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上野樹里が手掛けるブランド、TuiKauri(Shift C評価:良い)には、ストレスから解放され、ゴミをなくし自然環境を大切にする丁寧なものづくりと、地域コミュニティの育みを目指したヴィジョンが詰まっている。今回、ポップアップ会場となったのは、六本木蔦屋書店。さまざまな年齢の方々がひっきりなしに出入りする中、本人が自ら、全くひとりで接客している様子を目の前に、正直驚かされたと同時に、その覚悟を感じさせられた。目まぐるしい期間中のインタビューも快く応じながら、直接的なコミュニケーションが次の目標への豊かな種になっている、と目を輝かせる。「やらなければならないこと」に向けて進み始めた彼女の、次なるチャプターの幕開けを感じさせる。
アップサイクルにこだわった新アイテム
少し肌寒くなり始めた10月。前回のインタビューから約5ヶ月後、東京・六本木の蔦屋書店2階のポップアップコーナーには、カラフルなワンピースから、着心地の良いスウェット、クッション、キャンドルなど生活に寄り添うアイテムが並んでいた。Tui Kauriは、俳優・上野樹里が忙しい日々から、人と自然環境が調和した理想的な暮らしへの思いを出発点にスタートした。素材に使用しているのは天然素材やアップサイクルされた素材。肌に触れても害や違和感のないような製法にこだわっている。前シーズンにシグネチャーとなっていたのが、ラズベリーを使用した草木染めのアンダーウェアやリラックスウェア。全て同じ種類の草木であるとは想像できないほど、ブルーやピンクといった様々なカラーへと表情を変え、鮮やかに染色されている。


今回の新作は、工場に残っている品質の高い残布を使った男女兼用で着られるスウェットだ。そもそもは、草木染めの色彩表現と、植物のポテンシャルに魅了され、色とりどりのコレクションを通して、草木の力強さや自然から享受している目に見えないものを理解することや共感すること、さらにはその必要性を称賛することを目指していた。しかし、欲しいという声を聞くほどに「理念の高さに固執せず、手の届きやすさに応えたい」と考えるようになった。スウェットがお出かけ着として格好良く着られるのは、当然ながら、サイズやバランスなど細かなデザイン性の高さがあってこそだ。

「吊裏毛(つりうらけ)という製法を採用した、肌触りも着心地も良い高級スウェットです 。工場から、メーター数がそんなにない残布を掘り出してきて作っています。Tui Kauriの規模だから、ロットが少なく展開できるんです。今回のポップアップが秋なので、アウターとしても着られるぐらい肉厚で、柔らかく、軽いスウェットにしました 。ボトムはリブとフレアがあり、フレアは足がすごく綺麗に見える、と20代の女の子に人気です」(上野樹里さん、以下同)

小さくまとまるよう綿100%で作られたユニセックスのトレンチは、どんなスタイルでもさっとまとめてくれるアイテムだ。「中にスウェットなど、もこもこしたものを着ても、外気の汚れをあまり受けないこと、そして観劇のときなどでも小さくクシュッとまとまるし、そんなにシワにもならないことを目指しました」。

「シュシュや巾着バッグは早い段階で完売してしまいましたので、ポップアップ中に急遽、私の衣装からも作ることにしました。セットアップドレス3着とワンピース1着から新たにシュシュや巾着ができました。皆さん最新情報をインスタでチェックしてくれていて、入荷日にたまたま来られた方や、取り置き予約をされた方で、店頭に並べた日に完売になりました。本当はリバーシブルのクッションカバーがツイードの中でイチオシ商品だったのですが、商品を作った後の残布から生まれたシュシュやポーチが思いのほか喜ばれました。ずっと身につけられるものということもあったと思いますが、最後まで無駄にしないことから大切な気づきを得られました。
今、天然素材がものすごく高騰していますよね。10年前に5万円で買ったイタリアのウールのショールが、今普通に作ったら10万円を超えてしまう。だから、良質なメリノウールで作った去年のハイネックのロングスリーブ・トップスをお出ししたところ、すごく良かったからと、リピート買いに来てくださる方がいらっしゃった。前回作ったものでも、良いものはずっと着てもらえるんだなと実感しました」。

