権、創造性への影響)を理解した上で選択することが大切だ。

まとめ:シーインが変えたファッション業界

シーインは、わずか数年でファッション業界の構造を根本から変えた。超低価格、超高速サイクル、AIを活用したトレンド分析など、従来のファッション産業では考えられなかったビジネスモデルを確立し、特に若い世代の消費行動に大きな影響を与えている。

一方で、デザイン盗用、労働問題、環境への影響など解決すべき課題も多い。シーインが今後どのように進化し、これらの問題に対応していくのか、業界全体の持続可能性にも関わる重要な問題だ。

デザイナーのエミリー・ワトソンが語ったように、「高度な品質と職人技は、ウルトラファストファッションの巨人たちが真似することはできない。1着の服にかけられた時間と思いを、偽ることはできない。真のエシカルファッションはやすやすと偽装されない」のだ。

消費者としても、ファッションの「本当の価値」について考え、より意識的な選択をする時代が来ているのかもしれない。

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※この記事は元記事(https://shiftc.jp/2024/11/06/shein_temu_design_theft/)の内容を参考に、「シーイン」について知りたい読者向けに再編集しています。

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