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ストーリー|2024.11.06

スタイリスト・木村舞子がジャパンブランドと、サステナブルアクションを考える。【Vol.2 ユニオン ランチ】

ファッションの最前線で活躍するスタイリスト・木村舞子が、サステナブルな取り組みをしているブランドを訪ねるこの連載、2回目で取り上げるのはユニオン ランチ。9年前にディレクター・加藤公子氏がスタートさせたブランドだ。リトルリーグという大手メーカーの中にいながら、自ら全国の工場に赴くなど細かく丁寧な物作りを続ける加藤氏に、話を聞いた。

連載第1回目はこちら

編集:横山佐知 写真:ユニオン ランチ提供 撮影:目黒智子(木村舞子)

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木村舞子
北海道出身。バンタンデザイン研究所を卒業後、スタイリスト百々千晴氏に師事。ファッションモード誌、カタログ等で活躍中。雑誌GINZAのウェブサイトでは、「スタイリスト・木村舞子さんと一緒に、サステイナブルライフへの道!」を連載中。

日本の真摯なものづくりの背景にある、実はサステナブルに通ずる考え方や取り組みがあることを知ってほしい

木村舞子(以下、木村) この連載では日本の生産背景でのサステナブルに繋がるアクションを紹介しているのですが、知人からユニオン ランチが作り手の方に寄り添ったものづくりをしているという話を聞きました。アパレルの持続性を考えた時に生産に携わる人やコミュニティへの配慮というのもとても大事だと思うのですが、ユニオン ランチのホームページでは、一緒に仕事をしている工場の紹介をされていますよね。

私自身にはサステナブルなことをしているという意識はなくて、ただ工場さんとの取り組みが好きなんです。最初はどういう人たちが作っているか知りたいという気持ちもあって。物作りについては、都内の下町にあるテイラードの芯地屋さんから工場さんを紹介いただき学びました。そこからジャケット作りにのめり込んでいったんです。
今でも何かあると工場さんに直接連絡をして、この仕様はどっちがいいのかなどを相談しながらデザインに落とし込んでいます。若かりし頃は、半分自分のエゴでデザインしていた時期もありましたけどね(笑)。もともとトラディショナルでオーセンティックなものが好きで、それをどう追求していくか工場さんと一緒に向き合う。その作業は楽しいです。(ユニオン ランチ ディレクター・加藤公子氏、以下同)

青森にあるテイラード工場、サンライン。

木村 実は日本の昔ながらの問屋システムに問題があるという話を聞いたことがあるのですが、例えば生地屋さんが小売側から依頼されて作った生地に対して、満足いかなかった場合(支払なしで)返品が可能で、生地屋さんがかなり損をするシステムだと。そういったことは普通にあることなのでしょうか?

江戸時代の制度が現代も商法として残っているみたいです。私が今住んでいる富山県に創業450年の絹織物の機屋(はたや)さんがいて、そのエリアでは最盛期350軒以上ありましたが現在はこちらの1軒しか残っていなくて、和装用の襦袢などを作っているんです。コロナ禍に、その機屋さんに行く機会があり、返品された反物が山のように積まれていてあまりの量に驚きました。コロナの影響で小売がダメになってしまって使われことなくほぼそのまま問屋から戻ってきたんだと言うんです。そのシルクをどうにかして製品にしようと考え、インナーウエアを作りました。とても繊細な作りのシルクですが、使い続けて洗いを繰り返すと、より丈夫になるんです。

海外に比べると、日本の工場は前に出たがらない傾向が強い

木村 海外の場合は発注を受けて作ったものは基本全て買取ですよね?工場との関係性が日本とは大きく違うのでしょうか。

若い頃はバイヤーもやっていて海外で買い付けにも行っていました。ヨーロッパでは当時からファクトリーブランドというのが出来上がっていましたね。ちゃんとした地位があった印象です。
日本では工場は表に出てはいけないという風潮が強くあり、長い歴史の中でアパレル企業がそうしてしまったのかも知れません。
当時から私は工場の人と話すと勉強になるから楽しかった。今もその繋がりで他の工場さんを紹介してもらうこともあります。でもユニオン ランチの前身のブランドの時からお世話になった工場はほとんど廃業してしまっていて、その頃から取引のある工場は2軒だけです。コロナでだいぶ体制が変わり職人さんも減ってしまい、20年以上のお付き合いだったジャケット工場とも仕事ができなくなってしまいました。

定番の紺ブレ。

木村 職人さんとの関係性以外にはどんなことを気にされていますか?

