Contents

ゼロ・ウェイストが導く新しい価値の循環――カレワラのものづくり哲学
フィンランド発の「カレワラ(Kalevala)」は、今、ファッションとサステナビリティが共存するブランドとして世界的に注目されている。
1937年の誕生以来、フィンランド神話をモチーフにしたジュエリーでアイデンティティを守り続けてきた一方、現代に必要な「持続可能なモノづくり」の価値観を大切にし、グローバルなブランドへと進化中だ。
ブランドの存在感の根幹をなすのは、徹底したサステナビリティへのこだわりだ。 素材選びから生産、流通、消費サイクルまで、自社で新たなサステナブル改革に邁進。すでにゴールドは100%、シルバーも99%以上がリサイクル材という徹底ぶり。しかも自社工房で発生する金属くずも漏れなく再利用し、「ゼロ・ウェイスト」を現実のものとしている。
カレワラの革新的な取り組みの一つが、自社のヴィンテージやセカンドハンド品に新たな命を吹き込む「Preloved」プログラムだ。
顧客が手放すカレワラや、同社が買収したLapponiaのジュエリーも下取りし、職人が丁寧にクリーニングや修復。まるで新品のようにリフレッシュされたアイテムは、再び市場へ送り出されている。このサービスはフィンランド国内の自社販売チャネルによっては売上の15%を占め、今後は海外展開も視野に入れている。タイムレスなデザインの魅力を生かし、耐久性を武器に循環型経済のロールモデルを打ち立てつつある。
ヘルシンキの自社工房では、伝統的な金細工技術と現代のレーザー加工など最新テクノロジーの絶妙な融合が光る。 30年以上のキャリアを誇る熟練工たちが、マスター・アプレンティス制度のもとで次世代へ技術を伝承。“本物”に宿るブランド独自の価値がここにある。

ウーマンエンパワーメントはブランドのDNA
創業以来、カレワラを支えるのは女性たち。そのスピリットは今も健在で、従業員や社会活動に利益の3分の1を還元している。特に女性や少女のエンパワーメントには力を注いでおり、母体である「カレワラ女性協会」はピンクリボンコレクションをはじめ、社会的課題とリンクしたプロダクトを生み出してきた。
サステナブルな哲学とフィンランド独自のミニマルな美意識は、日本をはじめアジア圏でも共感を集めている。
直営オンラインストアや現地ポップアップ、アーティストとのコラボレーションを通じ、デジタルとリアルの体験を融合させながらグローバルなファン層を拡大中だ。
カレワラは今、時代を超えて愛される本質的な価値を提案している。
【コペン&東京現地リポート】自然への敬意と職人技が交差する場
カレワラは北欧デザインの最前線をゆくブランドとして、コペンハーゲンファッションウィーク期間中に初の単独インスタレーションを開催。国際的なオーディエンスに向け、 創業から 約90年を迎えるブランドの歴史を紹介するとともに、新作コレクション 「Itu」(Designed by Martin Bergström)を披露した。
インスタレーションは、単なるミニショーにとどまらず、没入型マルチセンサリー体験として、ライブパフォーマンスによる音楽、北欧の森や湖を思わせるアートインスタレーション、洗練された照明と香りの演出など、五感に訴えかける空間設計によって、来場者は自然の息吹や静謐さをリアルに感じ取れた。


会場がファッションウィークの公式会場の斜め向かいだったこともあり、ファッション関係者、国内外のメディア、デザイナー、インフルエンサーなど多国籍のゲストが集結し、会場は終始熱気に包まれ、多様なバックグラウンドの人々が「Itu」の世界観に魅了されていた。

コレクション「Itu」は、カレワラが一貫して掲げるサステナビリティとクラフトマンシップの精神を体現していた。繊細なフィンランド産素材の使用や、伝統技術と現代的視点の融合など、持続可能なアプローチが細部に息づいている。
コペンハーゲンファッションウィークも責任あるファッションの発信地として存在感を高めており、今回のコペンハーゲンでの発表は、ブランドの価値観が会場全体に見事に表現される場となった。
舞台はヘルシンキから東京へ。手に宿る自然、心に根ざす新たな物語

コペンハーゲンファッションウィークから数週間後、ポップアップのために来日したクリエイティブディレクターのAino Ahlnäsを、東京の会場でキャッチした。マリメッコやイッタラなど名だたるブランドでの経験を活かし、コレクションやマーケティング、さらには社会貢献まで、あらゆる方面でカレワラをリードする彼女は、今ファッション界で注目を集める存在だ。
アールネースは「世代を超えるタイムレスなデザイン」と「フィンランドの手仕事」に誇りを持ち、企業利益の3分の1を社会や従業員に還元するというサステナビリティ精神を実践している。新コレクションやMarimekkoとのコラボ「Kalevala x Marimekko」を次々と手がけ、「ジュエリーとデザインの境界を超え、新たな価値を生み出したい」と語る。

