eri
古着を扱うセレクトショップ、「DEPT(デプト)」のオーナー兼バイヤー。気候変動や政治問題に取り組むアクティビストとして、自身のサスティナブルな生活や活動に基づいた学びを発信し続けている。フローリストの越智康貴氏との共同プロジェクト「DONADONA TOKYO(ドナドナ トーキョー)」を2019年に始動。
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望む未来の景色に、共通点を感じて
ーー2024年10月に「デプト」で4日間にわたり開催された『フウフウドナドナ』展。タイで買い付けを行う「フウフウ」さんとのコラボレーションは、どのように始まったのですか?
私が気候変動のことを学び始めて、次のライフスタイルを考え始めた時、「自分の家の中になるべくプラスチックや人工物を入れたくない」と思ったんです。まず収納するものなど、家で実用的に使う素材を見直したんですよね。 でも日本で納得のいくクオリティと可愛さで、 しかも同じ規格のものを買い揃えることが難しかった。そんな時、「フウフウ」さんが扱っていた水草の収納ボックスや日用品を入れるポーチを見て、「これだ!」と感じました。(DEPTオーナー・eri、以下同)
(「フウフウ」オーナーの)あいさんとお話するようになって、彼女がチェンマイに行くタイミングで「私も行きたい!」とついていくことに。タイは私も子供の頃に訪れてすごく好きになった国でしたが、「フウフウ」さんが見る景色や扱ってるものには、「古いのに新しい」といった感覚を覚えたんです。そこから、「なにか一緒にやろう」と話が始まっていきました。
それこそ彼女とは環境に対する考え方や、 世の中に対してのいろんな視点に共通することが多く……いわば見たい未来の景色が同じなんです。 会うともっぱら政治や社会の話をしてますが、より自然に近い形の、美しいものをもっと生活に取り入れていきたいという気持ちにも、共通点を感じますね。
ーー水草という素材の、どんな点に魅力を感じたのでしょう?
当たり前のことが、当たり前じゃなくなってる世の中に気づかせてくれたんです。ある意味ポリプロピレン製の洋服収納ボックスの、逆を行きたいと思っています。水草は、こんなに可愛いのに便利なんですよ。軽くて洗えるし、通気性がいいので湿気がこもらない。そして最後には土に還るなんてすごいですよね! 昔はそれが当たり前のことだったのに、今では”還らない”が普通になってしまったから、そういう原点に戻りたいって感覚が強いです。
タイの南北を巡った時、水草を作っている地域でもそう感じました。もう本当に当たり前なのですが、1つ1つが手作業。水草を植えて、収穫し、長さを揃えたら、また次のところで乾かし、1回泥につけて柔らかくして。そこから石臼で引いて、平らにする。 それから編む人がいて、さらに成形する場も別にある。様々な人の手を介して分業で作られている場を見ると、その地域にある植物や土などで必要なものが作られてきた歴史を感じるんです。その過程において有害なものはほぼなく、その地域で全部が始まって、終わっている。でも強いコミュニティ意識があるわけでも、大きな工場に管理されているわけでもなく、人がゆるゆると繋がっているんです。そこにすごく、ヒントがあるような気がしました。
生産背景への興味が、ものと人を結びつける
ーーeriさんは古着のプロとして、アイテムがもつ物語を大切にしていらっしゃいますが、実際にその古着を作った昔の方々に会うのは難しい。一方で今回のタイではたくさんの作り手の方々とお会いしていますね。ものが作られる風景や人々の顔を見ることは、意識に大きな違いを生みましたか?
