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ニュース|2026.02.25

「衣類廃棄禁止」でフランスのファッションはどう変わったのか? パリ視察から見えた循環型の現在地【前編】

衣料品の廃棄を禁じる「衣類廃棄禁止法」で注目されるフランス。「回収量が増えすぎて現場が回っていないのでは?」という懸念を胸に、日本女子大学で衣類の消費を研究する勝又淳司先生が現地を訪ねた。そこで目にしたのは、課題に直面しながらも、行政と民間が連携し、ファッションを楽しむ市民の姿。循環の仕組みが暮らしに根付きつつあるフランスの今を、勝又先生がレポート。

原稿:勝又淳司

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はじめに

このコラムを読んでいる読者の皆さんは、着なくなった洋服について、どのように扱っているでしょうか。ShiftC読者の方は、愛着ある洋服を長く着用するライフスタイルが定着しているかも知れませんが、サイズや好みの変化はどうしてもあるものですね。居住地での行政による資源回収に加え、今は店舗での回収ボックスやフリマアプリに出すこと、セカンドハンドショップも身近になりつつあります。

大量生産・大量廃棄が指摘されて久しいファッション業界は、循環型の産業へ移行することが重要です。一方で筆者が行った研究では、サステナビリティへの意識が高くない消費者ほど、不要になった衣服を資源回収や企業が行う回収ボックスに出さず、可燃ごみに出す傾向が明らかになっています。また、Shift Cのコラムでは、繊維to繊維の循環に課題が多い点が説明されています。²

こうした中、ファッション先進国のフランスでは、ブランドの売れ残り廃棄禁止や市民の5R実践を定めた「衣類廃棄禁止法」が2022年に施行され、循環型モデルの運用が本格化しています。そこで本コラムでは、循環型経済の形成をリードするフランスで、筆者が研究の助成金を得て行った「衣類廃棄禁止法令」を中心に、衣類の回収等の仕組みについて視察結果について解説したいと思います。

47,000箇所にある、暮らしに身近な回収ボックス

フランスの街中には、全土で47,000点の回収ボックスが設置されています(写真下)。日常の動線の中で目に入る場所に置かれており、不要になった衣類を袋に入れて投函するだけで回収に出すことができます。特別な手続きや費用は必要なく、生活の延長線上に回収ボックスがあります。

回収ボックスは回収する運営主体によってデザインや表示内容が異なり、「濡れたものは入れないでください」といった注意書きに加え、回収後の流れを図で示したものも見られます。他にも、リサイクルやリユースだけでなく、「社会的使命」や「雇用」といった言葉が並び、衣類の回収が社会的価値を持つ行為として位置づけられていることが分かります。こうした回収の風景は、後述する制度や法律の結果として生まれたものですが、生活者にとってはまず身近に回収ボックスがある点が循環への第一歩になっています。

街中の回収ボックス-1
街中の回収ボックス-2 「社会的使命」や「雇用」といった言葉が並ぶ

10年で回収量は1.7倍に。法律以前からの努力が結実

このような回収制度は「衣類廃棄禁止法令」を元に運営されています。この法令について出国前、日本の報道³ を読んだ際には、「回収量が増えすぎて、現場がうまく回っていないのではないか」という印象を持っていました。回収の制度を担うRefashionという政府認定の民間組織のデータや、実際に現地で関係者に話を聞くと、回収量が大幅に増えているのは事実です。Refashionによるデータを元にした回収量の推移(下)を見ると、衣類廃棄禁止法令の前身となる制度による2014年の回収量約17.5万tから、2024年には28.9万tと約1.7倍に増えています

回収量の推移(単位:万t) 出所:Refashion

確かに回収量は増加していますが、これは回収ボックスの設置や政府の支援もあり、増えていると考えられます。そして、回収ボックスの視察や回収業者へのヒアリングの実施や、街を歩き、市民の行動を観察してみると、日本から想像していたよりも循環の考え方が日常に溶け込んでいることを強く感じました