自然の息吹と東京で生まれた新たな芽
――新作の「Itu」について教えてください
「Itu」とはフィンランド語で「芽」を意味し、すべてのデザインは「種」から着想を得ており、種は生命の始まりでもあり、命が芽吹く出発点で、このコレクションは、その考えから大きくインスピレーションを得ています。
最大の特徴は、芽が森の柔らかな土を押し上げて伸びていく様子や、都市のアスファルトの隙間から小さく力強く顔を出す若葉―そんな自然の根源的なエネルギーにあります。パールや種モチーフのジュエリーは、自然の循環や誕生の物語を現代ファッションに落とし込み、新たなエネルギーを日常にもたらします。(アイノ・アールネース クリエイティブディレクター、以下同)
植物や種には多くの象徴性が込められていると思います。人として成長する過程や、人生の様々な段階を経験することの象徴としてです。そしてもちろん、私がフィンランド出身であることから、自然は私たちの心に非常に身近な存在です。ですから、このテーマは自然を大切にする日本にも共通して響く普遍的なものだと考えています。



3種類のチャームは、それぞれ単体でも、組み合わせても楽しめます。刻印にも対応しており、自分や大切な人への“意味”を込めたパーソナルなジュエリーとしてもおすすめです。発芽や種というテーマとも関連しています。
―― Ituコレクションにはどのようなサステナブルな素材や技術が使われていますか?
私たちの工場では、伝統的な技術と最新テクノロジーを融合しています。
年配の職人から技術を受け継いだ熟練の金細工師と、3Dプリンティングのようなテクノロジーが共存しており、Ituコレクションはこれら新旧の技術を独自に組み合わせて生み出されています。また、ヘルシンキの工場では太陽光・風力発電、水浄化システムを採用しています。リサイクル貴金属やセカンドハンドの取り組みも同時に推進中です。デザイン工程ではデザイナーに大きな裁量が与えられ、創造性を存分に発揮できる環境で製造方法を模索しています。


――Ituコレクションで伝統的な手法と現代的な手法を両立させる際に、最も大切なことは何でしょうか?
伝統を尊重しながら未来を見据えるという両方の要素が必要だと思います。このブランドは約90年もの間存在し、時代ごとにその価値を保ち続けています。私たちは品質とデザインの両面で時代を超えて愛される、次世代に受け継がれることのできるデザインを作り出すことを目指しています。私たちのジュエリーは、飾るだけでなく、実際に身に着けて楽しむものです。
――コペンハーゲンファッションウィークでインスタレーションを実施した理由と開催後に一番印象に残ったことは何ですか?
このファッションウィークがサステナブルを強く打ち出しており、それが私たちのブランドと強く結びついているからです。私たちは創業から一貫して、サステナブルという言葉がまだ生まれる前から、持続可能な取り組みを行っています。これは私たちにとって非常に重要なことで、だからこそコペンハーゲンファッションウィークにいたかったのです。私たちのブランドを知らなかった方々にお会いした時に、カレワラがこれほど長い歴史をもっていることに大変驚かれました。
―― サステナブルに関して、御社ブランドの独自の強みは何ですか?
多くの要素が組み合わさっている点にあります。自社工場を持ち、バリューチェーン全体を自分たちで管理していることが特徴です。工場では太陽光や風力エネルギーを使い、独自の浄水システムも備えています。リサイクルされた金や銀などの貴金属を使用し、時代を超えて愛されるデザインを提供しています。
また、フィンランドでは中古品を買い戻し、真贋を確認してクリーニングや修理を行い「新品同様」として再販する取り組みも始めています。
日本でも伊勢丹でのテスト販売が成功し、このサステナブルなリユースのコンセプトを本格展開する計画です。

――なぜアルテック東京でポップアップショップを開催しようと思ったのですか?
アルテック、イッタラ、マリメッコ、カレワラは、いずれもフィンランドの共通のデザイン遺産を持つブランドで、スカンジナビアのミニマリズム美学や「一生使い続けられるものを選ぶ」という価値観を共有しています。
アルテックは1935年創業、カレワラは1937年創業で、デザインや歴史の価値観が非常に似ており、「姉妹のような存在」とも例えられているんです。
――今後のデザインや活動で、フィンランドと日本の文化的価値観を組み合わせて挑戦したいことは?
カレワラは非営利団体が保有しているユニークな背景も持っています。日本とフィンランドは“自然やものを大切にする心”など、驚くほど文化的共通点が多いです。日本のデザイナーとの協働や異分野展開も視野に入れ、今後も日本市場にじっくり根を下ろしていきたいと考えています。

フィンランドのぬくもりを東京で体験――アルテック トウキョウ ストアで限定ポップアップ開催
「Itu」コレクションを含むカレワラの全てのアイテムが、9月29日(月)までアルテックトウキョウストアで展示・販売されている。アルテックとカレワラはいずれもフィンランドを代表するブランドで、伝統を重んじながらも現代的・未来志向のデザインとサステナブルな姿勢を持つのが共通点だ。
店内に一歩足を踏み入れると、まるでフィンランドの森や湖の静けさ、光のぬくもりに包まれているような感覚が広がっている。カレワラのひとつひとつの作品には、遥か遠くフィンランドの土地で生まれた物語や職人の情熱が宿っており、眺めているだけで心が豊かになってゆく。 思いがけず見つけたあなただけの“お守り”のような逸品は、暮らしにやさしいぬくもりや新たなインスピレーションをもたらすはず。新しい発見と出会いをもたらしてくれるだろう。
■期間:~ 9月29日 (月) ※火曜定休
■場所:アルテックトウキョウストア 東京都渋谷区神宮前5 –9 –20
■https://www.kalevalashop.jp/pages/pop-up-info