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ストーリー|2024.11.08

「自然への敬意をもつファッションが、これからの格好よさ」。スタイリスト二村毅と木村舞子のサステナビリティトーク<後編>

スタイリストという立場から、ライフスタイル全般を幅広く提案する二村毅氏。実践的な提案も含めてこれからのファッションのありかたを考えるスタイリスト、木村舞子氏との対談<前編>では、ファッション業界の現在地と、目指すべき未来について聞いた。では、私たちはこれから何を選んだらいいのか? この<後半>ではサステナブルな未来に向けてアクションを始めているブランドや、イメージを描くのに役立つ本をリコメンドしてもらった。

>前編はこちら

原稿:YUKA SONE SATO 写真:目黒智子

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二村 毅
愛知県出身。90年代にメンズ雑誌でスタイリストとしてのキャリアをスタート。豊富な知識と経験に裏付けされたそのセンスに対する各業界からの信頼は厚く、アンダーカバーなどのコレクションのスタイリングや、広告・カタログなど活躍のジャンルは幅広い。

木村舞子
北海道出身。バンタンデザイン研究所を卒業後、スタイリスト百々千晴氏に師事。ファッションモード誌、カタログ等で活躍中。Shift Cにて「スタイリスト・木村舞子が、ジャパンブランドとサステナブルアクションを考える」を連載中。


国内外での気になるアクションはありますか?

二村毅(以下、二村) 先日コペンハーゲンに行ってきたんですが、とてもヘルシーでしたね。デンマークは世界で最も1人あたりの服の所有量が少ない国なんだそうです。過度なデザインやメイクは少なくてみんな品のいい肌の見せ方とナチュラルなメイクアップで楽しんでいて、ファッション性がすごく高かったなという印象がありました。

木村舞子
(以下、木村) ファッションウィークも盛り上がっていますよね。行ったことはないのですが、世界一サステナブルなファッションイベントと言われていてとても気になっています。
私はノルウェーのトムウッドというジュエリーブランドと仕事をしたことがあるのですが、たとえば撮影に使う衣装を用意するときになるべく買うんじゃなく借りたり、手持ちのものを持ち寄ったりしようと言ってくれて。北欧は意識が高いブランドが多いですが、サステナブルであることを徹底しようというよりは、何事にもそういった考えを持つのが普通、当たり前という感じでした。普段のスタイリングだと予算の兼ね合いはあっても、「無駄な消費をしない」という観点でそう提案してくれるクライアントはなかなかいないので嬉しかったです。

二村 
フィンランドで生まれたマリメッコにはサステナビリティやヘルシーな生活のものづくりをできる人たちが集合しています。カフェ界のNomaと言われている、コペンハーゲンのアトリエ・セプテンバーには、ナチュラルな食材と早起きの生活、それに似合うファッションがあった。その循環性を通して提案していくことが、今後の我々ファッション業界の課題なのかなっていう感じはしています。

いま注目しているブランドやについて教えて下さい。

二村 オーラリーはまさにそういうヘルシーさを感じますね。公園をテーマにしたり、天然素材も多く使用している素晴らしいブランド。サステナビリティの取り組みやエネルギー排出量などディテールはわからないですが、総合的に考えた時にアプローチできるのはいいんじゃないかな。同じ色のセーターがあった時に少し考える選択肢としてはいいのかなとか思いますね。

木村 CFCLはB Corpも高得点ですしファッション性も高いですよね。

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二村 ロンドンのPANGAIAもいいですよ。一見、ファッションセレブリティが着ているようなサラッとしたスウェットなんですが、サイトを見るとプラントベースの生地を科学者達が開発している。ガチョウの羽のかわりに花の繊維を使ったダウンジャケットを作ったり、パイナップルの羽や竹の葉の繊維、海藻などから作られたファブリックを使用したり、廃棄野菜から染料を取ったりしている。生産工程の環境負荷の数値化もしっかりしていて面白いなと思いますね。

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スパイバー社も出資していましたよね。

二村 スパイバーも頑張ってほしいです。あとはスポーツブランドのOnサブスクリプションを始めましたね。スニーカーだけでなく、シンプルなTシャツも対象に広げています。前述の『2040年アパレルの未来』にはアパレルのそういった取り組みがまとまっていてすごく良いブランドがたくさん載っています。何故、ファッション雑誌がこれを先にできなかったのかと悔やまれますけどね。

