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生徒たちが制服のあり方から見直してたどり着いた、環境への配慮
2025年4月、「自由学園」に新たな制服が誕生した。長く女子部・男子部に分かれていた中等部及び高等部が24年に男女共学化し、新たな制服が必要になったのだ。
「制服づくり自体を学びの機会に」という考えから、新制服プロジェクトは生徒主体でスタート。高等部には、多種多様な企業や団体でインターンをするプログラムがあり、「CLOUDY(クラウディ)」に生徒を派遣したことが縁で、共同プロジェクトを進めることになった。プロジェクトメンバーは約45人。メンバーを代表し、2年半にわたりプロジェクトに携わった高校1年のラトールまるさんと、高校3年の黒沢夏未さんに話を聞いた。


――そもそも皆さんにとって「制服」とはどのような存在なのでしょうか。
黒沢夏未(以下・黒沢):私たちの学校では、制服とは毎日決まって着なければいけないものではなく、式典などの際に統一感を持たせるために着る“式服”のようなものでした。共学化にあたり、制服自体を無くすのかを含め討議を重ねた結果、これまで同様に「式典など特別な機会に着る服」というスタンスが決まりました。毎日着るものではないからこそ、服の“強度”にそこまで重点を置く必要はない。「人との共生」「自然との共生」を理念に掲げている学校ということもあり、メンバーと話し合いを重ねていくなかで、「環境に良い素材を使いたい」という思いは自然と芽生えていきました。
デザインや着心地だけではなく、作り手に賃金が適正に支払われているのかといったことを含め、「その一枚の制服が社会にどのような影響をもたらすのか」ということを大切にしたい、と思いました。
ラトールまる(以下・ラトール):私も、共学化というのは、それ自体が新しい挑戦なので、従来のやり方にこだわらない新しいアクションをしていきたいな、と思っていました。
――「CLOUDY」は、雇用の創出を目的にガーナに縫製工場を持つアパレルブランドです。お二人は、エシカルやサステナブルという意識が芽生えるようになったそもそものきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
ラトール:私は、中学1年の探究学習の授業で「浴衣のリメイク」に挑戦したことがきっかけでした。「浴衣のリメイクをしてみたいのなら、まずは服づくりの裏側を学びなさい」と先生から言われ、自分なりに勉強することにしました。映画『ザ・トゥルー・コスト〜ファストファッション 真の代償〜』(15年)を観たときは、「私はこんなふうに作られた服を着ていたんだ」と申し訳ない気持ちになり、涙があふれたことを覚えています。なので、今回の制服プロジェクトでは少しでもエシカルな服を作りたい、という気持ちがありました。
黒沢:私はもともとファッションに興味がありましたが、長らくキラキラした側面しか見えていなかったように思います。小学生の頃に読んだ本の中で「最新の流行を低価格で購入できるファストファッションの世界では大量の服が生産され、余剰在庫はすべて処分されている」ということを知り深刻な問題だと受け止めました。そこから「エシカル」や「サステナブル」にも目を向け意識するようになりました。
再生素材、ガーナ人デザイナーと考えたプリント、売り上げの3%をガーナ支援に。細部まで「人に伝えたくなる」がテーマ
――制服づくりにおいては、具体的にどのようなアプローチから始めていきましたか。
黒沢:「CLOUDY」が大切にされている考えを伺い、そこから「長く着られること」を重視したい、そのためにはどうすればいいか、を考えることから始めました。中高の6年間着て終わるのではなく、次の代、その次の代へと渡していけたら、と。とはいえ、いつか終わりが来るものではあるので、たとえ捨てる日がやって来たとしても「土に還る」こと、どこで、どんなふうに作られたものなのか情報として追うことができる、いわゆる「トレーサビリティ」について考えたい、という気持ちがありました。もちろん、実現できたこと、実現できなかったこともあり、少し歯痒い想いもしましたが、それでもそうした意識は常に持っていたいな、と思っていました。
ラトール:私はプロジェクトを通して、学園内だけでなく、学園外にも「プロセスを伝える」ことを大切にしていきたい、と思っていました。完成した制服が家庭に届いた際は私たちの想いを綴った冊子を同梱するなど、ずっと熱意を持って伝えて来たつもりです。でも、細部のこだわりをわかりやすく伝えるのは決して簡単なことではなくて。
たとえば、ジャケットとスカート、スラックス、そしてボタンは再生ポリエステルを使用しているのですが、誰もが目にしてすぐにわかることではないので、「“人に伝えたくなる制服”をコンセプトにしていたけれど、伝えることには結構苦労したな」という想いも残りました。
黒沢:ただ、予想と異なる展開で面白いな、と感じたこともあります。制服プロジェクトでは売り上げの3%をガーナへの支援に充てたのですが、「何に充てるべきか」をアンケートしてみたところ、「給食」や「生理用品」といったものに充てたい、と考えた生徒が予想以上に多かったんです。「教育施設への投資」といった大きな課題に対してではなく、「栄養」や「日々の暮らし」といったものに目を向けた生徒が多かったことは嬉しい驚きでした。
――実際に、ガーナのデザイナーさんとやりとりすることはありましたか。
黒沢:学園のスクールカラーや建学の理念をモチーフにしたテキスタイルを何パターンか送って頂き、全校生徒でどのパターンが良いかを話し合い決定していきました。デザイナーさんと実際にお会いすることやお話することはありませんでしたが、「国境を越えて一つのものを作ることができたんだ」と感慨深かったです。
ラトール:そう、私もジャケットの裏側、そして胸ポケットの裏側に使用されているテキスタイルが一番好きなポイントです!
黒沢:スカートの色もスクールカラーをモチーフにしていて、プリーツの折り方も何パターンか送って頂いて、そこから全校生徒で選んでいきました。
単なる消費者を超えて、ファッションとどう向き合うかを考える機会に
――完成した制服を目にした際、率直にどんな想いを抱きましたか。また、今回のプロジェクトを通して、得たこととは。
ラトール:今年2月に制服が完成し、キービジュアルの撮影のため、私や黒沢さんを含め6人ほどがモデルとなりました。たった一日着ただけなのに、「もう脱ぎたくない!」という気持ちになったことを覚えています。ぎゅーっと抱きしめたくなるような、ただただ「好き」としか表現できないような感情が沸いて来ました。すごく温かいものに触れている気がして、「可愛い」という言葉しか出てこなかったです。
黒沢:これまでは完全に消費者だったのに対し、ほんの少しではありますが、「服の背景について考えながら作る」という体験ができ、今後どのようにファッションと向き合っていくかについてより深く考えることができるようになったのは大きかったです。私は「経営」にも興味があり、エシカルであることをよりダイレクトに消費者に伝えていくためにはどうすればいいのかなど、多角的な視点でファッションを見つめることができるようになった気がします。
高校3年なので、新しい制服に袖を通すことはできませんが、これから入学してくる生徒たちが長く愛してくれることで、ガーナへの支援も続いていく。そんな想いは、自分が学園を卒業してからも続いていくのかな、と思っています。