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増え続ける現代奴隷と、現代奴隷リスク製品ランキング第2位の衣類
「現代奴隷」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「奴隷」という言葉に、自分の日常とは遠い話だと感じる人もいるかもしれない。しかし、実態は私たちのかなり身近なところに潜んでいる。
例えば、仲介業者への紹介料などで多額の借金を背負わされ返済のために働き続けざるを得ない状態や、パスポートや身分証明書を取り上げられて身動きが取れなくなる状態など、自由を奪われたまま搾取されることも「現代奴隷」にあたる。
さらに、国際労働機関 (ILO)が2022年に公表した「現代奴隷制の世界推計」によると、現代奴隷の人数は2016年の約4,030万人から2021年には約5,000万人へと増加。わずか5年間で約1,000万人増加しており、むしろ悪化の一途をたどっているのだ。(*1)
そしてファッションは、この問題と深く結びついた産業だ。Walk Freeが2023年に発行したレポートによると、G20が輸入する現代奴隷のリスクがある製品ランキングで、衣類はパソコン・携帯電話などの電子機器に次ぐ第2位にランクインしている。
なかなか前進を見せないこの課題に、今何が必要なのか。グローバル・ファッション・サミット2026のトークセッションで語られた内容をお届けする。
「開示」から「実質的な改善へ」。企業サステナビリティ・デュー・デリジェンス指令(CSDDD)とは?
2026年3月18日、企業サステナビリティ・デュー・デリジェンス指令(以下、CSDDD)が正式に発効し、約2年間のEU各国の国内法化期間が始まった。この指令は2029年7月26日から各国で適用開始となる。
成立過程では対象企業数が数万社規模になり得たが、最終的には数千社へと大幅に絞られるなど、政治的妥協による「骨抜き」との批判もあった。しかし、それでもこの指令は、企業に人権・環境のデュー・デリジェンスを法的義務として課す重要な出発点だ。
なぜなら、これは「形式的なコンプライアンス」に終始するのではなく、ビジネス慣行の実質的な改善をもたらすことを重視しているからだ。つまり、書類上の対応にとどまらず、サプライチェーンにおける人権や環境への影響を実際に軽減することが求められている。

またグレイス氏は続けて、「重要なのは、これが特定地域や低価格帯だけの問題ではないという点です。イタリアのような国でも強制労働の問題があり、推定19万人が現代奴隷状態にあるとされています。あらゆる国と地域でリスクがあり、ファッション産業において、さらにリスクが高い。労働者の搾取の上に成り立つ『サステナビリティ』は、本質的にグリーンウォッシングでしかない。」とファッションにおける人権侵害の関係性について強く訴えかけた。
「報告するだけ」では現場は変わらない
トークセッションでは、英国やオーストラリアで施行されている現代奴隷法(Modern Slavery Act)に代表される「透明性」に関する法律の、実効性の面で限界が指摘された。是正を義務付けていないため、企業は問題を解決せずとも不十分な報告書を提出するだけで法を遵守できてしまっていることについても議論が及んだ。
フォレスト氏は、世界的なメゾンブランドを傘下に持つLVMH社を例に挙げ「オーストラリアの現代奴隷法に対し、当初数年間にわたり報告書さえ提出しなかった。法的強制力と罰則が伴わない限り、グローバルリーダーですらルールを無視するという現実がある。」と厳しく指摘した。
同じく登壇者のフェア・ウェア・ファウンデーション(Fair Wear Foundation)のストルワーゲン氏は、業界の問題点をこう指摘した。
「業界は長年、『監査と行動規範によってコンプライアンスは達成できる』という都合の良いストーリーを信じてきた。だが現実には機能しなかった。労働者も、サプライヤーも、業界関係者の多くも、そのことに薄々気づいていた」
続けて、ワーゲン氏はこう語る。「CSDDDの登場により、企業は人権デュー・デリジェンスへの対応をサイクル全体を通じて明確に示す義務を負うことになった。団体の加盟ブランドでは、すでに変化が見られ、ガバナンスの強化やリスクに基づく優先順位付けが進んでいます。一方で『リスクの特定』から『実際の予防・軽減』へと移行することが、今後の最大の課題です。」

監査疲れをどう減らす?負担軽減に向けた競合他社間での協力が鍵となる理由
議題は実務での障壁へと移った。法規制への対応と実効性の両立には、競合他社間で「競争の枠を超えて協力すること(プレコンペティティブ・協調領域)」が鍵を握る。その実践例として注目されるのが、データ共有プラットフォーム「One Retail Hub」だ。
TrusTrace 共同創業者・最高執行責任者であるラジャン・フリシケシュ氏は、自身が主導して立ち上げた無料のデータ共有プラットフォーム「One Retail Hub」について、「ローンチから、わずか8週間で350ブランド・10小売業者が参加している。競合他社間でもサプライヤーデータを共有することで、監査疲れを軽減できる。データ収集の負担を減らしながら共通基準での比較を可能にした。また同一のデータを15〜20人もの異なる担当者が確認・検証することになるため、CSDDDへの対応においてデータの信頼性を高めることも可能だ」と語った。

人権管理の鍵は連携に。中小・零細企業のネットワークと若手人材の創出
イタリアのラグジュアリー・ファッションを担う中小・零細企業のネットワークを支援するグルッポ・フローレンス(Gruppo Florence)のヴァレンティーナ・ボッフィ氏は、イタリアの製造環境は非常に細分化されており、それがサプライチェーンの管理やコンプライアンスの徹底を困難にしている原因の一つであると指摘。
その中で、小規模な製造業者が生き残るためには、単独で動くのではなく、連合やネットワークを形成して力を合わせることが不可欠だと述べた。
また、同社では職人の高齢化と若手不足を深刻な問題と捉え、Group of Florenceを通じて具体的な2つの教育プログラムを推進。高校向けの「Adopt a School」プログラムや分散型アカデミー「Academia della Fabbrica」を通じ、年間350〜450名の若者を育成する取り組みが進む。伝統的技能と現代的コンプライアンスを橋渡しする業界のレジリエンス構築モデルとして紹介した。

形式的なコミットメントから「結果への責任」へ
トークセッションの締めくくりとして、WalkFreeのグレース・フォレスト氏は、今後のファッション業界に求められているのは、表面的な報告ではなく、課題を「見つける努力」と、それを解決する「変える意志」であると強く訴える。
「何を変えるべきかという答えは、10年前からすでに出揃っています。問題は、業界にそれを実行する意志があるかどうかです。もし人権侵害を見つけていないのであれば、それは十分に探していないだけです。なぜなら、サプライチェーンのどこかに必ず存在しているからです。今、業界に問われているのは、ビジネスモデルを根本から変えるための決断を下せるかどうかです。」と語ると会場からは賛同の拍手が巻き起こった。
形式的な「コミットメント」から、実効的な「決定」、そして「結果に対する責任」への転換。この一歩こそが、ビジネスと人権において、ファッション産業が真に持続可能な未来を築くための不可欠な鍵となりそうだ。
<参考>
*1 国際労働機関(ILO)「現代奴隷」、世界で5千万人に