木村 これからはファッションと自分たちの生活は切り離してはいけないなと思います。ファッションアイテム一つとっても裏側にどのようなストーリーがあるかをメディアも伝えていかないといけない。
特に日本のアパレルの場合、グローバルを見据えた素材のチョイスや炭素排出量を計算して物づくりをしているブランドや環境問題に真摯に取り組んでいるブランドもある反面、未だに自分事にとらえていないブランドも数多くある印象があります。みんなで同時にやっていかないとなかなか前に進めないので、この意識を共有していきたいですね。

これまでの話にも登場しましたが、サステナビリティを実践するおふたりの参考書をご紹介ください。

木村舞子氏おすすめの参考書

左から、『沈黙の春』 (新潮文庫) レイチェル カーソン (著)  Rachel Carson (原名)  青樹簗一 (翻訳)、『土を育てる: 自然をよみがえらせる土壌革命』(NHK出版)、ゲイブ・ブラウン (著)  服部雄一郎 (翻訳)、『プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命』(NHK出版)シャンタル・プラモンドン (著)  ジェイ・シンハ (著)  服部雄一郎 (翻訳)、『2040年アパレルの未来: 「成長なき世界」で創る、持続可能な循環型・再生型ビジネス』(東洋経済新報社)福田 稔 (著)

『沈黙の春』は1962年に出版された本で合成殺虫剤・農薬などの化学物質がいかに生態系を壊しているかをいち早く世界に訴えた本。そのおかげで当時広く使われていたDDTという殺虫剤が使用禁止となったが、いまだに一部の農薬や殺虫剤、除草剤などの化学物質は使われ続けていて。その犠牲になる虫や動植物さらには人間がいるにも関わらず、利益のために使い続けるのは何故なんだろうと漠然と疑問に思ってしまいます。

『土を育てる』は土壌再生型有機農業(リジェネラティブ・オーガニック農業)の話です。著者は元々広大な土地を耕して単一作物を植える慣行農業をやっていたんですが、度重なる水害などに見舞われて立ち行かなくなった。その時に昔の農業の形を研究して辿っていくと土を耕さず、多様な植物や虫、動物を同時に共存させ、本来あるべき土壌環境に再生していくことで農業としても安定させることができたという話。さらにはCO2を大量に土中に吸収させることができるなど地球環境を好転させるための今最も注目されているトピックの一つです。

『プラスチック・フリー生活』は雑誌『GINZA』でコラムをやり始めた頃、いかに身の回りのプラスチックを減らすかが当時の一番の自分のトピックだったので手に取った本です。プラスチックは皆あたりまえに使っているけれど、安全ではない素材、また長い年月をかけても分解されないものを使い続けるとどうなるのかといったことが詳しく書いているので勉強になります。

『2040年アパレルの未来』。先ほど二村さんのお話にも出てきましたが、コンサルタントの福田稔さん/AT.カーニー シニアパートナーの著書。現在起きている様々な社会問題の側面から、アパレル業界の未来を予測した本。これからは、社会とのつながりを持たずして自分の会社だけの利益だけを考えてやっている会社は立ち行かなくなる。経済活動と社会活動を両立させて循環型・再生型のビジネスをしていかなければいけないということが書いてあります。

二村毅氏おすすめの参考書

左から、『植物と叡智の守り人 』(築地書館)ロビン・ウォール・キマラー (著)  三木直子 (翻訳)、『地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる』(早川書房)ビル・ゲイツ (著) 山田 文 (翻訳) 、『資本主義の次に来る世界』(東洋経済新報社)ジェイソン・ヒッケル (著)  野中香方子 (翻訳)

ジェイソン・ヒッケルの『資本主義の次に来る世界』は、資本主義=企業至上主義の次に来る世界がどういうものがいいかというのを、決定事項としてではなく外でどういう事が起きているのかを冷静に分析し彼の意見を述べているところがすごくいいですよ。

ロビン・ウォール・キマラーの『植物と叡智の守り人』はアニミズム・ネイティブアメリカン・植物学者の思想をもっと知りたくて読んでみたんですが、素晴らしい本でした。木材産業を調べてみると(アメリカの世界最大の小売企業)ウォルマートがパタゴニアと業務提携して環境に対して努力をしているんですよ。そしてIKEAとウォルマートはまずネイティブアメリカンの木材企業から木材を買うようになっています。なぜなら彼らの思想が自然の循環に適しているということがアメリカ政府の検査でわかったんです。内部比率はわかりませんが、自然からの思想が全体的に見直されています。

ビル・ゲイツの『地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる』はまず、みんなショックを受けるために読んだほうがいいです。温室効果ガスをどれだけ削減しないと地球は死ぬか、というのが書かれています。ビル・ゲイツは自分の資産を投じてさまざまな努力をしているんだけれど答えが見えないという葛藤が見える本です。


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