フランスでは「衣類廃棄禁止法令」によって、未販売品などの廃棄が禁止されています。ただし、視察先で話を聞くと、多くの団体は2007年頃から、あるいはそれ以前から回収や再利用の仕組みを地道に築いてきました。制度が突然始まり、現場が混乱しているという印象とはやや異なる風景でした。回収ボックスから衣類を集め、修繕を施して中古品として販売する人たちの話を聞きながら、長年の積み重ねに頭が下がる思いがしました。回収した衣類や生地をどうアップサイクルできるかを研究する拠点も存在しています。「制度が整っていないのでは」と思い込んでいたことを反省させられました。

もちろん課題がないわけではありません。制度を運営する拠出金が不足しているという声もあり、今後は負担の引き上げが検討される可能性もあります。

「衣類廃棄禁止法令」とは何か

ここで確認しておきたいのは、フランスの「衣類廃棄禁止法令」は、単に「捨ててはいけない」というルールではないという点です。視察を通じて感じたのは、循環を前提とした仕組み全体が設計されているということでした。

中核にあるのは、2020年に成立した「廃棄禁止及びサーキュラーエコノミーに関する法律(AGEC法)」です。この法律は、新品の衣類を含む多くの製品について、焼却や埋立てによる最終処分を原則として禁止し、寄付、リユース、リサイクルへと回すことを義務づけています。繊維to繊維の循環が容易ではない点は、Shift Cでも報告されている通りですが、それでも「廃棄以外の選択肢」を制度として用意している点に特徴があります。

この制度を支えている前提として、2007年から導入されている拡大生産者責任(EPR)制度があります。EPRとは、製品をつくって売るだけでなく、使われた後の回収や再資源化までを、生産者の責任として考える仕組みです。

衣類分野では、Refashionという組織がPRO(生産者責任組織)として指定され、生産者に代わって回収や再利用、リサイクルの実務を担っています。本稿でいう「衣類廃棄禁止法令」とは、AGEC法の中でも、とくにこの衣類分野のEPRの全体を指しています。

AGEC(衣類廃棄禁止法令)の流れ・イメージ図 出所:筆者が取材をもとに作成

今回の視察や、Refashionが公開している情報、現地でのヒアリングをもとに整理すると、この制度は「廃棄を禁止する」だけで完結していないことが分かります。生産者から集められた拠出金は、回収ボックスの設置・運営、企業や市民からの衣類回収、回収業者への委託、リユース・リサイクルの支援、修理やアップサイクルに関する研究開発、さらには学術機関との連携や消費者教育まで、幅広く使われています。

つまり、衣類廃棄禁止法令とは、未販売品の廃棄を止めるための単独の規制ではなく、「循環が回り続ける状態」を成立させるための仕組みを一体的に設計した制度だと言えます。なお、AGEC法の対象は衣類に限らず、家電やバッテリーなど多岐にわたり、分野ごとにPROが設定されています。廃棄以外の仕組みについて、アパレル企業同士や学術機関、テック系の企業などを繋ぐハブの役割を果たすFashion Green Hubという組織の取材結果は、後編で紹介したいと思います。

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常にクリエイティブであれ」。循環を支えるファッションの楽しさ

現地のセカンドハンドショップを訪れて、強く感じたことがあります。それは、循環型社会であっても、消費者が求めるのは「楽しさ」や「ときめき」だという、ごく当たり前の事実です。

販売可能な衣類は、回収業者が運営するセカンドハンドショップで販売されています。これらのセカンドハンドショップも平日から繁盛していました。白髪を撫でつけたマダム2人が、日本円では1,500円程度の中古雑貨を2人で楽しそうに、でも真剣に物色していました。

回収を担う組織が運営する、パリ12区にあるセカンドハンドショップ-1

店内には、単なる中古衣料の集合ではなく、ファッションとして「選びたくなる」商品構成やディスプレイが施されていました。フランスにおけるファッション文化の蓄積を感じさせる空間であり、買い物そのものが楽しい体験として設計されていました。写真上の店舗は閑静な住宅街にありますが、19時近くでも人で賑わっていました。写真下のショップでは、回収されたもののうち布地を裁縫用途で小売し、なおかつ修繕の工房で使用出来そうなものは使用しているとのことです。店内の一見バラバラに見えるような照明や什器などもほとんど回収されたもの。それでもお洒落な店舗に編集してしまうところに、フランスのファッションに対する文化の蓄積や底力のようなものを感じました。