そう思いますね。私は国内外どこでも、作っている人や手を動かしてる人にとにかく会いたい。 あわよくば、私もその現場を体験させてもらいたい(笑)。 物が好きなのか、人とコミュニケーションを取るのが好きなのか、分からないくらい好きなんです。 やはり世の中の社会の仕組みを考えていく時に、「そこに人がいるんだぞ」という感覚はすごく大事。自分自身にも常にリマインドしていかないと、と思っています。
その戒めとして、常に自分の心に留めているのが、去年訪れたリサイクルウール工場の風景。私はウール製品を作る際にリサイクルかミュールジングしてないものを選んでいて、その時は集められたニットを選別する工場を訪れました。そこは4月なのに灼熱なんですよ。クーラーもない場所で、高齢の男性社長さんがネームや品質タグ、ボタンを黙々と切っていて。付属品を取らないと次の工程に進めないから、手で全て作業されていて衝撃を受けました。自分が「使うならリサイクルウールだよね」なんて言っていた背景に、どういう人たちがどういう労働環境の中で仕事をしているのか見えていなかったんです。自分の解像度の低さを思い知らされました。SDGsなどの言葉が先行しがちだけれど、その背景に何があるのかちゃんと見ていく責任を感じたんです。
タイでも草が生えてる場所から見て、皆がどんな生活の中でどう仕事しているかを見ると、自ずと「ものを長く愛すること」「ものとどう一緒の時間を過ごすか」を考えます。ものと人との関係を強くするのは、そうした背景を汲みとる部分なのかもしれません。
「知る」が導く、他者も自分も大切にする世界
ーーその気付きを、ビジネスとして成立させることに課題を感じている方も多いと思います。『Shit C』でも、日本ブランドが「人間」のカテゴリーでなかなか高評価を得られない現実があります。どうして人への配慮をビジネスに組み込むことが、特に日本で難しいのでしょうか?
一言で言うと、日本の人権意識が低いからなのかなと思います。 日本は政治の治世者の振る舞いや言動を見ていても、個人個人の権利の扱いがものすごく軽んじられていると感じます。 「こうあるべき」の枠組みの中で、皆が働いたり生活をしているような気がしていて。 そんななかだと自分を守ることで精一杯で、他者に対して考えを巡らせることは難しい。
そんな負のループから抜け出す一番近道のヒントは、私も模索中ですが、まず今社会で何が起こっているのかを知ることだと思います。自分がこれからどう仕事してどう生きるかを考えたとき、自分のことだけを見ていると意外と答えは出てこない。私自身も、昔は寝る間も惜しんで服作りに没頭して、自分のエネルギーを使って自分を喜ばせ続けてきました。でも社会と会話をしていくと、自分自身がアップデートされていったんです。まず「この服は誰がどんな時給で作ったんだろう」から始めて、考える半径を広げていけば、他者を考えた先に自分のことも大切にできる世界があるはず。エンパシーが欠如した世の中だけれど、そのサイクルがもっと生まれたらいいなと思います。
もっと私たちが、有機的に繋がるために
ーー以前も現実を「見て見ぬふり」しがちだけれど、逆に知ることで怖くなくなると仰っていましたよね。実際によいサイクルを生むため、eriさんが意識していることや「デプト」で具体的に取り組んでいることはありますか?
大切にしていきたいことはコミュニケーション。私は生産者側と、作ったものを手に取ってくださるお客さんを繋ぐ場所にいるので、その双方のコミュニケーションは丁寧にやっていきたいと思っています。今、環境省と消費者庁と経産省が一緒に動いているサステナブルファッション・サポーターを務めていて、多くの省庁やセクターの方々とお話しをすると、お互いを理解するためのタッチポイントが圧倒的に足りてないと感じます。気候変動でも、すごく近い団体でもお互いが何をしているか知らず連携できていなかったり。そんな切れ目を繋ぐ役割を、担えるようになりたいです。
また「デプト」のお店では、「ものを作って販売する」というサイクルから少し抜け出したくて、最近ワークショップを頻繁に開いています。刺繍のパッチや、ブレスレットを作ったりして。皆で手を動かしながら、気候変動や人権問題、政治など生活に根ざした話を一緒にして、質問しあって、考えていきたい。ずっと「売る側と買う側」というスタンスだとどうしても限界があるので、仲間を増やしていく作戦です(笑)。もっと有機的に、人が繋がれる場所があったらいいなって。人生がどれだけ続くか分からないけれど、最大限自分が社会に貢献できる方法を考えていきたいですね。
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