素材が好きなので、デザインをする時にまず素材から入るんです。かっこよく言うとデッドストックと言われる生地を多く使用しています。長い間使われずに残ってしまった在庫反や、廃業した機屋さんの反物を集めている方がいて、それを買わせてもらっています。今では作れなくなってしまった生地も多く貴重です、機屋さんの廃業も多いので。そういったデッドストックの生地を、もう一度作れないか機屋さんに相談して、可能な限り再現してもらっています。
ユニオン ランチの定番の紺ブレも60~70年代の生地からリプロダクションして当時と同じ機場で作ってもらっています。完成度は高いのですが当時の職人が旧織機で作ったものにはプロの人が見ても分からないくらいの、ちょっとした造り込みがあるんです。その部分は完全には再現できませんでしたが、職人さんの技術は本当にすごいです。

ブランドをスタートした時から、下げ札に工場の名前を入れている

木村 知り合いの靴ブランドのデザイナーさんも年々少しずつ工場が減っていると言っていて、型押しなど、できる加工がどんどん減ってきていると聞きました。

本当に残念です。私は工場さんと対峙しているので危機感があるけれど、現場を見ていない人は私が「(工場が)無くなる無くなる」と言っているのを聞いて、私のその様子が「怖いね」って言うんです。温度差を感じますね。新しい世代が頑張ってくれているところもありますが、日本の縫製の現場が無くなってしまうのではないかと心配しています。

THANKS TO〜の後に工場の名前を入れて感謝の気持ちを伝えている下げ札。

老舗の縫製工場さんは自分たちは表に出ない黒子的な意識が強いみたいです。
ユニオン ランチは工場を知ってもらいたいと思っていて下げ札には工場さんのお名前を入れさせてもらっています。名前を見て喜んでいただけている反面、公表したくないとおっしゃる工場さんもいて、悲しいです。

木村 そうなんですね。私は工場もちゃんと自分たちの取り組みや生産背景をちゃんと公開したほうがいいと思っているのですが、そういった意識が難しくさせているんですかね。サステナブルと謳わなくとも、最低限知りたいと思っている消費者が調べられるようにホームページなどで情報を公開するべきじゃないかと。ヨーロッパはどんどん基準が厳しくなってきているので、素材や生産背景の透明性がないブランドは今後、海外からは買い付けられなくなるのではという話を聞きました。

お世話になっている、とても縫製技術の高いシャツ工場さんがいて錚々たるブランドさんとお仕事をしているんですが、ファクトリーブランドの打診をしてみたことがあります。すすめているけど、それをやることで取引のあるブランドに迷惑が掛かることを懸念しています。でも私は工場さんを表に出るようにしたいと、SNSではしっかり生産背景も伝えながら商品のご紹介をしています。

アパレルのサイクルを変えていきたい

木村 業界全体的に変えていかないといけないですよね。

私だけでは微力すぎますが、アパレルの物作りのサイクルって出来上がっていて、その流れを変えられたらと思っています。
工場には必ず閑散期、繁忙期があるので、年間の仕事の量を均すために閑散期に仕事の依頼がしたい。ユニオン ランチは今後、それをやろうと思っています。ベーシックなアイテムが多く、糸から厳選して生地を作り縫製している。そういうものこそ閑散期にあてて作ってもらえたらと思っていて。展示会とは違うサイクルで出てくると思いますけど、物作りのサイクルも色々あっていいのではないかと。立ち上がりはこの日に合わせないといけないの? と思ってしまいます。

木村 私もいつもルック・ブックの制作の仕事をすると思います。工場にサンプルを大急ぎで上げてもらって、そこから展示会までのかなり限られた日数でビジュアルを制作しないといけないんですよね。特に最近は実際の気候とファッションカレンダーも全然合ってない。そのサイクルでやり続ける必要ありますか?と思ってしまいます。みんなで変わらないといけないんですよね。

決められた時間に追われるモノづくりでは、やりたいこともやり切れなくて(涙)。

木村 コレクションの発表も業界の人に先に伝えることはもはや意味がない気がしていて。例えば海外のブランドにショーのビデオを公開するタイミングとそのコレクションの販売開始がほぼ同時のところもあって、ショーの発表自体がプレス向けではなく消費者向けなんですよね。他にも今までのファッションウィークに合わせたカレンダーとは違う動きが出ていると思うんです。そういう意味でも多様性が必要で、みんなで足並みを揃える必要はないのではないでしょうか。