パリ12区にあるセカンドハンドショップ-2 左)回収品のなかから生地や裁縫道具を選んで販売している。「修理して長く使う」というEPRの考え方がこんな所にも浸透している。右)照明や什器も回収品をリユース。

環境に配慮して消費を選択することはもちろん重要です。しかしその点だけで消費者が購買行動を取らないことは多くの研究で実証されています。消費者が「自分に似合う」「気分が上がる」と感じられることが、市場として循環が回る前提条件であることを強く感じました。この点は、ShiftCのイベントで田原美穂さんが語られていた「excitement(ワクワク感)」の重要性とも重なるように感じながらお店を後にしました

このセカンドハンドショップを運営する回収業者のLA ROCKETTEの広報担当・エノーさんによれば「回収したスカーフやテキスタイルのチェック柄から、新しいアイテムやバッグなど、新しい価値を作ることに常に腐心している。私の雇用契約の条項にも『常にクリエイティブであること』が入っている」とにこやかに教えてくれました。エノーさんは広報も行いつつ、回収されたものをいかにアップサイクルするかを考えることも業務として行っているとのことです。

また、「回収した衣類の販売は、品質の確保が店と客の信頼関係に繋がる。よって良いものだけを置く。直すものは充分に価値があるからこそ行う、直す価値があるかを常に判断する。ファストファッション関連は素材がチープで直すのも難しい。人件費から考えて1/10程度のコストで販売価格に転嫁した際に、販売価格に見合うかで判断する」とのこと。蓄積されたノウハウが伺えました。

日本のファッション業界と生活者への示唆

フランスの事例から得られる最大の示唆は、「廃棄禁止」にとどまらない、包括的な制度設計にあります。誰が回収を担うのか、資金をどう集め、どう使うのか、研究開発や人材育成とどう結びつけるのか、そして消費者にとって魅力ある市場をどうつくるのか。これらを個別ではなく、一体として考えている点が特徴的です。

大量生産・大量廃棄の是正は長年の課題ですが、実際に社会を動かしている具体例は多くありません。その意味で、フランスの衣類廃棄禁止法令は、完成形ではないにせよ、「政策が現実にどう機能しているのか」を学ぶ手がかりを与えてくれます。日本においても、制度の是非を論じる前に、制度がどう動き、どこに負荷が生じるのかを丁寧に見ていくことが求められているのではないでしょうか。

冒頭で述べたように、日本の衣類回収には分かりづらい点も多く、行政によっても異なっています。自分が着用した衣服を手放す際に、身近に回収ボックスがあることで、誰もが手軽にアクセスすることが出来ます。まずは、自分が手放した衣服がその後どうなるのか、回収方法は分かりやすいのか、思いを馳せてみることが大事ではないでしょうか。

最後に、この視察の機会を与えてくださったバロック村井博之財団様に、この場を借りて深く御礼申し上げます。

【注釈】

¹勝又 淳司・市川 智美・柿野 成美(2025) ⾮階層クラスター分析による消費者のサステナブルファッションに対する意識調査分析. 消費者政策研究,6,1-10. https://www.jascop.org/journal/vol.06/vol.06_full.pdf
 ²山口大人・白石 綾(2025) 服から服のリサイクルは1%。回収ボックスの先にある実情と最新動向.Shift-C, https://shiftc.jp/2025/12/02/recycle-clothes-latest-news/
 ³研新聞電子版, フランス、衣料品リサイクル事業者が抗議 制度の機能不全あらわに,繊研新聞社,2025年7月18日付け記事,https://senken.co.jp/posts/france-250718
⁴Shift Club, 人気ブランドの次の一手とは? アメリカのサーキュラーエコノミー最新事情, https://shiftc.jp/2025/12/15/shiftclub-vol-3-report

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日本女子大学 専任講師
勝又 淳司
日本女子大学・家政学部被服学科専任講師。修士(政策学)。国内スポーツメーカーでの企画や営業、文化服装学院の教員を経て現職。繊維産業のサステナビリティについて、消費者や環境政策の観点から研究しています。研究を通してファッション業界がより良い業界になればと考えています。社会人大学院生として博士論文執筆中。

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