店頭に立ち、発送も行うことで解像度が上がった
「みんなが何に興味を持つのか、サイズ感とか、実際何が履けるのか、店頭に立つことですごく温度感がわかりました。 Mはメンズのために作ったのですが、女子もバンバン買ってくれて、”若い子はゆったりしたものが好きなんだな” と。それに、ポップアップ期間中にオンラインが相乗効果で動いているのも、家で発送作業をしながら実感しています。自ら動いているのは、大量生産を目指しいてるわけじゃないから。何より、お客さんとのコミュニケーションがすごく有機的で、パワースポットのようになっているから。そこで友達ができたりする、毎日のライブ感を楽しんでいます。
地元、兵庫県の加古川市とは、農業の取り組みも積極的に行っている。
「農林水産省の方に尋ねたら、農業高校の生徒が2時間しか有機農業の勉強をしてないということを聞いたんです。学生のうちに、枯れた田畑を蘇らせる方法などを、地元の農家さんに教えてもらいながら実践してほしいなと思ったのがきっかけで、ブロッコリーの栽培を始めた学生の子たちにビデオメッセージを送りました。
斎藤工くんがゲストに来てくれた『夢見る給食』の上映会も、加古川の市民会館が全部無料提供してくれ、オオタヴィン監督もフィルムを無償で提供してくれました。有機農業のマルシェが40店舗ぐらい集まって、全部完売。言い出すきっかけさえあれば、こうやって需要が伝わるんだなということを実感しました 。
私の夢としては、高校生が育てた野菜の「収穫祭ライブイベント」のようなものができたらいいなと思っています。プラスチックごみの出ないフェス。音楽もあって炊き出しもあって、最終的に道の駅みたいになったら最高ですよね」。


数字や大衆にとらわれず、密度を持ってつながりたい

ポップアップでは、売り切れては入荷、を繰り返した約3週間。滞在時間や入荷状況をSNSで上げるなど、常にライブ感のある運営になった。本人曰く「ライブ感」の喜びは、今後の活動にも繋がっていきそうだ。
「夫と去年、香取慎吾さんに楽曲提供させてもらったのを機に、自分も歌詞を書くようになって。お客さんと生で触れ合う楽しさから、来年あたりライブをやってポップアップ、というのもいいなと。 大阪とか福岡でライブをやれば、そこでTui Kauriとコラボした限定Tシャツとか、そういう形に変えることもできるなって思うようになりました。
ポップアップ期間中は、すごく若い子が来てくれていたんです。“『のだめカンタービレ』を3歳から観てた”という方や、Netflixの配信を見て、そこからいろんな作品を後追いで観てくれている方も。”大分から1人で来ました”という10代の方がいたり、本当に涙を流して”命の恩人なんです”と言っていただくと、お会いしたことがなくても心が繋がったことが嬉しかったです。今、ネットの時代になって、ジェネレーション・レスになっていると感じます。だからこそ、様々な人々がひとつの空間でそれぞれの宇宙を感じられるようなライブイベントだったり、人の心の奥深くを動かすような仕事をこれからもやっていきたい。お芝居も、音楽も、ものづくりも。だからこそ、よりスモールコミュニティが、今になって改めて大事になってきていることを実感しています。数字にとらわれず、時間の密度や近距離のコミュニケーション、そういうところが大事かなと思います」。
「THE NEW COOL ーサステナブルが新しいクールだ」と謳われ数年経つ。それから、私達の生活は、ものを大切にすることと、新作や買い物のワクワクを両立出来ているだろうか。また、自然環境や動植物に負荷なく共存し、シティのスタイルに寄り添う生き方をスタンダードにできているだろうか? 通常のファッションブランドは、未だ新作を売ることに固執することで成立しているものがほとんどだ。ブランドの価値は新作を売り続けることでしか見いだせないのだろうか。提供している人たちは、作ったものが全て売れるまで、責任を持って見届けられているだろうか。必要な人にちょうど売れる適量を知り、作り手の技術や生活まで責任を持って発注できているだろうか?
全ての人や企業が、その先を意識できたとき、形成される世界はきっともっと違うものになっているだろう。パッションと楽しさでポジティブにしていく純粋なパワーを目の当たりにするポップアップとなっていた。