私がサザビーリーグ(分社化によりサザビーリーグより現在はリトルリーグに経営体制変更)という大きな会社に飛び込んだのは、アパレルブランドではなくプロジェクトとしてそういったミラクルを起こしたいという気持ちもあったんです。それまでは自身でフリーでやっていましたが、今は大きな潮流の中で引き上げる力をもらいたいなと思っている。逆のサイクルが作れるといいなと思っています。
うちは直営店がなくて卸先に委ねています。そんな中でしっかりと定番は売り続けたい。どう付加価値をつけていくかが大事だと思っています。生地も縫製にもこだわっているから簡単には壊れない。でもそれはそれで新しいものを買ってもらえなくなりそうですね(笑)。

木村 素材のいい服をケアして永く着ることが大事ですよね。ケアやリペアをやり過ぎると新作が売れなくなるのでは?と心配するブランドの声も聞きますが、実際パタゴニアなんて服を買うなとまで言っているけれど、その考えに共感する消費者がファンとなってビジネスは成り立ってますよね。

ビジネスとして結果を出すためには、数字に繋げていくことが大切。今は、いろいろな人たちとつながりながら、声を上げることが大切と思っているので、この考えを知ってもらいたいと、その術を模索中です。

木村 そういうことが付加価値となってファンがついてくれるといいですね!

そう願っています。

ロンハーマンでのPOP-UP。

ファッションだけではなく、異業種の人たちとの繋がりを大切にしていく

木村 先日のユニオン ランチの展示会では野菜がお土産だったり、同時期にはイベントでマルシェもやっていましたが、あれはどういう経緯だったんですか?

私の場合、いつも理由はなくて、いろんな仲間が集まって、じゃあ一緒に何かやろうってことになるんです。あの野菜もきっかけは友人が実家のある高知に戻ったことでした。高知の食文化を変えたいと思って、農家さんと取り組みを始めたんです。扱うものは違いますが思いは一緒だったので、ユニオン ランチ最初のポップアップストアから野菜の販売をしていました。能登の漆器の作家さんも参加してもらったこともあります。ジャンルに垣根はないので、同じマインドや同じ目標を掲げている人と一緒にお仕事をするのは大事なことだと思っています。

木村 アパレルだけで循環型を実現するのは難しく、衣食住なども含めた社会全体で取り組む必要があるという意見もあります。

本当に人と繋がること以上に強いことはないと思っています。地方イベントも何度か開催しましたが、そのたびにポテンシャルやモチベーションを感じます。
誰かが関わっていけばしっかり未来に残っていく場所はあると信じています。地方創生に私が関わることで役に立てる事があったら、積極的に参加していきたい。

木村 リトルリーグにはロンハーマンなどサステナビリティに関していち早くアクションを起こしているブランドもあるから理解が得られやすいのでは?

ロンハーマンはサステナビリティに対しての意識が高い人が多い印象があります。最初のロンハーマンでのPOP-UPで野菜を売ると言ったら、みなさん興味を示してくれてカフェの人に相談しようとか色々アイディアを出してくれたり。

木村 ロンハーマンはカフェもホームもあってライフスタイルを提案しているショップだから、むしろ自然なことかもしれませんね。

私も富山に移住しなかったら、こんなに異業種の人たちと交流することはなかった。それまでずっと東京で人にまみれて生きてきたので(笑)。移住をして沢山の気づきがありました。不思議なご縁を感じますね。
最近、富山県魚津市のNOROSHI FORMさんという米農家さんと色んな取り組みを始めたんです。うちのイベントの時にPOP-UPで玄米や米粉のおやき販売したりしています。協業のプロジェクトとして今後も様々な取り組みから生まれるモノや、素敵な場所を紹介していきたいですね。

取材を終えて

生地屋さんや職人さんと対話をしながら丁寧なものづくりをするユニオン ランチ。さらには異業種との垣根も超えて人との繋がりを大事にするブランドの姿勢から、ファッションブランドでありながら素敵な人間性やライフスタイルが感じられます。Shift Cのレーティングにも人間という項目があるように持続可能なアパレルにするための大事な要素ですよね。こういうブランドをぜひ応援したいなと思いました。

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